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熱力学/熱力学の第2法則

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
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熱力学第二法則

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外部からエネルギーを受け取らずに、仕事を外部にし続けることができるような機関は、熱力学第一法則に抵触するから、実現不可能である。しかし、熱を外部から受け取り、これをすべて仕事に変換し、仕事によって発生した熱を熱源に返却する。これによって永久に動き続ける機関は、熱力学第一法則に矛盾しない。この永久機関を第二種永久機関と呼ぶ。第二種永久機関の実現は多くの科学者によって試みられたが、すべて失敗した。この経験的事実から、第二種永久機関は実現不可能であるということを熱力学の基本原理として採用する。

熱力学第二法則(ケルヴィンの原理あるいはオストヴァルトの原理)[1]

第二種永久機関、すなわち、一様な温度を持つ一つの熱源から正の熱を取り出し、これをすべて仕事に変換するだけで、他には何の変化も起こさないような過程は、実現不可能である。

単に、外部の熱源から受け取った熱をすべて仕事に変換する過程ならば、容易に実現可能である。例えば理想気体の等温膨張では、気体の内部エネルギーは変化しないから、外部からの熱をすべて仕事に変換する。

ケルヴィンの原理は次のクラウジウスの原理と等価である。

クラウジウスの原理

低温の熱源から、高温の熱源に正の熱を移し、他に何の変化を起こさないような過程は実現不可能である。

証明

背理法により証明する。まずは、ケルヴィンの原理が成り立たないならば、クラウジウスの原理が成り立たないことを証明する。ケルヴィンの原理が成り立たないならば、一様な温度を持つ一つの熱源から正の熱を取り出し、これをすべて仕事に変換するだけで、他には何の変化も起こさないような過程が実現可能である。この過程によって、低温の熱源から熱を取り出して仕事に変換できるから、取り出した仕事を用いて摩擦によって高温の熱源に熱を与えることができる。この過程は全体では、低温の熱源から取り出した熱を高温の熱源に移し、それ以外の変化は起こしていないから、クラウジウスの原理の反例になっている。

次に、クラウジウスの原理が成り立たないならば、ケルヴィンの原理が成り立たないことを証明する。まず、温度 の高温の熱源と、温度 の低温の熱源を使った、次の循環過程(カルノーサイクル)を考える。

  1. はじめ、シリンダー内の気体の温度は である。シリンダーの体積は である。
  2. シリンダーを高温の熱源 と接触させて、体積が になるまで等温膨張する。このとき高温の熱源から の熱を受け取る。
  3. シリンダーを熱源から絶縁して、シリンダー内の気体の温度が になるまで断熱膨張する。シリンダーの体積は になる。
  4. シリンダーを低温の熱源 に接触させて、体積が になるまで等温圧縮する。このとき、低温の熱源に の熱を放出する。
  5. シリンダーを熱源から絶縁して、シリンダーの気体の温度が になるまで断熱圧縮する。シリンダーの体積は になる。

このサイクルでは、サイクルを一周したときに内部エネルギーの変化はないから、 の仕事を外部にする。

クラウジウスの原理が成り立たないならば、低温の熱源 から、高温の熱源 に正の熱 を移し、他に何の変化を起こさないような過程が存在する。この過程によって、移動した熱 をカルノーサイクルによって、高温の熱源から吸収し、これを仕事 に変換し、低温の熱源に の熱を放出することができる。全体では、低温の熱源から、 の熱を吸収し、これをすべて仕事に変換したことになる。これは、ケルヴィンの原理の反例である。

よって、ケルヴィンの原理とクラウジウスの原理が等価であることが証明できた。

状態量

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気体の変数の変数p,V,Tは、理想気体であれ、ファンデルワールス気体であれ、状態方程式(理想気体かファンデルワールス気体かは、ここでは問わない)があるならば、変数p,V,Tのうちの、どれか二つが決まれば、気体の状態方程式から残りの変数も決まる。こうして3変数p,V,Tが決まる。

内部エネルギーは、理想気体であれ、ファンデルワールス気体であれ、どちらにしても、変数p,V,Tのうち、どれか二つが決まれば、気体の方程式から残りの方程式も決まる。決まった3変数のp,V,Tによって、内部エネルギーも決まってしまう。このような、状態変数によってのみ決まる物理量を状態量(じょうたいりょう)という。 3変数のp,V,Tが決まれば内部エネルギーも決定されるので、内部エネルギーは状態量である。 内部エネルギーを決める3変数のうち、真に独立変数なのは、そのうちの2個のみである。変数p,V,Tのどれを2個まで独立変数に選んでもいいが、残りの1個は既に選んだ変数の従属変数になる。

