高等学校理科 生物基礎/細胞とエネルギー

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代謝とATP[編集]

呼吸や消化など、生体内で行われる化学反応をまとめて代謝(たいしゃ、metabolism)という。

ATP[編集]

ATP
ADP

細胞内でのエネルギーのやりとりには、仲立ちとしてATPアデノシン三リン酸(あでのしん さんりんさん)、adenosine triphosphate)が用いられる。 ATPの構造は、ADPアデノシン二リン酸)という物質にリン酸が結合した構造である。 ADPにリン酸を結合させる際、エネルギーが必要になる。結合によって合成されたATPは安定であり、エネルギーを蓄えることができる。そして異化によってATPのリン酸結合が切れてADPとリン酸に分解される際に、エネルギーを放出する。

呼吸など異化(いか)の際に、ADPとリン酸からATPを合成している(「異化」については、のちの節で後述する。)。

ATPは、アデノシンという物質に、直列に3つのリン酸がついている。ATPでのリン酸どうしの結合のことを高エネルギーリン酸結合といい、リン酸間の結合が切れるときにエネルギーを放出する。

しばしば、ATPは「エネルギーの通貨」に例えられる。

アデノシンの構造は、アデニンという塩基にリボースという糖が結合したものである。

分解されたADPは、再利用され、呼吸(こきゅう、respiration)によって再びATPに合成されることが可能である。

ATPのエネルギーの利用先は、生体物質の合成のほかにも、筋肉の収縮や、ホタルの発光などにも、ATPのエネルギーは用いられている。

Atpadp.jpg

※ 参考[編集]

異化(いか)と同化(どうか)[編集]

同化と異化。
※ 検定教科書ではATPの単元よりも前にあるが、しかし学問的にATPの理論と比べて異化・同化の理論は発展性が明らかに乏しく、そのためwikibooksでは紹介を後回しにした。また、東京書籍の生物基礎の教科書では、もはや異化・同化の用語が無く、単元自体が無い。かつて1990年代は、高校生物Iでよく教えていた用語であった。

代謝のうち、複雑な物質を分化してエネルギーを取り出すことを異化(いか、catabolism)という。呼吸は異化であり、有機物を分解して水と炭素にしている。

いっぽう、代謝のうち、合成する反応のことを同化(どうか、anabolism)という。同化の目的は、たとえばエネルギーを蓄えたり、あるいは体を構成する物質を生産するために行われる。例として、光合成における糖の合成は、同化である。 ふつう同化では、簡単な構造の物質を材料に、複雑な構造の物質が作られる。エネルギーが同化をするために必要である。したがって反応に用いたエネルギの一部は、合成した物質に吸収されている。

同化によって合成物に吸収されたエネルギーを取り出して使うには、呼吸などの異化を行って分解する必要がある。

(※ 範囲外: ) 肉体への合成・蓄積反応を「同化」というのは日常語では聞きなれないが、同化の英語の anabolism アナボリズムを考えれば、スポーツのドーピングの筋肉増強剤でアナボリック・ステロイドとかあるように、覚えやすいだろうか。

独立栄養生物と従属栄養生物[編集]

※ 啓林館などの生物基礎の教科書で紹介されているが、他社の教科書で記述が見当たらず、事実上の専門生物おくりの単元。

植物のように、外界から水H2Oや二酸化炭素CO2などの無機物および、光などのエネルギーだけを取り入れて、生存できる生物を独立栄養生物(どくりつえいようせいぶつ、autotroph)という。 植物は、光合成によって無機物を炭酸同化できるのでも、独立栄養生物である。

一方、ウシなどの草食動物のように植物など他の独立栄養生物を食す必要のある生物や、ライオンやトラなどの肉食動物のように草食動物を食べる必要があったりと、ともかく他の独立栄養生物を直接的・間接的に食す必要のある生物を従属栄養生物(じゅうぞくえいようせいぶつ、heterotroph)という。いわゆる動物は、肉食動物も草食動物も、ともに、多くの動物は従属栄養生物である。

