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植物学/基礎植物学

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

植物の基本構造と機能[編集]

植物細胞の構造と機能[編集]

植物細胞の特徴[編集]

植物細胞は動物細胞と多くの点で異なります。最も顕著な違いは、細胞壁の存在です。植物細胞の細胞壁は、主にセルロースで構成され、細胞に形状と強度を与えます。また、植物細胞には大きな液胞、葉緑体、その他のプラスチドなど、動物細胞には見られない特有の構造が存在します。

細胞壁[編集]

植物細胞を特徴づける最も重要な構造の一つが細胞壁です。細胞壁はセルロース、ヘミセルロース、ペクチンなどの多糖類から成る硬い層で、セルロース微小繊維が骨格を形成し、ヘミセルロース、ペクチン、タンパク質などのマトリックス多糖に取り囲まれた構造をしています。動物細胞とは異なり、セルロースを主成分とするこの強固な細胞壁が植物細胞の大きな特徴です。

細胞壁は細胞の形状を維持し機械的支持を与えるだけでなく、浸透圧の調整や細胞間のコミュニケーションにも関与しています。細胞間のコミュニケーションは原形質連絡(プラスモデスマータ)と呼ばれる細胞壁を貫く通路を介して行われます。また、細胞壁は単に静的な構造ではなく、セルロース合成酵素複合体による活発な代謝が行われ、細胞の成長や防御など様々な生理機能に不可欠な働きをしています。細胞壁の構成と多様な機能は、植物の適応戦略を支える重要な要素と言えるでしょう。

細胞膜[編集]

細胞膜(原形質膜)は植物細胞を取り囲む生体膜で、脂質二重層にタンパク質が埋め込まれた柔軟な構造をしています。細胞膜は細胞の境界となり、細胞内の環境を外界から隔離する役割があります。また、疎水性の小分子は自由に通過できますが、親水性の物質やイオン、大分子は選択的に通過できるという選択的透過性を持っています。

膜に存在するタンパク質(トランスポーター、チャネル)を介して、必要な物質を能動的または受動的に細胞内に取り込んだり、代謝産物を排出したりすることができます。さらに、細胞膜にはレセプター分子が存在し、ホルモンなどの外部シグナルを受容して細胞内へ伝達する役割も担っています。細胞膜上には多くの酵素が存在し、様々な代謝反応が行われているため、植物細胞の生命活動になくてはならない重要な構造体であり、物質の出入り、情報伝達、代謝反応などで中心的役割を果たしています。


細胞質[編集]

細胞質とは、細胞膜に囲まれた細胞内部のオルガネラを除いた領域のことを指します。細胞質はゼリー状の物質で細胞内を満たしており、細胞小器官を保持し、代謝反応の場を提供するなど、様々な重要な機能を有しています。

細胞質の主な構成要素と機能は以下の通りです。

  • 細胞質基質(細胞溶液): 水、イオン、代謝中間体、ホルモン、酵素などが溶けている液体部分で、種々の代謝反応が行われる場です。
  • リボソーム: タンパク質の合成を行う場所で、細胞質に遊離して存在する遊離リボソームと、小胞体に付着した小胞体リボソームがあります。
  • 細胞骨格系: 微小管、アクチン繊維からなる繊維状構造物で、細胞の形態維持、物質輸送、細胞分裂などに関与します。
  • 原形質流動: モーター蛋白質の働きにより、細胞質中での液流や物質の移動が起こります。
  • 代謝経路: 解糖系、クエン酸回路、電子伝達系などの重要な代謝経路の多くが細胞質で進行します。

このように、細胞質は細胞内の環境を維持し、タンパク質合成、代謝、物質輸送など、細胞の基本的な活動の場として極めて重要な役割を果たしています。細胞質と膜系が協調的に機能することで、植物細胞の生命活動が支えられています。

[編集]

核は核膜で囲まれた球状の構造で、内部に染色体が存在します。核は遺伝情報の保存と伝達を行い、細胞の成長や分裂を調整する役割があります。また、遺伝子の発現を制御し、タンパク質の合成を指示するなど、細胞の活動を統括する重要な構造です。

葉緑体[編集]

葉緑体は、二重膜に囲まれた構造体の内部にチラコイド膜系を持っています。葉緑体はその名の通り、植物の葉に多く存在する細胞小器官で、光合成を行い光エネルギーを化学エネルギー(グルコース)に変換する働きがあります。チラコイド膜にはクロロフィルが含まれ、光を吸収することができます。

