コンテンツにスキップ

高等学校世界史探究/フランス革命とナポレオンⅣ

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

フランス革命への問い

[編集]

 フランス革命から200年以上が経ちました。その間、人々は常にフランス革命について問い続けてきました。フランス革命が政治・社会・思想・人々の意識を変えてきたのは、それが問われ続けてきたからです。歴史に対してどのような問いを立てるかは、時代や問いを立てる人によって異なります。問いかけ自体が、その人がどう感じているのかを示しています。

 何より、革命はそれを生き抜いた人々にとって大きな出来事でした。理想と欲望が交錯し、権力闘争や戦争も多発しました。日常的秩序が失われる可能性もありました。生活への不安もありましたが、未来への希望もありました。恐怖もあれば、強い思いもありました。

 フランス革命はなぜ起きたのでしょうか?それが最初に問いたい内容です。革命の間に起こった多くの事件やエピソードの中から、革命の流れを変えた最も重要なものを選び出し、人々がドラマとして最も興味を持ったものを詳しく解説しています。何が起きたかわからないので、フランス革命についてはいろいろと語られています。

 フランス革命は、アメリカ革命や19世紀のどの革命よりも大きく、徹底した社会変動でした。恐怖政治時代による権力の集中、政府と社会の徹底的な再編成、階級間の闘争の激しさ、富と所得の再分配、富裕階級の無産市民に対する恐怖、他国への衝撃的な影響、反革命と戦争の危機、常に反革命への恐怖、暴力と緊急措置など、フランス革命はこれまでにない社会変化を要求されました。

 しかし、出来事を詳しく話しても、人々が革命をよりよく理解出来るとは限りません。出来事の複雑な森に迷い込み、全体像や何が最も重要なのかを見失いやすくなります。

 フランス革命はなぜ起きたのか?これも非常に重要な問題です。歴史家達は様々な点に着目してきました。

  • アンシャン=レジームの身分制度をはじめとする様々な不合理や矛盾
  • 社会的・経済的な階級間の対立
  • ブルジョワジーの社会・政治の主導権への欲求
  • 特権にあぐらをかく無能な貴族・聖職者階級
  • 秩序や体制に不満をもつ階級や階層
  • 凶作や不況で生活の不安にさらされた農民・労働者
  • 財政の危機的状態
  • 決断力に欠け、温厚ではあったが同時に無能でもあった国王

 これらが革命のきっかけとなり、同時期に起こった出来事で説明されます。革命はおこるべくしておこったのか?民衆の思惑はどのように一致したのか?解釈は多様です。

 フランス革命のせいで何が起こったのか?この問いにもまた、様々な答えがあります。様々な出来事の積み重ねによって、旧体制が倒され、資本主義の発展を助け、ブルジョワジーが権力を握りました。フランス革命は「ブルジョワ革命」だったというのが、ひとつの答え(市民革命)です。

 革命は旧制度を終わらせ、王政をなくし、政治をより近代的にし、自由と平等の考えを広めました。革命後、「権利の宣言」の考え方はより重要なものとなりました。

 ブルジョアジーは多くの規則から解放され、経済面でもより多くの自由を与えられるようになりました。しかし、貧富の差は大きくなりました。みんなが同じようにお金を持てるようにするための革命は失敗し、革命は終わりませんでした。みんなが同じ権利を持つことを望んだ人たちは「社会主義」に転向しました。

 一方では、恐怖政治によって戦争が起こり、革命のために多くの人が亡くなりました。これらの死は、革命の目標を実現するために行われたのでしょうか。フランス革命から発展したナポレオン・ボナパルトの支配は、フランスに栄光と不幸のどちらをもたらしたのでしょうか。

 革命から帝国の戦争までの間、領土の獲得や喪失はほとんど見られませんでした。ウィーン会議で、ナポレオン・ボナパルトが拡大したフランスの国境はフランス革命以前のものに変えられました。

 革命時の死者は、第一次世界大戦後のフランスを連想させます。1789年から1799年の間に虐殺や戦争で少なくとも60万人、ナポレオン・ボナパルトの時代にはさらに90万人が亡くなっています。この間、フランス人口の約5%が亡くなっています。1914年から1918年の第一次世界大戦では、フランス人口の3.5%が亡くなっています。フランス革命からナポレオン・ボナパルトの時代までは、戦争が多く、フランスは植民地との貿易や海上での貿易が難しくなりました。そのため、イギリスは7つの海を全て支配し、より多くの海上輸送路を作るチャンスを得ました。経済は赤字なのか黒字なのでしょうか?フランス革命は、フランスの経済成長にどんな影響を与えたのでしょうか?歴史に関する疑問が次から次へと湧いてきます。

 さらに、革命はいつ終わったのか、その結果をどう判断しなければならないのか、王政復古からパリ・コミューンにかけての政変は、革命の遺産なのかなどの疑問があります。また、革命後、フランス国民は実際に幸福になったのか、豊かになったのか、政治・社会秩序は安定したのかという素朴で重要な疑問もあります。

 1794年のテルミドール9世のクーデタで革命を終わらせたのでしょうか?彼は恐怖政治が軌道から外れたのを修正し、革命を再び軌道に戻したのでしょうか。それとも、1799年のブルメール18日のクーデタでナポレオン・ボナパルトが宣言したように、革命の本来の目的は達成されたのでしょうか?ナポレオン・ボナパルトの支配が革命の結果だとすれば、革命の失敗は1814年のナポレオン・ボナパルトの退位、1815年のワーテルローの戦いのどちらだったのでしょうか。王政復古は立憲君主制の確立に失敗し、革命を否定したのでしょうか。もしそうなら、革命は1830年まで、1848年まで続いたのものでしょうか。

 歴史は一通りには説明出来ません。視点が変われば、どんなに説得力のある主張も意味を持たなくなります。時代が変われば、疑問に対する答えも変わります。しかし、疑問を持てば持つほど、歴史は面白くなり、その多面性が見えてきます。

資料出所

[編集]
  • 山川出版社『改訂版 詳説世界史研究』木村靖二ほか編著 ※最新版ではありません。