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高等学校生物/生物I/生物の体内環境の維持

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

導入

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生物は外界の環境の変化によらず体内の環境を一定に保つ恒常性と呼ばれる働きを持っている。 また、動物は刺激に対して反応することができる。 このページでは、動物の恒常性、様々な刺激の受容と反応、神経系の構造と働き、動物の様々な行動、などを扱う。

体液とその恒常性

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体温の恒常性

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生物が、外部環境(external milieu)が変化しても、その内部環境(ないぶかんきょう、internal milieu)(別名:体内環境)を一定に保とうとする働きを恒常性(こうじょうせい、homeostasis)(ホメオスタシス)という。 ヒトの体温が平常では37℃付近なのもホメオスタシスの一例である。恒常性には、温度、浸透圧、養分、酸素などを一定に保とうとする働きがある。

生物が体温を一定に保つ理由は、酵素の働きが温度によって異なるからである。 酵素は温度が約40℃のとき最もよく働き、低すぎると働きが鈍くなり、高すぎると酵素が破壊され全く働かなくなる。

体温を一定に保つために、暑いときは熱を逃がし、寒いときは熱を逃がさないようにしたり筋肉を震わせて熱を作ったりしている。 脳の間脳と呼ばれる部分が無意識に体温調節をしている。

体液の働きとその循環

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左から赤血球、血小板、白血球

多細胞の動物の内部環境では、細胞は血液や組織液などの体液(body fluid)で満たされている。 体液には、血管を流れる血液(blood)、細胞間を満たす組織液(interstitial fluid)、リンパ管を流れるリンパ液(lymph)がある。ヒトの成人の場合、体重の約60%は水分である。 血液の成分には、液体成分である血しょう(けっしょう, plasma、血漿)と、有形成分である赤血球(erythrocyte)・白血球(leucocyte)・血小板(platelet)の血球(blood cell)がある。 血球には、酸素を運ぶ赤血球(erythrocyte)、体内に侵入した細菌・異物を排除する白血球(leucocyte)、血液を凝固させ止血する血小板(platelet)がある。有形成分が作られる場所は、ヒトの成人の場合、骨の内部にある骨髄(こつずい、bone marrow)で作られる。 血液が全身の細胞へ酸素や栄養分を送ることで、 細胞は活動することができる。

血液の重さの約55%は血しょうの重さである。血しょうの主成分は水(約90%)であり、それに少量のタンパク質(約7%)やグルコース・タンパク質・脂質・無機塩類などが混ざっている。血しょうのタンパク質は、アルブミン(albumin)やグロブリン(globulin)などのタンパク質である。 組織液は、血しょうが毛細血管(もうさいけっかん、capillary)から染み出たものである。組織液の大部分は再び血管にもどる。


赤血球の形は、直径が約8μmの円盤状であり、中央がくぼんでいる。赤血球には核が無い。ヒトの成人の場合、血液1mm3あたりの個数は、男子は500万個/mm3、女子は450万個/mm3。ヒトの赤血球の寿命は約120日である。古くなった赤血球は肝臓や ひ臓 で壊される。骨髄で赤血球は作られる。 赤血球にはヘモグロビン(hemoglobin)(化学式:Hb と表記)という赤い色素タンパク質が多量に含まれている。このへモグロビンが肺で酸素O2と結合して酸素を運搬する役目を持ち、全身に酸素を運んでいる。ヘモグロビンは鉄(Fe)をふくんでいる。 ヘモグロビンは、酸素濃度が高いと、酸素と結合して酸素ヘモグロビンHbO2)となる。 また、酸素濃度が低いと、酸素と分離しヘモグロビンに戻る。

Hb+O2  HbO2

このようにして、酸素濃度の高い肺で酸素を受け取り、 酸素濃度の低い組織へ酸素を運ぶ。

(※ 範囲外: ) 酸素ヘモグロビンのことを「酸素化ヘモグロビン」と書いても、正しい。(※ 参考文献: 医学書院『標準生理学 第8版』、695ページ、監修: 小澤 瀞司/福田 康一郎、発行:2015年8月1日。 参考文献『標準生理学』にて、「酸素化ヘモグロビン」と表記している。) なお、酸素とまったく結合していない状態のヘモグロビンのことを、脱酸素化ヘモグロビン(deoxyhemoglobin)という。(※ 参考文献: 医学書院『標準生理学 第8版』、695ページ、) この反応は、「酸化」反応ではなく「酸素化」(oxygeneation)反応という、別の反応である[1]
※ 高校生は、「酸素化」反応よりも先に「酸化還元反応」のほうを学ぶのが良いだろう。ヘモグロビンにしか応用できない「酸素化」反応よりも、多くの化学反応に応用できる酸化還元反応のほうを優先的に学ぶべきである。wikibooksでは『高等学校化学I/酸化還元反応』に酸化還元反応の解説がある。そう考えれば、高校生物で「酸素化」という概念を紹介しない事にも、一理ある。


(※ 範囲外: ) 酸素と結合していない状態のヘモグロビンのことを「還元ヘモグロビン」と書いても正しい。つまり、脱酸素化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンは同じである。「還元ヘモグロビン」もまた、正式な医学用語である。(※ 参考文献: 『標準病理学 第5版』373ページ、で「還元ヘモグロビン」の名称の記載を確認。)
(※ 範囲外: ) 一酸化炭素中毒や喫煙などのせいにより、一酸化炭素と結合してしまったヘモグロビンのことは、「一酸化炭素ヘモグロビン」などという。(※ 保健体育の検定教科書であつかう。第一学習社の保健体育の教科書などで紹介されている。)


植物では、(そもそも植物に赤血球はないし、)植物はヘモグロビンを持ってない。(※ 検定教科書には無いが、センター試験にこういう選択肢が出る。2017年の生物基礎の本試験。)

  • 酸素解離曲線(oxygen dissociation curve)
酸素解離曲線


  • 発展 イカとヘモシアニン
(※ 文英堂シグマベスト『理解しやすい生物I・II』で記述を確認。教科書範囲外かもしれないが、参考書などで扱われる話題。)

イカなど、いくつかの動物では、銅 Cu をふくむタンパク質のヘモシアニン (Hemocyanin)が血液を介して酸素を運ぶ役目をしている動物もいる。ヘモシアニンをふくむ動物の血液は青い。この青色は銅イオンの色である。イカの青い筋は、このヘモシアニンの色である。(※ 参考文献: 文英堂『理解しやすい生物I・II』、2004年版、205ページ) ヘモシアニンをふくむ動物には、イカ・タコや貝などの軟体動物、エビ・カニなどの甲殻類に見られる。これらの動物(イカ、タコ、エビ、カニ)は、血しょう中にヘモシアニンを含んでいる。 人間の血液は、ヘモシアニンをふくまない。

(発展、終わり。)

酸素ヘモグロビンを多くふくみ酸素濃度の高い血液を動脈血(arterial blood)と呼ぶ。 ヘモグロビンを多くふくみ酸素濃度の低い血液を静脈血(venous blood)と呼ぶ。

白血球はヘモグロビンを持たない。白血球は核を持つ。リンパ球やマクロファージは白血球である。体内に侵入した細菌・異物を排除することに白血球は関わる。

血しょうの一部は組織へしみだして組織液になり、栄養分を供給し老廃物を受け取る。 組織液の大部分は血管へ戻り血液となり、一部はリンパ管へ入りリンパ液となる。 リンパ液はリンパ管を通り、鎖骨下静脈で血液と合流する。

血液の凝固

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血液の凝固と血清

血小板は血液の凝固に関わる。血小板は2μm~5μmほどであり、核を持たない。 血管などが傷つくと、まず傷口に血小板が集まる。そして繊維状のタンパク質であるフィブリンがいくつも生成し、フィブリンどうしと赤血球などの血球とが絡んで血ぺい(けっぺい)ができる。血ぺいが傷口をふさぐ。このような一連の反応を血液凝固反応という。

採血した血液を放置した場合でも、血ぺいが生じて、血ぺいが沈殿する。このときの上澄み液を血清(けっせい、serum)という。血清の色は、やや黄色がかっている。なお、注射した血清は数日すると抗体が無くなってしまい(※ チャート式生物)、また免疫記憶も生じないので(※ 東京書籍の生物基礎の教科書)、予防には役立たない。

  • 発展 血液凝固反応の仕組み

傷口からトロンボプラスチンが出る。これが他の凝固因子や血しょう中のカルシウムイオンCa2+とともに、プロトロンビンというタンパク質に作用して、プロトロンビンがトロンビンという酵素になる。

トロンビンは、血しょうに溶けているフィブリノーゲンに作用して、フィブリノーゲンを繊維状のフィブリンに変える。このフィブリンが血球を絡めて血ぺい(けっぺい)をつくる。


血友病(けつゆうびょう)という出血しても止血が始まらない病気は、血液凝固に何らかの不具合があってフィブリンをつくれなくて起きる病気である。

体液の循環

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ヒトの心臓の構造
血液の流れは白い矢印で示されている

血液は、心臓(heart)によって全身へ送られる。 ヒトの心臓は、右心房(right atrium)、右心室(right ventricle)、左心房(Left atrium)、左心室(Left ventricle)の4部分に分かれていて、2心房2心室である。ほ乳類の心臓は2心房2心室である。 心筋(cardiac muscle)という筋肉でできている。 弁によって血液の逆流を防いでいる。心臓のリズムは、右心房の上部にある洞房結節(どうぼうけっせつ)という特殊な筋肉の出す電気刺激によって作られる。 全身から送られた血液は、大静脈(vena cava)をとおり、右心房・右心室をとおり、肺動脈(pulmonary artery)をとおり肺へと送られる。 肺で酸素を受け取った血液は、肺静脈(pulmonary vein)をとおり、左心房・左心室をとおり、大動脈(aorta)をとおり全身へ送られる。 肺動脈・肺・肺静脈を通る血液の流れを肺循環(pulmonary circulation)と呼び、 大動脈・全身・大静脈を通る血液の流れを体循環(Systemic circulation)と呼ぶ。

なお、魚類は1心房・1心室である。

両生類は、2心房・1心室のものが多い。

ハチュウ類も同様、2心房・1心室のものが多い。



バッタなど昆虫やエビなど無脊椎動物(invertebrate)の血管系は、毛細血管をもたない開放血管系(かいほうけっかんけい、open blood-vascular system)である。いっぽう、魚類(pisces)・ほ乳類(mammalia)など脊椎動物(vertebrate)は毛細血管(capillary)をもち、閉鎖血管系(へいさけっかんけい、closed blood-vascular system)である。

リンパ系

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人体各部の組織液の一部は毛細血管に戻らず、毛細リンパ管に入り、リンパ管で合流して、リンパ液になる。リンパ管は流れ着く先は、最終的には、静脈に合流する。リンパ管には逆流を防ぐための弁が、ところどころにある。リンパ管のところどころに、球状にふくらんだリンパ節がある。 リンパ液にふくまれるリンパ球(lymphocyte)は白血球の一種であり、マクロファージとともにリンパ球は異物を攻撃して、細菌などを排除する。 リンパ球はリンパ節で増殖する。

