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アイヌ語 文字と発音

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

アイヌ語 > 入門編 > 文字と発音

アイヌ語で使われる文字

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アイヌ語は元々文字を持たない言語だったが、江戸時代ごろから日本人(仮名)やロシア人(キリル文字)などによって記録が始まった。また、イタリア人やイギリス人がラテン文字で記録を始めた。このことからアイヌ語は現在、主に3種類の文字によって表記されている。アルファベット(ここではキリル文字とラテン文字のことを指す)の呼び名は定まっていない。これからの流れによってはキルディン・サーミ語のように、呼び名を決めないという選択もできるかもしれない。

仮名

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日本語などで使われている文字。ほとんどの場合カタカナを使う。日本語と発音が異なる文字があるので日本語話者には注意が必要。

  • 使われる文字
エ/𛀀
ㇱㇲ
サ゚/チャ ス゚/チュ セ゚/チェ ソ゚/チョ
ツ/トゥ/ツ゚/ト゚ ッ/ㇳ
ㇷ゚
ㇻㇼㇽㇾㇿ
ㇵㇶㇷㇸㇹ
𛅧/ン/ㇴ
𛄡/イェ/イェ ィ/イ
(ヰ/ウィ) ヱ/ウェ ヲ/ウォ ゥ/ウ

記号:長音符「ー」を使う。アクセントを示すために「 ⃣」・「´」などの記号や傍点を使うこともある。

キリル文字

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ロシア語などのスラブ系の言語やそのほかの東欧・アジア北部の言語で主に使われている文字。

  • 使われることのある文字
А Б В Г Д Ж Ѕ И Й К М Н О П Р Ҏ С Т У Ў Х Һ Ц Ч Џ Ш Э
а б в г д ж ѕ и й к м н о п р ҏ с т у ў х һ ц ч џ ш э

実際の表記で同時に使われるのは、たいてい子音字11〜12種と母音字(а,и,у,э,о)5種。

記号:主に分音符(アポストロフィ「’」)、陽音符(アキュートアクセント「´」)、長音符(マクロン「¯」)、長陽音符(サーカムフレックス「^」)の4種を使う[1]

ラテン文字(ローマ字)

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世界中の多くの言語で使われている文字。

  • 使われることのある文字
A B C Ċ Č CH/Ch D E G H I J K M N O P R S Š SH/Sh T U Ŭ V W (X) Y Z DZ/Dz Ż DŻ/Dż Ž DŽ/Dž ZH/Zh DZH/Dzh
a b c ċ č ch d e g h i ı j ȷ k m n o p r s š sh t u ŭ v w x y z [2] dz [2] ż [2] [2] ž [2] [2] zh[2] dzh[2]

実際の表記で同時に使われるのは、たいてい子音字11〜12種と母音字(a,i(ı),u,e,o)5種。

記号:アキュートアクセント(á)、マクロン(ā)、アポストロフィ(’)、サーカムフレックス(â)の4種

アイヌ語の発音の構造

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アイヌ語の発音は、音節というものを単位にして考えるとわかりやすい。アイヌ語には、「子音+母音」の開音節と、「子音+母音+子音」の閉音節とがある。

開音節の発音

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アイヌ語の開音節の表は、概ね日本語の五十音図と一致する。(ここでは、日本語の表とは少し並びを変えてある。)

開音節の表
ローマ/キリル a/а i(ı)/и u/у e/э o/о m/м

n/н

Ꞌ/ꞌ[3] エ/𛀀[4] ン、ㇺ[5]
k/к
s/ш
c/ч サ゚/チャ ス゚/チュ セ゚/チェ ソ゚/チョ
t/т [6] ツ/トゥ/ツ゚/ト゚
r/р
p/п [7]
h/һ(х) ン゚、ㇷㇺ、ㇷン[8]
n/н
m/м
y(j)/й[9] [10] 𛄡/イェ
w(v)/ў ヰ/ウィ[11] [10] ヱ/ウェ ヲ/ウォ

母音 Aa, Ii, Uu, Ee, Oo / Аа, Ии, Уу, Ээ, Оо

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日本語(標準語・共通語・関東弁)のア行とほぼ同じ。ただし、ウ(ウ段にある他の行の音も同様)は関東の日本語のウよりも唇を丸めて舌を奥に引いて発音する(日本語話者にはオのように聞こえることもある)。

厳密な発音を示す。

ア a а, イ i иは日本語のものとほぼ同じ。[a],[i]

