高等学校政治経済/経済/国際経済のしくみ

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貿易と分業の理論[編集]

リカード イギリスの経済学者で、主著に『経済学および課税の原理』がある。

貿易では、その国が、相手の外国よりも安い値段で高品質に作れる製品を作ったほうが、両方の国にとって得である。

比較生産費説[編集]

また、もし、ある国が、2種類以上の商品を相手国よりも安く作れるとしたら、相対的により安いほうの商品の生産に集中して輸出するほうが、さらに利益をあげられる。この、相対的に安い商品の生産・輸出に特化したほうが利益をあげられるという説を、比較生産費説(ひかくせいさんひ せつ)という。

比較生産費説は、19世紀初めのイギリスの経済学者リカード(D.Rocardo)が初めて理論的に示した。

このような理論が、自由貿易を推進する立場の者たちの、理論的根拠となっている。



特価前
  ぶどう酒1単位の
生産に必要な労働量
毛織物1単位の
生産に必要な労働量
ポルトガル  80  90
イギリス  120  100  

特価前は、ポルトガルは80人でぶどう酒1単位を生産でき、90人で毛織物1単位を生産できる。これらの産業のポルトガルの生産者の合計は170人。

イギリスは120人でぶどう酒を1単位生産でき、100人で毛織物を1単位生産できる。これらの産業のイギリスの生産者の合計は220人。

特価前は、イギリス・ポルトガルの両国の合計で、ぶどう酒を2単位生産でき、毛織物を2単位生産できる。


特価後
  ぶどう酒1単位の
生産に必要な労働量
毛織物1単位の
生産に必要な労働量
ポルトガル  80  90
イギリス  120  100  

特価後は、ポルトガルは、ぶどう酒を 170人 ÷ 80 = 2.125 単位を生産できる。 イギリスは、毛織物を 220÷100 = 2.2単位を生産できる。

ぶどう酒、毛織物の両方とも、特価前の2単位よりも生産量が増えている。


このような比較貿易の理論などにより、分業の理論が国際的な範囲にまで広がり、国際分業の理論ができていった。

また、アダム=スミスなどの自由経済の理論が、リカードらの比較貿易の理論によって、国際貿易の自由経済化の理論にまで発展したことになる。

保護貿易論[編集]

一方、現実の貿易は、けっして完全な自由貿易ではなく、実際には、何らかの規制を加えている。

自由貿易論に反対して、19世紀の当時、工業が発展途上であったドイツの経済学者リスト(F.List)は、自国の幼稚産業(ようちさんぎょう、infant industry)を保護するための保護貿易が必要であると主張した。

現代での保護貿易の手段としては、関税をかけたり、輸入数量に制限を設けたるなどの非関税障壁がある。輸入品の検査の厳格化も、非関税障壁となる場合もある。

現代では先進工業国においても、自国の農業を保護するための保護貿易的な措置を行っている。

日本でも、食料安全保障の主張などにもとづき、農業を貿易では保護している。

※ 関税の役割として、上述の保護貿易的な思想のように、歴史的に自国産業の保護がある。近年、アメリカのトランプ政権が外国製品の関税をあげたことに反発して、対立陣営やその支持マスコミや自由貿易論者が「関税では自国民が税負担するので、自国産業の保護にならない」などとデタラメをいうが、歴史学的にみてもデタラメな主張なデマなので、真に受けないように。

国際分業の理論[編集]

国際分業には、おもに発展途上国が単純な部品や原材料を供給して先進工業国が複雑な加工などをおこなう垂直的分業と、一方、おもに先進工業国どうしが完成品や高度な部品を貿易しあっている水平的分業がある。

サービス貿易

21世紀の現代、モノの輸出入以外にも、外資系企業のサービスを受けることも「貿易」に含め、これをサービス貿易と言います。たとえば、マクドナルドで食事をすることも、サービス貿易です。外資系ホテルのハイアットやヒルトンなどに宿泊することもサービス貿易です。

WTOでは、すでに1995年にWTO設立の際のマラケシュ協定で、サービス貿易の自由化についても協定があります。(なお、これらの国際会議はウルグアイラウンドの一部でもあるので、書籍によってはマラケシュ協定ではなくウルグアイラウンドで紹介されるかもしれません。)


外国為替[編集]

外国との商取引には、通常、ドルが基準に使われている(※ これは、中学校でも習っただろう)。このような通貨を、基軸通貨(きじくつうか、key currency キーカレンシー、国際通貨)という。

外国との商取引では、現金ではなく、双方の国で、それぞれ為替手形(かわせ てがた)が使われており(外国為替手形)、決済は、日本の銀行と相手国の銀行を通して、決済を行ってる。