生体防御

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外部環境から生体を守るために、異物の侵入を阻止したり、侵入した異物を白血球などが除去したりする仕組みを生体防御(せいたいぼうぎょ)と呼ぶ。 生体防御には、免疫、血液凝固、炎症などがある。

私たち生物の体は栄養豊富なので、もし生体防御の仕組みが無いと、あっという間に病原菌などが繁殖し、私たちは死んでしまう。そうならないのは、生体防御の仕組みが私たちを守っているからである。

生体が異物を非自己と認識して、その異物を排除する仕組みを免疫(めんえき、immunity)と呼ぶ。 免疫は、病原体や毒素を排除する働きを持つ。

免疫には、白血球の食作用などの先天的に生まれつき備わっている自然免疫(innate immunity)と、いっぽう、リンパ球などが抗原抗体反応によって異物の情報を記憶して排除するという後天的に獲得される獲得免疫(acquired immunity)がある。

自然免疫

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自然免疫は、好中球(neutrophil)、マクロファージ(単球)、樹状細胞(dendritic cell)、リンパ球といった白血球(leukocyte)が、病原体などの異物を食べる現象である食作用(Phagocytosis)で行われる。食べられた異物は、分解されて排除される。

  • 好中球

好中球は自然免疫で、異物を食べて、除去する。攻撃した相手とともに死んでしまう細胞である。そのため寿命は短い。 ケガをしたときに傷口にできる膿は、好中球が死んだものである。

  • マクロファージ

自然免疫で異物を食べる。あとで説明する獲得免疫に、異物の情報をつたえる。


近年、マクロファージや好中球などは、ある程度は異物の種類を認識している事が分かった。マクロファージや好中球や好中球などの細胞膜表面にはトル様受容体(TLR)という受容体がある。

(※ チャート式 生物でトル様受容体を扱っています。)
(※ 検定教科書では、第一学習社の教科書などで扱っています。)

トル様受容体には、いくつかの種類があり、反応できる異物の種類が、トル受容体の種類ごとに、ある程度、(反応できる異物の種類が)限られている。

あるトル様受容体(TLR9)は、ウイルスのDNAやRNAを認識する。また他のあるトル様受容体(TLR2)は、細胞膜や細胞壁の成分を認識する。

(※ 読者への注意: TLR9などの具体的な番号は覚えなくてよい。wikibooks編集者が査読しやすいように補記してあるだけである。)

べん毛タンパク質を認識するトル様受容体(TLR5)もある。


※ このように、トル様受容体の種類がいろいろとあることにより、どうやら、白血球は異物の種類を、ある程度は認識できているという仕組みのようである。


  • 血液凝固

出血したときは、血小板などの働きによってフィブリン(fibrin)と呼ばれる繊維状のタンパク質が合成され、 フィブリンが血球と絡み合って血餅(けっぺい, clot)となり止血する。

  • 炎症

生体が傷ついたときにおこる、赤く腫れる(はれる)症状を炎症(えんしょう、inflammation)と呼ぶ。炎症は自然免疫の一つであり、白血球が異物を除去している。

まず、赤く腫れる原因は、ヒスタミン(histamine)やプロスタグランジン(prostaglandin、略称:PG)といった警報物質による。(※プロスタグランジンは高校範囲内。数研出版『生物基礎』平成26年発行、P.128 で記述を確認。) なお、プロスタグランジンは脂肪酸から作られる生理活性物質の一つであり、その動物の体の組織・器官などに作用を及ぼす。

※ なお、ひとまとめに「プロスタグランジン」と言ったが、じつは何種類もある。「プロスタグランジンD2」とか「プロスタグランジンE2」とか「プロスタグランジンF2」など、いくつもの種類がある。種類によって、作用対象の器官・組織も違い、作用の内容も違ってくる。なので、プロスタグランジンの全部の種類をまとめて呼びたい場合、専門書などでは「プロスタグランジン類」などのように、語尾に「類」をつけて呼ぶ場合もある。
※ 高校の範囲外。プロスタグランジンの種類や、種類ごとの作用については、高校理科の範囲外なのは確実なので、普通科高校の高校生は覚えなくて良い。

ヒスタミンやプロスタグランジンなど、これらの警報物質によって、血管が拡張するので、肌が赤く見えるようになる。また警報物質により、毛細血管の透過性が高くなり、水分が血管外に出るので腫れる。

血管から組織にしみでた血液とともに、血液中の白血球もしみでる。そして、しみでた白血球が異物を認識して除去することで、自然免疫が働く。

炎症の症状としては、発熱・発赤・はれ・痛みなどがある。

炎症の際、神経がプロスタグランジンなどによって刺激されるので、痛みが生じる。この痛みによって、私たちは体の異常を感知できる。

また、炎症によって体温が上がるので、雑菌の繁殖が抑えられ、さらに白血球などが活性化する。

  • 参考: 鎮痛剤の「アスピリン」 (※ 化学!、化学II で、アスピリンとその鎮痛作用を扱う。下記の説明は高校範囲外。)

鎮痛剤の「アスピリン」(主成分:アセチルサリチル酸。「アスピリン」は商品名)という医薬品は、このプロスタグランジンの合成を阻害することで、鎮痛作用を及ぼすという仕組みであることが、すでに分かっている。プロスタグランジンを合成する酵素のシクロオキシゲナーゼ(略称:COX)の働きを、アスピリンが阻害することで、プロスタグランジンの合成が阻害されるという仕組みである。そして、プロスタグランジンには、いくつもの種類があるので、種類によっては、痛みの機能以外にも、胃液の分泌調整や、睡眠の調整などの様々な機能を持っている。

なので、プロスタグランジンの阻害をする薬では、胃液の分泌異常などの副作用が起きる場合がある。


  • 体液の酸性

だ液(saliva)は弱酸性、胃液は強酸性などのように、外界と接する体液は、中性ではない体液によって、雑菌の繁殖を防いでいる。

獲得免疫

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獲得免疫には、後述する「体液性免疫」(たいえきせい めんえき、humoral immunity)がある。

なお「細胞性免疫」(さいぼうせい めんえき、cell-mediated immunity)とは、キラーT細胞によって生じる免疫のこと。キラーT細胞は、トリからファブリキウス嚢を除去しても働く[2]ので、細胞性免疫を獲得免疫に含めるかどうか微妙であるが、とりあえず冒頭では言及だけしておく。

(※ 範囲外:) 結核や一部のウイルス感染症に対しては、後述の「抗体」よりも「キラーT細胞」のほうが役割が大きい[3]と言う説がある。一方、結核にはBCGやツベルクリンなどのワクチンがある。なので、キラーT細胞は考えようによっては、獲得免疫に含める事もできるかもしれないが、しかしキラーT細胞の獲得免疫的な性質についてはまだ研究途上の分野なので、分類は微妙ではある。


体液性免疫
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免疫グロブリンの構造

免疫グロブリンは、血液などの体液中に含まれている。

体液性免疫は、リンパ球の一部であるB細胞が、免疫グロブリンといわれる抗体(こうたい、antibody)を作り行う。抗体は免疫グロブリン(immunoglobulin、Igと略記)というタンパク質で構成されている。

いっぽう、病原体などの異物に対して抗体が作られた時、その異物を抗原(こうげん、antigen)と呼ぶ。 抗原と抗体が反応することを抗原抗体反応(antigen-antibody reaction)と呼ぶ。

病原体などの抗原は、抗体と結合することで、毒性が低下し、また凝集するので、白血球による食作用を受けやすくなる。

免疫グロブリンによる免疫は、体液中の抗体による免疫なので、体液性免疫という。

  • 免疫グロブリンの構造と機能

免疫グロブリンはY字型をしたタンパク質である。 免疫グロブリンの構造は、H鎖とL鎖といわれる2種類のポリペプチドが2個ずつ結合した構造になっている。図のように、免疫グロブリンは、合計4本のポリペプチドから構成されている。

H鎖とL鎖の先端部には可変部(かへんぶ、variable region)という抗体ごとに(免疫グロブリンの可変部の)アミノ酸配列の変わる部分があり、この部分(可変部)が特定の抗原と結合する。そして免疫グロブリンの可変部が抗原と結合することにより、免疫機能は抗原を認識して、一連の免疫反応をする。可変部の配列によって、認識する抗原の構造が異なる。

1種類の抗原に対応する抗体は1種類だけであるが、しかし上述のように可変部が変わりうるので、多種多様な抗原に対応できる仕組みになっている。

免疫グロブリンの構造において、可変部以外のほかの部分は定常部(ていじょうぶ、constant region)という。 また、H鎖同士、H鎖とL鎖はジスルフィド(S-S)結合でつながっている。


  • 体液性免疫の仕組み

そもそも免疫グロブリンはB細胞で産生される。免疫グロブリンの可変部の遺伝子も、そもそもB細胞の遺伝子が断片的に選択されて組み合わせされたものである。このような遺伝子配列の組み合わせによって、配列のパターンが膨大に増えて何百万とおりにもなるので、このような仕組みによって多種多様な病原体(抗原)に対応している。

より細かく言うと、下記のような順序で、産生される。

樹状細胞などの食作用によって分解された断片が、抗原として提示される(抗原提示)。 そして、その抗原が、ヘルパーT細胞(ヘルパーティーさいぼう、helper T cell)によって認識される。

抗原を認識したヘルパーT細胞は活性化し、B細胞(ビーさいぼう)の増殖を促進する。 増殖したB細胞が、抗体産生細胞(こうたい さんせいさいぼう)へと分化する。

そして抗体産生細胞が、抗体として免疫グロブリンを産生する。

この抗体が、抗原と特異的に結合する(抗原抗体反応)。

抗原抗体反応によって、抗体と結合された抗原は毒性が弱まり、またマクロファージによって認識されやすくなり、マクロファージの食作用によって抗原が分解されるようになる。

  • 利根川進(とねがわ すすむ)の業績

ヒトの遺伝子は数万種類であるといわれているが(※ 参考文献: 東京書籍の教科書、平成24検定版)、しかし抗体の種類はそれを膨大に上回り、抗体は数百万種類ていどにも対応する。

その仕組みは、B細胞の遺伝子から、選択的に抗体の遺伝子が選ばれるという仕組みになっている。この辺の抗体の種類の計算の仕組みは、1970年代ごろに日本人の生物学者の利根川進などによって研究されており、1987年には利根川進(とねがわ すすむ)はこの業績でノーベル医学・生理学賞を受賞した。


定常部は実は定常ではない

ここでいう「可変部」とは、免疫グロブリンのY形の2股の先端部分のことである。

実は、先端以外の、H鎖の「定常部」も、ヘルパーT細胞やサイトカインなどの働きによって形状・構造の変化することが遅くとも1970年代には分かっている。

定説では(一般の動物では?)、免疫グロブリンには5種類あり、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類のクラスがある。(免疫グロブリンの記法は、 Igなんとか のような記号で表すのが一般的である。)

