白黒写真の暗室作業/分割階調プリント法

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

多階調紙を使う場合、分割階調プリント法 (Split Grade Printing, Split Filter Printing, or Split Printing) という方法を用いると号数と露光時間を同時に簡単に決めることができます。この方法では多階調フィルタのうち一番号数の高いもの (#5) と一番号数の低いもの (#00) で別々に2回露光してやります。それぞれの露光時間の割合を変えてやることで最終的なコントラストが変わります。

具体的なやり方[編集]

図5.1 のような写真をプリントしたいとします。当然最初は露光時間も号数も分かりません。

図5.1 畜舎の牛

まず、フィルタ#5 で試し焼きをし、真っ黒な部分ができ始める最短の露光時間を求めます(図5.2)。ここでは12 秒でした。

図5.3 は、実際にやる必要はないものの途中経過を示すために#5 でプリントしたものです。当然#5 ではコントラストが高すぎるのが分かります。

図5.2 #5での試し焼き
図5.3 #5のみ12秒(例示)


先ほど求めたとおりに#5 で全面を12 秒露光した後に、フィルタだけを#00 に変えて同じ印画紙に重ねて段階露光して試し焼きします。今度は画面内に真っ白な部分がなくなり始める一つ前の露光時間を選びます(図5.4)。ここでは6 秒でした。

各フィルタで求めた時間の露光を重ねてできた完成品が図5.5 です。コントラストが自動的に#5 と#00 の中間の適切なものになることに注目してください。

図5.4 #5に加え#00で試し焼き
図5.5 #5 (12秒) と#00 (6秒) を重ねた完成品


より正確には#00 での露光を重ねることでシャドウも少し濃くなるので、#00 の露光時間の約1/6 を#5 の露光時間から差し引いておきます [註 1] (つまり、ここでは#5 が12 − 6 × 1/6 = 11 秒となります)。

なぜうまくいくのか[編集]

原理を大雑把に説明すると、黒い部分の濃度を#5 で、白い部分の濃度を#00 で決めてやれば、中間の濃さの部分では#5 と#00 が混ざって勝手にちょうどいい濃度になる、ということです。

実は、#0 から#4 1/2 までの中間のフィルタにしてもダイヤルで号数を調整できる引き伸ばし機ヘッドにしても2種類の光の混ざり具合を変化させているだけで、全て同じ原理でコントラストを変えています。ここで2 回に分けている露光を1 回で済ませられる半面、コントラストを簡単に決めるのは難しくなっています。

注意点[編集]

普通の方法ではプリントしにくいネガも分割階調法を用いれば比較的楽にプリントすることができます。しかし、「この方法さえあればどんなネガでもプリントできるから、プリントしやすいネガ作りのような面倒なことはやる必要が無い」というのは間違いです。印画紙にプリントできるのはネガ上にあるものだけであり、駄目なネガから良いプリントは決して生まれません。撮影・現像の段階で失われる情報を最小限にすることは、綺麗なプリント創りのために何より大切なのです。

部分的にコントラストを変える[編集]

応用として、画面の一部だけコントラストを変える方法について述べておきます。

図5.6 中間調
図5.7 #5


図5.6 のようなプリントができたとします。このプリントでもドリンクやレモンの皮の質感は綺麗に表現できていて、これはこれで良いプリントだと言えます。しかし、それ以外の部分は全体的にグレーで、後ろの方にボトルがあるのも判りにくいし、グラスやテーブルの光沢も物足りない感じがします。 これらの部分についてのみ言えば、図5.7 のように号数を上げて白と黒の差を強くした方が綺麗に見えます。

普通のプリント方法だと部分的に号数を変えることはまずできません。しかし分割階調法なら簡単にできます。各フィルタでの露光の際に覆い焼きや焼き込みをすればよいのです。具体的には、コントラストを変えたいのが白っぽい部分なら#5 で、黒っぽい部分なら#00 で覆い焼き・焼き込みをします [註 2]。 今回の例では#00 の露光時にドリンクの部分以外を覆ってやることで、ドリンクの部分だけ中間のコントラスト、その他はコントラスト高めに仕上げました(図5.8)。

もちろん、濃度を揃えるだけなら普通の(号数を変えない)焼き込みで十分です。ただしどちらの方法がより自然に見えるかはちゃんと判断する必要があります。今回の例では図5.9 のようにちょっと毒々しい感じになりました。部分的に濃度を変えることとコントラストを変えることの違いがよく分かります。

図5.8 部分的に号数を変化
図5.9 #5で通常の焼き込み


脚註[編集]

  1. ^ なぜ1/6 かというと、標準露光時間表より#00 は#5 の0.16 = 1/6 倍だけシャドウ部の濃度に影響をあたえるため。
  2. ^ 逆をやるとその部分の濃さも変わってしまう。先に述べたように黒の濃度は#5 で、白の濃度は#00 で決まるので、反対のフィルタを調節するわけです。