高等学校工業 機械設計/機械要素と装置/軸受
- 軸受
回転軸を支える部分を、軸受(じくうけ;bearing)と言う。軸受の役目は軸を滑らかに回転させる役割と、軸に加わる荷重を支える役目がある。
潤滑剤
[編集]軸受には、潤滑油(lubricant oil)あるいは半固形状のグリース(grease)などの潤滑剤(lubricant)を用いて潤滑(lubrication)をするのが一般的。潤滑剤を加える目的は、軸と軸受が直接、接触して回転すると、摩擦による摩耗や損傷や焼付けがおこるので、潤滑剤による油膜により、転がり面と滑り面との間に薄い油膜を形成し、 直接接触を防ぐため。 潤滑により、転動体および軌道面の磨耗や摩擦を減少させ、焼き付きを防止する。 潤滑剤は、滑り軸受、転がり軸受けともに潤滑剤を用いるのが一般である。
軸受の分類
[編集]- 滑り軸受
滑り軸受(sliding bearing)とは軸と軸受の間に潤滑油を介して、荷重を支える軸受。 油膜により軸の回転を荷重を支える。
- 転がり軸受
転がり軸受(rolling bearing)とは、軸受と軸との間に入れられた、玉やころなどの転動体を介した転がり接触で、軸を支持をする軸受。転動体により軸の荷重を支える。
荷重の方向による分類
[編集]軸受を、軸に加わる荷重の方向から分類すると、ラジアル軸受(radial bearing)とスラスト軸受(thrust bearing)に分けられる。
- ラジアル軸受
ラジアル軸受(radial bearing)は,荷重の方向が軸の半径方向の場合に用いられる軸受。“radial”とは「放射状」という意味があり、そこから半径方向という意味も持つ。半径方向の荷重のことをラジアル荷重という。
- スラスト軸受
スラスト軸受(thrust bearing)は、荷重が軸方向の場合に用いられる軸受。“thrust”とは「押す」とか「突っ込む」とかの意味。軸方向の荷重のことをスラスト荷重(thrust load)という。軸方向の荷重のことをアキシャル荷重(axial load)という場合もある。
滑り軸受
[編集]- 軸受メタル
接触面が摩耗したときに交換する部品を少なくするため、軸受メタル(bearing metal)という部品を用いる。軸受メタルだけを交換すればいいようにしている。材質には、ホワイトメタル(white metal)やケルメット(kelmet)がある。 ホワイトメタルは錫(すず)を基とした合金と、鉛を基とした合金がある。 ケルメットは銅に20~40%の鉛を加えた合金。
面で荷重を受けるので、エンジン等の爆発衝撃荷重に強い。油膜で軸が浮いている 状態で使用する為、 高速の回転に耐え得る。
軸受メタルのみでは強度的に不十分であるため、通常は、裏金(back metal)として鋼などを用いた二層以上の構造とすることがある。
- 軸受圧力
荷重をW、軸受幅をL(長さは軸方向)、ジャーナルの直径をDとすると、荷重Wをジャーナルの投影面積LDで除算した値 W/LD を軸受圧力(bearing pressure)といい、滑り軸受が受ける荷重の平均である。軸受圧力の記号はPで表わされることが多い。次の式で表される。
転がり軸受
[編集]転がり軸受の構造は、一般に内輪(inner ring)と外輪(outer ring)からなる軌道輪(bearing ring)、玉(ball)または円柱状のころ(roller)といった転動体(rolling element)、および保持器(cage)から構成される。保持器は、転動体どうしが、ぶつからないようにする。
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玉軸受の断面
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保持器付きの玉軸受
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ころ軸受
- 長所
- ころがり摩擦であるから,摩擦係数が小さく,したがって動力の損失も小さい。
- 短所
- 点接触あるいは線接触で荷重を受けるので,大荷重には向かない。また、衝撃荷重にも弱い。
- 騒音や振動を生じやすい。
- その他の特徴
- 軸受の外径に関しては、装置に転動体が含まれるため、滑り軸受より軸受の外径が大きくなりやすい。
玉軸受
[編集]- 深溝玉軸受
深溝玉軸受 (deep groove radial bearing)
- 自動調心玉軸受
自動調心玉軸受 (self-aligning ball bearing)は、外側の軌道面が球面である。そのため、ある程度なら軸心が狂っても軸が傾いても、自動的に調整される。
- アンギュラ玉軸受
アンギュラ玉軸受 (angular bearing)は、玉と内輪・外輪との接触点を結ぶ直線が,あ半径方向を基準とした場合、ある角度(接触角、contact angle)を持っている。接触角には、15°、30°、40°などがある。