定常部の変化によって免疫グロブリンの種類(クラス)が変わることをクラススイッチという。


いっぽう、「可変部」の変化による組み合わせの種類は数百万~数千万ほどの無数にあるし、実際に抗原に結合する(と考えられる)接触部分は「可変部」である。

(※ 可変部の組み合わせの個数を「数百万~数千万」とした根拠は、たとえば羊土社『基礎から学ぶ生物学・細胞生物学』和田勝 著、第7版、229ページ、 で無数の抗体の個数の一例として「100万個の抗体」という語句があるので、それを参考にした。)
なお 東京化学同人『免疫学の基礎』、小山次郎、第4版、40ページ では、B細胞クローンの(抗体の)種類として、「106~108」(百万~1億)という数字をあげている。

なので、高校の段階では、「可変部」の変化だけを教えることも、それなりに合理的である。

また、クラススイッチの現象が起きて、ある抗体のクラスがスイッチされても、抗体の可変部は前のままであるので、抗原特異性は変わらない。(参考文献: 東京化学同人『ストライヤー生科学』、Jeremy M.Bergほか著、入村達郎ほか訳、第7版、928ページ。)


なお、クラススイッチの発見者・研究者でもある本庶 佑(ほんじょ たすく、1942年 - )が、2018年のノーベル賞を受賞した。ただし、受賞内容の研究は、これとは違う研究テーマである。(時事的な話題であるが、大学レベルの免疫学の教科書では、かなり前からクラススイッチは紹介されている。)

クラススイッチについては、AIDと呼ばれる酵素・因子が関わることなどが分かっているが(※ 参考文献: 東京化学同人『分子細胞生物学 第7版』、Lodishほか著、石浦章一ほか訳、 ・・・では、「AID」を酵素として紹介している。)、まだ分子機構に未解明の部分が多いので、高校生は単にこういう現象がある事を知っていればいい。


定常部は、その名に反して、あまり定常ではないのである。

「可変部」だの「定常部」だの、歴史的な経緯により、そういう名前がつけられてしまっているが、あまり実態を反映してないので、名前だけを鵜呑みにしないように気をつけよう。


ABO式血液型
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輸血は、血液型が同じ型どうしで輸血するの通常である。

赤血球表面に、抗原にあたる凝集原(ぎょうしゅうげん)AまたはBがある。なお、凝集原の正体は糖鎖である。

血清中に、抗体にあたる凝集素のαまたはβがある。この抗体は、病気の有無に関わらず、生まれつき持っている抗体である。

凝集原と凝集素との組み合わせによって、4つの型に分類される。

ABO式血液型の凝集原と凝集素
  凝集原(抗原) 凝集素(抗体)
A型  A  β
B型  B  α  
AB型   AB  なし
O型    なし  α、β

Aとαが共存すると凝集する。 Bとβが共存すると凝集する。

たとえばA型の血をB型のヒトに輸血すると、赤血球が凝集してしまうので、輸血するのは危険である。

A型の糖鎖は、H型糖鎖という糖鎖の末端にNアセチルガラクトースアミン(GalNa)が結合している。 B型は、H型糖鎖という糖鎖の末端にガラクトース(Gal)が結合している。 AB型は、この両方の糖鎖が細胞膜にある。O型の糖鎖はH型糖鎖そのものだけである。

細胞性免疫
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トリからファブリキウス嚢を除去してもウイルス感染しない。このため、抗体とは別にウイルスを除去する機構がある事が分かっている[4]

そのような抗体とは別のウイルス除去機構の一つとして、キラーT細胞というものがある。

(※ 範囲外: )なお一方で、動物から胸腺を除去することでT細胞を産生・分化できなくすると、B細胞も産生できなくなる[5]


ともかく細胞性免疫について、下記のキラーというものがある。

抗原提示されたヘルパーT細胞は、キラーT細胞(killer T cell)とよばれるT細胞を増殖させる。 キラーT細胞は、ウイルスに感染された自己の細胞を攻撃するが、移植細胞や がん細胞 も攻撃することもある。

細胞性免疫は、キラーT細胞が、抗原を直接攻撃して行う。

臓器移植や皮膚移植などで別の個体の臓器や皮膚などを移植すると、たとえ同種の個体からの移植でも、普通、定着しないで脱落する。これを拒絶反応という。これは細胞性免疫によって異物として移植臓器が認識され、キラーT細胞によって攻撃されたためである。

細胞膜の表面には、MHC主要組織適合性複合体、Major Histocompatibility Complex)というタンパク質がある。臓器移植で拒絶反応が起きる場合は、MHCが異なる場合であり、キラーT細胞が移植臓器を攻撃しているのである。

※ 説明の簡単化のため、ヒトのMHCを想定して解説する。

MHCは個人ごとに異なるので、普通、他人とは一致しない。

T細胞は、相手方細胞の表面にあるMHCを認識している。つまりMHCの違いによって、ヘルパーT細胞が自己と非自己を認識する。そしてヘルパーT細胞が非自己の物質が侵入したことを感知して、キラーT細胞を活性化させる。


なお、ヒトでは、ヒトの白血球の細胞表面にあるヒト白血球型抗原HLA、Human Leukocyte Antigen)がMHCとして機能する。血縁関係の無い他人どうしで、HLAが一致する確率は、ほとんど無い。同じ親から生まれた兄弟間で、HLAの一致は4分の1の確率である。移植手術の際、これらの免疫を抑制する必要があり、免疫抑制のために、あるカビから精製した「シクロスポリン」(ciclosporin)という名前の薬剤が、よく免疫抑制剤(めんえきよくせいざい)として使われる。(※ シクロスポリンはいちおう、高校の教科書で紹介されている。)[6] [7]

(※ 範囲外: )シクロスポリンと名前の似ている物質で、抗生物質の「セファロスポリン」があるので、混同しないように。
(※ 範囲外: )妊娠歴のある女性や輸血を受けた経歴のある人には、免疫抑制剤が効かなくなる場合がある[8]。※ 高校教育的には、高校でこういう例外的な専門知識まで教えるわけにはいかないので、現在の高校理科ではあまり免疫抑制剤について教えてないことにも、それなりの理由がある。

臓器移植など移植手術での拒絶反応が起きる際の理由も、MHC(ヒトの場合はHLA)が異なって、T細胞が移植片を非自己と認識するからである(※ 参考文献: 第一学習社『高等学校生物』、24年検定版、26年発行、58ページ)、と考えられている。

なおシクロスポリンは、T細胞によるサイトカイン(このサイトカインは細胞性免疫の情報伝達に関わる物質の一種であり、キラーT細胞などの他の免疫細胞を活性化させる役割を持っている)の産生を阻害することにより、細胞性免疫の作用を抑制している。(※ サイトカインは高校の範囲内)

※ 「サイトカイニン」(植物ホルモンの一種)と「サイトカイン」は全く異なる別物質である。
※ 検定教科箇所では、MHCの和訳を「主要組織適合性複合体」というかわりに「主要組織適合抗原」などという場合もある。大学の教科書でも、教科書出版社によって、どちらの表現を用いているかが異なっており、統一されていない。たとえば東京化学同人『免疫学の基礎』では「主要組織適合抗原系」という表現を用いている。羊土社『理系総合のための生命科学』では、「主要組織適合性複合体」を用いている。
※ 余談だが、ヒトのHLA遺伝子の場所は解明されており、第6染色体に6対の領域(つまり12か所の領域)があることが分かっている。高校教科書でも図表などで紹介されている(※ 数年出版や第一学習者の教科書など)。(※ 入試にはまず出ないだろうから、暗記しなくて良いだろう。)
いきなり「HLA遺伝子」と言う用語を使ったが、もちろん意味は、HLAを発現する遺伝子のことである。HLA遺伝子の対立遺伝子の数はけっこう多く、そのため、血縁者ではない他人どうしでは、まず一致しないのが通常である(※ 参考文献: 数研出版の教科書)、と考えられている。いっぽう、一卵性双生児では、HLAは一致する(※ 啓林館の教科書)、と考えられている。
(※ 範囲外 :) 医学的な背景として、一卵性双生児では、移植手術の拒絶反応が起きづらいことが、実験的事実であるとして、知られている。
また、医学書などでは、このような一卵性双生児の拒絶反応の起きづらい理由として、MHCが一致しているからだ、と結論づけている(※ 専門書による確認: 『標準免疫学』(医学書院、第3版、42ページ、ページ左段) に、MHCが同じ一卵性双生児では移植の拒絶反応が起きないという主旨の記述あり。)
高校教科書の啓林館の教科書が、一卵性双生児にこだわるのは、こういう医学的な背景があるためだろう。
なお、移植手術の歴史は以外と新しく、1950年代に人類初の、ヒトの移植手術が行われている。いっぽう、MHCの発見は、1940年代にマウスのMHC(マウスの場合はH-2抗原という)が発見されていた。
(※ 範囲外 :) 余談だが、胎児は母体とMHCが違うにもかかわらず、胎内では免疫反応は起きない。胎盤が抗体の進入を防いでいると考えられている[9]
※ 余談: (※ 覚えなくていい。一部の教科書にある発展的な記述。)
MHCが糖タンパク質であることが分かっている(※ 数研出版の教科書で紹介)。MHCには主に2種類あり、クラスIとクラスIIに分類される(※ 数研出版の教科書で紹介)。
MHCの先端には、体内に侵入してきた病原体など有機の異物のタンパク質を分解した断片が、くっつけられ、提示される仕組みである(※ 第一学習社の教科書で紹介)。これによって、MHCからT細胞に情報を送る仕組みである。そして、有機の異物が侵入してない場合にも、MHCの先端には自己のタンパク質を分解した断片がくっつけられており、提示されている。自己タンパク質断片の提示される場合では、T細胞は提示された細胞を自己と認識するので、その場合にはT細胞は活性化されないという仕組みである。
(※ 調査中:) 侵入した異物がタンパク質やアミノ酸などを含まない場合の異物についてはどうか、専門書を見ても、書かれていない。文献では、異物として、細菌やウイルスを構成するタンパク質を想定している文献ばかりだが、「では、栄養素などを構成するタンパク質やアミノ酸も、細胞は異物として認識するために細胞表面に抗原として提示するのかどうか?」については、残念ながら調査した文献の範囲内では書かれていなかった。)


「MHC分子」や「MHC遺伝子」などの用語
MHCとT細胞受容体

検定教科書には、あまり無い用語なのだが、入試過去問などでMHCについて、「MHC分子」および「MHC遺伝子」という用語がある。(※ 旺文社の標準問題精講あたりで発見。実は実教出版の検定教科書『生物基礎』に「MHC分子」だけ用語がある。)