液胞[編集]

植物細胞に特徴的な細胞小器官として液胞があげられます。液胞は細胞膜に包まれた大きな袋状の構造です。液胞には以下のような重要な機能があります。

  • 細胞内の物質の貯蔵: 老廃物やタンパク質、炭水化物、無機イオンなどを貯蔵します。
  • 老廃物の分解: 加水分解酵素を含み、不要な物質を分解します。
  • 細胞の浸透圧の維持: 溶質を高濃度に蓄積して細胞の浸透圧を上げ、細胞の膨圧を維持します。
  • 細胞の形状保持: 液胞が細胞内で大きな空間を占めることで、細胞の形状を保つ役割があります。

特に植物の細胞は大きな中央液胞を持ち、物質の貯蔵や細胞の形状維持に重要な役割を果たしています。

ゴルジ体[編集]

ゴルジ体は平らな袋状の膜構造が重なった構造をしており、タンパク質や脂質の修飾、分泌、輸送を行う細胞小器官です。小胞体で合成されたタンパク質は、ゴルジ体で修飾された後、分泌小胞に包まれて細胞外に運ばれたり、液胞や細胞膜などに運ばれます。

ミトコンドリア[編集]

ミトコンドリアは二重膜に囲まれた楕円形の構造をしています。ミトコンドリアは細胞呼吸を行う場所で、有機物を酸化分解してATPというエネルギー分子を生成する働きがあります。植物細胞にも動物細胞と同様にミトコンドリアが存在し、活発な代謝活動を支えています。

植物細胞の特異的な特徴[編集]

植物細胞には動物細胞とは異なる特徴的な構造があります。

  1. 中心体の欠如 動物細胞と異なり、植物細胞には中心体がありません。細胞分裂の際、微小管は核膜付近から直接形成されます。
  2. 大きな中央液胞 植物細胞の中央には大きな液胞が存在します。この液胞は物質の貯蔵や細胞の形状の維持に重要な役割を果たします。
  3. プラズモデスマータ 細胞壁を貫く細胞間連絡の通路であるプラズモデスマータが存在します。これにより、隣接する細胞との物質のやり取りが可能になります。

その他の細胞小器官とその機能[編集]

  1. エンドプラズミックレティキュラム(ER) 粗面ER(リボソームが付着)と滑面ER(リボソームが非付着)の2種類があり、タンパク質および脂質の合成と加工を行います。
  2. ペルオキシソーム 酸化酵素を含み、脂肪酸の分解や過酸化水素の分解を行う細胞小器官です。

植物細胞の進化的意義[編集]

植物細胞の構造は、進化の過程で陸上環境に適応するために発達してきました。例えば、細胞壁の強度は高い浸透圧に耐えるため、葉緑体は光合成に特化し、液胞は水分や栄養素を貯蔵するために発達しました。これらの特性は、植物が陸上で生活するための基盤となっています。植物は細胞レベルでの進化的適応により、陸上環境に対応できるようになったと言えます。

組織と器官の構造と機能[編集]

植物の組織系[編集]

植物は三つの主要な組織系から成り立っています:

表皮系(Dermal tissue system)[編集]

表皮系は植物の外側を覆い、保護機能を担います。主な構成要素には以下があります:

  • 表皮細胞: 植物の表面を覆い、外的ストレスから保護します。これらの細胞は密に並び、表皮組織を形成しています。
  • 気孔: 蒸気やガスの交換を可能にし、気孔を通じて水分の蒸発を調節します。気孔は表皮細胞の一部が特別に変形した構造であり、気孔開閉を通じて気体の出入りを調整します。
  • 毛状突起(トライコーム): 表面積を増やし、保護や分泌機能を持ちます。これらの突起は多様な形態を示し、植物の種類や環境条件によって異なる役割を果たします。例えば、一部のトライコームは刺突して草食動物を遠ざける役割を果たすことがあります。

表皮系は植物が外界との間で直接的な接触を行う重要な組織であり、植物の健康や生理的な機能に不可欠です。

基本組織系(Ground tissue system)[編集]

基本組織系は植物の体全体で光合成、貯蔵、支持などの機能を果たします。主な組織には以下があります:

