出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
1.1
集合
G
{\displaystyle G}
の元
a
,
b
{\displaystyle a,b}
の各対に対して
G
{\displaystyle G}
の第三の元(これを
a
b
{\displaystyle ab}
で表す)を対応させる演算が定義され, それが
結合律
すべての元
a
,
b
,
c
{\displaystyle a,b,c}
に対して
(
a
b
)
c
=
a
(
b
c
)
{\displaystyle (ab)c=a(bc)}
をみたすとき, この演算は結合的 であるといい, また
G
{\displaystyle G}
は(この演算について)半群 であるという.
演算が結合的 のときは上記の式の両辺は括弧を省略して単に
a
b
c
{\displaystyle abc}
と表してもよい. さらにこの演算が
可換律
すべての元
a
,
b
{\displaystyle a,b}
に対して
a
b
=
b
a
{\displaystyle ab=ba}
をみたすとき, この演算, または半群
G
{\displaystyle G}
は可換 であるという.
1.2
半群
G
{\displaystyle G}
の元
e
{\displaystyle e}
で
G
{\displaystyle G}
のすべての元
a
{\displaystyle a}
に対して
a
e
=
e
a
=
a
{\displaystyle ae=ea=a}
となるものをこの演算, または
G
{\displaystyle G}
の単位元 という.
e
{\displaystyle e}
と
e
′
{\displaystyle e'}
が共に単位元 ならば
e
=
e
e
′
=
e
′
{\displaystyle e=ee'=e'}
であるから, 単位元 は存在すればただ一つである.[ 1]
単位元
e
{\displaystyle e}
を持つ半群
G
{\displaystyle G}
において,
G
{\displaystyle G}
の元
a
{\displaystyle a}
に対して
a
b
=
b
a
=
e
{\displaystyle ab=ba=e}
となるような元
b
{\displaystyle b}
が存在すればこれを
a
{\displaystyle a}
の逆元 という.
このとき
a
{\displaystyle a}
はまた
b
{\displaystyle b}
の逆元 となる.
b
{\displaystyle b}
と
b
′
{\displaystyle b'}
が共に
a
{\displaystyle a}
の逆元 のとき
b
=
b
(
a
b
′
)
=
(
b
a
)
b
′
=
b
′
{\displaystyle b=b(ab')=(ba)b'=b'}
[ 2]
であるから
a
{\displaystyle a}
の逆元 は存在すればただ一つである.
半群
G
{\displaystyle G}
が単位元 を持ち, また
G
{\displaystyle G}
のすべての元が逆元 を持つとき
G
{\displaystyle G}
は群 であるという.[ 3]
群 の演算が可換 であるとき
G
{\displaystyle G}
は可換群 , またはアーベル群 という.
1.3
一般に
G
{\displaystyle G}
が演算を持つ集合で
X
{\displaystyle X}
がその部分集合のとき,
X
{\displaystyle X}
のすべての元
a
,
b
{\displaystyle a,b}
について
a
b
∈
X
{\displaystyle ab\in X}
ならば,
X
{\displaystyle X}
はこの演算について閉じている という.
特に
G
{\displaystyle G}
が半群 のとき
X
{\displaystyle X}
は
G
{\displaystyle G}
の部分半群 という.
G
{\displaystyle G}
が群 ,
X
{\displaystyle X}
がその空でない部分集合で,
X
{\displaystyle X}
が
G
{\displaystyle G}
の演算で閉じ ,
また
X
{\displaystyle X}
の各元の逆元 もまた
X
{\displaystyle X}
に入っているとき(従って
G
{\displaystyle G}
の単位元
e
{\displaystyle e}
も
X
{\displaystyle X}
に入る[ 4]
),
X
{\displaystyle X}
は
G
{\displaystyle G}
の部分群 という. 部分群 はそれ自身ももとと同じ演算で群 となっている.
1.4
例えば実数の集合
R
{\displaystyle R}
はその上の加法という演算について可換群 である。
有理数の集合
Q
{\displaystyle Q}
, 整数の集合
Z
{\displaystyle Z}
はその部分群 ,
Z
{\displaystyle Z}
はまた
Q
{\displaystyle Q}
の部分群 でもある.