従属栄養生物も炭酸同化や窒素同化などの同化を行っているが、それら従属栄養生物の行う同化のもとになる材料の物質は、有機物であって無機物でない。

発展:筋肉とクレアチンリン酸[編集]

酵素[編集]

酵素と活性化エネルギー。物質が化学反応をするときに超える必要のあるエネルギーのことを活性化エネルギー(かっせいかエネルギー)という。通常は安定な物質では、この活性化エネルギーがあるため、その物質は安定してられる。
酵素と最適pH

デンプン(starch)の分解には、硫酸水溶液などの強酸中で100℃以上の高温で分解するという方法がある。しかし、だ液(saliva)は常温付近でデンプンを分解してマルトース(maltose、麦芽糖のこと)に変える。 特定の化学反応を促進し、自身は反応の前後で変化しない物質を触媒(しょくばい、catalyst)という。 生物の細胞内や細胞外で触媒として作用し、生物現象を維持している物質を酵素(こうそ、enzyme)と呼ぶ。酵素はすべて有機物であり、酵素の本体はタンパク質である。先ほど説明した だ液にも、酵素がふくまれており、アミラーゼ(amylase)という酵素がだ液にふくまれている。

さて、例えば、過酸化水素水(H2O2)に二酸化マンガン(MnO2)を加えると、二酸化マンガンが触媒として作用し、水(H2O)と酸素(O2)が発生するが、 同様に、過酸化水素水に肝臓の細胞を加えると水と酸素が発生するのだが、この理由は細胞内に含まれるカタラーゼ(catalase)と呼ばれる酵素が触媒として作用して、過酸化水素を分解して水と酸素が発生するからである。


細胞外で働く酵素もある。 体外から摂取したデンプン(starch)やタンパク質(protein)は、そのままでは大きすぎて小腸の細胞に吸収できないため、 各消化器官から分泌される消化酵素によって、吸収しやすくなるように分解される。 デンプン(starch)は、唾液(だえき、saliva)に含まれるアミラーゼ(amylase)によって、マルトース(maltose)に分解される。 タンパク質(protein)は、胃液に含まれるペプシン(pepsin)によってペプトン(peptone)に、すい臓から分泌されるトリプシン(trypsin)によってさらに小さなアミノ酸(amino acids)に分解される。トリプシンはpH8付近が最適pH(optimum pH)である。

ヒトが持っている酵素の種類は数千種類といわれている。 酵素が作用する相手の物質のことを基質(きしつ)という。酵素はそれぞれ反応する相手の物質が決まっており、これを基質特異性という。二酸化マンガンや白金などの無機物質では、基質特異性は見られない。基質特異性の正体は、酵素を構成しているタンパク質の立体構造によるものである。酵素の各部のうち、その酵素が基質と結合する部位のことを活性部位あるいは活性中心という。酵素は活性部位で基質と結合する。 酵素は、酵素-基質複合体(こうそ-きしつ ふくごうたい)をつくって、基質に触媒としての働きをする。

酵素基質複合体の模式図

このように酵素は細胞内や細胞外で作用することにより、生命現象を維持している。

多くの酵素は、常温の付近で働く。 また、70℃程度以上の湯などで高温で熱してしまった酵素は、触媒の働きを失ってしまう。高温で働きを失った酵素を低温に冷ましても、もう触媒の働きは戻らない。このように、酵素が触媒の働きを失ってしまい戻らないことを失活(しっかつ)という。

これは、酵素のタンパク質が高温によって乱され、タンパク質の構造が崩れてしまったからである。酵素に限らず、タマゴや肉なども、高温で熱してしまうと、冷ましても常温にしても、もう働きは復活しない。この理由も、タマゴや肉のタンパク質が崩れてしまったからである。このようにタンパク質が熱で変わってしまうことを熱変性(ねつへんせい)という。

