中等課程でもベクトルを取扱ったが,線形代数ではベクトルは抽象的に定義していく.
中等課程では,ベクトルを「向き」と「大きさ」を持った矢印として定義した.
そして,そのベクトルの始点を座標平面の原点に合わせたとき,ベクトルの終点の座標をベクトルの成分表示とした.
しかし,線形代数でのベクトルは,必ずしも矢印である必要はない.
線形代数ではベクトルを成分表示から定義していく.
いくつか数字を並べて,和や実数倍を定めたものをベクトルとするのである.
和や実数倍の計算の仕方は次のように,平面ベクトルや空間ベクトルの成分計算の自然な拡張になっている.
定義1
ベクトル
個の実数 を並べた
を, 次元実数ベクトルという.
次元実数ベクトルの集合を で表す.
また,ベクトルの和,ベクトルの実数倍を次のように定める.
和:
実数倍:
( は実数)
中等課程では、平面のベクトル(:2 次元ベクトル)と空間ベクトル(:3次元ベクトル)を扱っていたことになる.
ここでいう とは実数全体の集合を表している.
ベクトルを成分で表したが,
を一つの文字 で表すことにする.これは と表したのと同じである.
成分がすべて のベクトル
をゼロベクトルと呼び, で表す.
上では数字の並べ方を縦にしたが、数字に関数演算の規則にこそベクトルの定義としての意味があるから、数字は縦に並べて書いても横に並べて書いても構わない.
表記に注目して、数字を縦に書いて並べたベクトルを縦ベクトルまたは列ベクトル,
横に書いて並べたベクトルを横ベクトルまたは行ベクトルという.
縦ベクトル・列ベクトル
.
横ベクトル・行ベクトル
ベクトルの和と実数倍のついて、次のような計算法則が成り立つことは,平面ベクトル,空間ベクトルを考えるのと同様で実感を持って納得できるだろう.
定理1
ベクトルの計算法則
を 次元実ベクトル,
を実数とすると,次が成り立つ.
(1)
(2)
(3)
(4)
証明
ベクトル の 番目の成分(実数)を ,
ベクトル の 番目の成分(実数)を ,
ベクトル の 番目の成分(実数)を と置くと,
(1) の左辺:,
(1) の右辺: により,(左辺) (右辺) にて成立.
(2) の左辺:.
(2) の右辺:.(2) は実数の足し算の結合律に帰することができ、そして実数の足し算は結合律を満たすので(左辺) (右辺) にて成立.
(3) の左辺:.
(3) の右辺: より (左辺) (右辺) にて成立.
(4) の左辺:.
(4) の右辺: より (左辺) (右辺) にて成立.