高等学校理科 生物基礎/遺伝情報とDNA
遺伝子の本体
[編集]- ※ 1990年代のかつて、DNAなどの話題は生物IIによくある話題だったが、現代では『生物基礎』に移動。なお、専門『生物』の教科書には下記のDNAの単元が書かれていないので、受験勉強の時には、まちがえてDNAの単元を飛ばさないように気をつけること。
DNAの構造
[編集]DNA(デオキシリボ核酸、英: deoxyribonucleic acid)の構造は、ヌクレオチド (nucleotide) と呼ばれる構成単位をもち、ヌクレオチドはリン酸と糖と塩基の化合物である。ヌクレオチドの糖はデオキシリボース(deoxyribose) である。DNAでは、ヌクレオチドがいくつも結合して、二重らせん構造をつくっている。
塩基には4種類あり、アデニン(adenin)、チミン(thymine)、シトシン(cytosine)、グアニン(guanine)という4種類の塩基である。ヌクレオチド一個に、4種の塩基のうち、どれか一個が、ふくまれる。
参考: DNAの構造の解明の歴史
[編集]生殖細胞では、減数分裂で染色体が半分になることから、遺伝子の正体とは、どうやら染色体に含まれている物質であろう、という事がモーガンなどの1913年ごろのショウジョウバエの遺伝の研究によって、突き止められていた。
遺伝子に含まれる物質にはタンパク質や核酸(かくさん)など、さまざまな物質がある。どの物質こそが遺伝子の正体なのかを突き止める必要があった。核酸の発見は、1869年ごろ、スイスの生化学者ミーシャーによって、膿(うみ)から取り出した細胞の核に、リン酸をふくんだ物質があることが発見され、この物質はタンパク質とは異なることが調べられた。ミーシャ-の発見したのが核酸である。この当時では、まだ核酸が遺伝子の正体だとは考えられていなかった。なお、膿は、白血球を多く含む。
1949年、オーストリアのエルヴィン・シャルガフは、 いろいろな生物の持つDNAを抽出して調べ、どの生物でもアデニン(A)とチミン(T)とは量が等しく1:1であり、グアニン(G)とシトシン(C)とは量が等しく1:1であることを発見した。
- A:T = 1:1 、 G:C = 1:1
このことから、シャルガフは、アデニンはチミンと結合する性質があり、グアニンはシトシンと結合する性質があると考えた。 DNAの、このような、アデニン(A)とチミン(T)とが等量で結合する性質があること、グアニンとシトシンも等量で結合する性質があることを、まとめて、相補性(そうほせい)という。
1953年、アメリカのジェームズ・ワトソンとイギリスのフランシス・クリックは、 シャルガフの塩基組成の研究や、イギリスのモーリス・ウィルキンスのX線回折の研究をもとにして、研究を行った。そしてワトソンとクリックは、DNAが二重らせん構造であることを発見した。 これによると、2本のヌクレオチド鎖が、アデニンとチミン、グアニンとシトシンで対合し、柱状になり、それがらせん状にねじれている。
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アデニン(A)
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チミン(T)
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グアニン(G)
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シトシン(C)
- ※ wikibooksでは化学構造式を紹介したが、検定教科書では化学構造式は紹介していない。
ゲノム
[編集]生物名 | 塩基対の数 (およその数) |
遺伝子の数 (推定値) |
---|---|---|
大腸菌 | 460万 | 4400 |
酵母菌 | 1200万 | 6200 |
キイロショウジョウバエ | 1億8000万 | 13700 |
ヒト | 30億 | 20000 |
ゲノム(genome)とは、ある生物のもつ遺伝情報のすべてのことである。(※ 高校教科書では、遺伝情報としてゲノムを定義している。高校以外の教科書では、別の定義をしていることもあるので、気をつけること。)
- (※ 編集者の注) 具体的にいうと、ゲノムとはDNAのA,T,G,Cといった塩基配列のパターンのことである。
ゲノムのすべてが遺伝子なのではなく、ゲノムの一部が遺伝子である。ヒトのDNAには塩基対が約3億個ある。しかし、そのうち遺伝子として働く部分は、約2万2千個しかない。
ヒトのゲノムを解読しようというヒトゲノムプロジェクトは、2003年に解読が完了した。ヒトゲノム解読により、ヒトの遺伝子の全体が明らかとなった。