酵素の反応速度と温度

酵素が良く働く温度は、35℃~40℃くらいである場合が多い。酵素がもっとも良く温度のことを最適温度という。最適温度は酵素の種類ごとに違う。常温付近で、やや高めの温度が最適温度である。 いっぽう酸化マンガンなどの無機触媒では高温のほど反応速度が強く、無機触媒では最適温度は見られない。

酵素は、特定のpH(ペーハー、ピーエイチ)で良く働く。このpHのことを最適pHという。 たとえば、だ液にふくまれる酵素アミラーゼの最適pHは7付近である。だ液のpHは7である。胃液で働くペプシンの最適pHは2である。(ペプシンは、タンパク質を分解する酵素。) このように、酵素の最適pHは、その酵素が多く含まれる器官のpHに近い場合が多い。 すい液にふくまれる酵素リパーゼの最適pHは9であり、すい液のpHもややアルカリ性である。(リパーゼは脂肪を分解する酵素。)

実験として酵素濃度を一定にして、温度を一定にして、基質濃度を変えて実験すると、つぎのような結果が得られる。

酵素の基質濃度と反応速度

・基質濃度が低いとき、基質濃度に比例して反応速度が増える。

・基質濃度が高い場合、酵素の数以上に基質があっても酵素-基質複合体ができすに効果がないので、基質濃度が低いときは、あまり反応速度は変わらなず、反応速度はしだいに一定値になる。

酵素の数以上に基質があっても、酵素と結合できないので、基質が分解されない。

そのほか、活性部位に基質以外の物質が結合すると、基質が酵素に結合できなくなる場合がある。阻害物質が酵素の活性物質をめぐって基質と競争していると見なして、このような現象のことを競争的阻害という。

  • やや発展 : 非競争的阻害

阻害物質が活性物質以外の場所に結合しても、その結果、活性部位の構造が変わってしまう場合があり、そのため酵素-基質の結合を阻害する場合もある。このような、活性部位以外への阻害物質の結合による阻害を、非競争的阻害という。


  • 補酵素

ある種の酵素には、基質以外にも他の物質が必要な場合もある。このような酵素に協力している物質が有機物の場合で、その有機物が酵素に結合する場合、その有機物のことを補酵素(ほこうそ)という。補酵素は一般に低分子(=分子の大きさが小さい)であり、また酵素と分離しやすい。そのため半透膜(セロハンなど)を使って、補酵素を分離することができる。また、熱に対して、補酵素は、比較的、強い。

補酵素の代表的な例として、呼吸に関わる脱水素酵素の補酵素NAD+がある。脱水素酵素は、基質から水素を取り除く。NADとは「ニコチン・アミドアデニン・ジヌクレオチド」のこと。 脱水素酵素とNADは別の物質である。脱水素酵素とのNADという両方の物質があることで、NADが水素を受容できるようになるって、NADに水素水が結合しNADHに変わる。

酵素に協力している物質が金属または金属イオンなどで、有機物で無い場合もある。

  • フィードバック調節

(執筆準備中)

カタラーゼの構造


光合成と呼吸[編集]

光合成(同化)[編集]

植物は光エネルギーにより、水と二酸化炭素から、グルコースを合成している。 これを光合成(photosynthesis)と呼ぶ。

光合成では、光合成の途中で光のエネルギーを使ってADPからATPを合成するが、光合成の後半の段階で植物はATPを分解してADPにして、植物はATPのエネルギーを使ってデンプンなどの有機物を合成している。

光合成を、化学式っぽく、まとめると、下記のようになる。

CO2 + H2O + 光エネルギー → 有機物 + O2
※ 上記の化学式では係数は考慮してないので、必要に応じて適する係数を使うこと。

なお、光合成では一時的に葉緑体にデンプンが蓄えられるが、その後、デンプンがスクロース(ショ糖)などに分解されて維管束を通って、植物の各部位に運ばれ(「転流」という)、その各部位で消費されたり、またはデンプンに合成されて貯蔵されたりする。

(※ 発展: )光合成の反応過程[編集]