顧客自身は、手形の取引を行わない。手形の直接的な売買を行うのは、銀行どうしである。顧客は、銀行の窓口で、外貨を入手できる。


相場が「1ドル=110円」とかのように、相場が日々、変動するが、この相場の価格で、各国の外国為替手形が各国の通貨と取引されてるのである。

なお、この「1ドル=110円」のような外国為替の交換比率の相場のことを、「外国為替相場」とか「為替レート」(かわせレート)とかいう。

また、この「1ドル=110円」などの相場は、日本と相手国との銀行間の相場である。

なお、実際の銀行の窓口での外貨交換には、手数料が掛かる。

いわゆる「為替介入」(かわせ かいにゅう)とは、ある国の通貨当局や中央銀行が、時刻に有利な相場を誘導するために、外国為替相場で通貨などを売買すること。しかし、外国の絡むことなので、自国だけでは操作しきれず、介入が失敗することもある。


  • 円高と円安
(※ 円高と円安の計算問題は、大学共通テストでよく出題される。参考書などで練習しておくこと。)

なお、一般に、金利が高い国の通貨には、金利の安い国の通貨から金利の高い国の通貨に交換することで利益をあげられる見込みがある。そのため、高金利の通貨の国ほど、相場での通貨が高くなる傾向があるので、政府や中央銀行が金利を操作することで、為替にある程度の介入をすることもある。

つまり、日本での高金利は、円高の要因。

日本で、もし輸入が大幅に増加すると、外貨(ドルが一般)が必要なので、円を売って外貨に変える必要があるため、円安になる傾向がある。


(※ 範囲外 :)「需要と供給によって価格が決まる」という原則を、中学高校のどこかで習ったと思うが、円高・円安をそれにあてはめると、
(ドルに対する需要と比べて)日本円の需要が高い場合には円高。
(ドルに対する需要と比べて)日本円の需要が低い場合には円安。

ということになる。(※ 参考文献: 清水書院『現代社会ライブラリーにようこそ 2018-19』)


国際収支[編集]

国際収支の種類[編集]

一国の一定期間(普通は1年間)にわたる、外国との、取引き金額の差引きの勘定をまとめたものを国際収支(こくさい しゅうし)という。

国際収支を大きく分類すると、投資による資本のやり取りを示す資本収支と、モノやサービスの取引きの経常収支(けいじょう しゅうし)とに分類される。

なお、経常収支は一般に、その期間内で取引きが完結する収支でもある。一方、資本収支は、一般に、次の期間にも影響の出る収支である。

資本収支の種類[編集]

資本収支は、投資収支と、その他資本収支からなる。

投資収支は、海外に工場を建てたり、相手国で直接工場を経営したりする直接収支と、外国の株式を購入する証券投資などに分かれる。

その他資本収支は、円借款(えんしゃっかん)や、特許権の収支である。

経常収支の種類[編集]

経常収支はさらに、貿易収支サービス収支所得収支経常移転収支に分けられる。

サービス収支は輸送の運賃や、旅行、その他サービスの収支からなる。

貿易収支は、商品の輸出入の金額の収支である。

貿易収支とサービス収支とを合わせて貿易・サービス収支という。

第一次所得収支は、利子や配当金についての、外国との取引きでの収支である。

第二次所得収支は、政府援助や、国際機関への分担金などである。

経常移転収支は、食料・医療品などの無償援助である。


日本の国際収支の状況[編集]

1980年以降、日本の貿易収支は黒字が続いてきたが、2011年、東日本大震災による原発停止などで原油などエネルギー源の輸入が増加したことなどにより、2011年に日本は貿易収支が赤字になった。

経常収支は、1980年以降、現代まで黒字である(2016年に記述)。

近年の日本の資本収支は、投資収支が赤字である。これは、日本企業が、海外に積極的に工場を建てたり、外国の株式を購入しているからである。

(「投資が赤字」ではなく、単に、海外に多くの工場を建てると、投資収支は赤字になるのである。逆に、もし外国企業が日本国内に工場をどんどん建てたとしたら、日本の投資収支が黒字になっていく事になるだろう。)


日本は、その海外投資での収益を、経常収支の第一次所得収支として獲得しているため、日本は投資収支が赤字な一方で、経常収支が黒字になっている。

なお、日本の国際収支において無償援助や国際機関への拠出をしているため、経常移転収支は赤字である。

高度経済成長時代の「国際収支の天井(てんじょう)」は、1970年代には国際収支が黒字になり、解決された。