病理学/先天異常

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先天異常[編集]

病気や心身の異常の中をわずらう人の中には、うまれつきに異常な人もある。

ヒトに限らず動物では、うまれつきの異常をわずらうことがあり、これを先天異常(せんてんいじょう)という。

ヒト意外の動物でも先天異常はあるが、本科目では以降、主にヒトの先天異常について解説するとする。


先天異常のうち、身体の形状の異常のことは「形態異常」というが、他の呼称として「奇形」(きけい)という場合もある。

一方、臓器などの機能の異常なら、これを「機能異常」という。

先天異常の原因は、遺伝子の異常である場合もあれば、(薬害などの)環境因子による場合もある。

遺伝子異常[編集]

常染色体の異常[編集]

遺伝子による異常において、

染色体は普通、1対についき2本であるがまれに3本になる場合があり、このような1対(というのもヘンだが)あたり3本の遺伝子異常のことをトリソミーという。

トリソミーや後述するモノソミーなど染色体の本数の異常は、下記のように、重篤な障害を引きおこす場合が多い。下記のトリソミーのいずれも、多発性の奇形や、精神発達遅滞を示す。


21トリソミー(ダウン症)

ヒトのダウン症は、常染色体である21番染色体のトリソミーによって引きおこされる病気である事が分かっている。なお、ダウン症のダウン Down とは発見者の人名。「21トリソミー」ともいう。

なお、母親の高齢出産により、ダウン症の発生率が上がることが統計的に明らかになっている。[1][2]

ダウン症では精神発達が遅滞する。特徴的な顔つき(つりあがった眼裂(いわゆる目尻)、低い鼻根、)がある。「単一手掌線」または「猿線」といわれる特徴的な手の しわ がある。

心奇形を併発する事が多く[3]、そのため種種の心疾患をわすらう場合が多い。[4][5]


13トリソミー

13トリソミーとは13番染色体のトリソミーによる先天異常である。(「エドワーズ症候群」という)分娩された子は、予後不良で、ほぼ死産になるか、生きても乳幼児期に死ぬ場合が多い。

18トリソミー

18トリソミーとは18番染色体のトリソミーによる先天異常である。分娩された子は、予後不良で、ほぼ死産になるか、生きても乳幼児期に死ぬ場合が多い。


性染色体の異常[編集]

クラインフェルター症候群

性染色体がトリソミーなどの遺伝子異常になる事も知られており、性染色体がXXYまたはXXXYなど、Xが2個以上でY染色体を持つ場合をクラインフェルター症候群という。

統計的には、特にXXYの場合が多い[6][7]とされる。

クラインフェルター症候群のヒトは、Y染色体が存在するため、外見は男性である。

しかし、クラインフェルター症候群のヒトは無精子症であり、不妊である(女性を妊娠させる能力が無い)。なお、無精子症のような事例を「男性不妊」という。

クラインフェルター症候群患者の外見は健常男性に近く、このため、結婚年齢になるまで症状が発見されずに見過ごされる場合も多く、そのため不妊カップルの精査で発見されることも度々あるという[8]


ターナー症候群

なお、ターナー症候群はXOである。ここでいう「O」とは欠損、または不完全である事を言う。XOのように、染色体1対(「対」という単位も変だが)あたり1本しか染色体のない場合をモノソミーという。あるいは性染色体XXと2本あっても、そのうちの片方のX染色体の単腕が欠損している場合が多い。

ターナー症候群のヒトが生きて生まれ育った場合、外見は女性であるが、卵巣の機能が発達せずに不妊である。また、低身長である。

ターナ-症候群の思春期になっても二次性徴が現れない。なので、それでターナー症候群であることが発見される場合も多い。

遺伝子病[編集]

読者は、中学か高校で、メンデルの優性・劣性の法則を習ったと思う。

遺伝子異常による病気にも、優性の病気もあれば、劣性の病気もある。

※ 日本遺伝学会が「優性・劣性」の用語を「顕性・潜性」に言い換えを提唱し、日本学術会議が賛成した。しかし医学会では、議論中であり、医学書でも引き続き「優性・劣性」の用語の使用のままである。[9]

常染色体遺伝病[編集]

常染色体劣性遺伝病[編集]
※ wikibooksでは、高校生物で代謝の仕組みを説明済み。

フェニルケトン尿症は劣性遺伝である。つまり、遺伝子異常がホモにならないと、フェニルケトン尿症は発現しない。

フェニルケトン尿症の原因遺伝子は常染色体にある。 フェニルケトン尿症のように、遺伝子異常がホモ(染色体の1対の両方に原因遺伝子がある場合をホモという)にならないと発現しない遺伝子病のことを劣性遺伝病という。


