高等学校商業 経済活動と法/紛争の予防と解決

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民事訴訟法[編集]

民事での裁判のことを民事訴訟(みんじ そしょう)という。日本の法律では、民事訴訟の制度的な手続きを定め法律は、民事訴訟法(みんじ そしょうほう)という法律である。(民法には、訴訟手続きについては、ほとんど書いてない。)

なお、刑事訴訟の手続きに関しては「刑事訴訟法」に書いてある。


紛争の予防[編集]

実印[編集]

(※ 検定教科書の範囲内。東京法令出版の教科書166ページの欄外にアリ。)

日本では、契約のさいに、その人物の名字の入った印鑑を、書面に印する慣習がある。

とくに、重要な契約では、市区町村に登録した印鑑をその契約書に印することがある。市区町村に登録してある印鑑を実印(じついん)という。ある印鑑が実印であることの証明書として印鑑登録証明書がある。

※ 実印を盗まれたりすると、他人に勝手に自分名義の契約書をつくられたりする事になりかねない。なので、実印の管理は厳重に行うこと。もし実印を紛失したり盗まれたりした場合は、すぐに市区町村の役場などに届け出る事。

公正証書[編集]

(※ 検定教科書の範囲内。) 契約をする際には、契約書を残すのが良い。しかし、のちに裁判などで提出された「契約書」とされる物の契約内容が真実かどうかは、どうやって確かめるのだろうか、という問題もある。

そこで、公正証書(こうせいしょうしょ)という、契約内容が真実であると公的に認められる書類をつくれる制度があるので、公正証書として契約書を作成すればよい。公正証書は、全国各地の公証役場で作成できる。

では、なぜ、この公正証書の契約内容は真実であるのか。それは、公証人という公的な職業の人物が、厳格な手続きに従って公正証書を作成し、しかも契約時に双方と同時に立ち会って契約を証明しているからである。

公証人は、法務大臣によって任命され、各地の法務局または公証役場で執務している。

公正証書は、このような厳重な仕組みのため、公正証書は強い証明力をもつ書類であると見なされる。

金銭の支払いの契約の公正証書または有価証券の支払いの契約での公正証書では、公正証書の文中の文言に、契約不履行の際には強制執行をする事を記述しておけば、裁判をしなくても強制執行できる。(民事執行法22(5))(※ 検定教科書の範囲。実教出版の教科書に記述アリ。) このように公正証書は、とても強い力を持つ。

(※ つまり、不動産の契約では、たとい契約不履行の際に強制執行をする内容の公正証書を作成しても、けっして、ただちに強制執行はできない。ただちに強制執行できる公正証書が作成可能なのは、金銭支払いおよび有価証券支払いの契約の場合である。)
※ 範囲外: なお、強制執行をされる対象の財産(預金も含む)を隠す行為は犯罪である。財産を隠す目的により、財産を第三者に売却したりする行為も、犯罪である。これらのように、強制執行の対象の財産を隠す行為は、強制執行を意図的に妨害してると見なされ、強制執行妨害罪という犯罪になる。(刑法96の2)(参考文献: 有斐閣『刑法2各論』町野朔ほか、第2版、255ページ)
※ もし実際に公正証書を作りたい場合は、事前に公証役場に連絡して、契約書案を公証役場の担当者に見せて確認してもらうと良いだろう。

なお、私人が作成した文書のことは、私署証書といい、私署証書は公正証書とは異なる。しかし私署証書でも、公証人に立ち会ってもらうと、公正証書と同じくらいに効力の強い契約書になる。


紛争の解決[編集]

裁判外の解決[編集]

示談[編集]

紛争が生じた場合に、裁判をせずに当事者どうしが交渉によって解決しても構わない。(民695) 裁判をせずに当事者どうしが交渉によって解決する契約のことを示談(じだん)という。

※ 交通事故を起こした場合に、もし示談するのなら、交通事故処理センターなどの仲介のうえで、示談するのがいいだろう。(検定教科書に、「交通事故処理センター」が書いてある。) このように、公的な仲裁機関を通して示談するのが良いだろう。

示談は、民法上の契約と見なされる。

調停[編集]

