Gradle

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

Gradleは、迅速で信頼性があり、洗練された宣言型ビルド言語を備えた柔軟性の高いオープンソースのビルド自動化ツールです。このユーザーマニュアルでは、GradleビルドツールをGradleと略しています。

Gradleは、JVM(Java Virtual Machine:Java仮想機械)向けの最も人気のあるビルドシステムであり、AndroidおよびKotlin Multi-Platformプロジェクトのデフォルトシステムでもあります。また、豊富なコミュニティプラグインエコシステムが存在し、組み込みの機能、サードパーティのプラグイン、またはカスタムビルドロジックを使用して、さまざまなソフトウェアビルドシナリオを自動化できます。

Gradleのインストール[編集]

  1. Gradleの公式ウェブサイト から最新バージョンのGradleをダウンロードします。
  2. ダウンロードしたファイルを適切な場所に解凍します。
  3. 環境変数 GRADLE_HOME を解凍したディレクトリのパスに設定します。
  4. PATH 環境変数に Gradle の bin ディレクトリを追加します。
  5. インストールが成功したか確認するために、ターミナルやコマンドプロンプトで gradle -v を実行してバージョン情報が表示されるか確認します。

基本的な操作[編集]

Gradleプロジェクトの作成[編集]

  1. 新しいディレクトリを作成し、そのディレクトリに移動します。ここでは MyJavaProj/ とします。
    mkdir MyJavaProj/ && cd MyJavaProj/
    
  2. Gradleプロジェクトの骨格を生成します。
    gradle init --type java-application
    
  3. プロジェクトのディレクトリ構造
    Gradleによって生成されたプロジェクトは、以下のような構造になっています。
    MyJavaProj/
    ├── src/
    │   ├── main/
    │   │   ├── java/
    │   │   │   └── App.java
    │   │   └── resources/
    │   └── test/
    │       ├── java/
    │       │   └── AppTest.java
    │       └── resources/
    ├── gradlew
    ├── gradlew.bat
    ├── build.gradle
    └── settings.gradle
    
src/main/java/App.java
プロジェクトのソースファイルです。
Gradle 8.5 では次のようなファイルが生成されます。
/*
 * This Java source file was generated by the Gradle 'init' task.
 */
package myjavaproj;

public class App {
    public String getGreeting() {
        return "Hello World!";
    }

    public static void main(String[] args) {
        System.out.println(new App().getGreeting());
    }
}
src/test/java/AppTest.java
プロジェクトのユニットテストです。
/*
 * This Java source file was generated by the Gradle 'init' task.
 */
package myjavaproj;

import org.junit.jupiter.api.Test;
import static org.junit.jupiter.api.Assertions.*;

class AppTest {
    @Test void appHasAGreeting() {
        App classUnderTest = new App();
        assertNotNull(classUnderTest.getGreeting(), "app should have a greeting");
    }
}

Gradleプロジェクトのビルド[編集]

  1. プロジェクトディレクトリで、以下のコマンドを実行します。
    gradle build
    
  2. ビルドが成功すると、build ディレクトリ内にビルドされたアプリケーションやJARファイルが生成されます。

Gradleプロジェクトのテスト[編集]

  1. プロジェクトディレクトリで、以下のコマンドを実行します。
    gradle test
    
  2. テストが成功すると、テスト結果が表示されます。

Gradleプロジェクトの実行[編集]

  1. プロジェクトディレクトリで、以下のコマンドを実行します。
    gradle run
    
  2. アプリケーションが正常に実行されると、出力が表示されます。

Gradleプロジェクトのデプロイ[編集]

Gradleを使用してプロジェクトをデプロイするには、以下の手順を実行します。

  1. デプロイ先のリポジトリを設定します。例えば、Maven中央リポジトリやGitHub Packagesなどがあります。

build.gradleファイルに、デプロイに必要な設定を追加します。例えば、リポジトリのURL、グループID、アーティファクトID、バージョンなどを設定します。

  1. ターミナルまたはコマンドプロンプトで、gradle publishコマンドを実行します。
  2. プロジェクトが正常にデプロイされると、指定したリポジトリにアーティファクトがアップロードされます。

これらの手順は、基本的なGradleプロジェクトの作成と操作に関するものです。プロジェクトのニーズに応じて、追加の設定やプラグインの使用が必要かもしれません。

プロジェクトタイプ[編集]

