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制御と振動の数学/第一類/複素数値関数の Laplace 変換/解の漸近的挙動(安定論)/安定の定義と定理

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

線形定常常微分方程式

(4.13)

の解の における振舞を調べるのが目的である.ここでは係数は実数としておく.

式 (4.13) には という解がある. これを零解という.零解は時間の経過には無関係に一定値を取り続ける.そのような解を式 (4.13) の平衡点と呼ぶことがある. ならば式 (4.13) の平衡点は零解だけである[1]. さて,零解以外の任意の解 が,零解に近づくかどうか,その条件はなにかというのが我々の問題である.

安定の定義

(i) 式 (4.13) の解

となるとき, は安定な解であるという.すべての解が安定な解となるとき, 式 (4.13) の零解は安定である, あるいは微分方程式 (4.13) は安定であるという.


(ii)

となる解を不安定な解という.このような解が少なくとも一つ存在すれば, 式 (4.13) は不安定であるという.


(iii) (i) でも (ii) でもないとき,すなわち で発散する解は存在しない.しかしすべての解が に漸近するわけではないとき, 式 (4.13) は安定限界であるという.


例95

(i) (安定な解)

(ii) (不安定な解)

(iii) (安定限界となる解)

さて式 (4.13) の特性方程式を とし, をその根とすると,

なる根がある.

であるから,

となる.上から は安定,不安定,安定限界であることが分かる.一般の解は,

のような解の 1 次結合から成り立っている.したがって,この解の安定,不安定を調べればよい.

であるから なら,この解は とともに発散する.また なら,

なる負の実数 が存在し,この に対して,

(4.13b)
[2]

であるから,

となる.よって に留意すれば,

を得る.それゆえ,次の結果が得られた.


定理 4.1(安定定理) 式 (4.13) の特性方程式 の根 の実数部の最大なるものを とする.すなわち,

とするとき,微分方程式 (4.13) は,

なら,安定
なら不安定

である.また,

ならば,

(i) の単根のとき,安定限界
(ii) の重根のとき,不安定

である.

証明

前半の安定・不安定の部分の証明はすでに与えた.後半の単根の場合も終わっている. 重根の場合は, とすると[3]

であるから,この解は発散する.よって不安定である.


この定理から,安定・不安定の判別は, の根の,複素平面 ( 平面)上における配置によって決まることが分かる.

安定 根がすべて左半面にあるとき

不安定 少なくとも 1 根が右半面に存在するか,あるいは右半面には存在しないが,虚軸上に重根があるとき

安定限界 虚軸上の根は単根で、他はすべて左半面にあるとき

とまとめることができる.



  1. ^ …①で
    とおく.
    今, が①の解であるとき,

    より
    より
  2. ^ .
  3. ^ さらに