  • キ ki кй する | パ pa па 年

ウ u уは、日本語の「ウ」とは異なり、[u] よりも若干口の丸めの弱い、広がった音 [u̜]。日本語より唇を丸めて下を奥に引くようにして発音する。日本語話者には「オ」に聞こえることがある。

「ウ」の感じ(何となく)
舌がより前 舌がより後ろ
唇を丸める [ü](関西弁) [u̟](関西弁) [u]
[ü̜] [u̜](アイヌ語)
[ɯ̹̈](関東弁) [ɯ̹]
丸めが弱い [ɯ̈](関東弁) [ɯ]
  • プ pu пу 倉 | ス su шу 鍋

エ(𛀀) э eは、日本語の「エ」に近いが少し狭い [e]。

  • ネ ne нэ である | 𛀀 ʻe ʻэ 〜を食べる

オ o оは、日本語の「オ」に近いが少し狭い [o]。

  • ト to то 日、湖 | ホ ho һо はい(返事の言葉)

子音

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ア行 ’/ʼ/'/ʻ/Ꞌ,ꞌ
上に示したとおり。基本的には、声門破裂音[ʔ]ないし声門の緊張またはせばめを持つ、はっきりした声立てで発音される。子音の文字としてラテン文字とキリル文字では「」や「ʼ」、「'」、「ʻ」のほか「Ꞌ/ꞌ」が使われることもある。ただし可読性が下がると考えられてか、現在多くの文書でこれらの記号や文字は初学者向けの文書か切れ目を表す必要のある部分(hioiʻoyやteʻetaなど)ぐらいにしか使われない。
  • アオㇷ゚ ’a’op ’а’оп 乗り物 | テエタ te’eta теʻета 昔
カ行 / Kk(Gg) / Кк(Гг)
日本語のカ行とほぼ同じ。無声音(清音)で発音されることも、有声音(濁音)で発音され、ガ行のように聞こえることもある。日本語のように鼻濁音になることはない。
  • キ ki ки する | イク ’iku ’ику 酒を飲む
タ行 / Tt(Dd) / Тт(Дд)
日本語のタ行とほぼ同じ。音節tiは存在せず、チ,ci,чиに変化する。無声音(清音)で発音されることも、有声音(濁音)でダ行のように発音されることもある。
  • ト to то 日、湖 | チセ cise чишэ 家
パ行 / Pp(Bb) / Пп(Бб)
日本語のパ行とほぼ同じ。北海道北部方言ではアクセントのあるパ pa паの音がチャ/サ゚ ca чаに変わる。無声音(清音)で発音されることも、有声音(濁音)でバ行のように発音されることもある。
  • プ pu пу 鍋 | パィカㇻ pajkar пайкар 春
サ゚行(チャ行) / Cc(Zz) / Чч(Џџ), Цц(Ѕѕ)
日本語のチャ行のように発音される。ツァ行のように発音しても通じるが、そう発音されることはあまりない。また、もともと日本語にない音であるため、カナ表記には揺れがある。ここで示した表記のほか、この行の音のために独自の仮名を創る試みもある。(ここを参照。)無声音(清音)で発音されることも、有声音(濁音)で発音され、ヂャ,ヂ,ヂュ,ヂェ,ヂョのように聞こえることもある。
  • マッカチ matkaci маткачи 少女 | セ゚ㇷ゚/チェㇷ゚ cep чэп 魚
サ行 / Ss [Ṡṡ, Šš ]/ Шш, Сс
日本語のサ行またはシャ行と同じように発音される。つまり、話者によって「サ,シ,ス,セ,ソ」または「シャ,シ,シュ,シェ,ショ」のように発音される。[12]音節si/шиが「スィ」のように発音されることは少ない。必ず無声音(清音)で発音される。