※ 検定教科書ではコラム形式の発展的話題だが、多くの教科書会社の『生物基礎』教科書で採用されている話題であり、事実上は生物基礎の範囲内の話題になっている。
光合成のしくみ
(※ くわしくは生物IIで説明する。)


チラコイドは、葉緑体の中にある。

葉緑体の内部の構造には、チラコイドという膜状の構造と、ストロマという無色の基質の構造がある。

チラコイドにある色素が光エネルギーを吸収する。この吸収のとき、特定の波長の光を吸収している。赤や青の光が葉緑体に吸収される。緑色の光は吸収しない。吸収しなかった波長の光は反射される。植物の緑色は、反射した光の色であり、光合成には使用していない光である。

吸収した光エネルギーで、ATPの合成やNADPHの合成を行っている(「NAD」とは「ニコチン アデニン ジヌクレオチド」のことである。)。


次の(1)~(3)の反応がチラコイドで行われる。 (4)の反応がストロマで行われる。


(1):  光化学反応
光エネルギの吸収は、色素のクロロフィルで吸収する。クロロフィルは活性化し、活性クロロフィルになる。クロロフィルの存在する場所は、チラコイドの膜である。

この反応には、光が当然に必要である。温度の影響をほとんど受けない。

(2):  水の分解とNADPHの生成
1の反応に伴って、活性クロロフィルから電子が飛び出す。水が分解され、酸素が発生するとともに、できた水素Hが、さらに水素イオンH+と電子e- に分解される。発生された酸素O2は、以降の反応では利用せず、このため酸素O2が排出される。

この反応でのHの分解から発生したe- は、チラコイドの膜上で伝達され、最終的にHとともにNADP+という物質にe- は結合し、NADPHが生成する。

(3):  ATPの合成
2の反応に伴って、ADPがリン酸化されATPが合成される。

(4):  二酸化炭素の固定
ストロマで、(3)の反応で作られたATPのエネルギーも利用して、いくつもの過程を経て、植物が気孔などを使って細胞外から取り入れた二酸化炭素から、有機物(グルコース C6H12O6 )を合成する。

生成された物質の一部が同じ物質のもどる反応経路になっており、カルビン・ベンソン回路という。 このカルビン・ベンソン回路の過程で、(3)の反応で作られたATPを用いている。


このカルビン・ベンソン回路の反応は、温度の影響を受ける。

(※ 光合成について、くわしくは生物IIで説明する。)



呼吸(異化)[編集]

(※ 2015年からの新課程では用語の言い換えがあり、「好気呼吸」→「呼吸」、「嫌気呼吸」→「発酵」「解糖」と言い換え。「好気呼吸」および「嫌気呼吸」の用語は教科書では用いられないことになっている。しかし、医学書などの専門書では、2015年を過ぎた現代でも、まだ「嫌気」などの用語が残っている。
しかし、「嫌気呼吸」の用語は医学書などでは見当たらない。酸素がなくても生きられる種類の微生物について「嫌気性の微生物」などの用法が医学書などで見受けられる。検定教科書でも、「嫌気性の細菌」などの用法が見られる(数研出版の『生物基礎』など)。
このため、本wikibooks本ページの教科書本文では、「好気呼吸」「嫌気呼吸」の用語は用いない。


そもそも「『呼吸』とは何か?、という問題があるが、検定教科書によって説明が違うので、呼吸とは何かについては、説明を後回しにしたい。

それよりも重要なこととして、

「呼吸」では、酸素を使用する。
「呼吸」では、エネルギー源としてグルコース(ブドウ糖)を分解するが、タンパク質や脂肪を分解する場合も「呼吸」という(※ 啓林館の教科書で、タンパク質の分解なども呼吸という見解)。
「呼吸」の結果、その生体内でATPが合成される。

われわれ人間の呼吸では、エネルギー源として、おもにグルコース(C6H12O6)などの炭水化物を分解することにより、生命活動に必要なエネルギーを取り出している。このグルコースの分解反応で酸素が必要なため、人間は呼吸で酸素を取り入れている。呼吸によるグルコースの分解で、グルコースに蓄えられていたエネルギーを取り出しており、さまざまな生態活動のエネルギーになっている。