  • 柔組織(Parenchyma): 光合成や貯蔵を行う主要な組織であり、水分や栄養素の貯蔵にも関与します。柔組織は通常、多角形の細胞で構成され、細胞壁が薄く、細胞間には多数の空胞が存在します。これにより、物質の拡散や光合成の効率が向上します。
  • 厚壁組織(Collenchyma): 機械的支持を提供する組織であり、柔軟性を持ちながらも強度を保持します。特に若い植物部分に見られ、柔組織よりも細胞壁が厚く、中間層にペクチンを多く含みます。これにより、成長中の組織を支持し、機械的な強度を提供します。
  • 硬化組織(Sclerenchyma): 強度と支持を提供し、主に成熟した組織で見られます。硬化組織の細胞壁にはリグニンが豊富に含まれており、これにより非常に硬い壁を形成します。硬化組織は主に植物の支持組織や保護組織として機能し、例えば木部や樹皮に見られることがあります。

基本組織系は植物の生理的な機能の多くを支え、植物が環境に対応しながら成長するための重要な役割を果たしています。

維管束系(Vascular tissue system)[編集]

維管束系は水分、栄養素、代謝産物の輸送を担う重要な組織系です。主な構成要素には以下があります:

  • 道管(Xylem): 根から上部に水と無機塩類を輸送し、植物における水の上昇を支援します。主要な構成要素は次の通りです:
    • 木部(Tracheids): 長細胞であり、繊維状で中空の細胞壁を持ちます。これにより、水分や溶存栄養素が上昇する際の連続的な経路を提供します。
    • 管胞(Vessel elements): より効率的に水を輸送するために専門化した細胞であり、壁が大きな孔を持つことで水の通り道として機能します。
  • 篩管(Phloem): 光合成産物や他の有機物質を全体に輸送し、栄養の分配を支援します。篩管は以下の要素で構成されます:
    • 篩管細胞(Sieve cells): 細胞間の連絡孔を通じて、光合成産物を他の部分に輸送します。
    • 篩管管胞(Sieve tube elements): 細長で管状の細胞であり、連絡孔(篩板)を通じて物質の輸送を行います。これらの細胞は生命力が低下すると齧害を受けます。

維管束系は、植物全体での水や栄養素の移動を効率的に支援し、植物の成長や生理的な機能に不可欠です。特に木部の発達により、高い機械的強度と土壌からの水の供給が可能になります。

植物体の主要器官[編集]

根 (Root)[編集]

基本構造と種類[編集]

根は通常、地下にあり、植物を土壌に固定し、水と栄養素を吸収します。主要な根の種類には以下のものがあります:

主根 (Taproot)
主要な一本の太い根で、多くの植物がこれを持っています。例えば、ニンジンやダイコンの根は主根の一例です。主根は深く土中に伸び、植物が乾燥した環境でも水を得られるようにします。
側根 (Lateral roots)
主根から枝分かれしている根で、地表近くに広がり、土壌から効率的に栄養素を吸収します。側根は主根に比べて細く、広範囲に伸びることで土壌中の資源を効果的に利用します。
ひげ根 (Fibrous roots)
主根がなく、多くの細かい根が密集しています。多くのイネ科植物がこのタイプの根を持ち、土壌の表層に広がって栄養素や水分を効率的に吸収します。

機能[編集]

栄養吸収
根毛という小さな突起が根の表面に多数存在し、水と溶解したミネラルを効率的に吸収します。根毛は表面積を大きくし、吸収効率を高める役割を果たします。
支持
根は植物を地面に固定し、風や雨などの環境変動から植物を守ります。また、根の深さや広がり方は植物の安定性に大きく寄与します。
貯蔵
根は栄養素や水を貯蔵し、乾燥や栄養不足の環境でも植物が生き延びるのを助けます。例えば、サツマイモの根はデンプンを豊富に貯蔵しています。

特殊な根[編集]

呼吸根 (Pneumatophores)
水中や湿地でガス交換を助けるために発達した根で、マングローブに見られます。これらの根は酸素を取り入れ、根全体に供給します。
支柱根 (Prop roots)
植物の幹や枝から地面に向かって伸び、追加の支持を提供する根です。例えば、トウモロコシやイチジクは支柱根を持ち、重い果実を支える役割を果たします。
寄生根 (Haustoria)
他の植物に寄生して栄養を吸収するための特殊な根です。ヤドリギなどの寄生植物は、寄主植物に寄生根を挿入し、そこから栄養を吸収します。

茎 (Stem)[編集]

基本構造と種類[編集]