裁判所が第三者となって、調停をしてもらう事もできる。

訴訟と比べると調停は、費用も安く済むという利点がある。

だが、調停の結果は、裁判上の和解と同様の効果を持つ(民事調停法16)ので、くれぐれも気軽に合意しないように。

調停では、裁判所によって、第三者である調停委員会が結成される。調停委員会は通常、裁判官1名と、民間人から選ばれた調停委員2名の、合計3名である。

その調停委員会が、双方の意見を聞いて、調停案を出す。

調停案に当事者双方が納得して合意すれば、調書に記載されることになる。そして、調停の結果は、裁判上の和解と同様の効果を持つ(民事調停法16)ので、もし紛争相手が約束を守らない場合には、調停の結果にもとづく強制執行も可能である。

いっぽう、もし当事者双方が合意できずに不成立の場合、調停は不成立になる。調停が不成立の場合、訴訟などの次の段階に移ることになる。

なお、離婚などの家庭裁判所に関わる訴訟のいくつかは、訴訟の前に、まず先に調停をして、その調停が終わってからでないと、訴訟を出来ない。(調停前置主義)(家事事件手続法257)

範囲外?: 審判[編集]

(※ 東京法令出版の教科書にある「調停にかわる決定」とは(170ページにある)、この「審判」のことか?)

「審判」と「調停」の違いは、話し合いの場がないのが「審判」であり、話し合いの場があるのが「調停」である。裁判所に審判をしてもらうのである。じっさいには、審判をしてもらう前に、調停をしたり、当事者双方が話しあったりする。そして、それでも合意できなかった場合に、事態を進展させるため、裁判所にとりあえず「審判」という仮の決定をしてもらう、という仕組みである。

そして、当事者の少なくともどちらかが、もし審判の結果に不服なら、審判後2週間以内に異議を申し立ててもらうことにより、審判の効果は失なわれ、そして訴訟に移行する、という仕組みである。


(※ 範囲外: )裁判所の「審判」の紹介ついでに、行政機関による「審判所」を紹介しよう。
じつは、裁判所による「審判」とは別に、裁判所の管轄でない審判所という公共機関がある。国土交通省の特別機関である「海難審判所」(かいなんしんぱんしょ)や、国税庁の特別機関である「国税不服審判所」(こくぜいふふくしんぱんしょ)がある。
裁判所とは別に、いくつかの行政機関では、裁判に類似した審査を行う、「審判」の制度が例外的にある。
なお、かつて公正取引委員会には、独占禁止法に関する「審判」の制度があったが、2015年に廃止された。
ただし、これらの審判の決定はどれも、最高裁判所よりかは下位の機関であるとされ、もし審判所や審判官の決定に不服の場合、高等裁判所または最高裁判所に控訴・上告などの結果になる場合もある。
※ 上述の裁判所による「審判」は、行政機関の審判とは別なので、混同しないように。

仲裁[編集]

(※ 調査中)

裁判上の解決[編集]

※ 範囲外: どんな訴えが起こせるか[編集]

けっして、なんでもかんでも訴えられるわけではない。

たとえば訴訟を認められないような訴えの例をあげれば、契約関係があるわけでもないのに、もし「被告に、『料理ではウドンよりもカレーライスが好き』だと言わせたい」とかの原告が訴訟(?)しようとしても、そういう単なる個人的な要望や、単なる感情は、訴訟を認められないだろう。


どういう訴えが裁判をすることとして妥当な内容なのか、学説などで、いくつか類型がある。


まず「金を返せ」とか「代金を払ったのだから商品を引き渡せ」など、(契約などの結果としての)請求にもとづいて「被告は〇〇を渡しなさい」と裁判所に言ってもらいたい「給付」(きゅうふ)の類。


または、たとえば誰かの騒音のせいで、迷惑をこうむっている近隣住民が、被告に騒音を抑える対策を強制させるなど、被告の「不作為」の対策を強制させるという類。


または、所有権不明の物の帰属をみぐる、「確認」のための裁判という類型。


または、離婚の手続きでは裁判が必要なので、そういった手続きをすすめるための裁判という類型。

会社の株主総会などの議決を無効にさせるための、会社法関連の訴え。


このような類型が、学説などで提唱されている。


類型を暗記するのではなくて・・・

学習の際は、高校レベルなら、けっして、むやみに裁判をおこせる訴えの類型をあれこれと覚えるのでなく、常識的・論理的な感覚にもとづいて考えよう。

裁判官の人員には限りがあるし、裁判官や裁判所職員だって人間だし忙しいのである。また、裁判には税金も掛かっている。

なので裁判を開くほどの価値の無い、価値の乏しすぎる訴えは、却下されるのが当然であろう。

また、乱訴(らんそ)・濫訴(らんそ)は禁じられている。

民法1条3項
権利の濫用は、これを許さない。



憲法32条には、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」とあるが、しかし現実の世の中は、そんな何でもかんでも裁判できるわけではない。