この用語はどういう意味かと言うと、「MHC分子」とは、MHCの機能の受容体などに相当する、細胞膜表面のタンパク質のことである。

検定教科書や参考書のイラストなどで、細胞膜の表面にある受容体のようなものによく(※ 正確には、受容体ではなく、MHCの結合相手のT細胞受容体に結合する(MHCにおける)「リガンド」(※ 大学生物学の用語なので暗記は不要)だが)、単に「MHC」と明記してあるが、「MHC分子」とはその受容体っぽいものの事である。つまり、教科書イラストにある「MHC」が「MHC分子」の事である。

数研出版『生物基礎』の教科書では、「MHC抗原」と言ってる部分が、実教出版のいう「MHC分子」のことである。なお、東京書籍『生物』(専門生物)では、「MHCタンパク質」と言ってる部分でもある。

つまり、公式っぽくイコール記号で表せば

MHC抗原 = MHC分子 = MHCタンパク質

となる。

「分子」と言っても、けっして化学のH2O分子とかCO2分子のような意味ではない。


いっぽう、「MHC遺伝子」とは、MHC分子を作らせる遺伝子のこと。


歴史的には、「MHC」は用語の意味が微妙に変わっていき、もともとの「MHC」の意味は今で言う「MHC遺伝子」の意味だったのだが、しかし、次第に研究が進んだり普及するうちに、「MHC」だけだと読み手に混乱を起こすので、日本では意味に応じて「MHC分子」または「MHC遺伝子」などと使い分けるようになっている。

細胞膜のMHCのタンパク質部分の呼び名は英語が MHC molecule という言い方が主流なので、それを直訳すると「MHC分子」になるのだが(大学教科書でも「MHC分子」と表現している教材が多い)、しかしハッキリ言って、「分子」という表現は(少なくとも日本では、)やや誤解を招きやすい。(だから日本の高校教科書では、「MHC抗原」とか「MHCタンパク質」とか、いくつかの出版社がそういう言い方にしているのだろう。

なお、グーグル検索すると、 MHC antigen (直訳すると MHC 抗原)という表現も少々、出てくる。


さて、専門書だと、遺伝子のほうを単に「MHC」でゴリ押ししている書籍もあるが、しかし高校生むけの教材なら、遺伝子のほうを表すなら「MHC遺伝子」と説明するほうが合理的だろう。(だから旺文社の参考書でも「MHC遺伝子」表記になっているわけだ。)


「T細胞受容体」
(※ ほぼ範囲外)

T細胞には、MHCを認識する受容体がある。なお、T細胞には多くの種類の受容体があり、MHCを認識する受容体以外にも、異なる機能をもった受容体が、いくつもある。

T細胞に存在する、抗原を認識する受容体のことをT細胞受容体(TCR)という。(※ いちおう、東京書籍と第一学習社の高校教科書にTCRの紹介があるが、他社の教科書には見られない。

※ じつは「T細胞受容体」「TCR」の意味が、まだ専門家どうしにも統一していないようだ。現状、大きく分けて2種類の意味がある。
・意味1: 文字通り、T細胞にある、抗原を認識するための受容体の総称。・・・という意味
・意味2: MHCを認識する種類の受容体。・・・という意味

高校の検定教科書(東書、第一)では、主に「MHCを認識する種類の受容体。」の意味で使われている。

※ 高校卒業以降の生物学の勉強のさいは、どちらの意味なのか、文脈から判断すること。大学レベルの教科書などを見ると、たとえば書籍の最初のほうではMHCを認識するタンパク質の意味として「TCR」を使っていたのに、書籍中の後半部で、T細胞の受容体の総称としての意味に「TCR」が変わっていたりする場合もある。(このように、意味が不統一なので、おそらく、あまり入試にTCRは出ないだろう。もし出るとしても、ここは暗記の必要は無いだろう。)

なお、MHCをもつ一般の細胞は、病原体や非自己の有機物が入ってきたとき、それを分解して得られたタンパク質をMHCの上に乗せる。MHCに非自己のタンパク質が乗ったとき、T細胞側の受容体が、MHC と MHCの乗ったタンパク質 を抗原として認識する。


B細胞のBCR

なお、B細胞の表面にある「BCR」と呼ばれる「B細胞受容体」(B Ce Receptor)については、「BCR」とは抗原と結合する部分で、抗原との結合後にB細胞から分離して免疫グロブリンとして分泌されることになる部分のことである。やはりB細胞もT細胞と同様に、「B細胞受容体」と言っても、けっしてB細胞の受容体のことではないので、注意が必要である。つまり、B細胞では、細胞表面に免疫グロブリンの前駆体があり、抗原との結合後にそれが免疫グロブリンとして分離されるが、それが「BCR」と呼ばれる部分である[10]

  • ツベルクリン反応

結核菌のタンパク質を投与して、結核菌に対しての免疫記憶があるかどうかを検査するのがツベルクリン反応検査である。 結核菌への免疫があれば、炎症が起こり、赤く腫れる。この反応は細胞性免疫であり、ヘルパーT細胞やマクロファージの働きによるものである。

ツベルクリン反応をされて、赤く腫れる場合が陽性である。いっぽう、赤く腫れない場合が陰性である。 陰性のヒトは免疫が無いので、結核に感染する可能性があり、そのため免疫を獲得させるために弱毒化した結核菌が投与される。 BCGとは、この弱毒化した結核菌のことである。


  • インターロイキン (※ 実教出版『生物基礎』(平成24年検定版、147ページ)にインターロイキンの説明をするコラムあり。数研出版と啓林館の専門生物(生物II)にも、記述あり。)

免疫細胞では、インターロイキン(interleukin)というタンパク質が、主に情報伝達物質として働いている。インターロイキンには、多くの種類がある。

インターロイキンのうち、いくつかの種類のものについては、ヘルパーT細胞からインターロイキンが放出されており、免疫に関する情報伝達をしている。

体液性免疫では、ヘルパーT細胞から(ある種類の)インターロイキンが放出されて、B細胞に情報が伝わっている。こうしてB細胞は抗体産生細胞に変化する。

細胞性免疫では、ヘルパーT細胞が(ある種類の)インターロイキンを放出し、キラーT細胞やマクロファージなどに情報が伝わる。


なお、名前の似ている「インターフェロン」という物質があるが、これはウイルスに感染した細胞から放出され、周囲の未感染細胞にウイルスの増殖を抑える物質を作らせる。(※ チャート式生物(平成26年版)の範囲。)


  • 樹状細胞などの抗原提示について
MHCとT細胞受容体

マクロファージや樹状細胞も、病原体などを分解して、そのタンパク質断片を(マクロファージや樹状細胞の)細胞表面で抗原提示をして、ヘルパーT細胞を活性化する、・・・と考えられている。(※ 検定教科書では、MHCかどうかは、触れられてない。)

(※ まだ新しい分野でもあり、未解明のことも多く、高校生は、この分野には、あまり深入りしないほうが安全だろう。)

免疫記憶
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T細胞やB細胞の一部は攻撃に参加せず、記憶細胞として残り、抗原の記憶を維持する。そのため、もし同じ抗原が侵入しても、1回目の免疫反応よりも、すばやく認識でき、すばやくT細胞やB細胞などを増殖・分化できる。 このため、すぐに、より強い、免疫が発揮できる。

これを免疫記憶(immunological memory)と呼ぶ。

一度かかった感染病には、再びは、かかりにくくなる。 これはリンパ球の一部が免疫記憶として病原体の情報を記憶しているためである。

免疫記憶は予防接種としても利用されている。

免疫寛容
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免疫は、個体が未熟なときから存在する。成熟の課程で、リンパ球(T細胞)は、いったん多くの種類が作られ、あらゆる抗原に対応するので、自己の細胞も抗原と認識してしまうリンパ球もできる。いったん自分自身に免疫が働かないように、しかし、自己と反応したリンパ球は死んでいくので、個体の成熟の課程で、自己を排除しようとする不適切なリンパ球は取り除かれる。そして最終的に、自己とは反応しないリンパ球のみが、生き残る。

こうして、成熟の課程で、自己に対しての免疫が抑制される仕組みを免疫寛容(めんえき かんよう)という。

免疫寛容について、下記のことが分かっている。


まず、そもそも、T細胞もB細胞も、おおもとの原料となる細胞は、骨髄でつくられる。

骨髄で作られた未成熟T細胞は、血流にのって胸腺まで運ばれ、胸腺でT細胞として分化・増殖する。

膨大なT細胞が作られる際、いったん、あらゆる抗原に対応できるようにT細胞がつくられるので、作られたT細胞のなかには自己の細胞を抗原として認識してしまうものも存在している。

しかし、分化・成熟の過程で、自己を攻撃してしまうT細胞があれば、その(自己を攻撃する)T細胞は胸腺で取り除かれる。

このようにして、免疫寛容が達成される。


免疫の利用

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予防接種
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殺しておいた病原体、あるいは無毒化や弱毒化させておいた病原体などをワクチン(英: vaccine[11])という。このワクチンを、人間に接種すると、もとの病気に対しての抗体と免疫記憶を作らせることができるので、病気の予防になる。こうしてワクチンを接種して病気を予防することを予防接種という。

ワクチン療法の元祖は、18世紀なかばの医師ジェンナーによる、牛痘(ぎゅうとう)を利用した、天然痘(てんねんとう)の予防である。

天然痘は、死亡率が高く、ある世紀では、ヨーロッパ全土で100年間あたり6000万人もの人が死亡したとも言われている。天然痘はウイルスであることが、現在では知られている。

牛痘は牛に感染するが、人間にも感染する。人間に感染した場合、天然痘よりも症状は比較的軽い。 当事のヨーロッパで牛痘に感染した人は、天然痘には感染しにくい事が知られており、また牛痘に感染した人は天然痘に感染しても症状が軽い事が知られていた。このような話をジェンナーも聞いたようであり、牛の乳搾りをしていた農夫の女から聞いたらしい。

ジェンナーは、牛痘に感染した牛の膿を人間に接種することで、天然痘を予防する方法を開発した。

さらに19世紀末にパスツールがワクチンの手法を改良し、天然痘のワクチンを改良するとともに、狂犬病のワクチンなどを開発していった。 狂犬病はウイルスである。

現在では、天然痘のDNAおよび牛痘のDNAの解析がされており、天然痘と牛痘とは塩基配列が似ていることが分かっている。

1980年、世界保健機構(WHO)は、天然痘の根絶宣言を出した。


現在ではインフルエンザの予防にもワクチンが用いられている。インフルエンザには多くの型があり、年によって、流行している型がさまざまである。流行している型とは他の型のワクチンを接種しても、効果が無いのが普通である。

インフルエンザの感染は、鳥やブタやウマなどにも感染するのであり、けっしてヒトだけに感染するのではない。

インフルエンザはウイルスであり、細菌ではない。

インフルエンザのワクチンは、ニワトリの卵(鶏卵)の中で、インフルエンザウイルスを培養させた後、これを薬品処理して無毒化したものをワクチンとしている。このように薬品などで病原体を殺してあるワクチンを不活化ワクチンという。インフルエンザワクチンは不活化ワクチンである。いっぽう、結核の予防に用いられるBCGワクチンは、生きた弱毒結核菌である。BCGのように生きたワクチンを生ワクチンという。

