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生成文法/句構造文法

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

「句構造文法」は直接構成素分析 immediate constituent analysis を形式的に述べたものです。例えば

(1) Mary comes.

(2) 例 I

a. S → NP⌒VP

b. NP → N

c. VP → V

d. N → Mary

e. V → comes

という句構造規則 phrase structure rules によって産出されます。

導出の過程を見てみましょう。Chomsky 1957、Chomsky 1965 では句構造規則は順序付けられていない unordered と考えられています。規則の順序付けについてはまた別の機会に触れたいと思います。

個別言語 L は 文 S の集合と見なされます。S はまた、導出の端緒であり、始発記号 initial symbol と呼ばれます。

S は節境界 # で囲んで #S# と書くこともあります。ここでは単に S と書きます。S は次の規則

(3) S → NP⌒VP (= (2a))

で展開されます。得られる句構造は

 (4)        S
           /\
      NP       VP

です。

次に

(5) NP → N (= (2b))

で展開されると

(6) N⌒VP

という記号列に、

(7) VP → V (= (2c))

で展開されると

(8) NP⌒V

となります。順序付けられていない、ということはこれら二つが等価であるということを意味します。(2a-c) で得られる句構造は

(9)            S
             /  \
         NP        VP
          |           |
         N          V

です。後の「語彙挿入 lexical insertion」に相当する

(10) 終端記号への書き換え

a. N → Mary

b. V → comes

により

(11)      S
          /\        
      NP      VP     
        |         |
       N        V
        |         |
     Mary  comes

という文の句構造が得られます。

次に、より複雑な構造を考えてみましょう。

(12) A girl hit her boyfriend.

は他動詞で、さらに、主語名詞句と目的語名詞句は内部が構造化されています。この文は

(13) 例 II

a. S → NP⌒VP

b. NP → Det⌒N

c. VP → V⌒NP

d. Det → a

e. Det → her

f. N → girl

g. N → boyfriend

h. V → killed

で導出されます。自動詞の場合とは違う句構造規則ですが、あとで詳しく触れます。

では導出を見てみましょう。(13a) より

(14)       S
           /\
      NP       VP

となり、さらに (13b) より

(15)         S
             /\
         NP      VP
        /\
    Det     N          

が得られます。そして (13c)、(13b) より

(16)           S
              /  \
         NP         VP
        /\       /\
    Det     N  V      NP        

(17)          VP
              /  \
           V         NP
                     /\
                 Det     N  

が得られます。

(13d)、(13f) を適用することで

(18)          NP
              /  \
         Det         N
           |            |
           a          girl

が、(13e)、(13g) を適用することで

(19)          NP
              /  \
         Det         N
           |            |
         her    boyfriend 

が導出されます。これらの部分構造を S の句構造に組み合わせると

(20)

tree

ここまでで二つの点で疑問を抱かれたのではないでしょうか。それは

①自動詞と他動詞とで二つの句構造規則がある。

②品詞(統語範疇)を語彙に置き換える規則がそれぞれにたくさんあり、無限に存在しそうである。

二つは問題の質が異なります。

②について見ましょう。生成文法は有限の要素と規則から無限の文を定義する仕組みを求めることを目標にしています。統語範疇(一般に言う「品詞」)を語彙に置き換える規則は、語彙は開いたクラス open class で、新しい概念が生まれた場合には新しい語彙が追加されるので、本質的に無限個必要です。

ここで説明しているのは Syntactic Structures のものですが、Aspects では統語範疇を語彙に置き換える規則は句構造規則から切り離されます。

(21) N → girl

のような規則は「語彙挿入 lexical insertion」と呼ばれ、辞書 lexicon と統語部門の接点とされました。そして残りは「範疇部門 categorial component 」と呼ばれます。