憲法のこの条文の意図はおそらく、出身や身分などに関係なく裁判を受けられるという意味や、低い価格でも裁判を受けられるようにする、というような意味であろう。


事実、日本の民事訴訟の提訴のための手数料は、かなり安価であり、案件にもよるが数千円や数万円で訴訟をできる場合もある。(ただし、弁護士をつければ弁護士費用は別途、かかる。)

たとえば、被告に1000万円の支払いを求めるような裁判ですら、手数料は(時代によって金額が変わる可能性があるが)5万円ていどである。(5万円の印紙を訴状に貼る。)(民事訴訟費用法の別表 に金額の定めがある)


なお弁護士費用は、民事では手数料には、含まれない。また、民事訴訟の弁護士費用の負担は、原告や被告それぞれの自己負担である。

また、もし裁判に買っても、相手方に弁護士費用などを支払わせるような判決を出させるのは、原則的に日本では困難である[1]。(よほど訴訟相手の過失が大きくないかぎり、まず、弁護士費用は原告・被告それぞれの自己負担である。)
この理由は、訴訟を萎縮させないため、などの理由が考えられている[2]。(たとえば、原告がもし負けたら、原告が負担することになるので、原告は怖くて訴訟を起こせず、泣き寝入りすることにつながりかねない。)
もし、よほど敗訴者側の過失が大きくて、相手側の弁護士費用を負担することになっても、まず全額負担とはかぎらず、(相場などから見積もった最低限な)一部の費用の負担であろう、と考えられている。(でないと、もし相手方が大金持ちなどで、相手方が(相場から見て)高額の弁護士事務所に依頼すると、敗訴者はそのぶんまで支払うことになりかねず、所得格差によって負担が不公平になりかねないだろう。)
欧米の映画などを見ると、弁護士費用などを敗訴者側に負担させる描写があるが、あれは外国の事例である。日本は違うので、混同しないように。


※ 範囲外: そもそも裁判を、どうやって起こすか[編集]

裁判を起こすには、裁判所で、そのための手続きをしなければなりません。訴状を書いて、手数料の金額ぶんの印紙を貼って、相手の住所に近い裁判所の窓口に提出します。

法律では、原告は被告の住所を管轄(かんかつ)する裁判所で訴訟を行わなければならない、というような内容の条文が定められています(民訴4)。(「原告は被告の法廷に従う」の原則)。

※ 原告は訴訟前に事前に準備を十分に行えるので、被告が不意をうたれて不利にならないように、法廷の場所が、なるべく、被告の住所の近場になるような仕組みの法制度になっている。また、この原則「原告は被告の法廷に従う」は古代ローマ法から伝わる原則である。

なので、原告に入手の必要な情報として、相手の住所と名前の情報も必要になります。

しかし、相手の名前が分からない場合があります。

この場合、弁護士(べんごし)や探偵(たんてい)などに依頼して、相手の氏名などを調べてもらう必要があります。

調べた上で、どうしても分からない場合は、例外的に、裁判所が、これから裁判をすることを公示してから、裁判します(公示送達)。(民事訴訟法111条)


なお、裁判をはじめるのに、内容証明郵便は、不要です。(※ 世間には、勘違いしている人もいる。)

単に、内容証明をおくったほうが、証拠になるので、裁判で勝訴しやすくなる可能性が高くなるだけです。


さて、訴状が適切に書かれて裁判所に受理されたら、裁判所どうしで、地方裁判所あるいは簡易裁判所のどちらの法廷で裁判を行うかという管轄(かんかつ)を、法などにもとづき調整します。

もし地方裁判所に持ち込まれた訴訟であっても、簡易裁判所で行うべきだと裁判所どうしで判断したら、簡易裁判所に移送(いそう)されます。(民訴16~20)

