高等学校理科 生物基礎/神経による体内環境の調節
- ※ 中学校で運動神経と感覚神経を習った。また、脳も神経細胞で出来ている事も中学では習っている。神経には、これ以外にも、体内の環境を調整するための自律神経がある。
- 高校では、この自律神経について習う。
また、脳または脊髄である中枢神経と、それ以外の一般の神経である末梢神経の違いも中学で習っている。
神経には、体内環境の維持に働いている末梢神経があり、自律神経系(じりつしんけいけい、autonomic nervous system)という。
- ※ 意思とは無関係なことから「自律」と名づけられているのだろうが、しかし感覚神経とは異なる神経なので混同しないように。
- 脳や脊髄なども体内環境の維持に関わっているだろうが、しかし分類上、「自律神経」には脳や脊髄を含めない。自律神経は分類上、末梢神経である事を条件としている。
- (※ 生物基礎の範囲外 :)なお、自律神経以外の感覚神経(sensory nerve)と運動神経(motor neuron)をまとめて体性神経という。 (※ 専門『生物』の範囲。数研の『生物基礎』教科書には書いてある。)
自律神経系には、交感神経(こうかんしんけい、sympathetic nerve)と副交感神経(ふくこうかんしんけい、parasympathetic nerve)がある。交感神経と副交感神経は対抗的に働くことが多い。()
- 神経系の分類 まとめ
神経系━┳━中枢神経系━┳━脳 ┃ ┗━脊髄 ┃ ┗━抹しょう神経系━┳━体性神経系━┳━運動神経 ┃ ┗━感覚神経 ┃ ┗━自律神経系━┳━交感神経 ┗━副交感神経
交感神経と副交感神経は、下記のように、働きが異なり、片方の神経が促進の働きならもう一方の神経は抑制のように、互いに反対の働きをしている。このようなことを、交感神経と副交感神経とは「拮抗」(きっこう)している、という。
自律神経が交感神経と副交感神経とで拮抗しあっている理由は、バランスをとるためだというのが定説である(※ 東京書籍の見解)。
交感神経 | 副交感神経 | |
---|---|---|
拡大 | 瞳(瞳孔) | 縮小 |
促進 | 心臓 (拍動) |
抑制 |
拡張 | 気管支 | 収縮 |
抑制 | 胃 (ぜん動) |
促進 |
抑制 | ぼうこう (排尿) |
促進 |
抑制 | 皮ふの血管 | 分布していない |
収縮 | 立毛筋 | 分布していない |
- 瞳: 交感神経によって拡大。副交感神経によって縮小。
- 心臓の拍動: 交感神経によって促進。副交感神経によって抑制。
- 血圧: 交感神経のよって上昇。副交感神経によって下降。
- 気管支: 交感神経によって拡充。副交感神経によって収縮。
- 胃(ぜん動): 交感神経によって運動(胃の ぜん動)が抑制。副交感神経によって運動が促進。
- ぼうこう(排尿): 交感神経によって排尿が抑制。副交感神経によって排尿が促進。
- 皮ふ(ひふ)および立毛筋: 交感神経によって立毛し、また血管は収縮。副交感神経は皮膚には分布していない。
(※ 専門生物の範囲 :)ヒトの脳神経は12対であり、脊髄神経は31対である。
- ※ 血圧の交感・副交感については数研出版の教科書に記載あり。
このように、自律神経系は、意思とは無関係に、体内を調節している。
また、一部の例外を除き、同じ器官に交感神経と副交感神経の両方の神経がつながっている場合が多い。
一般に、走る・おどろく などの活動的な状態になったときに働くのが交感神経である。
敵があらわれた場合の闘争や(敵に教われるなどの)生きのびるための逃走などの生命の危機のために活動または緊張しなければならない際に(※ 東京書籍の教科書)、交感神経が活発になり、エネルギーを消費する方向に向かう(※ 数研の見解)。
一般に、リラックスしたときに働いているのが副交感神経である。
食事や休息の際に、副交感神経が活発になり、エネルギーを貯蔵する方向に向かう(※ 数研の見解)。
- 自律神経の場所
交感神経は、すべて脊髄から出ている。
一方、副交感神経は、ほとんどが中脳または延髄から出ているが(特に延髄から出ている副交感神経が多い)、しかし例外的に、ぼうこうの副交感神経は脊髄末端から出ている。
心臓の拍動の調節
[編集]心臓の拍動は延髄と自律神経によって調節されている。
運動などによって酸素が消費され、二酸化炭素濃度が高くなると、 延髄は交感神経を働かせ、 交感神経の末端からノルアドレナリン(noradrenaline)が放出され、 心臓の拍動数が増加する。
逆に安静時に酸素の消費量が減り、二酸化炭素濃度が低くなると、 延髄は副交感神経を働かせ、 副交感神経の末端からアセチルコリン(acetylcholine)が放出され、 心臓の拍動数が減少する。
心臓の拍動の調節の実験には、 オットー・レーヴィのカエルの心臓を用いた実験がある。 レーヴィは2つのカエルの心臓を取り出してつなぎ、リンガー液を循環させる装置を作った。 片方の心臓からのびる迷走神経(副交感神経)を刺激すると、その心臓の拍動数が減少し、 しばらくして、もう片方の心臓の拍動数も減少した。 これにより、迷走神経のシナプスから化学物質が分泌され、 心臓の拍動数を制御していることが明らかとなった。 その化学物質は、今日ではアセチルコリンであることが分かっている。