  • アシ ’asi аши 〜を立てる | サㇰサィヌ Saksaynu Шакшайну シャクシャイン(人名)
ラ行 / (R̥r̥)Rr / (Ҏҏ)Рр
基本的に日本語と同じである(日本語のラ行でも通じる)が、日本語のラ行[13]より少し複雑である。日本語のラ行でも通じる。
より詳細な発音は、
  • 舌の先は1回だけ歯茎に触れる。
    より正確には触れるというよりも舌先でタップするのである。タップとは日本語の「舌打ち」「舌鼓」にあたる。声を出さずに舌打ちをすると「タッ」とも「ツッ」とも聞こえる(英語では tut-tut)タップ音がする。神謡におけるアイヌ語の r では実際にタップ音が聞かれることもあるが、話し言葉ではそれよりも弱くタップすると同時か少し早めに母音を発声するのである。
  • 基本の音は、[ɾ]。〔多くの日本語話者がラ行を発音するときと同じ。〕
  • 語頭では、「[t] と [d] の中間の音」と、さらに [ɾ] との中間音に聞こえる。
    21世紀初頭の今から3~4世代程度昔の日本語話者が、英語 radio を「ダヂオ」に近く発音していたことに似る。
  • n の後では、[d] に近い [dɾ]。〔ダのようにラを発音する〕
  • k, p の後では、無声音化して [ɾ̊]。〔タのようにラを発音する〕
  • t の後では、無声音化し、更に摩擦を帯びる [ɾ̊ˢ]。〔ツァやチャに少し近いタのようにラを発音する〕
  • s の後では、完全に無声摩擦の [ɾ̊s]。〔ツァやチャのようにラを発音する〕(維基辞典「付録:アイヌ語の発音表記」より抜粋、「〔〕」部分補筆)
日本語のラ行でも全く問題なく通じるので、気に病む必要はない。ラ行音と摩擦音の発音に悩まされるのはどの国の外国語学習者にもよくあることだと思われる。
  • ルスィ rusuy рушуй 欲しい | ピラサ pirasa пираша 広げる | ケンル kenru кэнру 家 | イㇰラ ’ikra ’икра 送る | キッラポ kitrapo китрапо 山女魚(ヤマメ) | カㇱレ kasre кашрэ (くぼみなどが)浅い
ハ行 / Hh / Һһ, Хх
日本語のハ行とほぼ同じだが、より柔らかい音だという。
  • ホプニ hopuni һопуни 起き上がる | イリヒ ’irihi ’ириһи (衣服の)衿(えり)
ナ行 / Nn / Нн
日本語のナ行とほぼ同じ。
  • ウニ ’uni ’уни 家 | クンネ kunne куннэ 黒い
マ行 / Mm / Мм
日本語のマ行とほぼ同じ。
  • メノコ menoko мэноко 女 | イカㇱマ ’ikasma ’икашма 余る
ヤ行 / Jȷ, Jj, Yy / Йй
日本語のヤ行とほぼ同じ。日本語ではエと表記されeと区别されないyeの音が区別される。イェと書かれることもあるがイ・エのように切らず、他の音と同じように一音で発音する。
  • イェ(イェ)/𛄡 ye/je йэ 言う | ユㇰ juk/yuk йук 鹿、獲物全般
ワ行 / Ww, Vv / Ўў
日本語のワ行とほぼ同じ。キリル文字ではЎが入力できなければВ(日本語入力ではヴェーと入力すれば出てくる)で代用しても良い。
wiの音は原則的に存在しない。複合語や極少数の擬音語、擬態語にのみ現れる。
  • ワウォ wawo ўаўо アオバト | クヱカィ kuwekaj куўэкай 二月

