電気回路理論/回路素子
電気回路を構成する回路素子について説明する。
電圧源・電流源
[編集]電気回路へエネルギーを供給して電荷を移動させる電源として、電気回路理論では理想化された電源を2種類考える。一つは電圧源(voltage source)であり、回路の2部位間に電圧を供給するものである。もう一つは電流源(current source)であり、回路へ電流を供給するものである。
電圧、電流に関して、時間の経過に対して同一方向で一定の電圧値、電流値を保つものを直流という。 これに対して周期的に電圧、電流の向きと大きさが変化するものを交流という。
直流の電圧源の回路図記号としてが用いられる。線の長い方が正極、短い方が負極であり、正極のほうが負極よりも電位が高い。直流の電圧源は定電圧源とも呼ばれる。 直流の電流源の回路図記号はである。矢印の向きにある一定の電流を供給し続ける。直流の電流源は定電流源とも呼ばれる。
交流の電圧源としては時間軸に対して任意の波形である事を暗示しての記号を用いたり、また特に正弦波交流電圧源であればの記号を用いる。 交流の電流源に専用の記号はないが、直流の電流源の記号に何らかの説明を付して交流であることを示す。
これらの電源はモデルとして理想的な動作をするものと位置づけられ、例えば電池や発電機、トランジスタの電圧、電流供給機能等の実在する電源機能を前提としたものではない。
抵抗器
[編集]抵抗器(resistor)は略称として抵抗と呼ばれる回路素子で、与えられた電気エネルギーを単純に消費する素子である。実体としては、物質中において電界により電荷(電子)が加速される終端速度がいくらになるかを示す比例係数である電子の移動度μが相対的に小さい物質を選び、電流がその物質中を流れるようにしたものである。 回路図記号はあるいはであるが、本書では前者を抵抗の回路図記号として用いることにし、後者はより一般的な意味での負荷を表すものとする(後述)。
電荷の移動(電流)は電気的ポテンシャルエネルギーに関係する電位差(電圧)により力を受ける事によるものである。抵抗の両端の電圧v[V]が加わった場合に抵抗を流れる電流i[A]は、単位・数量を換算する比例係数を使って次のように表される。
この比例係数をコンダクタンス(conductance)といい、単位は[S](ジーメンス, siemens)である。 コンダクタンスは電圧を与えた場合の電流の流れやすさの指標である。
この式を電圧vについて解くと、
としてコンダクタンスGの逆数をRと置くことにより
と表される。 Rは電圧を加えたときの電流の流れやすさコンダクタンスの逆数として、電流の流れにくさを表すものと考えることができる。 このRを抵抗値(resistance)あるいは抵抗と呼び、単位は[Ω](オーム, ohm)を用いる。
以上の2式を合わせてオームの法則という。
後者の式の解釈は、電流優先の観点で見た場合、回路中のある部位から見て、電流が流れた先の回路の部位での電位が低くなることを意味している。これを電圧降下という。 また同じ電流が流れるとするとRの値が大きいほど電圧降下が大きいことを示している。
インダクタ
[編集]インダクタ(inductor)は誘導器とも呼ばれる回路素子である。現実の回路では導線を螺旋状に巻いて作ったコイルによって実現される。回路図記号はである。
電磁気学で学ぶように、インダクタは電流i[A]を流すことによって電流に比例した鎖交磁束を生じる。 この比例係数をLとすると、鎖交磁束と電流との間には
の関係がある。 比例係数Lはインダクタの誘導容量、インダクタンス(inductance)と呼ばれる。インダクタンスの単位は[H](ヘンリー, henry)である。誘導容量Lは真っ直ぐな導線でも存在するが、コイルは誘導容量が有意義に利用可能な値となるように形状を工夫した構造である。
電流iが時間変化すると鎖交磁束も時間変化し、インダクタの両端に電磁誘導による誘導起電力v[V]が生じる。これを自己誘導(self-induction)といい、
が成り立つ。誘導起電力の生じる向きは、電流の変化を妨げる向きである。この式をiについて解けば、
が得られる。
キャパシタ
[編集]キャパシタ(capacitor)は容量器とも呼ばれる回路素子である。現実の回路では2枚の極板を近づけて置いて作ったコンデンサによって実現される。回路図記号はである。
キャパシタは電流を流すと、電荷が徐々に蓄積されていき、やがて電荷は蓄積されなくなる。ある電圧v[V]をかけたときに蓄積される最大の電気量をQ[C]とすると、これらは比例関係にあり、比例定数をCとして
なる関係がある。この比例定数Cをキャパシタンス(capacitance)あるいは静電容量、容量と呼ぶ。キャパシタンスの単位は[F](ファラド, farad)である。
電流は電荷の時間微分であったから、これらを時間に関する関数と見ると、時間に電荷が蓄積されていない()として
が成り立っている。したがってキャパシタの両端に発生する電圧v(t)[V]との間には上式より
の関係がある。通常はこれをvやiについて解いた式
が用いられる。
その他
[編集]- 複合的に構成される負荷
負荷として抵抗、インダクタ、キャパシタを組み合わせた構造を取り扱う場合がある。これについて具体的構成を別掲に譲り、何らかの負荷素子が存在することを示す回路図記号としてを用いることにする。なおこの記号は抵抗の回路図記号としても用いられるため、抵抗であるか一般の負荷であるかを回路図を見る際には注意を払わなければならない。
電気回路理論は広義には電気現象の利用に関する広い範囲の事柄を指す。
一方狭義では広範な電気回路理論の基礎として、線型、受動素子、定周波数(周波数0の直流を含む)の電気回路の性質について検討するものである。
そこで今後の見通しとして次の点に留意が必要である。
- 線型素子と非線型素子
本節で示した抵抗、インダクタ、キャパシタは素子両端の電圧と素子を流れる電流が比例関係にあり、線型素子と呼ばれる。また外部から電源を与えるても素子から外部に電源を供給する能力を持たず、これを受動素子という。 これに対する概念としてダイオードのように電圧、電流が比例関係にない非線型素子、トランジスタのように素子から外部に対して電源供給機能を持つ能動素子がある。 電気回路理論ではまず電源と線型受動素子から成る電気回路を取り扱う。 非線型素子、能動素子に関しては電気回路に包含される一分野である電子回路理論として、電気回路の理論を基にして別途検討される。
- 直流、交流と任意波形、周波数成分
電気回路には時間軸方向に対して直流または正弦波交流のような電圧、電流だけでなく、当然任意の波形の電圧、電流が存在し得る。 これに対して電気回路理論ではまず特定の周波数のみ含む直流または正弦波交流の電圧、電流について検討し、任意波形についてはフーリエ変換により周波数成分に分解できる事を以て、特定の周波数の場合の検討結果を援用して検討を進める。任意波形の取り扱いは過渡応答、過渡現象解析と呼ばれる。