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保持器付きの深溝玉軸受
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自動調心玉軸受
接触角が大きくなるほど軸方向のアキシアル荷重への負荷能力が大きくなるが、高速回転には不利になる。 逆に、接触角が小さいほど、 高速回転に有利になるが、軸方向のアキシアル荷重の負荷能力は低下する。
ころ軸受
[編集]ころ軸受(roller bearing)は、転動体として円柱状のころ、あるいは円錐の底部の円錐台のような先端の細まったころを、転動体として使う。 単に「ころ軸受」といった場合、円筒ころ軸受のことを指す場合もある。
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円錐ころ軸受の断面
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針軸受
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スラスト玉軸受
- 円筒ころ軸受
円筒ころ軸受(cylindrical roller bearin)は、円筒状のころと軌道とが線接触をしている軸受。玉軸受は点接触だが、円筒ころ軸受は線接触なので、玉軸受と比較すると円筒ころ軸受のほうが、荷重の負荷能力が大きい。
- 円すいころ軸受
円すいころ軸受 (tapered roller bearing)は、円錐形から先端の突起を除いた部分の円錐台のような、テーパをもった棒状の形のころを持つ。内輪・外輪の軌道面および転動体の円すい頂点が、軸受の中心線上の一点に集まり交わるように設計された軸受。 ラジアル荷重もスラスト荷重も支持できる。ラジアル荷重が作用するときに軸方向の分力も生じる。分力を打ち消すため、軸受を2個、逆向きに用いて打ち消しあう事がある。
- 針状ころ軸受
針状ころ軸受(needle roller bearing)は、多数の細長い円柱を、ころとして使う。転動体が細いため、軸受の外径は他の軸受よりも小さい。また、軸受の幅が長い。ニードル軸受とも言う。
- スラスト玉軸受
軸受の寿命
[編集]- 定格寿命
軸受が損傷するまでの総回転数あるいは総運転時間数を、軸受の寿命(life)という。総運転時間は、一定の回転速度での時間で換算する。同一種類の複数の軸受を、同じ条件で回転させたとき、90%の軸受が損傷を起こさずに回転できる総回転数の寿命を、定格寿命(rating life)あるいは基本定格寿命という。定格寿命L10の単位は、計算の都合上、106回転(100万回転)の単位で表す場合がある。数式記号は一般にL10で表す。
- 基本動定格荷重
基本定格寿命が100万回転になるような荷重C [N]を基本動定格荷重(basic dynamic load rating)という。数式記号は一般にCで表す。Cの単位はニュートンNである。
33.3rpmで回転させると、100万回転は500時間の運転になる。寿命計算で時間換算する際、この500時間が、計算の基準になることがある。
- 基本静定格荷重
軸受は静止したままでも荷重を受ける。荷重や応力が大きいと、転動体や軌道面に永久変形を生じてしまう。この永久変形のために、回転調子が不具合となる。なので、許容しうる静止荷重の基準を定め、変形が直径の0.0001倍(分数で表示すれば、1万分の1)になる荷重C0 [N]を基本静定格荷重(basic static load rating)として定めている。
- 定格寿命
基本動定格荷重C[N]に対し、軸受に荷重W[N]が加わるとき定格寿命L10(単位は10^6回転) は次の式で表される。
- 玉軸受ではγ=3n
- ころ軸受ではγ=10/3
つまり、
- 玉軸受の定格寿命
- ころ軸受の定格寿命
- 速度係数
あるいは
γは、式L10=(C/P)^γで用いた指数γ。
- 寿命係数
Lhは、寿命時間[h]。
γは、式L10=(C/P)^γの指数γ。
- 荷重係数
軸受の寿命計算での荷重の評価は、実際の使用時に機械に振動や衝撃が加わる場合は、衝撃などにより大きな荷重が加わるので、荷重に補正係数として荷重係数fwを掛けて修正して寿命計算式に代入する必要がある。
fwの値の例
- 衝撃のない回転機械 :1.0~1.2
- 内燃機など軽い衝撃のある機械 :1.2~1.5
- 圧延機や建設機械など強い衝撃のある機械 :1.5~3.0
- dn値
保持器と転動体とのすべり摩擦による焼付きを防ぐ潤滑上のため、回転数には制約が生じる。 軸受の径d[mm]と、回転速度n[rpm]との積dnの値を、速度限界の評価に使うので、dn値(dn value)と呼ばれる。