1918年に世界的に流行したスペイン風邪も、インフルエンザである。

インフルエンザは変異しやすく、ブタなどに感染したインフルエンザが変異して、人間にも感染するようになる場合もある。

血清療法
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ウマやウサギなどの動物に、弱毒化した病原体や、弱毒化した毒素などを投与し、その抗体を作らせる。その動物の血液の中には、抗体が多量に含まれることになる。

血液を採取し、そして血球やフィブリンなどを分離し、血清を回収すると、その血清の中に抗体が含まれている。

マムシやハブなどの毒ヘビにかまれた場合の治療として、これらのヘビ毒に対応した血清の注射が用いられている。このように血清をもちいた治療法を血清療法(けっせいりょうほう)という。血清療法は、免疫記憶は作らないので、予防には役立たない。予防ではなく治療のために血清療法を行う。

ヘビ毒以外には、破傷風(はしょうふう)やジフテリアなどの治療にも血清が用いられる。

血清療法は、1890年ごろ、北里柴三郎が開発した。

白血病と骨髄移植
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(未記述)

病気と免疫

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アレルギー
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抗原抗体反応が過剰に起こることをアレルギー(allergy)と呼ぶ。スギ花粉などが原因で起きる花粉症もアレルギーの一つである。

アレルギーを引き起こす抗原をアレルゲン(allergen)と呼ぶ。

アレルギーによって、じんましんが起きるきともある。

ヒトによっては卵やソバやピーナッツなどの食品もアレルゲンになりうる。、

ダニやホコリなどもアレルゲンになりうる。


抗原抗体反応によって、呼吸困難や血圧低下などの強い症状が起きる場合もあり、または全身に炎症などの症状が現れたりする場合もあり、このような現象をアナフィラキシーという。

(つまり、アレルギー反応によって、呼吸困難や血圧低下などの強い症状が起きる場合や、または全身に炎症などの症状が現れたりする場合もあり、このような現象をアナフィラキシーという。)

ハチ毒で、まれにアナフィラキシーが起きる場合がある。ペニシリン(penicillin [12])などの薬剤でもアナフィラキシーが起きる場合がある。

※ 「アナフィラキシー・ショック」(anaphylactic shock)と書いても、正しい。(※ 東京書籍の検定教科書『生物基礎』平成23年検定版、124ページでは「アナフィラキシーショック」の用語で紹介している。)


また、医学用語でも「アナフィラキシーショック」は使われる。(※ 参考文献: 医学書院『標準生理学 第8版』、657ページ、監修: 小澤 瀞司/福田 康一郎、発行:2015年8月1日。 『標準生理学』にて「アナフィラキシーショック」の用語を利用している。)欧米では薬学書として権威的な「カッツング薬理学」シリーズの『カッツング薬理学 原書第10版』和訳版にも「アナフィラキシ-ショック」という用語がある[13]。どうやら、けっして「アナフィラキシ-ショック」日本独自の造語ではなく、欧米でも「アナフィラキ-ショック」という用語は使われるようである。

※ 「アナフィラキシー」の結果が、血圧低下なのか、それとも炎症なのかの説明が、検定教科書でもハッキリしていない。東京書籍の教科書では、全身の炎症を「アナフィラキシーショック」の症状として説明している。だが実教出版では、血圧低下や呼吸困難を、「アナフィラキシー」の結果としているし、「アナフィラキシーショック」とはアナフィラキシーの重症化した症状だと(実教出版は)説明している。カッツング薬理学を読んでも、「アナフィラキシ-ショック」と「アナフィラキシー」がどう違うのか、あまり明確には書いてないので、高校生は気にしなくて良い[14]


※ 「ショック」という用語が医学用語で意味をもつが、高校理科の範囲外なので、あまり「アナフィラキシーショック」の用語には深入りしなくていい。「アナフィラキシー」で覚えておけば、大学入試対策では、じゅうぶんだろう。
医学などでも、語尾に「ショック」のついてない「アナフィラキシー」という表現もよく使われるので、高校生は「アナフィラキシー」、「アナフィラキシーショック」の両方の言い回しとも覚えておこう。
HIV
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エイズ後天性免疫不全症候群AIDS)の原因であるHIVヒト免疫不全ウイルス)というウイルスは、ヘルパーT細胞に感染して、ヘルパーT細胞を破壊する。ヘルパーT細胞は免疫をつかさどる細胞である。そのため、エイズ患者の免疫機能が壊れ、さまざまな病原体に感染しやすくなってしまう。エイズ患者ではヘルパーT細胞が壊れているため、B細胞が抗体をつくることが出来ない。

ふつうのヒトでは発病しない弱毒の病原体でも、エイズ患者では免疫機能が無いため発症することもあり、このことを日和見感染(ひよりみ かんせん、opportunistic infection)という。

HIVとは Human Immunodeficiency Virus の略。 AIDSとは Acquired Immune Deficiency Syndrome の略。

HIVの遺伝子は変化をしやすく、そのため抗体を作成しても、遺伝子が変化しているので効果が無く、ワクチンが効かない。開発されているエイズ治療薬は、ウイルスの増加を抑えるだけである。

よって、予防が大事である。

自己免疫疾患
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自己の組織や器官に対して、免疫が働いてしまい、その結果、病気が起きることを自己免疫疾患という。

関節リウマチ(rheumatoid arthritis)、重症筋無力症(myasthenia gravis)は自己免疫疾患である。I型糖尿病も自己免疫疾患である。

(※ ほぼ範囲外?)甲状腺ホルモンの分泌過剰の病気であるバセドウ病(Basedow's Disease)の原因は、おそらく自己免疫疾患という説が有力である。書籍によってはバセドウ病は自己免疫疾患だと断定している。
自己免疫疾患で、自己の甲状腺刺激ホルモンに対して抗体が作られてしまい、その抗体が甲状腺刺激ホルモンと似た作用を示し、抗体が甲状腺の受容体と結合して甲状腺ホルモンが過剰に分泌される、という仕組みがバセドウ病の原因として有力である。
バセドウ病の症状では、眼球が突出するという症状がある。

その他

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ヒトの汗や鼻水や涙にはリゾチームという酵素があり、リゾチームは細菌の細胞壁を破壊する。[15]


(※ 範囲外) 「T細胞」と「B細胞」の名前の由来
※ 啓発林館の生物基礎など。

「T細胞」のTの語源は胸腺(Thymus)である。

「B細胞」の語源は、ニワトリなど鳥類にあるファブリキウス嚢(Bursa of Fabricus)である。研究の当初、まずニワトリのファブリキウス嚢が、ニワトリでは抗体産生に必要なことがわかった。また、ファブリキウス嚢を失ったニワトリは、抗体産生をしないことも分かった。

のちに、哺乳類では骨髄(Bone Marrow)でB細胞がつくられることが分かったが、偶然、Boneも頭文字がBであったので、名前を変える必要は無かったので、現代でもそのままB細胞と呼ばれている。

なお、動物実験で、ニワトリの(ファブリキウス嚢ではなく)胸腺を摘出した場合、この胸腺なしニワトリに(他の個体の皮膚を)皮膚移植をすれば他の個体の皮膚が定着する。

あるいは遺伝的に胸腺の無いヌードマウスなど、胸腺の無い個体の場合、拒絶反応が起きない。(第一学習社の「生物基礎」教科書で、遺伝的に胸腺の無いヌードマウスの皮膚移植を紹介。)

肝臓とその働き

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ヒトの肝臓(liver)、腎臓(kidney)

肝臓(かんぞう、liver)は腹部の右上に位置する最も大きな臓器であり、ヒトの成人では1kg以上の重さがあり、約1200g~2000gである。肝小葉(かんしょうよう)という基本単位が約50万個、集まって、肝臓が出来ている。心臓から出た血液の約4分の1は、肝臓に入る。 肝臓の働きは、栄養分の貯蔵や分解、有害な物質の解毒、不要な物質を胆汁(たんじゅう、bile)として捨てる、などを行っている。

肝臓には肝動脈と肝静脈のほかに、腸からの静脈の血管である肝門脈(かんもんみゃく)が肝臓を通っている。 腸で吸収されたグルコースやアミノ酸などの栄養が関門脈の中を流れる血液に含まれている。


  • 血糖値の調節

グルコースの一部は肝臓でグリコーゲンへと合成され貯蔵される。グリコーゲンは必要に応じてグルコースに分解されて、エネルギー源として消費される。このようにして、血液中のグルコースの量や濃度(血糖値、血糖量)が、一定に保たれる。

  • タンパク質の合成・分解

肝臓では血しょうの主なタンパク質のアルブミン(albumin)を合成しており、また血しょう中の血液凝固に関するタンパク質であるフィビリノーゲンも肝臓で合成している。

  • 尿素の合成

タンパク質の合成にはアンモニアなど有害な物質が生成するが、肝臓はアンモニアを毒性の低い尿素(にょうそ)に変えている。尿素は腎臓(じんぞう)に集められ、膀胱(ぼうこう)を経て、尿道から体外へと排出される。

(※編集者へ ここに「オルチニン回路」の図を追加してください。)

哺乳類や両生類では、アンモニアを尿素に変えてから排出する。なお、魚類は生成したアンモニアを直接、外部に放出している。まわりに水が多いため、アンモニアを直接排出しても害が少ないため、と考えられてる。鳥類やハ虫類では、尿素ではなく尿酸を合成しており、尿酸を排出する。鳥類とハ虫類とも、陸で生まれて、かたい卵で生まれる動物である。

  • アルコールなどの分解

そのほか有害な物質の解毒の例としては、アルコールを分解したりしている。

  • 胆汁

胆汁は肝臓で作られており、胆汁は胆管(bile duct)を通り、胆のう(gallbladder)へ貯蔵され、十二指腸(duodenum)へ分泌される。 胆汁は脂肪を消化吸収しやすくする。胆汁に消化酵素は含まれていない。胆汁は脂肪を小さな粒に変える。このように脂肪を小さな粒に変えることを乳化(にゅうか)という。

  • 古くなった赤血球の破壊

古くなった赤血球を破壊する。ヒトの胆汁中に含まれる色素のピリルビンは、古くなって破壊した赤血球に含まれていたヘモグロビンに由来している。便(大便)とともに、ピリルビンは排出される。

  • 体温の維持

合成・分解など様々な化学反応が行われるため、反応熱が発生し、体温の維持にも役立っている。

腎臓とその働き

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ヒトなどの高等な動物の場合、腎臓(kidney)は左右一対で背側に位置し、 腎動脈(Renal artery)、腎静脈(renal vein)、輸尿管(ureter)が伸びている。 血液は腎動脈・腎臓・腎静脈を通り、 腎臓は血液中の不要な成分をろ過し尿として輸尿管・膀胱(ぼうこう、bladder)・尿道(にょうどう、urethra)を通り排出する。

