高等学校国語総合/枕草子
雪のいと高う降りたるを
[編集]一
[編集]- 要旨
中宮定子(ちゅうぐうていし)は、清少納言(せいしょうなごん)の知識を試そうとして、雪の日に、白居易(はくきょい)の詩を引用して、「香炉峰(かうろほう)の雪は、どうなってるか。」と問いかけた。清少納言は白居易の詩句のとおりに、簾(すだれ)を高く巻き上げて、中宮を満足させた。
- 備考
中宮定子は、女性。藤原 定子(ふじわら の ていし)。清少納言は、中宮定子に仕えていた。
- 大意
- 本文/現代語訳
雪のいと高う降りたるを例ならず御格子(みかうし)まゐりて(参りて)、炭櫃(すびつ)に火おこして、物語などして集まりさぶらうに、「少納言よ、香炉峰(かうろほう)の雪いかならむ。」と仰せらるれば、御格子上げさせて、御簾(みす)を高く上げたれば、笑はせたまふ。人々も「さることは知り、歌などにさへ歌へど、思ひこそよらざりつれ。なほ、この官の人にはさべきなめり。」と言ふ。 |
雪がたいそう高く降り積もっているのに、いつもと違って、御格子(みこうし)をお下ろしして、角火鉢に火を起こして、(私たち女房が)話をしながら、(中宮様のもとに)集まりお使えしていると、(中宮様が私に呼びかけ、)「少納言よ、香炉峰(かうろほう)の雪は、どうなってるかね。」とおっしゃるので、御格子を(ほかの女房に)上げさせて、御簾(みす)を高く(巻き)上げたところ、(中宮様は満足して)お笑いになる (他の女房の言うには)「(私たちも)そのようなこと(=白居易の詩のこと)は知っており、歌などにまでも詠むけれど、(とっさには)思いつきませんでしたよ。(あなたは)やはり、中宮様にお仕えする人として、ふさわしいようだ。」と言う。 |
(第二八〇段)
- 語句(重要)
- ・さべき - ふさわしい。「さべき」は「さるべき」の変化。
- ・さべきなめり - ふさわしいようだ。「めり」は推量の助動詞「めり」の終止形。「なめり」は「なるめり」の撥音便。
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- 読解
- ・さること - 白居易の詩句「香炉峰の雪は簾(すだれ)を撥げて(かかげて)看る(みる)。」のこと。
- ・この官の人 - 中宮定子のこと。 なお、「宮」の文字通りの意味では、古語でも宮殿の意味がある。
- 語注
- ・炭櫃(すびつ) - いろり。四角い火鉢。
- ・香炉峰(こうろほう)の雪 - 白居易の詩『白氏文集』に「香炉峰の雪は簾(すだれ)を撥げて(かかげて)看る(みる)。」とある。詳細は「高等学校古文/漢詩/香炉峰下、新卜山居、草堂初成、偶題東壁」を参照
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品詞分解
[編集]品詞分解 雪(名詞)の(格助詞)いと(副詞)高う(形容詞・ク活用・連用形のウ音便)降り(ラ行四段活用・連用形)たる(存続の助動詞・連用形)を(接続助詞)、例(名詞)なら(断定の助動詞・未然形)ず(打消の助動詞・連用形)御格子(名詞)まゐり(ラ行四段活用・連用形)て(接続助詞)、炭びつ(名詞)に(格助詞)火(名詞)おこし(サ行四段活用・連用形)て(接続助詞)、物語(名詞)など(副助詞)し(サ行変格活用・連用形)て(接続助詞)集まり(ラ行四段活用・連用形)さぶらう(ハ行四段活用・連体形)に(接続助詞)、「少納言(名詞)よ(終助詞)。香炉峰(名詞)の(格助詞)雪(名詞)いかなら(形容動詞「いかなり」の未然形)む(推量の助動詞「む」の終止形)。」と(格助詞)仰せ(サ行下二段活用・未然形)らるれ(尊敬の助動詞・已然形)ば(接続助詞)、御格子(名詞)上げ(ガ行下二段活用・未然形)させ(使役の助動詞・連用形)て(接続助詞)、御簾(名詞)を(格助詞)高く(形容詞・ク活用・連用形)上げ(ガ行下二段活用・連用形)たれ(完了の助動詞・已然形)ば(接続助詞)、笑は(ハ行四段活用・未然形)せ(尊敬の助動詞・連用形)たまふ(尊敬の補助動詞・ハ行四段活用・終止形)。 人々(名詞)も(係助詞)「さる(ラ行変格活用・連体形―連体詞)こと(名詞)は(係助詞)知り(ラ行四段活用・連用形)、歌(名詞)など(副助詞)に(格助詞)さへ(副助詞)歌へ(ハ行四段活用・已然形)ど(接続助詞)、思ひ(ハ行四段活用・連用形)こそ(係助詞)よら(ラ行四段活用・未然形)ざり(打消の助動詞・連用形)つれ(完了の助動詞・已然形)。なほ(副詞)、こ(代名詞)の(格助詞)宮(名詞)の(格助詞)人(名詞)に(格助詞)は(係助詞)、さ(副詞またはラ行変格活用「さり」の連体形「さる」の撥音便無表記)べき(当然または適当の助動詞「べし」の連体形)な(断定の助動詞「なり」の連体形の撥音便無表記)めり(推定の助動詞・終止形)。」と(格助詞)言ふ(ハ行四段活用・終止形)。