R
{\displaystyle R}
は乗法については半群 ではあるが群 ではない. [ 5]
しかし
R
{\displaystyle R}
から
0
{\displaystyle 0}
を除いた
R
−
{
0
}
{\displaystyle R-\left\{0\right\}}
は乗法について群 となる。
正の実数の集合
R
+
{\displaystyle R^{+}}
はその部分群 である。
Q
−
{
0
}
{\displaystyle Q-\left\{0\right\}}
および
Q
+
=
Q
∪
R
+
{\displaystyle Q^{+}=Q\cup R^{+}}
[ 6]
は乗法についてまた
R
−
{
0
}
{\displaystyle R-\left\{0\right\}}
の部分群 である.
Z
+
=
Z
∪
R
+
{\displaystyle Z^{+}=Z\cup R^{+}}
は
R
{\displaystyle R}
の部分半群 であるが部分群 ではない[ 7] .
可換 でない半群 の例として n 次の正方行列全体の集合がある.[ 8]
行列式が
0
{\displaystyle 0}
でない
n
{\displaystyle n}
次の正方行列全体の集合はその部分半群 であるが,また群 をつくる.
行列式が
1
{\displaystyle 1}
である
n
{\displaystyle n}
次の行列全体の集合,
n
{\displaystyle n}
次の直行行列全体の集合はまたその部分群 となる.
1.5
一つの集合
G
{\displaystyle G}
とその上の一つの演算を考察しているときには
G
{\displaystyle G}
の二元
a
,
b
{\displaystyle a,b}
からその演算で定まる元を単に
a
b
{\displaystyle ab}
で表せばよいが,
R
{\displaystyle R}
上の加法と乗法のように一つまたはいくつかの集合の上で多くの演算を同時に取り扱うときには,
それから定まる元は区別して表さなければならない.
このため演算を表す記号を適当に,例えば
∗
,
⊥
{\displaystyle *,\bot }
などと定め,慣習的にそれを二元の間において,
例えば二元
a
,
b
{\displaystyle a,b}
から演算
⊥
{\displaystyle \bot }
で定まる元は
a
⊥
b
{\displaystyle a\bot b}
というように表すことにする.
次に一つの集合
K
{\displaystyle K}
の上に二つの演算
+
{\displaystyle +}
と
⋅
{\displaystyle \cdot }
とが与えられている場合を考える.もし
左分配律
すべての元
a
,
b
,
c
{\displaystyle a,b,c}
に対して
a
⋅
(
b
+
c
)
=
(
a
⋅
b
)
+
(
a
⋅
c
)
{\displaystyle a\cdot (b+c)=(a\cdot b)+(a\cdot c)}
が成り立つとき演算
⋅
{\displaystyle \cdot }
は
+
{\displaystyle +}
に左から分配的 であるといい,同様に
右分配律
すべての元
a
,
b
,
c
{\displaystyle a,b,c}
に対して
(
b
+
c
)
⋅
a
=
(
b
⋅
a
)
+
(
c
⋅
a
)
{\displaystyle (b+c)\cdot a=(b\cdot a)+(c\cdot a)}
[ 9]
が成り立つとき演算
⋅
{\displaystyle \cdot }
は
+
{\displaystyle +}
に右から分配的 であるという.
⋅
{\displaystyle \cdot }
が
+
{\displaystyle +}
に同時に
左右から分配的のとき,
⋅
{\displaystyle \cdot }
は
+
{\displaystyle +}
に(単に)分配的 であるという.
1.6
二つの演算
+
{\displaystyle +}
と
⋅
{\displaystyle \cdot }
とを持つ集合
K
{\displaystyle K}
において,三つの条件
1
∘
{\displaystyle 1^{\circ }\quad \ }
K
{\displaystyle K}
は
+
{\displaystyle +}
について可換群 である
2
∘
{\displaystyle 2^{\circ }\quad \ }
K
{\displaystyle K}
は
⋅
{\displaystyle \cdot }
について半群 である
3
∘
{\displaystyle 3^{\circ }\quad \ }
⋅
{\displaystyle \cdot }
は
+
{\displaystyle +}
に分配的 である
が満たされているとき
K
{\displaystyle K}
は環 であるといい,さらに演算
⋅
{\displaystyle \cdot }
が可換 のときには
K
{\displaystyle K}
は可換環 であるという.
1.7
二つ以上の元を持つ環
K
{\displaystyle K}
が
⋅
{\displaystyle \cdot }
についても群 となることはできない.
それは
+
{\displaystyle +}
についての単位元 を
0
{\displaystyle 0\ }
,
⋅
{\displaystyle \cdot }
についての単位元 を
1
{\displaystyle 1}
で表せば,分配律 から
a
=
a
(
˙
0
+
1
)
=
a
⋅
0
+
a
{\displaystyle a=a{\dot {(}}0+1)=a\cdot 0+a}
で,
すべての
a
∈
K
{\displaystyle a\in K}
について
a
⋅
0
=
0
{\displaystyle a\cdot 0=0}
となり,
0
{\displaystyle 0}
の逆元 が存在できないからである.