濁音について

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アイヌ語では、濁音と清音(有声音と無声音)を区別しない。そのため、カ・タ・サ゚・パ行音が濁ったり、ラ行音が無声音になってタ行音に近く聞こえたりすることがある。有声音(濁音)は、女性よりは男性に、子供よりは大人に、丁寧な発音よりはぞんざいな発音に、シラフではなく酩酊状態のときに表出する。また、鼻音の後や語頭には比較的よく現れる。

  • サンペ(心臓) サンペ〜サンベで発音される。

閉音節の発音

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閉音節は開音節(roなど)の後に子音(kなど)が付いたもの(rokなど)である。この音節末子音はカナ表記では主に小書きガナを使って表記する。これらの音は日本語にも現れるが、「っ」や「ん」などとしてしか意識されないない発音が多い。

音節末子音
ローマ字 k t p x/h r s n m y/j w/v
キリル文字 к т п х р ш н м й ў
カナ ッ/ㇳ ㇷ゚ ㇵㇶㇷㇸㇹ ㇻㇼㇽㇾㇿ ㇱㇲ 𛅧/ン/ㇴ ィ/イ ゥ/ウ
それぞれの発音
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  • カ、タ、パ行音の子音は、kㇰк、tッㇳт、pㇷ゚п、であらわすが、日本語話者には全て小さい「っ」に聞こえる。これらの発音は、
    • kㇰкは「がっかり」と言ったときの「っ」の発音、
    • tッтは「あった」と言ったときの「っ」の発音、
    • pㇷ゚пは「あっぱれ」と言ったときの「っ」の発音に、それぞれ近い。
      • サㇰ sak 夏[14] サㇰケㇱ/サッケㇱ sakkes 晩夏 | サッ sat 乾く サッテㇰ sattek 痩せている | サㇷ゚ sap 下りる、行く サㇷ゚パ/サッパ sappa くだる
      • サㇷ゚テ sapte 出す | カッケマッ/カㇳケマッ katkemat 淑女 | アㇰペ ’akpe 罠
    • またsㇱㇲшは「あっさり」「わっしょい」と言ったときの「っ」の発音に近い。これらを「っ」の部分までで止めると発音できる。場所によって結構音が変わる。
      • サㇱ sas (ひる)[15] アㇲサ/アッサ/アㇱサ ’assa
      • カㇱレ kasre 浅い
  • x(h)ㇵㇶㇷㇸㇹхは、「樺太アイヌ語での音節末子音」の項を参照。
  • rㇻㇼㇽㇾㇿрは、その前の母音の口の形のまま舌先でラ行の音を軽くはじく。「前後の(多くの場合前の)母音の口の形をしながら舌先だけをrの位置に持って行って軽くはじくので、あとに何も続かないときは前の母音が響いて聞こえることがある。[引用元 1]」とある。[16]
    • ロㇿ ror 上座 | カㇻパ karpa 作る
  • n𛅧ンㇴнは、日本語のンとは少し違う。
  • mㇺмは、英語でhamやsomeと言うときのmの音に近い。
  • yィй,wゥўはイ、ウとほぼ同じに発音しても変わらないが、

k,s,pの子音が連続するときは、ㇰ、ㇱ・ㇲ、ㇷ゚ではなく日本語のようにッを使って書くこともあるが、誤解が生じる可能性がある。

記号について

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アクセントと音の変化については個別に解説した。これらを参照。

長音(記号「ー」、「¯」)

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母音の長短は、北海道アイヌ語と千島アイヌ語では区別されないが、樺太アイヌ語では(全ての語ではないが)区別される。このうち、長母音で発音される単語は、

  1. 単音節かつ開音節の自立語。エ/’é/’э́ → エー/’ē/’ээ(’э̄)(食べる)など。
  2. 例外アクセントの単語の、アクセントがつく部分。セィ ’úsey ’у́шэй → ウーセィ ūsey уушэйなど(「アクセント」の項も参照)。
  3. 渡り音が弱まったもの。イオマテ’i’ómante → イヨマテ’iyómante(ここでのyを渡り音という) → ヨーマテyōmanteなど
  4. これらの単語の複合語。

結局の所、アクセントのある開音節(とその複合語)が長音になるということである。これ以外の部分では、樺太方言でも母音の長短の区別は曖昧である。

長音は、カナでは長音符「ー」で表し、キリル文字とラテン文字では母音の上に「¯」(マクロン)を付ける。表示できない場合は同じ母音を続けて書く[’uusey]。また、アクセント表記をする場合、アクセントのある長音(多くの長音にはアクセントがある)にはサーカムフレックスをつける[’ûsey]。アクセント表記をする場合でもアクセントがなければマクロンのままである(複合語、sírı + sêsex → sírısēsexなど)。

また、北海道アイヌ語と千島アイヌ語でも、意味は変わらないが、長く発音することが多い単語はある。その例とよく行われている表記法を示す。

  • エー/’e/’э (はい、承諾の返事)やヒオーィオィ, hi’oy’oy, хи’ой’ой(ありがとう)のような、意味は変わらないが、長く発音することが多い単語では、カナのみで長音符を付けることが多い。

アクセント表記

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アクセントがどこに付くかはこちらのページで解説している。

ラテン文字とキリル文字では、アクセントのある母音に鋭音符(アキュートアクセント、「´」)を付けて示す。全てのアクセントにつける場合と、例外的なアクセントの部分だけに付ける場合とがある。また、場合によっては全く表記しないこともある。特に日本語環境ではキリル文字で正しくアクセントの表示できないことがある。

仮名では、まだ確立された表記がない。圏点や傍線

音が切れることを示すアポストロフィー「’」

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同じ母音が続く時や、子音+母音となるが、別々に発音する時、アルファベット表記では2つの音を切って発音することを示すために、アポストロフィ「’」を使う。[17]カナ表記ではすでに発音どおりに区別して書かれているため使わない。また、アポストロフィーは音が消えたときにそれを示す為に置かれることもある(ただしこのような場合はむしろan _hineやan͜ hineのように表記される)。

  • テエタ…te’eta/тэ’эта(なければ「テータ」になる)実際に/te'eta/[teʔeta]と発音されることもある。ちなみに、この音はア行音をはっきり言うときなどに、日本語でもよく現れる。
  • ヒオィオィ…hioy’oy/хиой’ой(なければ「ヒオヨィ」になる)シサㇺイタㇰ…sisam’itak/шишам’итак
  • アニーネ…an ’ine(元はan hineアン ヒネ)

