電気回路理論/交流回路の基礎

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交流波形の例

交流回路(AC circuit)は、前章で学んだ直流回路とは異なり、電流や電圧が周期的な時間変化を起こす回路である。電流の時間波形をグラフにしたとき、それはある周期Tを持った周期関数となる。例えば右図のように、正弦波、方形波、三角波、ノコギリ波などさまざまな波形を考えることができる。ただし、通常回路理論で扱うのは正弦波のみである。これは、通常電気回路で扱うような入力波形がフーリエ変換によって正弦波の重ね合わせで表現できるからである。線形回路では重ね合わせの理が成り立つため、入力信号が正弦波でなくとも、種々の正弦波での応答を考え、それらを重ね合わせることによって、求めたい応答を計算することができる。

また、交流といえば、普通は1周期の時間積分が0になる波形をいう。そうでない波形は、適切な定数を加えることによって、時間積分を0にすることができ、そのような場合は

(入力波形) = (交流波形) + (定数)

の形に書くことができる。すなわち、この様な場合は直流信号と交流信号の重ね合わせとして見ることができ、線形回路ではやはり重ね合わせの理によってこれらの重ね合わせとして考えればよいことになる。

交流回路を記述する量[編集]

交流回路は入力波形が時間変化するため、直流回路でもちいたパラメータの他に次のような量を考えることになる。

交流信号の周期(period)T[s]に対して、その逆数

周波数(frequency)という。周波数の単位は[Hz](ヘルツ、hertz)である。また、周波数にをかけた

角周波数(angular frequency)という。角周波数の単位は[rad/s]である。

交流電流や交流電圧は、これらのパラメータを用いて

と書くことができる。このときのsinの係数振幅(amplitude)といい、また時刻t=0における電流や電圧の値を示し、時間波形を決定する位相(phase)という。

定常状態と過渡状態[編集]

交流回路はつねに電流電圧が時間変化を起こすため、インダクタやキャパシタによる影響も考えなくてはならない。また、通常は電源を入れた直後としばらく時間が経った後では回路を流れる電流や電圧の変化は異なっている。

電源を入れたのちしばらくは電流や電圧が大きく変化するが、十分に時間が経てばこれらは周期的な変化をするようになる。このように安定になった状態を定常状態(stationary state)といい、安定な状態になるまでを過渡状態(transient state)という。過渡状態の解析には微積分方程式の計算が不可欠になるが、定常状態であれば、微積分方程式を用いることなく、しかも直流回路で学んだ方法と同様にして解析することが可能である。そして、定常状態における電流や電圧の式を、定常解という。