以下は、gradle init --type コマンドで指定できる一般的なプロジェクトタイプの一覧です。

プロジェクトタイプ一覧
プロジェクトタイプ 説明
basic 基本的なプロジェクト構造
cpp-application C++アプリケーション
cpp-library C++ライブラリ
groovy-application Groovyアプリケーション
groovy-gradle-plugin Groovyプラグイン
groovy-library Groovyライブラリ
java-application Javaアプリケーション
java-gradle-plugin Javaプラグイン
java-library Javaライブラリ
kotlin-application Kotlinアプリケーション
kotlin-gradle-plugin Kotlinプラグイン
kotlin-library Kotlinライブラリ
pom Mavenプロジェクト
scala-application Scalaアプリケーション
scala-library Scalaライブラリ
swift-application Swiftアプリケーション
swift-library Swiftライブラリ

これらのタイプを使用すると、異なる種類のプロジェクトの骨格を素早く作成できます。たとえば、gradle init --type java-application コマンドは、Javaアプリケーション用のディレクトリ構造と設定ファイルを含むプロジェクトを生成します。

タスク[編集]

以下は、gradle [タスク] で指定できる一般的なタスクの一覧です。

この一覧自体も、gradle tasks の表示に基づいています。
タスク一覧
タスク 説明
アプリケーションタスク
run このプロジェクトをJVMアプリケーションとして実行します。
ビルドタスク
assemble このプロジェクトの出力を組み立てます。
build このプロジェクトを組み立ててテストします。
buildDependents このプロジェクトとそれに依存するすべてのプロジェクトを組み立ててテストします。
buildNeeded このプロジェクトとその依存するすべてのプロジェクトを組み立ててテストします。
classes メインのクラスを組み立てます。
clean ビルドディレクトリを削除します。
jar 'main'フィーチャーのクラスを含むJARアーカイブを組み立てます。
testClasses テストクラスを組み立てます。
ビルドセットアップタスク
init 新しいGradleビルドを初期化します。
wrapper Gradleラッパーファイルを生成します。
配布タスク
assembleDist メインのディストリビューションを組み立てます。
distTar プロジェクトをディストリビューションとしてバンドルします。
distZip プロジェクトをディストリビューションとしてバンドルします。
installDist プロジェクトをそのままディストリビューションとしてインストールします。
ドキュメントタスク
javadoc 'main'フィーチャーのJavadoc APIドキュメントを生成します。
ヘルプタスク
buildEnvironment ルートプロジェクトで宣言されているすべてのbuildscript依存関係を表示します。
dependencies ルートプロジェクトで宣言されているすべての依存関係を表示します。
dependencyInsight ルートプロジェクトで特定の依存関係に関する情報を表示します。
help ヘルプメッセージを表示します。
javaToolchains 検出されたJavaツールチェーンを表示します。
kotlinDslAccessorsReport 現在利用可能なプロジェクトの拡張機能と規約へのアクセスに関するKotlinコードを出力します。
outgoingVariants ルートプロジェクトの送信バリアントを表示します。
projects ルートプロジェクトのサブプロジェクトを表示します。
properties ルートプロジェクトのプロパティを表示します。
resolvableConfigurations ルートプロジェクトで解決可能な構成を表示します。
tasks ルートプロジェクトから実行可能なタスクを表示します。(一部のタスクはサブプロジェクトに属している場合があります)
検証タスク
check すべてのチェックを実行します。
test テストスイートを実行します。

これらのタスクは、Gradleでプロジェクトをビルド、テスト、デプロイする際に使用されます。

小史[編集]

Gradleの年表
イベント
2007 Gradleの開発が開始される。
2008 初の公式リリースが行われる。
2012 Gradle 1.0がリリースされ、安定版として確立される。
2014 Androidの公式ビルドシステムとしてGradleが採用される。
2015 Gradle 2.0がリリースされる。
2016 Gradle 3.0がリリースされ、Java 8のサポートが追加される。
2017 Gradle 4.0がリリースされ、Kotlin DSLのサポートが追加される。
2018 Gradle 5.0がリリースされ、Java 11のサポートが追加される。
2019 Gradle 6.0がリリースされ、ビルドスキャンのサポートが追加される。
2020 Gradle 6.5がリリースされ、パフォーマンスの向上やビルドキャッシュの改善が行われる。
2021 Gradle 7.0がリリースされ、最適化された依存関係の管理やキャッシュ機能の向上が行われる。
2022 Gradle 7.2がリリースされ、Java 17のサポートが追加される。
2023 Gradle 7.4がリリースされ、Kotlin DSLのパフォーマンスが向上するなどの改善が行われる。
2024 現在進行中。