同様に、簡易裁判所に持ち込まれた訴訟が、地方裁判所に移送されることもあります。

簡易裁判所と地方裁判所のどちらの法廷が担当すべきかという管轄の振り分け(ふりわけ)は、通常は訴訟金額に応じて振り分けます。(時代にもよるが、140万円を目安にしている。140万円いじょうなら地方裁判所の管轄。140万円未満なら簡易裁判所の管轄。ただし不動産の案件なら、地裁の管轄になるのが普通。)

※ 範囲外: 訴えられた場合[編集]

民事訴訟で訴えられた場合、公示送達の場合をのぞき、被告が裁判に出席しないと、通常は、被告は裁判で負けます。

なので、かならず出席しましょう。自分が出席したくない場合は、弁護士を出席させても、かまいません。

もし原告に公示送達を悪用されて、自分の知らないあいだに裁判に負けていた場合、裁判をやりなおせる場合があります(民事訴訟法第338条1項5号)。


また、どの裁判で訴訟が行われるかの管轄(かんかつ)について、訴訟の初期なら異議を申し立てできますが、しかし、もし申し出が遅れて、いったん決定してしまったら変更できません(民訴10)。通常は、被告の住所の近場が裁判地になりますが、訴訟内容によっては、例外的な場合もあり、裁判の行われる場所が被告の住所からやや遠い場所になる場合もあるので、なので、もし訴訟の行われる裁判所の場所が自分(被告)に不利・または遠い場所だと感じるなら、適切な場所にある裁判所により住所の近場に移送してもらうように申し出る必要があります。

※ 範囲外: 証人になったら[編集]

民事訴訟では、証拠を知っている人が「証人」として法廷に出廷して供述するように要請される場合がある(民訴190)。

証人としての出廷は日本国民の義務でありと考えられており、原則的に国民は従わなくてはならない、と考えられている。(「証人義務」)(刑事訴訟法160条、161条。いわゆる「証言拒否罪」)

※ 条文には、義務とは明記してない。

なお、原告または被告の友人などが志望して、みずから証人になることを裁判所に申し出ることもできる。

民事訴訟の理論[編集]

そもそも、誰が民事訴訟をする権利を持ってるのだろうか。

権利義務の主体である事が、民事訴訟を起こせる資格の原則である。(民事訴訟法28) 当然、自然人である日本国民は、裁判を受ける訴えを起こせる。憲法により国民の基本的人権として、裁判を受ける権利を保障してる。(憲法32)

法人も、権利義務の主体であるので、裁判を起こす資格はあり、裁判を受ける資格がある。

しかし、この原則のままだと、例えば町内会などの「権利義務の主体」でない組織は、訴訟を起こせなくなり、いちいちその会員個人が訴訟を起こす必要があり、不都合である。そこで民事訴訟法では、いわゆる「権利能力のない社団」であっても、その社団は裁判を起こしたり裁判を受けたりできる事が、民事訴訟法では定められている。(民訴29)

また、未成年および成年被後見人は、法定代理人に代理してもらわなければ訴訟を起こせない。


※ 当然だが、人間でないイヌやネコやウサギなどを原告とすることは、認められない。実際、過去に、環境団体がアマミノクロウサギを原告とした(民事訴訟でなく行政訴訟だが)訴訟を出したが、しかし裁判所から却下された。
※ いまは高校では習わないだろうが、昔、このアマミノクロウサギの件を高校の「日本国憲法」という科目(があった)の検定教科書で教育されてた時代が1990年代にあった。

※ 範囲外: 一審のみの迅速な裁判になる場合[編集]

小学校や中学校では、日本の裁判は三審制で、控訴や上告の制度があると習った。

しかし、実は民事系の裁判では、やや例外的である。

ビジネスの現場では、早期に判決が確定してもらわないと困ることがある。

なので、いくつかの場合の訴訟では、原告は、その裁判を一審だけで終わらすように申し出ることもできる。被告も一審だけに終わらすことに賛同すれば、その裁判は一審で終わりになる。(いっぽう、被告から一審だけで終わらすことに異議が出たら、通常の裁判になる。)

