高等学校工業 機械設計/機械要素と装置/軸継手

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

軸継手[編集]

回転機械では、駆動軸と従動軸を連結する場合など、軸と軸を連結する場合がある。 このような軸の連結方法で、溶接などとは違い、修理などの際には、必要に応じて結合が解ける方法で、機械的に軸と軸とを接続する機械要素を軸継手(couplingあるいはshaft coupling)という。 このうち、修理などの際を除いて、通常時は軸同士の連結を解かない軸継手を永久軸継手という。単に「軸継手」と言った場合、この永久軸継手のことを指すことが多い。 また、永久軸継手と違い、必要に応じて軸と軸との間の連結を断続する機構を持った装置をクラッチという。


  • 固定軸継手(rigid shaft coupling)

弾性部分などはなく、したがって、2軸の軸線を完全に一致させて固定する必要があり、運転中もその軸線の一致状態が維持される必要のある軸継手のこと。 二軸が締結されるので、回転速度のずれは無い。

  • フランジ形固定軸継手(rigid flanged shaft coupling)

二軸の両端に、フランジをキー止めにより取り付け、この二軸のフランジどうしをボルトで締結する。 たわみ継手とは違い、たわみなど弾性変形の機構は無いので、軸線の心出しを確実にする必要がある。 規格はJIS B 1451。

  • たわみ軸継手(flexible shaft coupling)

2軸の軸線に、わずかの違いが生じても許容できる軸継手。 大まかな原理として、一例はゴムなどの弾性部分を持つことで、軸線の違いを吸収する方法と、別の例として、歯車などのすき間で軸線の違いを吸収しながら、歯によって回転を伝える方法がある。

  • フランジ形たわみ軸継手(flexible flanged shaft coupling)

フランジ形軸継手の、一方の側のフランジのボルト穴に、ゴム性などの弾性に富んだブシュをはめた軸継手。軸心の違いはブシュの弾性変形で吸収する。 規格はJIS B 1452。

  • 歯車形軸継手(geared type shaft coupling)
歯車形軸継手

この継手は、内筒と外筒との二層構造になっている。そして、内筒には外歯車が付く。外筒には内歯車が付く。この内筒の外歯車と外筒の内歯車とが、かみ合う。歯車のすき間で軸線の違いを吸収する。二軸の外筒どうしは、ボルトで締結できるようにフランジ構造になっている。 規格はJIS B 1453。

  • 自在継手(universal joint)
自在継手

クラッチ[編集]

代表的なクラッチ
1.角型つめ
2.台形つめ
3.三角つめ
4.スパイラルつめ
5.のこ歯つめ
6.摩擦クラッチ(円盤)
7.摩擦クラッチ(円錐)
8.トルクリミッタ
9.ワンウェイ・クラッチ

クラッチ(clutch)とは、原動軸で発生した回転力を従動軸に伝えるために、必要に応じて原動軸と従動軸とを連結し、必要に応じて原動軸と従動軸との切り離しができる 機械要素である。 一般的には機械的な接触によるものが多いが、電磁気を利用した電磁クラッチや、流体の粘性を利用した流体クラッチもある。

かみあいクラッチ[編集]

かみあいクラッチ(positive clutch)は、原動軸と従動軸の両軸に、それぞれに互いに噛み合う爪(つめ)がついたフランジをとりつけ、軸が軸方向に移動でき、つめを噛みあわせて連結することで、原動軸からの動力を従動軸に伝達する形式のクラッチ。 連結は、停止中か低速回転時のみしか行えない。運転中にかみあわせると、大きな衝撃荷重がかかり、騒音や損傷の原因になる。

(※ 範囲外)もしツメが十数個ほどあっても、精度の誤差などの理由により、よほど精度が良くない限り、実際にかみ合って力学的な役割をするツメはせいぜい2~3個ほどである[1]といわれる。また、せいぜい最大24個ていどのツメに設計するのが慣習[2]である。

摩擦クラッチ[編集]

円板クラッチを例に、摩擦クラッチの原理を説明する。 摩擦クラッチ(friction clutch)とは、両方の軸の端に、摩擦に耐えうるディスク円盤などをとりつけ、このディスク円盤を軸方向に押し付けて、接触面に生じる摩擦力で動力を伝達するクラッチである。 摩擦面どうしの着脱が回転を止めること無く可能なので、伝達の断続が回転を止めることなく可能である。 摩擦により摩擦面は磨耗する。また、摩擦熱により焼損しやすい。したがって、摩擦面の材料には求められる特性として、熱に耐えうる耐熱性や、摩耗に耐えうる耐摩耗性の高い素材が使われる。