Gradleの歴史は、2007年に開発が開始されたことに始まります。Gradleの考案者であるHans Dockterは、当時のビルドツールには多くの制限があると感じ、より柔軟で効率的なビルドツールを作成することを決意しました。

2008年に最初の公式リリースが行われ、その後、Gradleは徐々に成熟し、開発者コミュニティからの支持を集めました。2012年にはGradle 1.0がリリースされ、安定版として確立されました。

Gradleは、その柔軟性、高度な機能、そしてビルドスクリプトの記述における読みやすさによって、ますます多くの開発者に採用されるようになりました。Androidの公式ビルドシステムとしての採用や、JavaおよびKotlinのプロジェクトでの標準的なビルドツールとしての地位を確立するなど、Gradleの人気は急速に高まりました。

その後もGradleは着実に進化し、新機能や最適化が追加され、現在ではJava 17やKotlin DSLのパフォーマンス向上などの改善が行われています。Gradleの成功は、開発者コミュニティの積極的な貢献と、柔軟性、効率性、信頼性を提供するGradleの特性によるものです。

ユースケース[編集]

Gradleは、さまざまなユースケースで利用されています。その主なユースケースには以下のようなものがあります。

JavaおよびKotlinプロジェクトのビルド管理
GradleはJavaおよびKotlinのプロジェクトのビルドを効率的に管理するための優れたツールです。依存関係の解決やビルドタスクの自動化、テストの実行など、開発サイクル全体をサポートします。
Androidアプリケーションのビルド
Android開発において、Gradleはデフォルトのビルドシステムとして採用されています。Gradleを使用することで、Androidアプリケーションのビルドプロセスを簡素化し、効率化することができます。
マルチプラットフォーム開発
Kotlin Multiplatformプロジェクトやハイブリッドアプリケーションの開発において、Gradleは異なるプラットフォーム間での共通のコードベースを管理し、ビルドするための強力なツールとして活用されています。
サーバーサイドアプリケーションのビルド
GroovyやScalaなどのサーバーサイド言語を使用したプロジェクトでも、Gradleは依存関係の解決やビルドタスクの自動化を行うための頼れるツールとして利用されています。
クラウドベースのアプリケーションのデプロイ
GradleはAWSやGoogle Cloud Platformなどのクラウドプロバイダーと連携して、アプリケーションのデプロイメントプロセスを自動化するために使用されます。

ベストプラクティス[編集]

Gradleのベストプラクティスには、以下のようなものがあります。

  • モジュール化: プロジェクトを適切にモジュール化し、各モジュールごとに明確な責務を持たせます。これにより、ビルドスクリプトが単純化され、メンテナンスが容易になります。
  • タスクの分割: ビルドスクリプトを小さなタスクに分割し、再利用可能な部品として管理します。これにより、ビルドロジックの可読性が向上し、コードの重複が減少します。
  • 依存関係の最適化: 不要な依存関係を削除し、ビルドプロセスを軽量化します。また、依存関係のバージョンを管理し、衝突を解決するためのベストプラクティスを採用します。
  • プラグインの活用: Gradleの豊富なプラグインエコシステムを活用し、特定のタスクや機能を簡単に追加します。ただし、必要なプラグインのみを使用し、過剰な依存関係を避けることが重要です。
  • テストとCI/CDの統合: ビルドプロセスにテストを統合し、コードの品質を維持します。また、CI/CDパイプラインを設定し、自動化されたビルド、テスト、デプロイメントを実行します。
  • パフォーマンスの最適化: Gradleのキャッシュ機能や並列処理を活用して、ビルドプロセスのパフォーマンスを向上させます。また、不要なリソースの最小化や依存関係の解決時間の短縮にも注意を払います。
  • ドキュメンテーションとコミュニケーション: ビルドスクリプトやプロジェクトの構成に関するドキュメントを充実させ、開発チーム内でのコミュニケーションを促進します。これにより、新しいメンバーのオンボーディングやプロジェクトのメンテナンスがスムーズに行えるようになります。

リソース[編集]

Gradleに関する情報を入手するための主なリソースは以下の通りです:

Gradle公式ウェブサイト
https://gradle.org/
Gradleの公式ウェブサイトには、詳細なドキュメントやチュートリアルが提供されています。最新のリリースノートやAPIドキュメントもこちらで入手できます。
Gradle公式ドキュメント
https://docs.gradle.org/current/userguide/userguide.html
Gradleのドキュメントには、ビルドスクリプトの記法やタスクの設定方法、プラグインの使用方法など、さまざまなトピックに関する情報が含まれています。

これらの情報源を活用することで、Gradleの使用方法や機能に関する豊富な情報を入手できます。