現在では、ヒト以外のゲノムの解読も進み、ゲノム研究が食品や医療などに応用されている。
(※ ほぼ範囲外:) 遺伝子の本体の研究
[編集]- ※ 2010年代の生物基礎・生物の教科書では、形質転換やファージなどの話題が、あまり見当たらない。
- ※ 数研出版や第一学習社など、いくつかの教科書にあるが、コラム送りになっている。
1869年、スイスのフリードリッヒ・ミーシェルは、 細胞核内の物質を発見しヌクレイン(nuclein)と呼んだ。 当時は、遺伝子の本体はタンパク質であると考えられていたが、 今日では、ヌクレインはDNAと呼ばれ、遺伝子の本体であることが明らかになっている。
- グリフィスの実験
1928年イギリスのフレデリック・グリフィスは、 肺炎双球菌とネズミを用いて実験を行った。 肺炎双球菌には、被膜を持っていて病原性のあるS(smooth)型菌と、被膜が無く病原性のないR(rough)型菌の2種類がある。 被膜の有無と病原性の有無の、どちらも遺伝形質である。 通常の菌の分裂増殖では、S型とR型との違いという遺伝形質は変わらない。
グリフィスの実験結果は次の通り。
- 生きたS型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こして死ぬ。
- 生きたR型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こさない。
- 加熱殺菌したS型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こさない。
- 加熱殺菌したS型菌に生きたR型菌を混ぜてネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こして死ぬ。死んだネズミの血液を調べるとS型菌が繁殖していた。
これはR型菌の形質が、加熱殺菌したS型菌に含まれる物質によって、S型菌の形質へ変化したためであり、
これを形質転換(transformation: nuclein)と呼ぶ。
- アベリーの実験
1943年ころ、カナダのオズワルド・アベリーは、グリフィスの実験での形質転換を起こした物質が何かを特定するため、タンパク質分解酵素とDNA分解酵素を用いて、S型菌・R型菌の実験を行った。
実験結果
- S型菌のタンパク質を分解した抽出液にR型菌を混ぜると、S型菌へ形質転換した。
- 次にS型菌のDNAを分解した抽出液にR型菌を混ぜても、S型菌へ形質転換はしなかった。
これによって、R型菌の形質転換を起こしたのはDNAであることがわかった。
- バクテリオファージの増殖実験
細菌に寄生するウイルスのことをバクテリオファージまたは単にファージという。
1952年、アメリカのアルフレッド・ハーシーとマーサ・チェイスは、 T2ファージというファージの一種のウイルスを用いて実験を行った。 T2ファージは細菌に寄生して増殖するウイルスであるバクテリオファージの一種であり、 ほぼタンパク質とDNAからできている。T2ファージの頭部の中にDNAが含まれる。それ以外の外殻(がいかく)はタンパク質で出来ている。
彼らは、放射性同位体の35S(硫黄の放射性同位体)および32P(リンの放射性同位体)を目印として用い、硫黄をふくむタンパク質には35Sで目印をつけ、32PでDNAに目印をつけた。DNAは P(リン)をふくむがS(硫黄)をふくまない。彼らの実際の実験では、タンパク質に目印をつけた実験と、DNAに目印をつけた実験とは、それぞれ別に行った。
実験では、それらの放射性同位体をもつT2ファージを大腸菌に感染させ、さらにミキサーで撹拌し、遠心分離器で大腸菌の沈殿と、上澄みに分けた。 大腸菌からは、32Pが多く検出され、あまり35Sは検出されなかった。このことからT2ファージのDNAが大腸菌に進入したと結論付けた。また、上澄みからはT2ファージのタンパク質が確認された。つまり上澄みはT2ファージの外殻をふくんでいる。
さらに、この大腸菌からは、20~30分後、子ファージが出てきた。子ファージには35Sは検出されなかった。
これによって、DNAが遺伝物質であることが証明された。
その他コラム
[編集]- ※ メセルソンとスタールの実験が、第一学習社の教科書で紹介されている。当wikiでは『高等学校生物/生物I/細胞の増殖』で説明してあるので、本ページ『遺伝情報とDNA』での説明は省略する。
参考: 染色体の構造
[編集]染色体の構造については、ヒストンと言う球状のタンパク質が幾つもあり、そのヒストンに繊維状のDNAが巻きつくような形で、染色体が出来ている。
参考文献
[編集]- 田中隆荘ほか『高等学校生物I』第一学習社、2004年2月10日発行、pp.110-154
- 『NHK高校講座 生物』第16-21回
- 生物学用語辞典 - Weblio 学問