  • 円板クラッチ
単板クラッチ
1:モータシャフト, 2:フライホイール,
3:クラッチディスク, 4:プレッシャプレート

円板クラッチ(disc clutch)とは、接触面が円盤状のクラッチ。 使う円盤の数によって、接触面がひとつの単板式(single disc clutch)と、接触面が多数の多板式(multi disc clutch)とがある。

  • 乾式と湿式

摩擦クラッチには、潤滑油を使う場合もあれば、使わない場合もある。摩擦クラッチが空気中の乾いた状況で用いられる場合を、乾式クラッチ(dry clutch)、あるいは乾式という。 クラッチがオイルなどの液体中にある場合を、湿式クラッチ(wet clutch)、あるいは湿式という。



(※ 範囲外: ) 摩擦係数の表
摩擦係数と許容接触面圧 
接触面の材料 摩擦係数 μ 許容接触面圧
p[MPa]
乾燥  潤滑 
鋳鉄と鋳鉄 0.15~0.20  0.1 1.0~2.0
鋳鉄と鋼 0.25~0.30  0.1 0.8~1.4
鋳鉄と青銅 0.2~0.30  0.05~0.10 0.5~0.8[3]
鋼とファイバ 0.35~0.45  0.25 不明瞭
0.07~0.28[4]
鋳鉄と木材 0.20~0.30  不明瞭
0.08~0.12[5]
0.30[6][7]
不明瞭
0.18~0.35[8]

[9]
または未記載[10]


※ 右にクラッチにおける摩擦係数と許容接触面圧の表を示す。表中の値は、主に参考文献によった[11][12]。文献によって、数値が微妙に違う。また、木材クラッチは文献によって数値のバラツキが大きく、よって本wikiの表では不明瞭とした。

なお潤滑でも、グリースか油かによって、摩擦係数が違う。詳しくは文献『機械設計法 第3版』(森北出版株式会社)などを参照せよ。


なお、もし接触面が金属どうしなら、潤滑のある(つまり湿式な)場合の摩擦係数は、乾式の場合の摩擦係数のおよそ3分の1ていどである。(これは工業高校の教科書に書いてある。)

たしかに、右の表も、おおむね、その程度の数字になっている。


なお、暗黙の前提として、潤滑によって摩擦係数が減じる(潤滑の単元でも、そう習っているハズ)。

鋳鉄と青銅の摩擦係数は、鋳鉄と鋳鉄の摩擦係数とほぼ同じであると考えられている。(文献によっては、値を共通にしているものもある[13]。)


参考文献[編集]

  1. ^ 塚田忠夫、『機械設計法 第3版』、森北出版株式会社、2015年6月11日 第3版 第1刷発行、153ページ
  2. ^ 塚田忠夫、『機械設計法 第3版』、森北出版株式会社、2015年6月11日 第3版 第1刷発行、153ページ
  3. ^ 塚田忠夫、『機械設計法 第3版』、森北出版株式会社、2015年6月11日 第3版 第1刷発行、153ページ
  4. ^ 中島尚正ほか著『機械設計学』、朝倉書店、1998年12月10日 初版 第1刷 発行、142ページ
  5. ^ 塚田忠夫、『機械設計法 第3版』、森北出版株式会社、2015年6月11日 第3版 第1刷発行、154ページ
  6. ^ 大西清『機械設計入門』、オーム社、平成28年(2016年) 6月10日 第4版 第2刷、66ページ
  7. ^ 中島尚正ほか著『機械設計学』、朝倉書店、1998年12月10日 初版 第1刷 発行、142ページ
  8. ^ 中島尚正ほか著『機械設計学』、朝倉書店、1998年12月10日 初版 第1刷 発行、142ページ
  9. ^ 大西清『機械設計入門』、オーム社、平成28年(2016年) 6月10日 第4版 第2刷、66ページ
  10. ^ 塚田忠夫、『機械設計法 第3版』、森北出版株式会社、2015年6月11日 第3版 第1刷発行、154ページ
  11. ^ 中島尚正ほか著『機械設計学』、朝倉書店、1998年12月10日 初版 第1刷 発行、142ページ
  12. ^ 塚田忠夫、『機械設計法 第3版』、森北出版株式会社、2015年6月11日 第3版 第1刷発行、154ページ
  13. ^ 大西清『機械設計入門』、オーム社、平成28年(2016年) 6月10日 第4版 第2刷、66ページ