手形関連の裁判(手形訴訟)は、この裁判を一審だけの裁判にすることもできる(民事訴訟法 351条)。

また、少額訴訟といって、60万円以下の債券の裁判は、この裁判を一審だけの訴訟にすることもできる(民事訴訟法 368条)。


慎重に長引いた裁判をするよりも、迅速に判決をしてもらいたい場合もある。

民事訴訟の流れ[編集]

(※ 範囲外:)民事訴訟のおおまかな流れ[編集]

まず、被告などが差し押さえを逃れようとして財産処分などされては困るので、仮差押え(かり さしおさえ)や仮処分(かりしょぶん)などの民事保全(みんじほぜん)が行われる。

※ ここでいう「差し押さえ」(さしおさ)とは、私人がその財産を処分できないように、国家権力がその財産を国家権力の管理下におくこと。ここでの「差し押さえ」は、証拠の保全の目的のために行われる。
※ 刑事訴訟法(けいじそしょうほう)や国税徴収法(こくぜいちょうしゅうほう)でも「差し押さえ」という言葉を使い、ほぼ似たような意味。刑事訴訟法の「差し押さえ」は証拠隠滅を防ぐなどの目的で、証拠物を強制的に没収するなどして警察・検察の管理下に置くこと(刑事訴訟法 第99条)。(なお「押収」とは、非強制の任意による関係者からの証拠物入手(領置)も含む。)国税徴収法の「差し押さえ」なら、税金の滞納者に対して、税金の回収を確実に行うために、換金できそうな滞納者の財産を国の管理化に置くこと。

(法律では、「民事保全法」などに民事訴訟における差し押さえの手続きなどの定めがある。「民事保全法」は「民事訴訟法」とは別の法律である。)

ただし民事保全では、競売などの換金などの処分はせず、あくまで、財産の保全をするだけである。

(※ なお、仮差押え・仮処分などに対し、一方で裁判の判決後の(仮でない)強制執行のことを実務用語で「本執行」(ほんしっこう)といって区別する場合がよくある。民事保全は、本執行ではない

もし「仮差押え」と「仮処分」をまとめて言いたいなら、一般に「保全執行」(ほぜん しっこう)または単に「保全」(ほぜん)あるいは「民事保全」という。

※ 「本執行」と「保全執行」は発音が似ていてマギラワシイので、なるべく単に「保全」または「民事保全」というほうが安全かも。実務では、聞き間違いにも気を付ける必要がある。
※ なお、刑事事件でいう警察側・検察側による(証拠品の)「押収」(おうしゅう)は、証拠品の行き先は、裁判所には行かないで、警察[3]・検察などの施設内で証拠品は保管される(刑訴法246条,刑訴規則98条)。またなお、「押収」とは別に、被告側・弁護側が裁判所に依頼して裁判所に発動を要請できる「証拠保全」という制度があるが(刑事訴訟法179条)、しかし、あまり使われない。警察用語では「押収」なども「保全」といったり、「差し押さえ」と言ったりして、民事と字面(じづら)の同じ用語が警察でも用いられる場合があるが、しかし前述したように警察による「押収」や差し押さえは保管者が警察・検察なので、混同しないように。

なお、民事訴訟法(第259条)に「仮執行」(かりしっこう)という用語もあるが、しかし一般に民事保全は仮執行ではない。つまり、仮差押えと仮処分は「仮執行」(かりしっこう)ではない。民事訴訟法でいう「仮執行」とは、終審でない初審などの判決後の強制執行のこと。仮執行では、競売などによる換金など、より積極的な執行まで行う。)

※ 本科目では「仮執行」についての説明を省略する。専門的すぎるので。
※ なお、一般に、終審での判決のことを「確定判決」(かくてい はんけつ)という。
※ 仮執行は、確定判決でない判決にもとづく執行。

さて、裁判所の法廷でじっさいに民事裁判が行われ、弁論や尋問などが行われる。(法律では、「民事訴訟法」などに もとづく。)

そして最終的に一審の裁判の判決が出る。 一審の判決に不服のある場合には、判決の日から2週間以内に、不服のある者によって上訴(じょうそ)が行われる。上訴は2週間以内に行わないといけない。

控訴が無いと、判決は確定し、その確定された判決にもとづいて、強制執行(本執行)が行われる。

すでに学んだように強制執行には、直接強制・代替執行・間接強制の3種類がある。(『※ 高等学校商業 経済活動と法/債務不履行』)