茎は植物体を支え、葉、花、果実などを保持します。また、物質の輸送経路として機能します。

直立茎 (Erect stem)
垂直に伸びる茎。多くの草本植物や木本植物がこのタイプの茎を持っています。例えば、ヒマワリやトウモロコシなどが含まれます。
つる性茎 (Climbing stem)
他の物に巻き付いて成長する茎で、ヘデラやクレマチスなどがこのタイプです。これにより、高い場所に到達して光を得ることができます。
地下茎 (Rhizome)
地下で水平に伸びる茎で、ショウガやイヌシダが代表例です。地下茎は栄養素の貯蔵と新個体の形成に役立ちます。

機能[編集]

支持
茎は植物の上部構造を支え、葉や花を適切な位置に保持します。これにより、光合成と受粉が効率的に行われます。
物質輸送
茎の内部には維管束があり、水、栄養素、光合成産物を植物全体に輸送します。維管束は道管と師管から構成され、水と溶解した栄養素、糖分をそれぞれ輸送します。
貯蔵
茎は栄養素や水を貯蔵することができ、乾燥や栄養不足の状況下でも植物が生存するのを助けます。例えば、ジャガイモの茎はデンプンを貯蔵します。

特殊な茎[編集]

ランナー (Runner)
地表を這う茎で、新しい個体を形成します。イチゴのランナーは、母植物から離れて新しい植物を形成し、繁殖を助けます。
クローン茎 (Clonal stem)
繁殖のために使われる茎で、ミントやベンケイソウなどが含まれます。これらの茎は簡単に新しい個体を形成します。
塊茎 (Tuber)
栄養貯蔵のために肥大化した茎で、ジャガイモが典型例です。塊茎はデンプンを豊富に貯蔵し、栄養源として利用されます。

葉 (Leaf)[編集]

基本構造と種類[編集]

葉は光合成の主要な場所で、一般的に薄く広がっています。

単葉 (Simple leaf)
一枚の葉が一つの葉柄に付いています。例としては、オークやメープルがあります。
複葉 (Compound leaf)
複数の小葉が一つの葉柄に付いている葉で、アカシアやシダが代表例です。

機能[編集]

光合成
葉は太陽光をエネルギーに変換し、二酸化炭素と水を使って糖を生成します。これにより、植物の成長とエネルギー供給が行われます。
蒸散
気孔を通じて水分を蒸発させ、冷却効果を生みます。また、蒸散は水の吸い上げを助け、土壌からの栄養素の吸収を促進します。
ガス交換
気孔を通じて酸素と二酸化炭素を交換し、呼吸と光合成に必要なガスを供給します。

特殊な葉[編集]

貯蔵葉 (Storage leaf)
水や栄養素を貯蔵する葉で、アロエやリトープスが含まれます。これにより、乾燥環境でも生存可能です。
捕虫葉 (Carnivorous leaf)
昆虫を捕獲し、分解して栄養を得る葉です。ハエトリソウやモウセンゴケが代表例です。
針葉 (Needle leaf)
乾燥や寒冷な環境に適応した葉で、松や杉が含まれます。針葉は水分の蒸発を抑える形状をしています。

生殖器官[編集]

植物の生殖は、雄性および雌性生殖器官によって行われます。これらの器官は花に存在し、種子の形成と受粉に重要です。

花は、被子植物(angiosperms)において繁殖機能を持つ特別な構造であり、種の多様性と生存に重要な役割を果たしています。花の基本的な構造には、(がく)(sepal)、花弁(petal)、雄蕊(stamen)、雌蕊(pistil)があります。それぞれの部分は特定の機能を持ち、花全体の繁殖過程において重要な役割を果たします。