ネフロン
1. 腎小体, 5~9あたりは集合管  赤い血管は動脈 青い血管は静脈。  図のように毛細血管が集合している。
(※編集者へ あとで、他の簡略図に差し替えてください。)

腎臓にはネフロン(nephron)と呼ばれる構造上の単位があり、 ネフロンは腎小体(じんしょうたい、renal corpuscle、マルピーギ小体)と細尿管(さいにょうかん、尿細管、腎細管, renal tubule)からなり、 片方の腎臓あたり、ネフロンは約100万個ある。

腎小体は、毛細血管が球状に密集している糸球体(しきゅうたい、glomerulus)と、それを囲むボーマンのう(Bowman's capsule)からなる。


腎臓の働きと再吸収

タンパク質以外の血漿は糸球体からボーマンのうに ろ過 されて 原尿(げんにょう、primary urine)となり、 原尿は細尿管で、水の再吸収と、グルコースや無機塩類などの必要な成分が再吸収される。(「再吸収」も用語) グルコースは、健康なら、すべて(100%)吸収される。これらの再吸収は、ATPのエネルギーを用いた能動輸送である。

グルコ-ス以外の、水や無機塩類の再吸収率は、体の状況に応じて再吸収率が調節されている。原則的に、血液の塩類濃度を一定に保とうとする方向に、水や塩類の再吸収率は調節されている。この再吸収率の調整の際、ホルモンが関わっている。

原尿は集合管(しゅうごうかん、collecting duct)を通り、ここで水分が再吸収される。ナトリウムイオンは、腎細管でほとんどが再吸収される。その結果、原尿のナトリウム濃度は低い。

尿素は不要なため、再吸収されない。

そして原尿から水分が吸収されたことで、残された尿素などの老廃物や再吸収されなかったものが濃縮して尿(にょう、urine)となり、体外へ尿として排出される。なお尿素は肝臓で作られる。

ボーマンのうでこし出される原尿は、ヒトの成人男性では1日あたり約170Lもあるが、その大部分は再吸収されるので、最終的に対外に尿として排出される液量は1L~2Lほどになる。99%ほど濃縮されたことになる。


  • 再吸収とホルモンとの関係

ヒトなどの場合、血液中の塩分濃度が低いと、Naの再吸収がホルモンによって促進される。このホルモンは鉱質コルチコイド(mineral corticoid)という。腎細管でほとんどのナトリウムが再吸収される。鉱質コルチコイドは副腎皮質から分泌されている。


水の再吸収については、脳下垂体からバソプレシン(vasopressin)というホルモンが分泌されることによって、集合管での水の再吸収が促進される。 塩類の過剰な摂取などで、血液中の塩類濃度が上昇して体液の浸透圧が上がったときにも、バソプレシンによって水の再吸収が促進され、塩類濃度を下げさせる。水が吸収された結果、尿の液量は少なくなり、尿は濃くなる。

※参考  このように尿量を減らす作用がバソプレシンにあるため、バソプレシンは「抗利尿ホルモン」(ADH)とも呼ばれる。[16](※ 検定教科書での「抗利尿ホルモン」の記載を確認。) 専門書などでは「抗利尿ホルモン」の名称のほうを紹介している場合もある。
  • 再吸収の計算例とイヌリン



水中生物の塩類濃度調節

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脊椎動物の場合

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  • 淡水魚の場合

淡水(たんすい)とは、川や湖のように、塩分をあまり含まない水のことである。海水は、淡水ではない。淡水魚の場合、体内の塩分を失わせないため、淡水魚は水をほとんど飲まない。淡水魚の えら は、塩分を吸収しやすい特殊な作りになっている。

  • 海水魚の場合

体内の水分を確保するため、まず海水を飲んで塩ごと水分を補給し、そして、えら から塩分を排出することで、体内の水分を確保している。

体液の塩類濃度が海水よりも低いのが一般である(体液が低張液、海水が高張液)。そのため、浸透によって水分が海水に取られてしまう傾向にある。サメやエイなどの硬骨魚類では、体液中に尿素を溶かすことで体液の塩類濃度を上げることで浸透圧を高めており、体液の浸透圧を海水の浸透圧に近づけている。


  • ウミガメの場合

水分の補給は、海水だけを飲むのだが、余分な塩分を排出する塩類腺(せんるいせん)を持ち、塩類腺から、塩分のたかい液体を排出している。腺の場所はウミガメの場合、目のところに腺があるので、陸上で観察すると、あたかも涙を流しているように見える。

  • 海鳥

アホウドリなどの海鳥は、鼻のところに塩類腺(せんるいせん)を持つ。


無脊椎動物の場合

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多くの無脊椎動物では、海に暮らす動物の場合でも、いっぽう川に暮らす動物の場合でも、あまり塩類濃度の調節機構が発達していない。

例外的に、いくつかの生物では発達している。

カニの場合
  • モズクガニ
川と海を行き来する。浸透圧の調節機構が発達している。
  • ケアシガニ
外洋のみで暮らす。あまり塩類濃度の調節機構が発達していない。
  • ミドリイサ ガザミ (カニの一種)
河口付近に生息。浸透圧の調節機構が発達している。

ゾウリムシの場合
収縮胞で余分な水を排出する。ゾウリムシは淡水に住む。

ホルモン

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ホルモン(hormone)とは、内分泌腺(ないぶんぴせん)という器官から血液へ分泌される物質であり、他の器官に情報を伝える化学物質である。ホルモンは血液によって全身へと運ばれる。そして、特定の器官へホルモンは作用する。脳下垂体甲状腺すい蔵などが内分泌腺である。

ホルモンは自律神経に比べて、反応が現れるまでに時間がかかり、比較的遅く、全身へ作用する。ホルモンの主な成分は、タンパク質や脂質やアミノ酸である。このように脂質は、ホルモンの成分として、情報を全身に伝える役目も持っている。脂質は、けっして単にエネルギー源なだけではないのである。

おもなホルモンのはたらき
 内分泌 ホルモン はたらき
視床下部  放出ホルモン  脳下垂体のホルモン分泌の調整



前葉  成長ホルモン  成長の促進。タンパク質の合成を促進。
血糖値をあげる。
甲状腺刺激ホルモン  チロキシン(甲状腺ホルモン)の分泌を促進。
副腎皮質刺激ホルモン 糖質コルチコイドの分泌を促進。
後葉  バソプレシン  腎臓での水分の再吸収を促進。
血圧の上昇。
甲状腺  チロキシン  体内の化学反応を促進。
副甲状腺  パラトルモン  血液中のカルシウムイオン濃度を増加。
すい臓 A細胞  グルカゴン  血糖値を上げる。
B細胞  インスリン  血糖値を下げる。
副腎 髄質  アドレナリン  血糖値を上げる。
皮質  糖質コルチコイド  血糖値を上げる。
 鉱質コルチコイド  血液中の無機塩類イオン濃度(Na+とK+)の調節。
  • 外分泌腺

いっぽう汗のように体外へ物質を分泌する腺を外分泌腺(がいぶんぴせん)という。外分泌腺には、汗を分泌する汗腺、だ液を分泌する だ腺、乳を分泌する乳腺、などがある。


*交感神経と副交感神経

自律神経系のはたらき
 器官 交感神経の作用 副交感神経の作用
ひとみ  拡大  縮小
心臓(拍動)  促進  抑制
血圧  上げる  下げる
気管支  拡張  収縮
胃腸(ぜん動)  抑制  促進
すい臓
(すい液の分泌)
 抑制  促進
立毛筋  収縮  (分布していない)
排尿(ぼうこう)  抑制  促進

自律神経(autonomic nerve)は、意思とは無関係に、他の器官に情報を伝える神経である。 自律神経はホルモンに比べて、比較的早く、局所へ作用する。 自律神経には、働きの異なる二つの神経系があり、交感神経(こうかんしねけい、sympathetic nerve)と副交感神経(ふくこうかんしんけい、parasympathetic nerve)とに分けられる。

交感神経は、敵と戦うなどの身体が活動的なときや緊張状態のときに働く。一方、副交感神経は、休息したりなどの身体が非活動的なときに働く。

たとえば、動物が、命がけで敵と戦うとか、あるいは敵に襲われて命がけで逃げなければならない、としよう。そのときの神経の働きを考えよう。

まず、命がけなので緊張をするはずである。なので、交感神経が働く。敵と戦うにしても、逃げるにしても、すばやく力強く活動をする必要があるので、心臓の拍動が激しくなって、血行が良くなる。また、呼吸が活発になることで、すばやく力強く動けるようになる。いっぽう、敵から攻撃されたときの出血を減らすため、血管は収縮している。交感神経の働きは、このような働きになっている。

このように、交感神経は、闘争(とうそう)や逃走(とうそう)のときに、よく働く。この「闘争や逃走」のことを、英語でも fight or flight (ファイト・オア・フライト)という。

多くの場合、交感神経と副交感神経は、反対の作用を持つので、拮抗(きっこう)的に働く。交感神経と副交感神経は、同じ器官に分布している事が多い。


交感神経は、脊髄の末端から出ていて、分布している。

副交感神経は、中脳延髄および脊髄の末端から出ている。

自律神経は間脳の視床下部に中枢がある。

神経の末端からは、情報伝達のための神経伝達物質が放出される。 交感神経の末端からは主にノルアドレナリン(noradrenaline)という神経伝達物質が分泌される。副交感神経の末端からは、主にアセチルコリンという神経伝達物質が分泌される。

(※ 図 レーヴィの実験)


ホルモンの受容体

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ホルモンが作用する器官を標的器官(ひょうてき きかん)という。標的器官の細胞には、特定のホルモンが結合できる受容体(じゅようたい)がある。ホルモンの種類ごとに、受容体の種類も異なるので、その受容体を持った特定の器官だけが作用を受けるので、特定の器官だけがホルモンの作用を受ける。

標的器官の細胞で、ホルモンの受容体を持った細胞を標的細胞という。

  • ペプチドホルモン

タンパク質でできたホルモンは、分子量が大きいため、細胞膜を透過できない。このよう細胞膜を透過できないホルモンの受容体は、細胞膜の表面にある。アミノ酸が多数つながった長いものをペプチドというのだが、ペプチドでできたホルモンをペプチドホルモンという。(※ 高校教科書の範囲内)[17]

もし読者が高校科学をまだ習ってなくてペプチドとは何かを分からなければ、とりあえずペプチドとはタンパク質のことであり、ペプチドホルモンとはタンパク質で出来たホルモンだと思えばよい。

一般にタンパク質が細胞膜を透過できないため、ペプチドホルモンも細胞膜を透過できないのが普通である。インスリンはペプチドホルモンである。

なおホルモンに限らず、伝達物質が細胞膜にある受容体と結合したあとの、細胞内へ情報が伝わる仕組みは、カルシウムイオンCa2+ を用いて情報伝達をしたり、あるいはcAMP(サイクリックアデノシン一リン酸、サイクリックAMP)や Gタンパク質 が、情報伝達に用いられる。cAMPやGタンパク質は酵素などに作用する。[18]なおcAMPはATPをもtにして酵素反応によって作られる。[19](※ これらの話題は高校教科書の範囲内)