(※ 範囲外: )仮差し押さえは、実は原告側に、やや有利である。なぜなら、たとえ被告側に落ち度が無くても、仮差押えによって被告は、とりあえず財産の一部が差し押さえられてしまう。

もちろん、ヤクザなどに仮差し押さえの制度が悪用などをされないように(営業妨害や脅迫などに悪用されないように)、原告は裁判所に次のことを要求されます。

・差し押さえが妥当であることの証拠を原告はそれえて裁判所に提出する必要がある。
・また、原告には保証金が必要[4]

原告の出した証拠の信頼性の程度に応じて、裁判所が、差し押さえの程度や、原告に要求する保証金の金額を判断する。

なお、民事保全法の条文では「保証金」でなく「担保」と言っている(民事保全法14条)。


また、民事保全法20条でも、この民事保全の目的は、あくまでも、仮に債権者の勝訴した場合に、債務者の財産処分による債務不履行によって強制執行できなくすることを防止する(現状維持を図る)目的であることが明記されている。

民事保全法 第20条
1. 仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。

また、悪用されないように民事保全法により「急迫の事情があるときに限り」(第15条)でないと保全命令は出ないし、発するのは「裁判長」(第15条)とされている。

民事保全法 第15条 
保全命令は、急迫の事情があるときに限り、裁判長が発することができる

さて、仮差押えなど民事保全の副次的な効果として、被告は仮差押えによる不利益を終わらせるためには、ただちに裁判に対応しなければならないので、裁判所にとっては裁判の迅速化につながるという利点もある。

なお、実は仮差押えされた(不動産などの)物件でも売買はできるが、しかし、もし原告が勝訴したら、判決後には差し押さえ物件を買ってしまった購入者は債権者(仮差押え債権者)に対抗できない[5]。もし、その不動産を買ってしまった人が登記していても、それでも仮差押え債権者に勝てない。

※ サギの手口で、仮差し押さえ物件を高値で買わせる詐欺がありえるので、気をつけろ。

なお、登記どうしの矛盾が起きないよう、不動産など登記のある業界での、その財産への仮差押えの有無は、その業界の登記簿の登記される。

「疎明」(そめい)

保全命令など、迅速性の要求される分野では、裁判官は、原告に厳密な証明を要求する必要は無い。裁判官は「もしかしたら正しい場合もあるかもしれない」という程度の推測に至る(いたる)だけでも、保全命令を決定できる。法律では、「一応」の確からしさとなっている。このような、「証明責任」などでいう「証明」というほどの重さではなく、「一応」ていど(法学書では、よく「一応」と表現される)の重さのやや低い確からしさを与える程度の証拠などを出すことを「疎明」(そめい)という。つまり原告にとって、保全命令を裁判所にさせるには、原告は疎明をできればいい。裁判官が(保全命令などの)一時措置をするのに十分だと感じる程度の証拠さえ、原告は出せばいい。

なお、刑事訴訟でも、なんらかの迅速性の要求される緊急性の比較的に高い措置をする際などに、検察・警察による「疎明」で十分な場合があり、刑事訴訟でも「疎明」(そめい)という[6]。しかし、商業高校生にとっては、刑事訴訟の「疎明」は専門外だし、また高校生には専門性が高すぎるので、wikibooksの本科目では、これ以上の「疎明」の解説を省略する。


「封印票」(ふういんひょう)など

差し押さえや、仮差し押さえされた物品には、裁判所の占有であることを公共に示すために、その物品にシール状の札(ふだ)が貼られることがあり、そのシールには「差押物件封印票」(さしおさえ ぶっけん ふういんひょう)とか書いてあり、「この封印を破壊し、または無効にした者は、刑罰に処せられることがあります。」[7]のような注意書きが併記してあったりして、印影(いんえい)として裁判所の印鑑が押してある。または差押物件標目票(さしおさえぶっけん ひょうもく ひょう)が貼り付けられており、裁判所の印鑑が教えてあったりする(民事執行規則104条)。

もし、執行官などの裁判所関連の職の以外の者が、この封印や標目や 差し押さえの表示 などを破壊すると、刑罰として懲役刑もありうる封印等破棄罪(刑法96条)または公務執行妨害などの罪で処罰されるので、けっして破壊してはいけない。