雄性生殖器官(雄蕊(おしべ); stamen)
構造
雄蕊は花の雄性部分であり、(やく)(anther)と花糸から成ります。葯は花粉を生成し、花糸(filament)は葯を支えます。
機能
花粉(雄性配偶子)を生成し、花粉が受粉媒介者(風、昆虫など)によって雌蕊に運ばれるようにします。
雌性生殖器官(雌蕊(めしべ); pistil)
構造
雌蕊は花の雌性部分であり、柱頭(stigma)、花柱(style)、子房(ovary)から成ります。柱頭は花粉を受け取り、花柱は柱頭と子房をつなぎます。子房には胚珠が含まれています。
柱頭(stigma)
花粉を受け取る部分で、通常は粘着性があり、花粉が付着しやすい構造をしています。
花柱(style)
柱頭を支える細長い部分で、花粉管が卵細胞に到達するための通路を提供します。
子房(ovary)
花の基部に位置し、胚珠(ovule)を含む部分です。受粉後、子房は果実に発達し、胚珠は種子になります。
胚珠(ovule)
子房内にあり、受粉後に種子に発達します。
機能
花粉を受け取り、花粉管が胚珠に到達するための通路を提供します。受精後、子房は果実に、胚珠は種子になります。
(がく)( sepal)
萼は、花の最外層に位置する緑色の葉状構造で、通常はつぼみの段階で花を保護します。開花後も、がくは花の基部を支える役割を果たします。
花托(かたく)(receptacle)
花の基部に位置し、萼、花弁、雄蕊、雌蕊が付着する部分です。
花柄(かへい)(peduncle)
花茎(かけい)(flower stem)の一部であり、植物の茎から花や花序(かじょ)(inflorescence)を支える役割を果たす細長い部分で、花を植物の主茎や他の部分から適切な位置に持ち上げ、受粉媒介者や風、その他の受粉要因に対して最適な位置に配置することです。これにより、花粉の効率的な移動が可能になります。
花梗(かこう)(Pedicel)
花序の中で個々の花を支える小さな茎の部分を指します。花序の中に複数の花がある場合、各花は花梗によって支えられています。

植物の生殖サイクル[編集]

植物の生殖サイクルは、花の発生から始まり、受粉、胚形成、種子の発達を経て完了します。

花の発生
概要
花は分生組織から分化し、特定の環境条件や内的シグナルによって開花が誘導されます。
プロセス
花芽(はなめ)形成、花器官の分化(萼片(がくへん)(sepal)、花弁(petal)、雄蕊、雌蕊の形成)、開花が順に行われます。
受粉(Pollination
概要
花粉が雄蕊の葯から雌蕊の柱頭に移動する過程です。受粉は風、動物(昆虫、鳥、哺乳類など)、水などの媒介者によって行われます。
プロセス
花粉が柱頭に付着すると、花粉管が形成され、花粉管が花柱を通って子房に到達します。
胚形成(Embryogenesis)
概要
花粉管が胚珠に到達すると、受精が行われます。1つの精細胞は卵細胞と融合して受精卵(受精した卵細胞)が発生して(はい)(Embryo)を形成し、もう1つの精細胞は中央細胞と融合して胚乳を形成します。
プロセス
受精卵は細胞分裂を繰り返し、胚が発達します。同時に、胚乳が栄養を蓄積し、種子の成長を支えます。
種子の発達
概要
胚珠が種子に成長し、子房が果実に発達します。
プロセス
種皮が形成され、胚と胚乳が種子内に蓄えられます。成熟した種子は休眠状態に入り、適切な環境条件下で発芽します。

植物の成長と発達は、複雑で精密に調整されたプロセスの連続です。これらのプロセスを理解することで、植物の生態や農業における応用を深めることができます。

発生と生活環[編集]

植物の発生と生活環は、以下のようになります。

  • 接合子の形成:植物は、花粉という精子を含んだ細胞を、花の雄しべから花粉管と呼ばれる管状の構造を介して、雌しべの柱頭に伸ばします。花粉管は、柱頭内に伸びる過程で、一つの細胞が先端に到達すると、接合子と呼ばれる精子と卵細胞とを形成します。
  • 受粉:接合子は、卵細胞と融合し、胚珠に受粉が起こります。
  • 胚珠の発育:受粉によって、胚珠内には胚珠核という細胞が形成されます。胚珠核は、栄養細胞と胚乳細胞に分化し、胚乳細胞が発育して種子を形成します。
  • 種子の発芽:種子は、外部から水分や栄養分を吸収して、発芽します。芽が出て、新しい植物が生まれます。
  • 成長:成長には、光合成や呼吸といった生理現象が関わります。葉や茎、根が形成され、新しい花や果実をつけることで、生殖の循環が繰り返されます。

植物の生活環は、一次生殖体である胚珠が、二次生殖体である種子を形成し、種子からは新たな一次生殖体である植物が生まれる、というサイクルで構成されています。このサイクルは、受粉による有性生殖によって成立するものです。また、無性生殖によって、株分けや挿し木などの方法で、同一の個体から新たな植物を作り出すこともできます。

種類と機能[編集]