木材などの燃焼と、生物の呼吸は、酸素を使用する点と、エネルギーが放出される点では似ているが、しかし燃焼が急激に熱と光を放出してすぐに終わってしまうのに比べて、呼吸では段階的に分解することでエネルギーを取り出してATPにエネルギーを蓄えるという点で、燃焼と呼吸には違いがある。

なお、呼吸におけるグルコースのように、呼吸につかわれてエネルギーを取り出す元になっている物質を「呼吸基質」(こきゅう きしつ)という(※ 啓林館の教科書で「呼吸基質」の紹介が見られるが、他社の教科書で見られず、あまり重要視されて無い用語である。)。


人間や魚類の呼吸は、細胞での酸素を用いる呼吸のためであり、このときの細胞での酸素を吸って二酸化炭素をはきだす行為を呼吸(こきゅう)という。

細胞での呼吸によるグルコースの分解は、おもにミトコンドリアで行われている。

そのため、ミトコンドリアを持たない微生物では、呼吸の仕組みが、人間や魚類などとは違っている。

※ 発展[編集]

発酵[編集]

※ 検定教科書ではコラム形式の発展的話題だが、多くの教科書会社の『生物基礎』教科書で採用されている話題であり、事実上は生物基礎の範囲内の話題になっている。


発酵

細菌やカビなどの一部の微生物には 、必ずしも酸素を使わなくてもグルコースなどの炭水化物を分解できる生物がいる。酵母菌や乳酸菌は、そのような菌である。酵母菌によるアルコール発酵や乳酸菌による乳酸発酵などの発酵は、これらの菌が生存のために栄養から必要なエネルギーを得るために化学反応を行った結果であり、酵母菌や乳酸菌の発酵では酸素を用いていない。

このような、酸素を使わないでグルコースなどの有機物を分解する活動は、発酵という。

酵母菌(こうぼきん)が、ワインなどのエタノールを作る醸造(じょうぞう)の反応も、発酵である。酵母菌は、グルコースを分解して、エタノールとともにATPを合成して,また二酸化炭素を排出している。ちなみに、パンを膨らませるイースト菌も、じつは酵母菌の一種である(※ 数研出版の教科書で「パンを膨らませる」「酵母」という言い方をしている)。(※ パンが膨らむのは、二酸化炭素によるもの。)

※ アルコール発酵の二酸化炭素の生成がそれほど重要か? と思うかもしれないが、2017年センター試験『生物』の追試験に出題されている。

化学式ぽく整理すると、係数を省略すればアルコール発酵の式は

グルコース → エタノール + 二酸化炭素 + ATP

のようになる。

酵母菌は、酸素がある状況下では呼吸を行うが、酸素が無い状況下で、グルコースのある状況では酵母菌は発酵を行い、発酵の結果、エタノールとともにATPを合成する。


また、乳酸菌(にゅうさんきん)が、チーズやヨーグルトなどを作る反応も、発酵である。乳酸菌も、グルコースを分解してチーズなどを作るとともに、ATPを合成している。

化学式ぽく整理すると、係数を省略すれば、乳酸発酵の式は

グルコース → 乳酸 + ATP

のようになる。

酵母菌も乳酸菌も、発酵の結果としてATPを合成している。


なお、酸素の無い環境のことを「嫌気」(けんき)または「嫌気的」(けんきてき)などという。いっぽう、酸素のある環境のことを「好気」(こうき)または「好気的」という。(センター試験などに出題されている。)

「嫌気」という言い方を使うなら、アルコール発酵は、グルコースなどの有機物が嫌気的な条件のもとでアルコールに分解されることが発酵である、と言える。

乳酸菌については、乳酸発酵は嫌気の状況下でも好気の状況下でも行われる。(※ 乳酸菌の好気での行動がそれほど重要か? と思うかもしれないが、2017年センター試験『生物』の追試験に出題されている。)

