日本語史/現代語の音韻と文字
日本語史について学ぶ際、音韻と文字と文法の知識は必要不可欠です。ここでは、現代日本語の音韻と文字について学びましょう。
音韻
[編集]人間のコミュニケーションのとり方にはさまざまありますが、口内から様々な音声を出すというものもそのひとつです。音声を用いる言語において、同じものとして認識される音声の集合を音素といい、音声を用いる言語の話者は、この音素が集まった音韻によって会話を認識したり文字を記述したりします。
音素はアルファベットで表記され、音素記号(音声記号とは異なります)といいます。日本語においてはラテン語と音韻がよく似ているため、ラテン文字ですべて表記できます。
現代日本語の音素の一覧
[編集]a i u e o k g s z t d n h b p m y r w
- 備考
- 母音子音の定義は難しいのでa i u e oで表される音素を母音、それ以外の音素を子音とします。
- N......撥音(ン)
- Q......促音
- 長音については諸説ありますが、本書では母音の連続したものとします(aa ii uu ee oo)。これらはNを除き母音でも子音でもないものとします。
- 拗音はky,gy,sy,zy,ty,ny,hy,by,py,my,ryですが、この場合、ふたつの音素記号は切り離せない単音として認識されます。
現代日本語の文字
[編集]我々は日本語を記述するのに主に三種類の文字を使います。漢字、平仮名、片仮名です。
漢字の性質
[編集]現在、日本語話者が用いる漢字には読み方がおおよそ2種類あります。ひとつは音読です。現代の音読は、中国から伝わった外来音が日本語になじむように変化してきたものです。たとえば海をカイと読んだり、青をセイと読んだりするものです。もうひとつは訓読です。訓読は、漢字が表す中国語に相当する日本語をその漢字の読みとしたものです。たとえば海をウミと読んだり、青をアオと読んだりするものです。
一般に、言葉は文字に先行するので、中国語(由来の語)ではカイ、日本語ではウミという言葉を海と書く、ともいえます。
平仮名・片仮名の性質
[編集]古代の日本人には漢字の音(音読と訓読の両者)を借りて、たとえば「ヤマ」を「邪麻」とするように、日本語をおおよそ一音ずつ表記する者もいました。この表記法を仮名とか、この表記法が用いられた歌集『万葉集』から採って万葉仮名とかと呼びます。仮名とは真名(漢字)に対する呼び名で、また、仮名真名の名とは文字の意味であり、仮字真字とも書きました。
のちに仮名はいちいち画数が多かったので漢字の一部を採った片仮名ができたり、漢字を崩した平仮名ができたりしました。平仮名や片仮名にはもともとひとつの音に複数の文字が対応するものもありましたが、近代化によって整理され、現代は一種の音を一種の平仮名や片仮名で表すようになりました。本書では以降、仮名といえば平仮名と片仮名の総称とし、先に挙げた仮名は万葉仮名とします。
それでは、私たちはどのように言葉の音を認識して仮名を表記しているのでしょうか。 私たち日本語話者には、一音であると認識する相対的な長さが無意識にあって、その長さを拍あるいはモーラといいます(相対的とは、全体の長さによって変化するという意味です)。単位も拍あるいはモーラです。拍はリズムのようなものです。私たちはその一拍一拍に一文字一文字を対応させているのです。そしておおよそその一拍一拍中では子音と母音が組み合わさっており、その組み合わせを音節あるいはシラブルといいます。ゆえに、おおよそ一音節で一文字を表記しているともいえます。拍を表すのにここでは♪を用いましょう。たとえばヤマはya♪ma♪のように2拍で認識します。そのため仮名による表記も「やま」のように2文字となります。ハンブンはha♪N♪bu♪N♪のように4拍で認識します。そのため仮名による表記も「はんぶん」のように4文字になります。ただしハンブンは母音を2つしか持たないので2音節です。このように拍と音節とは必ずしも一致するとは限りません。和歌などでは五・七・五・七・七のリズムは美しいとされますが、これも音節の数ではなく拍の数です。つまり日本語独特の美しいリズムなのです(ちなみにモーラとはラテン語用語が転用されたものです)。
現代仮名遣い
[編集]日本語話者は音の認識通りに仮名で表記すると思われている読者もいらっしゃるでしょうが、実際には仮名の表記方法にはルールがあり、そのルールを仮名遣いといいます。
私たちは現在、現代仮名遣いというルールに従って仮名を表記しています。現代仮名遣いが定められる以前には、公式の場面で、現在では歴史的仮名遣いと呼ばれる、平安時代の日本語の音韻に基づいた仮名遣いが用いられていました。
現代仮名遣いは、歴史的仮名遣いをもとに、音韻をおおよそ現代日本語に合うように改めた仮名遣いですが、歴史的仮名遣いのなごりは残っています。たとえば国文法における格助詞「ワ」「エ」「オ」を「は」「へ」「を」と書くのもそのひとつです。特に仮名の「を」は現在では一般に格助詞にしか用いられません。また、「コオリ」(氷)を「こうり」ではなく「こおり」と書くのは、歴史的仮名遣いでは「は・ひ・ふ・へ・ほ」と表記するが「ワ・イ・ウ・エ・オ」と読むものは「わ・い・う・え・お」と改めて表記するというルールがあり、問題の「コオリ」は歴史的仮名遣いでは「こほり」と表記するためです。このように、現代仮名遣いが歴史的仮名遣いの知識を前提としていることは、現代仮名遣いの存在意義が問われるとして問題にもなっています。