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地政学/序説/研究方法

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
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地政学の学問的な位置づけについての考察を行うことは地政学の学習と研究のためにも必要である。そもそも学問は哲学と科学に大別することが出来る。科学とは観察、実験を実施して帰納、演繹などの合理的な思考を経て考察される学問である。そして科学はさらに先験科学、経験科学、実践科学に大別される。そして経験科学は自然科学と社会科学に分かれ、多くの事例を研究することで一般的な法則を機能的な方法論により導き出すことである。さらに実践科学は応用科学と政策科学に分かれ、実践科学は哲学と科学の諸部門を総合して現実に生かすことを狙った学問である。(神川彦松著『神川彦松全集 第一巻』(勁草書房、1966年)22項)

ギリシア海軍大学のルーカス教授によれば、従来の地政学は政策を志向する研究が非常に多く、そのために伝統的な地政学は安全保障の政策学的な性格から地政戦略学(Geostrategy)とも言える。また現代の地政学はより人間の経済関係や外交関係を分析する研究が進んでいるために地政経済学(Geoeconomy)として地政戦略学と対比することが出来る。これらは上記の学問の体系と照らし合わせると地政戦略学は実践科学、そして地政経済学は経験科学として属していることが分かる。

地政学の輪郭をはっきりさせるためには地政学が出発点とするいくつかの基礎を明らかにしなければならない。これは地政学的な視野を支配している原理でもある。しかしながらこの地政学の基盤を確かなものにした研究は地政学が経験科学の性質であったために多くはない。そこでここではこれより地政学の学習に当たって理解を容易にするためにいくつかの仮説的な前提を示す。前提には三つある。まず第一前提は「人間を政治的共同体[注釈 1]という集合的な単位で観察する」ことである。これは近代国家が成立した近代以降においては国民国家と近似する。第二の前提は「政治的共同体のあらゆる勢力は地理に依拠する」ことである。これは地表上の状態である陸地や海洋が政治的共同体の勢力の基礎であるとともに制約するものでもあることを述べてる。第三の前提は「複数の政治的共同体が自然状態に置かれている場合では競争または闘争の状態が生じる」ことである。この自然状態における人間の行為についての考察は政治哲学者によって行われており、厳密には自然状態において人間はホッブズが「生そのものが運動に他ならず、欲望なしではありえない」と論じているように至福を追求して人間は万人に対する万人の戦いを導くとされている。[1]

学問の研究方法は研究対象の特性などを考慮して確立しなければならないといけない。地政学の研究方法は完全に確立されたものではないが、伝統的な研究方法の方法論から科学的方法論と学際的方法論が考えられる。科学的方法論とは客観性と合理性を以って経験事実の調査分析を実施し、帰納、演繹、比論の論理的思考を進め、自明でなかった法則や事実などの結論を導き出す方法論である。ここで言う客観性とは主観的な価値基準を徹底的に排除することによって保たれる視野のことである。規範や理念についての議論は哲学的な領域で行われるべき性質のものである。

脚注欄

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  1. ^ 政治的共同体は国家とほぼ同義であるが、そのまま適用することによって生じる国家観を巡る論争を回避するためにやや曖昧さを残す用語を用いた。この言葉の意味するところとは要するに究極的には一元の政治権力によって統合化、組織化、制度化されているあらゆる人間社会を指しており、現代の多くの国家の意味と近似である。

参考文献

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  1. ^ ジョナサン・ウルフ著、坂本知宏訳『政治哲学入門』(晃洋書房、2000年)12項