これらカルシウムイオンやcAMPやGタンパク質のような、このような細胞内の情報伝達物質をセカンドメッセンジャー(second messenger)という。[20] (※ 高校教科書の範囲内)

ペプチドホルモンから細胞への情報伝達においても、カルシウムイオンやcAMPやGタンパク質がセカンドメッセンジャ-として機能する。

  • ステロイドホルモン

いっぽう、脂質やアミノ酸を主成分とするホルモンの場合は、細胞膜を透過することができる。なぜなら、これらのホルモンは脂溶性であり、そしてホルモンが脂溶性ならば、リン脂質を主成分とする細胞二重膜を透過できるからである。このような細胞膜を透過するホルモンに結合するための受容体は、細胞内にある。

脂質でできたホルモンには、脂質の一種であるステロイド(steroid)で出来ているホルモンも多い。私たちヒトの脂質のコレステロールも、ステロイドの一種である。ステロイドでできたホルモンをステロイドホルモン(steroid hormone)という。糖質コルチコイドや鉱質コルチコイドは、ステロイドホルモンである。ステロイドホルモンは、脂質に溶けやすく、そのため細胞膜を透過しやすい。(※ 高校教科書の範囲内)[21] つまり糖質コルチコイドや鉱質コルチコイドは、脂質に溶けやすく、細胞膜を透過しやすい。


例外もあり、脂質を主成分としながらも細胞膜に受容体を持つホルモンも発見されている。[22](※ 高校の範囲外)

なお、実際のホルモンでは、タンパク質を成分とするホルモンでも、中には脂肪酸を持っていたりする物があったり、あるいは糖鎖がついていたりなど、より複雑である。[23](※ 高校の範囲外)


ホルモンの発見の歴史

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胃酸などを含んだ酸性の消化物が十二指腸に入ると、十二指腸からセクレチン(secretin)が分泌される。 当初、これは神経の働きだと考えられていた。

しかし1902年にベイリスとスターリングは、神経を切断した十二指腸に塩酸を注入すると、すい液が分泌される事を発見した。

さらに、体外に取り出した十二指腸の粘膜に塩酸を掛けてしぼった液を、すい臓(pancress)への血管に注射しても、すい液が分泌された。

これらの実験結果によって、十二指腸で作られた物質が血管を通してすい臓へ送られて、すい液の分泌を即していることが分かった。すい液の分泌を促進する物質は、セクレチンと名づけられた。

ホルモン分泌の調節

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ホルモン分泌で中心的な役割をしている器官は、間脳にある視床下部(ししょうかぶ、hypothalamus)と、視床下部の下にある脳下垂体である。 脳下垂体には前葉と後葉がある。

  • 神経分泌(しんけいぶんぴ)

間脳の視床下部には、ホルモンを分泌する神経細胞があり、これを神経分泌細胞(しんけい ぶんぴつ さいぼう、neurosecretory cell)という。また、このように神経がホルモンを分泌することを神経分泌(しんけい ぶんぴ)という。この間脳の神経分泌細胞により、脳下垂体の血管中にホルモンが分泌される。この神経分泌のホルモンは、脳下垂体のホルモンを調節するための放出ホルモン(releasing hormone)または放出抑制ホルモン(inhibiting hormone)である。

視床下部から伸びている神経分泌細胞が、脳下垂体に作用して、脳下垂体のホルモン分泌を調節している。

脳下垂体の前葉と後葉とで、分泌される血管の位置が違う。

脳下垂体前葉では、視床下部にある血管に分泌し、その血管が前葉まで続いて脳下垂体に作用している。前葉からは成長ホルモン(growth hormone)などが分泌される。

いっぽう、脳下垂体後葉では、視床下部からつながる神経伝達細胞が後葉まで続いており、後葉中の血管に、神経伝達細胞が直接、ホルモンを分泌している。

後葉からは、水分調節に関わるバソプレシンというホルモンが分泌され、バソプレシンによって腎臓での集合管における水の再吸収などが促進される。

  • チロキシン
チロキシンのフィードバックによる調節

のどの近くにある甲状腺(こうじょうせん、thyroid gland)からはチロキシン(thyroxine)が分泌される。 チロキシンは代謝を活性化するホルモンであり、酸素の消費やグルコースの消費が、活発になる。 視床下部は、チロキシンの濃度を、つぎのような仕組みで調節している。

チロキシンによって、視床下部や脳下垂体による甲状腺刺激が抑制されるという仕組みである。 視床下部や脳下垂体は、チロキシンが多くなりすぎないように、チロキシンによってホルモンを抑制する。チロキシンによって視床下部は甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンを抑制する。また、チロキシンによって、脳下垂体は甲状腺刺激ホルモンを抑制する。こうして、チロキシン自身が最終的に、甲状腺からのチロキシン分泌を抑制するように働きかける。

逆にチロキシンが少なくなると、視床下部や脳下垂体が、甲状腺刺激ホルモンを通して甲状腺にチロキシンを増やすように働きかける。

チロキシンを受け取った細胞では代謝が活発になる。

このように、最終産物(この場合はチロキシン)が、前の段階(この場合は視床下部や脳下垂体)に働きかけることをフィードバック(feedback)という。

フィードバックは生物学に限らず、多くの分野で見られる現象だが、とりあえず生物学を例に説明する。

フィードッバックが前の段階を抑制する場合、負のフィードバック(negative feedback)という。ふつう、ホルモンは負のフィードバックによって、濃度などが一定の範囲内に近づくように調節されている。

(※編集注 バソプレシンのフィードバックの図を追加。)

腎臓での水の再吸収に関わるバソプレシンも、負のフィードバックによって一定に保たれる。この結果、バソプレシンが人体の水分調節のためのホルモンとして働くことになる。


いっぽう、フィードバックによって、前の段階が促進される場合を正のフィードバックという。電子機械などで見られる現象で、たとえば音声マイクとスピーカーのハウリング現象(マイクをスピーカーに近づけたときの、うるさい現象。※ うるさいので実験しないように。)などが、正のフィードバックにあたる。

ハウリングの起きる仕組みは、マイクから入力された音が、スピーカーから出て、そのスピーカーから出た音をマイクがひろってしまうので、さらにスピーカーから音が出るので、音が大きくなり、その大きくなった音をふたたびマイクがひろってしまうので、さらにスピ-カーから、もっと大きな音が出てしまい、そしてさらに・・・という、とてもうるさい現象である。

ホルモンの働き

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心臓の拍動の調節
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心臓の拍動は延髄と自律神経によって調節されている。

運動などによって酸素が消費され、二酸化炭素濃度が高くなると、 延髄は交感神経を働かせ、 交感神経の末端からノルアドレナリン(noradrenaline)が放出され、 心臓の拍動数が増加する。

逆に安静時に酸素の消費量が減り、二酸化炭素濃度が低くなると、 延髄は副交感神経を働かせ、 副交感神経の末端からアセチルコリン(acetylcholine)が放出され、 心臓の拍動数が減少する。

心臓の拍動の調節の実験には、 オットー・レーヴィのカエルの心臓を用いた実験がある。 レーヴィは2つのカエルの心臓を取り出してつなぎ、リンガー液を循環させる装置を作った。 片方の心臓からのびる迷走神経(副交感神経)を刺激すると、その心臓の拍動数が減少し、 しばらくして、もう片方の心臓の拍動数も減少した。 これにより、迷走神経のシナプスから化学物質が分泌され、 心臓の拍動数を制御していることが明らかとなった。 その化学物質は、今日ではアセチルコリンであることが分かっている。

浸透圧の調節
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魚類の浸透圧の調節は、えら・腸・腎臓などで行われ、 淡水魚と海水魚の場合でその働きは異なっている。 淡水魚の場合、水分が体内に侵入するため、 えらや腸で無機塩類を吸収し、 腎臓で体液より低張の尿を大量に排出する。 海水魚の場合、水分が体外に出るため、 海水を大量に呑み込み腸で吸収し、 腎臓で体液と等張の尿を少量排出する。 また、えらから無機塩類を排出する。

哺乳類の浸透圧の調節は、腎臓で行われる。 また、腎臓の働きは、間脳視床下部・脳下垂体後葉や副腎皮質(ふくじんひしつ、adrenal medulla)によって調節されている。 水分の摂取などで、低浸透圧になった場合、副腎皮質が働く。 副腎皮質からは鉱質コルチコイド(mineral corticoid)が分泌される。 鉱質コルチコイドは腎臓の細尿管から無機塩類の再吸収を促進する働きがある。 水分の不足などで、高浸透圧になった場合、 間脳視床下部、脳下垂体後葉が働く。 脳下垂体後葉からはバソプレシン(vasopressin)が分泌される。 バソプレシンは腎臓の細尿管から水分の再吸収を促進する働きがある。

血糖値の調節
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血液中に含まれるグルコースを血糖(けっとう、blood glucose)という。

健康なヒトの場合の血糖の含有量は一定の範囲に保たれ、空腹時で血液100mLあたり、ほぼ100mgという濃度である。

このような血統の値を血糖値(けっとうち)という。または血糖量という、または血糖濃度という。

グルコースは細胞の活動に必要な糖である。 血糖値が低すぎたり高すぎたりすると様々な症状を引き起こすため、 ホルモンと自律神経によって一定に保たれている。

食事などで炭水化物や糖質を取ると、一時的に血糖値が上昇する。逆に、急激な運動の後などでは下がっている。 血糖値が60mg以下(血液100mLあたり)だと、意識喪失や けいれん などが起き、危険である。運動などによって低血糖になると、間脳の視床下部が働く。


さて、血糖の調節に関わる器官は、すい臓および視床下部である。

視床下部は、交感神経によって、すい臓と副腎髄質を働かせる。


  • 低血糖の場合

グリコーゲンが、つぎの仕組みで分解されることで、グリコーゲンからグルコースが取り出され、グルコース濃度を上げる仕組みである。


すい臓のランゲルハンス島A細胞からはグルカゴン(glucagon)が分泌され、 副腎髄質(ふくじんひしつ、adrenal medulla)からはアドレナリン(adrenaline)が分泌される。

グルカゴンやアドレナリンは、グリコーゲンをグルコースへ分解させる働きがある。

また、視床下部は放出ホルモンで脳下垂体前葉を働かせ、脳下垂体前葉は副腎皮質刺激ホルモンで副腎皮質を働かせ、副腎皮質からアドレナリンが分泌される。

また、副腎皮質が分泌する糖質コルチコイド(glucocorticoid)が、タンパク質を分解させて、その分解された元タンパク質を材料としてグルコースを合成させる。糖質コルチコイドは、タンパク質をグルコースへ分解させる働きがある。