大きな物品などは、たとえ仮差し押さえされても、執行官が没収できなかったりするので、債権者勝訴による本執行または債務者勝訴による終了まで債務書の手元に置かれたままになる場合もあるが、けっして仮差し押さえ中の封印・標目は破壊してはならない。

差し押さえられる財産がもし土地などシール札を貼れないような形状の財産である場合には、立て札などが執行官などによって立てられる場合もある。

(※ 範囲外: )訴訟内容の変更[編集]

原告による修正[編集]

民事訴訟では、裁判が実際に始まり審議が進むにつれ、関連する新事実がいろいろと発覚することがある。

そのような時、わざわざ、それら新事実の訴訟をわざわざ別個に開始しなくてもいいように、すでに開始されている訴訟の訴訟内容を修正・変更する権能が、原告にある。


なお、原告を変更することも可能だが、原告偏光の場合は、修正ではなくて「訴訟承継」(そしょう しょうけい)や「任意当事者変更」(にんいとうじしゃ へんこう)という別のシステムになる。もとの原告または被告などが死亡して相続人がそれらの訴訟内での立場を引き継ぐ場合や、あるいは訴訟の議題になっている債権が譲渡されて新たな債権者が原告になる場合など、訴訟承継などとして扱われる。


また、裁判所にとっては、当事者(原告または被告)から訴えられてない事柄についての判決をすることができない(民訴246)。おそらく裁判所の権力の暴走を防ぐための、日本国の三権分立(司法・立法・行政 の分立)を徹底するために、このような規定があるのだろう(なお、刑事訴訟でも同様に、原告の検察から訴えられてない事については、裁判所は判決できない)。

なので、どんなに関連の不可争な新事実が発見されたりしても、原告が修正をしないかぎり、裁判所はそれの判決を下せない。

なので原告は、新事実が発見されたりしたら、適切に、訴訟内容を更新していく必要がある。そうしないと、原告が損をしてしまいかねない。


反訴[編集]

原告Aの訴訟した案件と関連の深い分野なら、原告側の違法的な行為などの疑いのある場合、被告Bは、もし自身Bがその原告Aの違法的行為の被害者なら、被告Bは逆に原告Aを訴えることもできる。

これを反訴(はんそ)という。

反訴は訴訟であるので、反訴をするには訴状を裁判所(本訴の裁判所)に提出するなど、訴えと同様の規定になる(民訴146条の4項など)。また、反訴である旨を述べなければならない。

このように、反訴は、けっして単なる抗弁(こうべん)や相殺(そうさい)とは異なる。


なんでもかんでも原告の違法的行為を反訴できるわけでなく、あくまで、もとの訴訟と関連のありそうな事件・案件という要件のもと、反訴できる(民訴146条の1)。


そして被告Bは、その反訴では原告となる。反訴の審理は、もとの裁判(本訴)と同じ審理で処理される。

挙証責任なども、反訴の内容にもよるが、反訴の挙証責任は、その反訴の原告(この例では被告B)にあるのが普通である。


その後の判決は、本訴と民訴の判決が同時に出る「全部判決」の場合もあれば、本訴または反訴のどちらかが先に判決の出る「一部判決」の場合もあるが、特に事情がない限り、反訴が受理された以降の審理は分離されない。

反訴にかぎらず、民事訴訟の制度では、複数の訴訟が融合したり分離することもある(訴訟の効率化のため)。複数の訴訟の融合した審理で、一部の訴訟の審理が熟した場合に、その塾した審理だけ判決の出る場合があり、これを一部判決という(民訴243条2項)。

いっぽう、その訴訟で扱われている訴訟がすべて、まとめて判決が出る場合、「全部判決」といい、その法廷での その訴訟は 完結する。

財産開示手続き[編集]

金銭訴訟の際、原告にとっての勝訴の終審となる法廷での判決が出たら(原告勝訴で確定判決)(または和解調書などでもいい)、債権者の原告が、被告の財産の情報を開示するように、裁判所に要請することができ、この制度のことを「財産開示手続き」(ざいさん かいじ てつづき)という(民事執行法 197条)。