単性花 (Unisexual flower)
雄花と雌花が分かれている花です。例えば、ホウセンカは単性花を持つ植物です。
両性花 (Bisexual flower)
雄蕊と雌蕊が同じ花に存在する花です。バラは両性花の代表例です。
完全花 (Complete flower)
すべての主要な花部(花弁、萼片、雄蕊、雌蕊)が揃っている花です。ユリは完全花の一例です。

受粉のメカニズム[編集]

花は風、虫、鳥などの媒介者によって受粉を行います。これにより、花粉が雌蕊の柱頭に届き、受精が行われます。受粉は植物の遺伝的多様性を保つために重要です。

シダ植物[編集]

シダ植物の生活環には、複数の段階があります。この生活環は、世代交代の一形態で、複相世代と単相世代が交互に現れます。

複相世代(2n)は、シダ植物の成熟した胞子体、またはスポロフィットであり、胞子体は減数分裂(meiosis)を行い、四つの単細胞胞子を形成します。これらの胞子は、風や水によって散布され、新しいシダ植物の単相世代(n)である前葉体またはガメトフィットを形成します。

前葉体は、シダ植物の単相世代であり、単細胞の胞子が落下して発芽し、多細胞の前葉体を形成します。前葉体は、有性生殖によって雄性配偶体と雌性配偶体を形成し、それぞれが花粉体または卵細胞を形成します。

雄性配偶体は、減数分裂によって多数の精子を形成し、花粉粒として放出されます。一方、雌性配偶体は、卵細胞を形成します。花粉粒は、風や水によって前葉体に運ばれ、卵細胞と結合して受精します。受精によって形成された受精卵は、新しい複相世代の胞子体であるシダ植物を発生させます。

以上のように、シダ植物の生活環では、複相世代と単相世代が交互に現れ、それぞれが減数分裂または有糸分裂を行って、新しい世代を生み出します。

果実 (Fruit)[編集]

基本構造と種類[編集]

果実は種子を保護し、散布するための構造です。

単果 (Simple fruit)
一つの花から一つの果実が形成される果実で、リンゴやトマトが含まれます。
集合果 (Aggregate fruit)
一つの花から複数の果実が形成される果実で、イチゴやキイチゴが代表例です。
複果 (Multiple fruit)
複数の花から一つの果実が形成される果実で、パイナップルやイチジクが含まれます。
形成と機能[編集]

果実は受粉後に発達し、種子を保護します。果実は風、動物、水などの方法で散布され、種子が新しい場所で発芽するのを助けます。

種子 (Seed)[編集]

基本構造[編集]

種子は次世代の植物を形成するための器官です。

種皮 (Seed coat)
種子の外側の保護層で、物理的損傷や乾燥から種子を守ります。
胚 (Embryo)
新しい植物体の基になる部分で、胚芽、胚軸、胚根から構成されます。
胚乳 (Endosperm)
発芽初期の栄養供給源で、種子が発芽するまでのエネルギーを提供します。
発芽と休眠
種子は適切な条件下で発芽します。発芽には水分、酸素、適切な温度が必要です。休眠状態の種子は不利な環境条件を耐え忍びます。
散布戦略
種子は様々な方法で散布されます。風、動物、水、重力などが種子の分布を助けます。例えば、タンポポの種子は風で運ばれ、ココナッツの種子は水で運ばれます。

特殊な器官と構造[編集]

変態器官[編集]

変態根[編集]
塊根 (Tuberous root)
栄養貯蔵のために肥大化した根で、ダリアやサツマイモが代表例です。
気根 (Aerial root)
空気中でガス交換を行う根で、オオバコやマングローブがこのタイプの根を持ちます。
変態茎[編集]
球茎 (Corm)
栄養貯蔵のために肥大化した茎で、サトイモやクロッカスが含まれます。
塊茎 (Tuber)
栄養貯蔵のために肥大化した茎で、ジャガイモが典型例です。
変態葉[編集]
捕虫葉 (Carnivorous leaf)
昆虫を捕獲し、分解して栄養を得る葉で、ハエトリソウやウツボカズラが含まれます。
貯蔵葉 (Storage leaf)
水や栄養素を貯蔵する葉で、アロエやリトープスが代表例です。

支持構造と防御機構[編集]