アドレナリンやグルカゴンが、肝臓や筋肉に働きかけ、貯蔵されているグリコーゲンの分解を促進する。(肝臓や筋肉にはグリコーゲンが蓄えられている。)

これらの反応の結果、血糖値が上昇する。

  • 高血糖の場合

食事などによって高血糖になると、すい臓のランゲルハンス島B細胞が、血糖値の上昇を感知し、B細胞がインスリン(insulin [24])を分泌する。

インスリンは、グルコースをグリコーゲンへ合成させたり、 グルコースを細胞へ吸収・分解させたりする働きがある。

このインスリンが、細胞でのグルコースを用いた呼吸を促進したり、肝臓でのグリコーゲンの合成を促進するので、結果的にグルコースの消費が促進されるので、グルコースの濃度が下がり、グルコース濃度が通常の濃度に近づくという仕組みである。

また、間脳の視床下部でも血糖値の上昇は感知され、副交感神経の刺激を通じて、すい臓にインスリンの分泌をうながし、すい臓のランゲルハンス島B細胞がインスリンを分泌する。


  • 糖尿病 (※ 高校の範囲

いっぽう、病気により血糖値が常に200mgを越えると、糖尿病(とうにょうびょう、diabetes [25])という病気だと判断される。[26] (※ 高校理科の範囲内[27]

糖尿病とは、すい臓からのインスリン分泌が、うまくは分泌されなくなってしまった病気である。インスリンが細胞と結合すると、グルコースを消費させる。しかし、インスリン分泌がうまくいかないと、この消費がなくなってしまい、その結果、グルコースが余る。

その結果、原尿にグルコースが高濃度で含まれるので細尿管でのグルコース吸収が間に合わず、尿中に高濃度のグルコースが含まれて排出される。

(もし健康なヒトなら、原尿のグルコースは、ほぼ100%再吸収されてるので、尿中には高濃度のグルコースは排出されない。なのに高濃度のグルコースを含む尿が排出されるという事は、つまり病気に掛かっている事になる。)


高血糖が長く続くと、欠陥が変性して血流が低下してしまい、その結果、眼や腎臓などの、さまざまな器官で障害を起こす。糖尿病には、このような各器官での合併症があるため、危険な病気である。

糖尿病の分類は、大きくは二つの種類に分けられる。

まず、インスリンを分泌する細胞そのものが破壊されていて分泌できない場合のI型糖尿病がある。若くして発症することが多い。

もう一つは、I型とは別のなんらかの原因で、インスリンの分泌量が低下したり、インスリンに細胞が反応しなくなる場合であり、これをII型糖尿病という。肥満や喫煙・運動不足などの生活習慣病などによる糖尿病で、II型糖尿病が多く見られている。 日本の糖尿病患者の多くはII型である。


糖尿病の治療には、I型・II型とも、インスリンの投与が行われる。患者は、食後などに毎回、自分でインスリンを注射しなければならない。

II型の生活習慣が原因と考えられる場合、食事の見直しや、適度な運動なども、治療に必要になる。

糖尿病の症状として頻尿(ひんにょう)がある。[28](※ 高校の範囲

この原因は、原尿の浸透圧が血糖によって上昇したことにより、細尿管での水分の再吸収が減るためだと考えられてる。[29](※ 高校の範囲

また、頻尿などにより水分が低下するので、のどの渇きが起きる。


血糖値をあげるホルモンの種類は多く仕組みも複雑である。なのに、血糖値を下げるホルモンはインスリンのみしか今のところ知られておらず、また仕組みも単純である。この事から、動物は、飢餓に適応して、血糖値の調節の機構を進化させてきたと考えられている。飽食の時代よりも、飢餓の時代のほうが、圧倒的に多かったのだろうと考えられている。

体温の調節
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変温動物は、体温調節が不完全で、体温は外部環境によって変化する。

一方、恒温動物では、体温は、外部環境によらず、一定に保たれている。ヒトの場合、健康なら、体温は約37℃に保たれる。

体温の調節は、ホルモンや自律神経が行っている。体温調節の中枢のある場所は、間脳の視床下部にある。

  • 体温が低下した場合

寒さによって体温が低下すると、間脳の視床下部が働く。 視床下部は、交感神経やホルモンによって、肝臓や筋肉の代謝を促進し、発熱量を増加させる。 また、交感神経によって皮膚の血管や立毛筋を縮小させ、熱放散を減少させる。また、骨格筋をふるわせることで、熱を産生する。

また、チロキシンやアドレナリンなどが分泌され、肝臓での物質の分解を促進して熱を産生する。

  • 体温が上昇した場合

暑さによって体温が上昇すると、間脳の視床下部が働く。 視床下部は、交感神経によって、 皮膚血管を拡張し、汗腺から発汗させ、熱放散を増加させる。

また、副交感神経によって、肝臓での物質の分解が抑制され、熱の産生を抑える。

その他

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甲状腺(こうじょうせん)の場所

ヒトの 「のどぼとけ」 の、すぐ下には、甲状腺という器官がある。この甲状腺は、甲状腺ホルモンというホルモンを分泌している器官である。ホルモンとは、体内のいろいろな働きを調節するための分泌物(ぶんぴぶつ)である。くわしくは、中学の保健体育で習うか、または高校生物で習う。

さて、甲状腺ホルモンの主成分はヨウ素である。ヨウ素は、ワカメやコンブなどの海ソウに多く含まれている。

さて、通常のヨウ素には放射能(ほうしゃのう)が無く、安全である。だが、原子力発電などの原子核分裂では、放射性のある様々な原子が作られる。その中に放射性のある特別なヨウ素も作られる場合がある。

原子力発電などの事故などへの対策として、原子力発電所などの近隣地区に ヨウ素剤(ようそ ざい) が配布される理由は、この放射能のある特別なヨウ素が甲状腺に集まらないようにするためである。

体内に吸収されたヨウ素は、甲状腺に集まる性質がある。なので、あらかじめ、普通のヨウ素を摂取しておけば、放射性のある特別なヨウ素を吸収しづらくなるのである。もしくは、仮に吸収してしまっても、通常のヨウ素によって、放射性のあるヨウ素が、うすめられる。

なお、甲状腺ホルモンの働きは、体内での、さまざまな化学反応を促進(そくしん)する働きがある。


(※ 範囲外)なお、ウランやプルトニウムの経口摂取などでの化学反応的な毒性は、実は不明である。ウランなどの放射線による毒性が高すぎるので、それが経口毒性などを覆い隠してしまうので、もし化学反応的な毒性があったとしても区別がつかない状況である。(※ ネットには、「ウランなどには経口摂取の毒性が無い」というデマがあるので、念のため記述。)

科学系に強い文庫である講談社ブルーブックス文庫の『元素118の新知識』によれば、引用「プルトニウムは放射性物質として危険であるだけではなく、化学的にもきわめて毒性が強い元素として知られている。」[30]

中略

引用「経口摂取や吸入摂取により体内に取り込まれ、長く体内に留まる場合には、その放射性および化学的反応性によって発がん性に結びつく。」[31]

である。

経口摂取の無毒性デマを真っ向から講談社ブルーバックスは否定している。

ほかにも、出典が見つからなかったので紹介しないが、放射線医学の専門書などを見ても、プロトニウムの放射性毒性ではなく化学毒性の可能性については、昔からよく学問的にも言われていることである。(※ この段落のwiki著者の地元の図書館に昔は放射線医学の専門書が置いてあったが2022年に図書館の本棚を調べたら文献が消失していた(※ 一般に公立図書館では古い書籍は廃棄処分などをされてしまうので))


  1. ^ KIM E. BARRETT ほか原著改訂、岡田泰伸 監訳『ギャノング生理学 原著23版 』丸善株式会社、平成23年1月31日 発行、P707
  2. ^ 小林芳郎 ほか著『第4版 スタンダード免疫学』、丸善出版、平成25年3月30日、P.135
  3. ^ 小林芳郎 ほか著『第4版 スタンダード免疫学』、丸善出版、平成25年3月30日、P.137
  4. ^ 小林芳郎 ほか著『第4版 スタンダード免疫学』、丸善出版、平成25年3月30日、P.135
  5. ^ 小林芳郎 ほか著『第4版 スタンダード免疫学』、丸善出版、平成25年3月30日、P.135
  6. ^ 浅島誠『生物基礎』東京書籍、平成26年2月発行、P.121
  7. ^ 吉田邦久『チャート式シリーズ要点と演習 新生物IB・II』東京書籍、P.121
  8. ^ 宮坂昌之ほか『標準免疫学』、医学書院、第3版、301ページ
  9. ^ 小林芳郎 ほか著『第4版 スタンダード免疫学』、丸善出版、平成25年3月30日、P.98
  10. ^ 熊ノ郷淳ほか『免疫学コア講義』、南山堂、2019年3月25日 4版 2刷、P.37
  11. ^ 高等学校外国語科用『Standard Vision Quest English Logic and Expression I』、啓林館、令和3年3月5日検定済、令和3年12月10日発行、P121
  12. ^ 高等学校学外国語科用『CROWN English Expression II New Edition』、三省堂、2022年3月30日 発行、P56
  13. ^ Bertram G.Katzung 著、柳沢輝行ほか訳『カッツング薬理学 原書第10版』、丸善株式会社、平成21年3月25日 発行、P136
  14. ^ Bertram G.Katzung 著、柳沢輝行ほか訳『カッツング薬理学 原書第10版』、丸善株式会社、平成21年3月25日 発行、P136
  15. ^ 『生物基礎』東京書籍、p.114
  16. ^ 嶋田正和ほか『生物基礎』数研出版、平成26年発行、p.119
  17. ^ 吉里勝利ほか『高校生物』第一学習社、平成26年2月10日発行、p.54
  18. ^ 吉里勝利ほか『高校生物』第一学習社、平成26年2月10日発行、p.54
  19. ^ 浅島誠ほか『生物』東京書籍、平成26年2月10日発行、p.24
  20. ^ 吉里勝利ほか『高校生物』第一学習社、平成26年2月10日発行、p.54
  21. ^ 吉里勝利ほか『高校生物』第一学習社、平成26年2月10日発行、p.55
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  23. ^ 浅島誠ほか『理系総合のための生命科学』羊土社、2007年2月25日発行、p.256
  24. ^ 高等学校学外国語科用『CROWN English Expression II New Edition』、三省堂、2022年3月30日 発行、P56
  25. ^ 荻野治雄『データベース4500 完成英単語・熟語【5th Edition】』、桐原書店、2020年1月10日 第5版 第6刷発行、P.388
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  28. ^ 庄野邦彦ほか『生物基礎』実教出版、平成26年1月発行、P.51
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  30. ^ 桜井弘『元素118の新知識』、講談社(講談社ブルーバックス文庫)、2017年8月20日 第1版発行、P420、
  31. ^ 桜井弘『元素118の新知識』、講談社(講談社ブルーバックス文庫)、2017年8月20日 第1版発行、P420、