裁判所が財産開示を認めたら、被告は裁判所に出頭して原告に財産状況を説明したり、財産目録を提出するなどして、自己(被告である債務者)の財産の情報を被告に伝わるように開示しなければならない。

※ この財産開示手続きは、民事執行法で2004年に制定された比較的に新しい制度である。

なお、この開示手続きは、一般には非公開であり(民事執行法199条の項6)つまり第三者は傍聴できないと考えられる。

裁判所じたいは、被告の財産状況をあまり詳しく調査してくれないので、原告はこの制度を活用して、うまく被告の財産状況を把握して、被告から賠償金などを確実に回収する手間がある。

また、裁判前や保全執行には使えない制度なので、実効性も疑問視されている。被告の財産についての情報提供が「無いよりかはマシ」のような状況であろう。

裏を返すと・・・

裏を返すと、民間人どうしでは、この開示手続きが実行された時以外には、特別な契約の無い限り、まず自己の財産に関する情報を相手に開示する義務は、原則として、まず無いわけだ。

ときどき詐欺師か何かが、公的機関か何かを装って財産状況を聞いて来ることがあるが、一切、回答の義務は無い。(金融か不動産などの取引をしたりして、その取引名簿が漏洩したりすると、その名簿の情報を頼りにしてか、詐欺師か地上げヤクザか何かが訪問セールスか何かで財産状況を聞いてくることがあるが、一切、回答の義務は無い。)

この開示手続きが実行されるときとは、裁判がすでに起こされ判決も出されるという、すでに裁判の行われた事後である。言い換えれば、なんの裁判も始まってない段階で、なんの情報提供の義務は無い。

開示手続きがされても、情報開示義務のある場所は裁判所の法廷の内部であるし、裁判官が同席する場合のみであるハズなので、けっして訪問セールスでの回答義務なんて ありえない。

特別な契約のある場合でも、その契約書や公正証書をもとに裁判を起こせるハズなので、やはり裁判所を経由させようとするハズなので、裁判所の経由の無い情報開示の要請には、民間人どうしでは回答義務は無い。


そもそも、商業で開示義務のある情報は、既に登記や登録などのさいに公開されるので、それ以上の情報公開の義務は原則として無い。もし情報公開の義務があるなら、法務局や税務署あるいは地域の警察や保健所などの公的機関が手続き更新の要請などとして情報公開を要請してくるので(日本の税務署や警察の調査能力は凄いのである)、どこかの民間人からの要請への情報公開の義務があるなんて普通はアリエナイ。


なお、もし相手が「情報公開するまで、この場所から帰らないぞ」とかいうような態度で、自宅や職場に押しかけてきて、退去するように相手に要請したにもかかわらずに居続けたら、

これは刑法犯の不退去罪(ふたいきょざい)という犯罪なので(刑法130条)、警察を呼ぶこと。

べつに相手の発言から「帰らないぞ」などの意思表示の言質(げんち)をとらずとも、自分が相手に退去要請するように要請して、それでも相手が帰らなかったら、警察を呼んでよい。

不退去は、もはや犯罪者なのでバンバンと警察に通報しよう。


※ この財産開示手続きは2004年に制定された新しい制度なので、まだ教育的な研究があまり進んでない事項であるので、本wikibooksでは、これ以上は深入りしない。

参考文献[編集]

  1. ^ 山本弘ほか『民事訴訟法 [第3版]』有斐閣、2018年4月10日 第3版 第1刷、58ページ
  2. ^ 山本弘ほか『民事訴訟法 [第3版]』有斐閣、2018年4月10日 第3版 第1刷、58ページ
  3. ^ 津田隆好『警察官のための刑事訴訟講義』、東京法令、平成31年4月10日 第4版 発行、184ページ
  4. ^ 神田将『図解による民事訴訟の仕組み』、自由国民社、2018年5月20日 第2版、174ページ
  5. ^ 神田将『図解による民事訴訟の仕組み』、自由国民社、2018年5月20日 第2版、176ページ
  6. ^ 津田隆好『警察官のための刑事訴訟講義』、東京法令、平成31年4月10日 第4版 発行、170ページなど
  7. ^ 石井正夫『わかりやすい強制執行の仕方と活用法』、自由国民社、2012年11月30日 全訂2版発行、217ページのページ上部の図「書式24」