しかしこの
0
{\displaystyle 0}
を除けば残りの集合が
⋅
{\displaystyle \cdot }
について群 となることは可能で,
もし環
K
{\displaystyle K}
がさらに
4
∘
{\displaystyle 4^{\circ }\quad \ }
K
−
{
0
}
{\displaystyle K-\left\{0\right\}}
は
⋅
{\displaystyle \cdot }
について群 となる.
をみたすとき,
K
{\displaystyle K}
は体 であるという.
整数の集合
Z
{\displaystyle Z}
,有理数の集合
Q
{\displaystyle Q}
,実数の集合
R
{\displaystyle R}
は通常の加法
+
{\displaystyle +}
と乗法
⋅
{\displaystyle \cdot }
について環 であり,特に
Q
{\displaystyle Q}
と
R
{\displaystyle R}
は体 でもある.
1.8
再び一つの演算を持った集合に帰り,
L
{\displaystyle L}
は可換 な半群 とする.
もしさらに
L
{\displaystyle L}
が条件
ベキ等律
すべての元
a
{\displaystyle a}
について
a
a
=
a
{\displaystyle aa=a}
を満たすとき,
L
{\displaystyle L}
は半束 であるという.
集合
L
{\displaystyle L}
上に二つの演算
∧
,
∨
{\displaystyle \land ,\lor }
があり,
L
{\displaystyle L}
はどちらの演算についても半束 で,さらに
吸収律
すべての元
a
,
b
{\displaystyle a,b}
について
a
∧
(
a
∨
b
)
=
a
,
a
∨
(
a
∧
b
)
=
a
{\displaystyle a\land (a\lor b)=a,\quad a\lor (a\land b)=a}
が満たされるとき,
L
{\displaystyle L}
は束 であるという.さらに
∧
{\displaystyle \land }
が
∨
{\displaystyle \lor }
に分配的 ,
∨
{\displaystyle \lor }
が
∧
{\displaystyle \land }
に分配的 のとき,
L
{\displaystyle L}
は分配束 であるという.
集合
X
{\displaystyle X}
の部分集合の全体の集合を
P
(
X
)
{\displaystyle {\mathfrak {P}}(X)}
で表し,これを
X
{\displaystyle X}
のベキ集合 という.
P
(
X
)
{\displaystyle {\mathfrak {P}}(X)}
は集合論的演算
∩
{\displaystyle \cap }
(合併)と
∪
{\displaystyle \cup }
(共通部分)とで閉じているが,[ 10]
この二つの演算について分配束 となっている.[ 11]
1.4 の
R
{\displaystyle R}
,
Q
{\displaystyle Q}
,
Z
{\displaystyle Z}
はどれも二数
a
,
b
{\displaystyle a,b}
について
a
∨
b
=
max
(
a
,
b
)
,
a
∧
b
=
min
(
a
,
b
)
{\displaystyle a\lor b=\max(a,b),a\land b=\min(a,b)}
とすればやはり分配束 となる
(
max
(
a
,
b
)
{\displaystyle \max(a,b)}
,
min
(
a
,
b
)
{\displaystyle \min(a,b)}
はそれぞれ
a
,
b
{\displaystyle a,b}
の大きいほう,小さいほうを表す).
^
単位元 の定義
a
e
=
e
a
=
a
{\displaystyle ae=ea=a}
にて
a
=
e
′
{\displaystyle a=e'}
を代入して
e
′
e
=
e
e
′
=
e
′
{\displaystyle e'e=ee'=e'}
e
′
{\displaystyle e'}
も単位元 であるから
a
e
′
=
e
′
a
=
a
{\displaystyle ae'=e'a=a}
これに
a
=
e
{\displaystyle a=e}
を代入して
e
e
′
=
e
′
e
=
e
{\displaystyle ee'=e'e=e}
以上2式より
e
′
=
e
′
e
=
e
e
′
=
e
{\displaystyle e'=e'e=ee'=e}
すなわち
e
=
e
′
{\displaystyle e=e'}
^
なんとなれば
a
b
′
=
e
,
b
a
=
e
{\displaystyle ab'=e,ba=e}
^
群 の公理に要請する条件としては
a
e
=
a
{\displaystyle ae=a}
…① かつ
a
a
−
1
=
e
{\displaystyle aa^{-1}=e}
…② で十分である.
