小学校国語/竹取物語

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
ちいさいころの、かぐや姫。おじいさんとおばあさんに、たいせつに育てられている。

むかし話の「かぐやひめ」(かぐや姫)は、「竹取物語」(たけとりものがたり)という物語がもとになっている。今から1000年以上も前の平安時代に書かれた物語である。「竹取物語」の作者は不明。


書き出しの部分[編集]

本文[編集]

『竹取物語』の音読
 
 今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。名をば、さぬきの造となむいひける。
 その竹の中に、もと光る竹なむ一すぢありける。あやしがりて、寄りて見るに、つつの中光りたり。それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。
 



訳(やく)[編集]

今となっては昔のことだが、「竹取の翁」というものがいた。
野山に分け入って竹をとっては、様々なことに使っていた。
名を「さぬきのみやつこ」と言った。
その竹の中に、根元が光るものが一本あった。
不思議(ふしぎ)に思って近づいて見ると、竹の筒(つつ)の中が光っていた。
それを見ると、三寸(さんずん、約10センチメートル)ほどの人が、たいそうかわいらしく座って(すわって)いた。
 

かなづかいの違い[編集]

いふもの → 「いうもの」と読む。
よろづ → 「よろず」と読む。
使ひけり → 「つかいけり」と読む。
なむ  → 「なん」と読む。
いひける → 「いいける」と読む。
うつくしう → 「うつくしゅう」と読む。
ゐたり → 「いたり」と読む。
  • 語頭以外での「は・ひ・ふ・へ・ほ」

「いふもの」や「いひける」のように、語頭以外での「は」「ひ」「ふ」「へ」「ほ」は、多くの場合、「は」→「わ」、「ひ」→「い」、「ふ」→「う」、「へ」→「え」、「ほ」→「お」と読むことが多い。

  • 子音を取ってヤクした:いふもの・使ひけり・いひける・ゐたり

○h行でなる ○隠語で構成

  • 同じ音で仮名を変更:よろず〈子音で覚える〉
  • 「なむ」

「なむ」を「なん」と読むように、「む」を「ん」と読む場合がある。

竹(たけ)なむ → 「たけなん」
さぬきのみやつこなむ → 「さぬきのみやつこなん」

[○nn=m ○vv=w]:2つある

  • 「しう」

古文:「うつくしう」→ 読み:「うつくしゅう」 の様に、古文:「しう」→読み:「しゅう」。

この冒頭文の以外からも例を出せば、古文の「けふ」は「きょう」(今日)。古文の「てふ」は「ちょう」と読む。古文の「てふてふ」は読みは「ちょうちょう」で蝶々(ちょうちょう)。「てふてふ」はアゲハチョウとかモンシロチョウなど、昆虫のチョウのこと。[てとち→t・うい]

  • 「わ・ゐ・う・ゑ・を」
ゐたり → 「いたり」

のように 枕草子の「をかし」 → 読み:「おかし」の例のように、古文の「わ・ゐ・う・ゑ・を」は、読みが、「わ」→「わ」(そのまま)、「ゐ」→「い」、「う」→「う」(そんまま)、「ゑ」→「え」、「を」→「お」、というふうになる。

現代と意味のちがう言葉[編集]

  • あやしがりて

意味は「不思議に思って」。現代の「怪しいと思う」とは意味がちがい、「変だと思う」というような意味は無い。

  • うつくしう
「うつくし」で、「かわいらしい」という意味。現代の「うつくしい」とは、少し意味がちがうので、注意。


  • ゐたり
「ゐる」(「いる」)の変化。「ゐる」の意味は「座る」(すわる)という意味。現代での「居る」(いる)の意味の「存在している」とは、すこし意味がちがうので注意。

この「あやし」や「うつくし」のように、たとえ同じ語が現代にあっても、古文では意味が違う場合があるので、注意。


語の意味[編集]

  • 今は昔 (「いま は むかし」)
日本の昔話のはじめの決まり文句。「今となっては昔のことだが」という意味。この場合は現代で言うところの「むかしむかし」にあたる部分で、読者をこの世界に引き込ませる言葉の一つ。
  • 翁(「おきな」) ・・・ 「翁」と書いて「おきな」と読み、「おじいさん」の意味。古文で、よく出てくる言葉なので、おぼえよう。
  • 「いふもの」・・・ 発音は「いうもの」と発音する。旧仮名遣い(きゅうかなづかい)なので、文字と発音とちがっている事に注意。
  • 万(よろづ、読み:「よろず」) ・・・ 「いろいろな物・事」「さまざまな物・事」の意味。
当時の竹は、竹細工(たけざいく)などのように、いろんな品物(しなもの)に、材料(ざいりょう)として使われていた。
  • 「使ひけり」・・・ 発音は「つかいけり」、「けり」とは過去をあらわす助動詞であり、「つかいけり」の意味は「つかっていた」となる。
  • (竹を取り)つつ
「つつ」は、反復・継続の意味の接続助詞。ここでは、「竹をとる」という動作と「よろづのことにつかふ」という動作が同時に行われていることをあらわす。
  • さぬきの造 (さぬきのみやつこ)
竹取の翁の名前である。つまり、竹取のおじいさんの名前は「さぬきのみやつこ」。
  • (さぬきのみやつこと)「なむ」 ・・・ 発音は「なん」
  • (あり)けり
過去の助動詞。助動詞「き」との違いの一つは、「き」が直接経験し記憶にある過去の意味をあらわすのに対し、「けり」は人から伝え聞いたことの回想をあらわすことである。そのため現代語訳は「・・・した」の他にも「・・・したそうだ」などと訳す場合もある。
  • (名) をば
格助詞(かくじょし)「を」に係助詞(かかりじょし)「「は」が付き、「は」がにごったもの。「を」を強調している。「名をば」の意味は、「名前を」とか「名前は」などという意味である。
  • あやしがりて
意味は「不思議に思って」。現代の「怪しいと思う」とは意味がちがい、「変だと思う」というような意味は無い。


  • いと(うつくしう)
「いと」で、現代の「とても」という意味。古文で、よく出てくる言葉なので、おぼえよう。
  • (いと)うつくしう
「うつくし」で、「かわいらしい」という意味。現代の「うつくしい」とは、少し意味がちがうので、注意。
この「うつくし」のように、同じ語が現代にあっても、意味が違う場合があるので、注意。
  • 三寸(「さんすん」)
一寸(いっすん)で、約3センチメートル。3寸で約9cmになるが、10センチのほうが切りがいいので、訳では、10センチと訳した。
  • ゐたり
「ゐる」(「いる」)の変化。「ゐる」の意味は「座る」(すわる)という意味。現代での「居る」(いる)の意味の「存在している」とは、すこし意味がちがうので注意。