どの変数を独立変数に選ぶと、知りたい答えが求めやすいかは、問題による。

(多変数の関数の微分積分については、大学理科系で教育される。多変数関数の微分を偏微分という。解説は高校レベルを超えるので省略。)

熱力学関数

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前節で言及された3つの変数(圧力p、体積V、温度T)のほか、エントロピーSや内部エネルギーUなども熱力学系の平衡状態を特徴付ける状態量である。

前節と同様、5つの状態量p,V,T,U,Sのうち任意の2つを独立変数に選ぶ場合にも、残る3つの変数はこれら2つの独立変数で表される従属変数として扱える。

この5つの変数の任意の組み合わせを独立変数にもつ状態量は、一般に熱力学関数と呼ばれる。

内部エネルギーU(S,V)のほか、後の章にて言及されるエントロピーS(U,V)、エンタルピーH(S,p)、ヘルムホルツの自由エネルギーF(V,T)、ギブスの自由エネルギーG(T,p)なども熱力学関数である。

等温変化

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(この節では、高校数学の数学III相当の微分積分を用いる。分からなければ数学IIIを参照のこと。)

圧力をpと書くとする。体積をV、モル数をn、普遍気体定数をn、温度を絶対温度でTとする。

仕事Wの、瞬間的な仕事の大きさは微分を用いてdWと表せる。体積Vの、その瞬間の体積変化は微分を用いてdVと表せる。これらを用いれば、

と微分方程式で表せる。(定圧変化では無いから、この式のpは変数である。)

体積をV1からV2まで変化させた時の仕事は、積分を用いて以下のように書き表せる。

これに、状態方程式の を、組み合わせる。

積分変数のVに合わせて、pを書き換えよう。

である。これより、仕事の式は、

となる。(なお、logは自然対数である。) 結論をまとめると、

である。


内部エネルギーUは、理想気体では温度のみの関数で、等温変化では温度が変化しないから、

である。

したがって、等温変化では

である。

断熱変化

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まず、熱と内部エネルギーと仕事の関係式

を、次のように微分方程式に書き換える。内部エネルギーの変化を微小変化としてdUと表したとすると、熱量Qや仕事Wも微小変化になるので、以下の様な式になる。

QやWの微分演算記号dの上に点「」が付いているのは、厳密に言うと、熱量Qや仕事Wは状態量で無いから、区別するために用いている。

断熱変化では

なので、つまり、

となる。

仕事に関しては

である。 内部エネルギーの微小変化は、定積モル比熱を用いて、

と書ける。

なので、これ等を式 に代入し、

と書ける。 両辺をpVで割ると、

であるが、pV=nRTを利用すると、

となる。

この微分方程式を解く。まず移項して、

となる。 積分して、

ここで、は積分定数とする。(積分定数を と書かなかったのは、比熱の記号との混同を避けるため。) 対数の性質より、係数R/Cvを対数log()の中の変数の指数に持ってこれる(数学II相当)ので、計算すると、

さらに移項して、変数を左辺にまとめると、

対数の性質より、対数同士の和は、中の変数の積に変えられるので、

である。 対数の定義より、自然対数の底をeとすれば

である。 を新しく、別の定数として、定数“constant”と置き直せば、

である。 これで断熱変化の温度と体積の関係式の公式が求まった。

温度と体積の関係式

仕事Wとの関係を見たいので、先ほど求めた上の公式をpとTの式に書き換える事を考える。状態方程式を用いてTを、PとVを用いた式に書き換えると、まず代入しやすいように状態方程式を

と書き換えて、これを公式に代入すれば、

圧力と体積の関係式

は定数なので、これを定数部にまとめてしまえば、別の定数をConst2とでも置いて、

と書ける。 ここで、指数部の式は、マイヤーの式より、定圧モル比熱で書き換えが可能である。

である。 ここで、:比熱比(ひねつひ)(heat capacity ratio)と言う。比熱比の記号は一般にで表す。 これを用いると、

である。

また、温度と体積の関係式

に比熱比を代入すると、

になる。

これらの、圧力と体積の公式、および温度と体積の公式の二式をポアソンの式という。

参考文献

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  • エンリコ・フェルミ著、加藤正昭訳『フェルミ熱力学』三省堂、1973年。
  1. ^ オストヴァルトの原理は「第二種永久機関は実現不可能である。」という原理である。ケルヴィンの原理は「一様な温度を持つ一つの熱源から正の熱を取り出し、これをすべて仕事に変換するだけで、他には何の変化も起こさないような過程は、実現不可能である」という原理である。