物理的防御[編集]
棘 (Thorns)
捕食者からの防御のために進化した構造で、バラやハリエンジュが持っています。
刺 (Spines)
捕食者からの防御のために進化した構造で、サボテンやアカシアが代表例です。
毛 (Trichomes)
昆虫からの防御のために進化した構造で、キクやイラクサが含まれます。
化学的防御[編集]
アレロパシー (Allelopathy)
特定の化学物質を放出して、他の植物の成長を抑制する現象です。ウォルナットは根からジャグロンという物質を放出し、周囲の植物の成長を妨げます。
毒素 (Toxins)
捕食者を避けるための化学物質を生成します。ナス科の植物(例えば、トマトやジャガイモ)はアルカロイドと呼ばれる化学物質を含み、捕食者から自らを守ります。

まとめ[編集]

この章では、植物細胞の基本構造と機能、植物の組織と器官の構造と機能について詳しく学びました。次の章では、植物の生理学に焦点を当て、光合成や呼吸、蒸散などの基本的な生命活動を探求します。

演習問題[編集]

1. 植物細胞と動物細胞の違いを三つ挙げて説明してください。 2. 細胞壁の構成成分とその役割について述べてください。 3. 葉緑体の構造と光合成における役割を説明してください。 4. 根の主要な機能を挙げ、それぞれの機能がどのように植物全体の成長に寄与するか説明してください。

植物の生理学[編集]

光合成[編集]

光合成の概要[編集]

光合成は植物が光エネルギーを利用して有機物を合成する過程です。主に葉の葉緑体で行われ、光反応と暗反応の2つのステージに分けられます。

光反応[編集]

光反応はチラコイド膜で行われ、光エネルギーを化学エネルギーに変換します。この過程で水が分解され、酸素が放出されます。光反応は次のようなステップで進行します。

  • 光吸収: クロロフィルが光を吸収し、エネルギーを捕捉します。
  • 電子伝達: 捕捉されたエネルギーが電子伝達系を通じて移動し、ATPとNADPHを生成します。

暗反応(カルビン・ベンソン回路)[編集]

暗反応はストロマで行われ、ATPとNADPHを利用して二酸化炭素を固定し、有機物(グルコース)を合成します。暗反応は次の3つのステップに分かれます。

  • カルボキシル化: 二酸化炭素がリブロース-1,5-ビスリン酸と反応して3-ホスホグリセリン酸を生成します。
  • 還元: 3-ホスホグリセリン酸がATPとNADPHのエネルギーを使ってグリセリンアルデヒド-3-リン酸に還元されます。
  • 再生: グリセリンアルデヒド-3-リン酸がリブロース-1,5-ビスリン酸に再生され、カルビン・ベンソン回路が継続します。

呼吸[編集]

呼吸の概要[編集]

呼吸は植物が有機物を分解してエネルギーを生成する過程です。これはミトコンドリアで行われ、好気呼吸と嫌気呼吸の2つのタイプがあります。

好気呼吸[編集]

好気呼吸は酸素を利用して有機物を完全に分解し、大量のATPを生成します。この過程は次の3つのステージに分かれます。

  • 解糖系: 細胞質で行われ、グルコースが2分子のピルビン酸に分解されます。この過程で少量のATPとNADHが生成されます。
  • クエン酸回路: ミトコンドリアのマトリックスで行われ、ピルビン酸が完全に分解され、CO2、ATP、NADH、FADH2が生成されます。
  • 電子伝達系と酸化的リン酸化: ミトコンドリアの内膜で行われ、NADHとFADH2からの電子が電子伝達系を通じて移動し、大量のATPが生成されます。

嫌気呼吸[編集]

嫌気呼吸は酸素が存在しない条件下で行われ、解糖系の後、ピルビン酸が発酵を通じて乳酸やエタノールに変換されます。この過程で少量のATPが生成されます。

蒸散と水の輸送[編集]

蒸散の役割[編集]

蒸散は植物が水を失うプロセスであり、主に葉の気孔を通じて行われます。蒸散には次のような役割があります。

  • 水分の吸収と輸送の駆動力
  • 栄養素の輸送
  • 植物体の冷却

水の輸送メカニズム[編集]

植物内での水の輸送は、次の3つの主要なメカニズムによって行われます。

  • 浸透圧: 根の細胞壁を通じて水が移動します。
  • 毛管現象: 維管束内の狭い管を通じて水が上昇します。
  • 蒸散-吸引: 葉の蒸散によって生じる負圧が根から水を引き上げます。

栄養素の吸収と移動[編集]

必須栄養素[編集]