②の
a
−
1
{\displaystyle a^{-1}}
に対して②を再度適用すれば、
a
−
1
(
a
−
1
)
−
1
=
e
{\displaystyle a^{-1}(a^{-1})^{-1}=e}
…③を満たす
(
a
−
1
)
−
1
{\displaystyle (a^{-1})^{-1}}
も群
G
{\displaystyle G}
の要素に含まれる.
よって
e
a
=
e
a
e
(
∵
{\displaystyle ea=eae(\because }
①
)
{\displaystyle )}
=
e
a
a
−
1
(
a
−
1
)
−
1
(
∵
{\displaystyle =eaa^{-1}(a^{-1})^{-1}(\because }
③
)
{\displaystyle )}
=
e
e
(
a
−
1
)
−
1
(
∵
{\displaystyle =ee(a^{-1})^{-1}(\because }
②
)
{\displaystyle )}
=
e
(
a
−
1
)
−
1
(
∵
{\displaystyle =e(a^{-1})^{-1}(\because }
①
)
{\displaystyle )}
=
a
a
−
1
(
a
−
1
)
−
1
(
∵
{\displaystyle =aa^{-1}(a^{-1})^{-1}(\because }
②
)
{\displaystyle )}
=
a
e
(
∵
{\displaystyle =ae(\because }
②・③
)
{\displaystyle )}
=
a
(
∵
{\displaystyle =a(\because }
①
)
{\displaystyle )}
すなわち
e
a
=
a
{\displaystyle ea=a}
と単位元 の公式の残り半分が導出される.
また,
a
−
1
a
=
a
−
1
a
e
(
∵
{\displaystyle a^{-1}a=a^{-1}ae(\because }
①
)
{\displaystyle )}
=
a
−
1
a
a
−
1
(
a
−
1
)
−
1
(
∵
{\displaystyle =a^{-1}aa^{-1}(a^{-1})^{-1}(\because }
③
)
{\displaystyle )}
=
a
−
1
e
(
a
−
1
)
−
1
(
∵
{\displaystyle =a^{-1}e(a^{-1})^{-1}(\because }
②
)
{\displaystyle )}
=
a
−
1
(
a
−
1
)
−
1
(
∵
{\displaystyle =a^{-1}(a^{-1})^{-1}(\because }
①
)
{\displaystyle )}
=
e
(
∵
{\displaystyle =e(\because }
②・③
)
{\displaystyle )}
すなわち
a
−
1
a
=
e
{\displaystyle a^{-1}a=e}
と逆元 の公式の残り半分が導出される.
^
a
b
=
e
{\displaystyle ab=e}
,
a
∈
X
,
b
∈
X
{\displaystyle a\in X,b\in X}
において、
X
{\displaystyle X}
が
G
{\displaystyle G}
の演算で閉じている のだから
a
b
=
e
∈
X
{\displaystyle ab=e\in X}
^
0
{\displaystyle 0}
を含むと
0
{\displaystyle 0}
の乗法についての単位元 は存在せず、乗法に関する単位元 を仮に
1
{\displaystyle 1}
としても乗法に関して
0
{\displaystyle 0}
の逆元 は存在しない.これはすぐに後述される.
^
「
Q
+
{\displaystyle Q^{+}}
を正の有理数の集合」としてもよいが,すでに定義している
R
+
{\displaystyle R^{+}}
を使用して定義したまでのこと.
^
逆元 が整数に収まらない.
^
行列
A
{\displaystyle A}
の行列式が
0
{\displaystyle 0}
であれば,
A
{\displaystyle A}
は逆行列を持たずしたがって逆元 は持ちえない.
^
▴
{\displaystyle \blacktriangle }
以下慣例に従って
⋅
{\displaystyle \cdot }
は
+
{\displaystyle +}
に優先して読み
(
a
⋅
b
)
{\displaystyle (a\cdot b)}
などの
(
)
{\displaystyle ()}
は省略する.
^
X
{\displaystyle X}
の部分集合同士の
∩
{\displaystyle \cap }
はやはり
X
{\displaystyle X}
の部分集合であるし,
X
{\displaystyle X}
の部分集合同士の
∪
{\displaystyle \cup }
もやはり
X
{\displaystyle X}
の部分集合である,ということ.
^
一般的な集合演算を指している.集合演算の結果としてとりうる値(集合)をすべて集めるとベキ集合と考える.