劣性なので、親が原因遺伝子を保有していても、その親は発症していない場合があり、このような(遺伝病の遺伝子を持っているが劣性遺伝子などの理由で発症していない)ヒトのことを保因者(ほいんしゃ)という。


なお、フェニルケトン尿症は、けっして尿が変色するだけの病気ではなく、精神遅滞などの症状を呈する。

フェニルケトン尿症は、フェニルアラニンが分解できないという症状なので、その結果として脳の成長が阻害されるために精神遅滞や知能障害などを呈する仕組みであると一般に考えらている。


常染色体優性遺伝病[編集]

家族性高コレステロール血症は、その遺伝子異常がヘテロでも発現する[10]。この節でいう「ヘテロ」とは、染色体の1対の片方にだけ原因遺伝子があり、もう片方は正常遺伝子な場合のこと。

家族性高コレステロール血症の原因遺伝子は常染色体にある。

家族性高コレステロール血症のように、遺伝子異常がヘテロでも発現する遺伝子病のことを優性遺伝病という(ホモなら当然、発現する)。

なお、家族性高コレステロール血症は、遺伝病の中でも比較的に頻度が高い[11]


マルファン症候群、およびハンチントン病も、常染色体優性遺伝病である、

なお、マルファン症候群とは、蛋白質のフィブリリン(フィブリンとは別物)をつくる遺伝子の異常による。


X連鎖劣性遺伝病[編集]

病的遺伝子が、性染色体の上にある遺伝病を、伴性遺伝病という。伴性伝病のほとんどは、劣性遺伝病である。優性遺伝病も知られているが、非常に少ない。

今のところ発見されている伴性遺伝病は、すべてX染色体の上にあるので、X連載劣性遺伝病とも言う。

女性は、該当の遺伝子がホモ接合の場合にのみ、発症する。


このため、母親が保因者となりうる。(父親が原因遺伝子を持っているなら、必ず発症するので、「保因者」ではない。)


母親が保因者の場合、息子は1/2の確率で発症するし、娘は1/2の確率で保因者となる。


下記の症状が、代表的に有名な伴性遺伝病である。

赤緑色盲

色の濃淡は分かるが、赤や青や緑などの色の識別が出来ない病気を色盲(しきもう)という。


特に、赤と緑の色の識別が出来ない症例が多く、これを赤緑色盲という。


血友病

血液凝固因子(第VIII因子(8)や第IX因子(9)[12] )の欠損や異常のために血が固まりにくい病気であり、そのため怪我などをして出血したとき、止血されにくく治りにくい病気である。(※ 詳しくは、血液の病気の単元で説明する。)


デイシェンヌ型筋ジストロフィー

全身の筋肉が、進行性に消失・壊死していく病気である。根本的な治療法は無い。


原因は、ジストロフィン蛋白質をつくるためのジストロフィン遺伝子の欠損である。このジストロフィン遺伝子がX染色体上に存在するため[13]、X連鎖劣性遺伝病となる。

なお、デイシェンヌ型以外の筋ジストロフィーも知られており、ベッカー型やエメリ・ドレイフス型の筋ジストロフィーもX連鎖劣性遺伝病であるが[14]、しかし統計的に最も発生率の多いのがディシェンヌ型なので、ベッカー型などについては説明を割愛する。

ミトコンドリア病

精子のミトコンドリアは受精卵に入らないため、子のミトコンドリアは母親から受け継いだものである[15]

ミトコンドリアはATPの産生を通してエネルギーの代謝にかかわるので、ミドコンドリア病は比較的にATP依存度の高い器官である脳と筋肉で症状が表れるので、ミトコンドリア脳筋症[16]とも言われる。


環境要因による先天異常[編集]

先天異常の原因は、けっして両親からの遺伝子の異常によるものだけではない。

物理的要因

放射線によって胎児の遺伝子が傷つけられることによる先天異常もある。妊娠中に母体が被爆を受けると、その悪影響が大きく、先天異常の確率が増える。

化学的要因

また、薬害で有名なものは、かつて睡眠薬として使用されていたサリドマイドなどの化学物質による、四肢の形成不足によるアザラシ肢症という先天異常もある。なお、サリドマイドには抗腫瘍効果があるので、現代でも多発性骨髄腫の治療として医療に使われる場合がある。しかし、当然、妊婦にはサリドマイドを避ける必要がある[17]

有機水銀による先天異常もある(胎児性水俣病など)。アルコールによる先天異常もあり、新生児の精神遅滞などを引きおこす。なお、喫煙妊婦の胎児には、低体重が多いので、ニコチンが低体重を引きおこしていると考えられている[18]


感染症

生物学的要因によるものは、一部の感染症による要因がある。トキソプラズマ原虫によるものや、風疹ウイルスによるものがある。

風疹による場合は、白内障や心奇形を発症する事が多い。

また、薬害で有名なものは、かつて睡眠薬として使用されていたサリドマイドなどの化学物質による、四肢の形成不足によるアザラシ肢症という先天異常もある。なお、サリドマイドには抗腫瘍効果があるので、現代でも多発性骨髄腫の治療として医療に使われる場合がある。しかし、当然、妊婦にはサリドマイドを避ける必要がある[19]