植物は成長と発達のために特定の必須栄養素を必要とします。これらは、大量要素(窒素、リン、カリウムなど)と微量要素(鉄、マンガン、亜鉛など)に分類されます。

栄養素の吸収[編集]

根は土壌から水とともに栄養素を吸収します。吸収のプロセスは次のように進みます。

  • 拡散: 栄養素が濃度勾配に従って移動します。
  • 能動輸送: エネルギーを使用して栄養素が根細胞内に取り込まれます。

栄養素の移動[編集]

栄養素は維管束を通じて植物体全体に輸送されます。道管は主に無機栄養素の輸送に関与し、篩管({{Ruby|篩|ふるい}}は常用漢字でないため義務教育では管と同音の言い換えをされています)は有機物の輸送を担当します。

まとめ[編集]

この章では、植物の生理学における主要なプロセスについて学びました。光合成、呼吸、蒸散、水と栄養素の輸送が植物の成長と維持にどのように寄与しているかを理解しました。次の章では、植物の成長と発達についてさらに詳しく探求します。

演習問題[編集]

1. 光反応と暗反応の違いを説明し、それぞれのステージで生成される産物について述べてください。 2. 好気呼吸の3つのステージについて、それぞれのステージで何が起こるかを説明してください。 3. 蒸散が植物に与える影響について述べ、蒸散を制御する要因を挙げてください。 4. 植物が必要とする必須栄養素を挙げ、それぞれの役割を説明してください。

植物の成長と発達[編集]

成長と発達の概要[編集]

成長の定義[編集]

植物の成長は、質量や体積の増加に伴う生物学的な変化のプロセスです。この過程は細胞の分裂、細胞拡大、新しい組織の形成によって実現されます。

発達の定義[編集]

発達は植物が成長する過程で、形態的、機能的に複雑化していく過程です。これには種子から始まる胚発生、成長後の株式生長、そして繁殖器官(花や果実)の形成が含まれます。

成長のメカニズム[編集]

細胞分裂[編集]

細胞分裂は植物の成長の基本的なメカニズムであり、根端分裂組織や茎の成長頂端で行われます。これにより新しい細胞が生じ、組織と器官の成長が促進されます。

細胞拡大[編集]

細胞拡大は成長の主要な要素の一つであり、細胞壁の緩和、水分の吸収、細胞内の膨圧を通じて行われます。これにより組織や器官が拡大し、全体的な植物の体積が増加します。

分化と特化[編集]

細胞の分化と特化は、特定の細胞が特定の組織や器官の一部として機能するように変化するプロセスです。これにより、根、茎、葉、花、果実などの異なる組織や器官が形成されます。

植物の発達[編集]

胚発生[編集]

胚発生は受精後の最初の段階であり、胚を形成するプロセスです。これには胚軸、胚根、胚芽などが形成され、次第に成熟して植物体が形成されます。

株式生長[編集]

株式生長は成長点によって駆動され、根と茎の成長を含みます。これにより植物は高さを増し、根系を発達させて土壌から水分と栄養素を吸収します。

繁殖器官の発達[編集]

繁殖器官の発達は植物が花や果実を形成するプロセスです。花の形成には、花冠、雄しべ、雌しべなどの部位が関与し、受粉後に果実が発達します。

環境と成長[編集]

光と成長[編集]

光は植物の成長と発達に重要な役割を果たします。光合成に必要な光エネルギーを供給し、花芽形成や果実の発達にも影響します。

水と栄養素[編集]

水と栄養素は植物の成長に不可欠です。水は細胞の膨圧と物質輸送に必要であり、栄養素は代謝反応の基質として重要です。

温度と成長[編集]

適切な温度範囲は植物の生理活動と発達に影響を与えます。低温や高温が植物の生育や繁殖に不利な影響を与えることがあります。

まとめ[編集]

この章では、植物の成長と発達の基本的なメカニズムとその制御要因について学びました。次の章では、植物の多様性と進化に焦点を当て、異なる植物群の形態と生活史戦略について探求します。

演習問題[編集]

1. 細胞分裂と細胞拡大の違いについて説明してください。それぞれが成長にどのように貢献するかを述べてください。 2. 胚発生と株式生長の過程を比較し、それぞれの段階で何が起こるかを説明してください。 3. 環境因子(光、水、温度)が植物の成長に与える影響について述べてください。それぞれの因子がどのように成長に影響を与えるかを具体的に例示してください。