(※ 範囲外: )ネット上には、間違いとして、酸素があると死んでしまう菌のことを「嫌気的」な生物などと言ってる人もいるが、しかし、それは間違いである。酸素があると死んでしまう菌のことは、「偏性嫌気性」(へんせい けんきせい)という。いっぽう、酸素があっても生きられる菌であるが、酸素が無くても生きられる菌のことは「通性嫌気性」(つうせい けんきせい)という、


呼吸と比べると、発酵では、同じ量のグルコースを分解した際に得られるATPの量が発酵では少なく、発酵では得られるATPの量が(呼吸で得られるATPの量の)約20分の1の量である。

(※ 範囲外:)酸素が少ない環境、あるいは酸素が無い環境でも、エネルギー源となる有機物があれば、発酵をする菌は生きられる。
(※ 範囲外:)日常語において「発酵」(はっこう)と「腐敗」(ふはい)の区別は、ある微生物の呼吸の結果の生産物が、人間によって健康的な生産物の場合が「発酵」で、有害な生産物の場合が「腐敗」(ふはい)である。つまり「発酵」と「腐敗」の分類は、人間の都合による。

※ 専門『生物』科目で細かいことを習う。

アルコール発酵[編集]

※ 数研の教科書で、下記のような詳細を説明している。

酵母菌(こうぼきん)のアルコール発酵での化学反応式は、まずグルコースC6H12O6からピルビン酸C3H4O3に分解される。この、グルコースからピルビン酸を得る過程を解糖系(かいとうけい、glycolysis)という。解糖系でATPが2分子つくられる。そしてピルビン酸が、無酸素の状態では酵素デカルボキシラーゼによってアセトアルデヒドCH3CHOによって分解され、そのアセトアルデヒドがNADHという物質によってエタノールC2H5OHへと変えられる。

解糖系  (C6H12O6) → 2C3H4O3 + 4H + 2ATP
それ以降  2C3H4O3 + 4H→2C2H5OH + 2CO2

まとめると、アルコール発酵の反応式は、次の式である。

C6H12O6 → 2C2H5OH + 2CO2 + 2ATP

グルコース1分子あたりATPが2分子できる。アルコール発酵のATPは解糖系に由来しており、それ以降はATPを産生してない。

解糖系による、グルコースからピルビン酸ができる反応は、嫌気生物に限らず、ほとんどすべての生物の呼吸で行われている。(※ そのため、ピルビン酸は呼吸の学習における重要物質である。)

乳酸発酵[編集]

※ 数研の教科書で、下記のような詳細を説明している。

乳酸発酵(にゅうさんはっこう)では、まずグルコースC6H12O6が解糖系によって、ピルビン酸へと分解され、このときATPが2分子できる。そしてピルビン酸がNADHによって乳酸:C3H6O3に変えられる。

C6H12O6 → 2C3H6O3 + 2ATP

※ 範囲外 :酢酸発酵[編集]

※ 『生物基礎』科目では酢酸発酵を扱わない。

酢酸菌(さくさんきん)は、 酸素O2を用いて、エタノールを酢酸CH3COOH に変える。

C2H5OH + O2 → CH3COOH + H2O

酢酸発酵では酸素を用いるため、一般的な無酸素の発酵とは区別して、酸化発酵とよぶ。

酢酸発酵のとき、酢酸のほかに水ができる。

発展:呼吸の仕組み[編集]

※ 検定教科書ではコラム形式の発展的話題だが、多くの教科書会社の『生物基礎』教科書で採用されている話題であり、事実上は生物基礎の範囲内の話題になっている。
『生物基礎』の検定教科書では下記ほど細かくなく、下記は旧『生物I』用のものであるが、いちいち書き直すのがメンドウなので、そのまま掲載。なので高校生は、高校1年の段階では、下記内容の暗記の必要は無い。
解糖系とクエン酸回路。