トキソプラズマ原虫の感染によって引きおこされるトキソプラズマ感染症では、水頭症[20]・小頭症[21]を発生する事が多い。

その他、梅毒、ヘルペス、サイトメガロウイルスも、先天異常を引きおこす[22][23]

母体の疾患

糖尿病の妊婦からは、子は死産が多いが[24]、もし子が生きて生まれた場合には巨大児として生まれやすい[25][26]

※ 母体の疾患は、「環境」といえないかもしれないが、話の流れの都合上、本wikiでは一緒に説明するとする。


先天奇形[編集]

出生時の子の形態的異常を「先天奇形」[27]または単に「奇形」[28]といい、下記のような例がある。


1人の赤子に起きる単体奇形と、双子などが1つの体にくっついて産まれる重複奇形がある。

単体奇形[編集]

単体奇形は、いくつもあるのでwikibooksでは割愛するが(詳しくは産婦人科などの専門書を。あまり病理学の本には詳しく書いていない)、たとえば無脳症は、単体奇形である。


心奇形(心臓の奇形のこと)などの、表面からは見えない内臓の奇形でも、単体奇形に含める[29]

なお、心奇形の発生確率は比較的に高く全出生児の0.1%であり[30]、心室中隔欠損が特に多く[31]、その他は心房中隔欠損状[32]、動脈管開存、ファロー四肢やファロー五肢、などの症状がある。(※ あまり細かく病理学本には書いてないので、詳しく他科の専門書を参照せよ。)


顔面の異常は、口唇(こうしん)、口蓋裂(こうがいれつ)の異常などが、比較的によくある[33]


なお、ダウン症は、(顔面の容貌が独特であるが、しかし)奇形には分類しないのが、医学では一般的である。(医学書でも、奇形の項目にはダウン症の説明は無い。医学書でダウン症を調べる場合は遺伝子異常で調べる。)


重複奇形[編集]

重複奇形では、双方の子に大小の差があれば、大きいほうの子を主体といい、小さいほうの子を寄生体という。


脳および臓器や筋肉・骨が2人分あって、結合部分として胸腔などで広く結合している胸部結合体は、分類上、重複奇形に含める[34]。比較的に多く、胸部結合体は発生する。

一件すると人間の体に見えず、内臓のようなものが子の表面にくっついている場合があるが、これは寄生体が発育せずに内臓のような赤みがかったものが主体に癒着しているとみなし[35][36]、顎または臀部(でんぶ)で比較的にそのような奇形がよく起きる[37]。また、重複奇形として、顎または臀部の表面に内臓のようなものがくっついているのを分類する。

参考文献および脚注[編集]

主要な参考文献[編集]

本ページの論拠となった参考文献を下記に示す。

  • 『シンプル病理学』
  • 『なるほど なっとく!病理学』
  • 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』
  • 『スタンダード病理学』
  • 『標準病理学』

出典の脚注[編集]

上記文献により、記述に少々の差異が見られる箇所において、その部分の出典となった文献を下記に脚注として示す。

  1. ^ 『シンプル病理学』
  2. ^ 『なるほど なっとく!病理学』
  3. ^ 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』
  4. ^ 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』
  5. ^ 『スタンダード病理学』
  6. ^ 『シンプル病理学』
  7. ^ 『標準病理学』
  8. ^ 『なるほど なっとく!病理学』
  9. ^ 『なるほど なっとく!病理学』
  10. ^ 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』
  11. ^ 『標準病理学』
  12. ^ 『スタンダード病理学』
  13. ^ 『標準病理学』
  14. ^ 『標準病理学』
  15. ^ 『スタンダード病理学』
  16. ^ 『シンプル病理学』
  17. ^ 『なるほど なっとく!病理学』
  18. ^ 『標準病理学』
  19. ^ 『なるほど なっとく!病理学』
  20. ^ 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』
  21. ^ 『なるほど なっとく!病理学』
  22. ^ 『標準病理学』
  23. ^ 『なるほど なっとく!病理学』
  24. ^ 『標準病理学』
  25. ^ 『標準病理学』
  26. ^ 『スタンダード病理学』
  27. ^ 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』
  28. ^ 『標準病理学』
  29. ^ 『標準病理学』
  30. ^ 『スタンダード病理学』
  31. ^ 『なるほど なっとく!病理学』
  32. ^ 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』
  33. ^ 『なるほど なっとく!病理学』
  34. ^ 『標準病理学』
  35. ^ 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』
  36. ^ 『標準病理学』
  37. ^ 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』