呼吸は細胞質基質とミトコンドリアで起こる。とくにミトコンドリアを中心に、呼吸によって多くのATPが合成される。

  • 解糖系

1分子のグルコースが、2分子のピルビン酸(C3H4O3)にまで分解される。この反応は細胞質基質で行われる。酵素を必要としない。ATPを2分子、生成する。反応の途中でATPを2分子消費するが、4分子のATPを生成するので、差し引き2分子のATPを生成する。

グルコースは、まずATP2分子によってリン酸化されフルクトース二リン酸(C6化合物)になる。

フルクトース二リン酸が二分して、グリセルアルデヒドリン酸(C3化合物)の二分子ができる。

グリセルアルデヒドリン酸が、いくつかの反応を経て、ピルビン酸になる。この間の反応で、電子e-とプロトンH+が生じて、補酵素NADに渡されNADHになる。ここで生じたNADHはミトコンドリアに入り、あとの電子伝達系で利用される。また、ATPが4分子できる。よって、差し引きグルコース1分子につき、2分子ATPが、解糖系で生じる。

  • クエン酸回路

ピルビン酸が、ミトコンドリア内に入り、ミトコンドリアのマトリックスという内膜にある酵素で、ピルビン酸がコエンザイムA(CoA)と結合してアセチルCoA(活性酢酸)というC2化合物になり、段階的に分解される。二酸化炭素が、ピルビン酸がアセチルCoAになる際に生じる。 アセチルCoA以降の反応図は回路上であって、回路のはじめにクエン酸(citric acid)が生じることから、クエン酸回路(Citric acid cycle)という。

クエン酸(C6)→ケトグルタル酸(C5)→コハク酸(C4)→フマル酸(C4)→リンゴ酸(C4)→オキサロ酢酸(C4)→クエン酸

と変化していく。(「C6」とはC6化合物のこと。C5とはC5化合物のこと。C4も同様にC4化合物のこと。) このクエン酸回路の過程でATPが2分子できる。また、電子が放出される。

C2化合物のアセチルCoAがC6化合物のクエン酸に変化する際、クエン際回路の最後のオキサロ酢酸(C4化合物)と化合するので、炭素の収支が合う。クエン酸回路では、脱炭酸酵素や脱水素酵素の働きで、クエン酸は変化していく。

クエン酸回路で、コハク酸(succinate)からフマル酸になる際に発生する水素は、補酵素FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)が受け取り、FADH2になる。 コハク酸以外での脱水素反応では、NADが水素を受け取っている。(「NAD」とは「ニコチン アデニン ジヌクレオチド」のことである。)

  • 電子伝達系(Electron transport chain)

ミトコンドリアの内膜にシトクロム(cytochrome)というタンパク質がいくつもあり、このシトクロムは電子を受け渡しできる。解糖系やクエン酸回路で生じたNADHやFADH2から、電子e-と水素イオンH+が分離し、電子はシトクロムに渡される。そしてシトクロムどうしで電子を受け渡す。このとき、H+が、いったんマトリックスから膜間にくみ出され、それから水素イオンの濃度勾配に従ってATP合成酵素を通ってマトリックス側に戻る。このH+ATP合成酵素を通る際のエネルギーを利用して、ADPからATPが生成される。最終的に生成するATPの数は、グルコース1分子あたりATPを最大で34分子を生じる(生物種によって生成数が異なる)。 これらの反応ではNADHなどが酸化される反応が元になってATPを生成しているので、一連の反応を酸化的リン酸化(oxidative phosphorylation)という。シトクロムのことをチトクロームともいう。

電子e-は、最終的に酸素原子に渡され、酸化酵素の働きで水素イオンと反応し水になる。この水の生成反応のときの反応エネルギーを用いて、マトリックスの水素が膜間へと運ばれており、さきほど述べたようにATPが合成されている。

呼吸でのATPの収支は、グルコース1分子あたり解糖系で2分子のATP、クエン酸回路で2分子ATP、電子伝達系で最大34分子ATPであり、合計で最大38分子のATPになる。