また、アクセント表記を行うときは「テタ」などの、トレマのつく場所にすでにアクセントがある単語にはトレマを付けない。(teétaとする[18]。)要は、発音が一つに決まればよいのである。

4.符号

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アイヌ語でも他の多くの言語と同じように、紙に書いたとき読みやすくする為、何種類かの符号を使う事がある。

符号の例
カナ アルファベット 名前 役割
(なし) = ⹀ 人称ハイフン 人称接辞を示す(必須ではない)
. 句点/ピリオド 文末を示す
, 読点/コンマ 文の切れ目を示す
「 」 “ ” « » など 引用符 引用部分を示す
- 中点/ハイフン 複合語の繋ぎ目などを示す[19]

この他にも括弧類など、比較的自由に使われる。日本語と同じように使って良い。

アルファベット一覧

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母音一覧
単体 A/a I/i U/u E/e O/o А/а И/и У/у Э/э О/о
鋭記号(高調のある音) ́ Á/á Í/í Ú/ú É/é Ó/ó А́/а́ И́/и́ У́/у́ Э́/э́ О́/о́
長音符(長音) ̄ Ā/ā Ī/ī Ū/ū Ē/ē Ō/ō А̄/а̄ Ӣ/ӣ Ӯ/ӯ Э̄/э̄ О̄/о̄
曲折符号(高調のある長音) ̂ Â/â Î/î Û/û Ê/ê Ô/ô А̂/а̂ И̂/и̂ У̂/у̂ Э̂/э̂ О̂/о̂
分音記号(前の音と分けて発音) ̈ Ä/ä Ï/ï Ü/ü Ë/ë Ö/ö Ӓ/ӓ Ӥ/ӥ Ӱ/ӱ Ӭ/ӭ Ӧ/ӧ
子音一覧
ラテン キリル カナ(音節末)
音素

表記

無声 有声 音素

表記

無声 有声
Kk Kk Gg Кк Кк Гг
Tt Tt Dd Тт Тт Дд ッ,ㇳ
Pp Pp Bb Пп Пп Бб [b~bʰ] ㇷ゚
Cc Čč/Ch,ch Žž/Jj Чч Чч Џџ/Жж (無)
Ċċ/Cc Żż / Dz,dz Цц Ѕѕ
Ss Šš/Sh,sh (無) Шш Шш (無)
Ṡṡ/Ss Сс
Rr R̥r̥ R̬r̬ Рр Ҏҏ Рр ㇻㇼㇽㇾㇿ
Hh Hh (無) Һһ Һһ/Хх (無) (ㇵㇶㇷㇸㇹ)
x x / h (無) х х (無) ㇵㇶㇷㇸㇹ
Nn [n] Нн [n] 𛅧,ン,ㇴ
Mm [m] Мм [m]
Jj / Yy [j] Йй [j] ィ,イ
Ww / Vv / Ŭŭ [w] Ўў / Вв [w] ゥ,ウ

キリル文字の斜体(イタリック体)には立体(ブロック体)と形状のかなり異なる文字が多くあり、読む際には(ラテン文字との混同に加えて)注意が必要です。アイヌ語で使うことがある文字について、あなたの機器での斜体の見え方を示しました。 ちなみに、斜体の元となった書体である筆記体(手で書く文字)には、国や地域、書く人や状況などによって本当に様々な形があります。立体からは想像のできないような形も数多くあり、斜体や筆記体はキリル文字を学ぶ上では厄介でもあり面白くもある存在です。

アイヌ語キリル文字の斜体
А Б В Г Д Ж Ѕ И Й К М Н О П Р Ҏ С Т У Ў Х Һ Ц Ч Џ Ш Э
А Б В Г Д Ж Ѕ И Й К М Н О П Р Ҏ С Т У Ў Х Һ Ц Ч Џ Ш Э
а б в г д ж ѕ и й к м н о п р ҏ с т у ў х һ ц ч џ ш э
а б в г д ж ѕ и й к м н о п р ҏ с т у ў х һ ц ч џ ш э

下の表をコピーし、Excel[エクセル]などの表計算機構で、A1セルを選択した状態で貼り付けてください。アイヌ語入力でのキリル文字変換が出来ます。(音素表記での変換。ハ行、サ行、カ行などは自分の好みで変えてください。また、少しいじれば好みの表音式表記にすることもできます。)

A А =SUBSTITUTE(C2,A1,B1) iránkarapte! IRÁNKARAPTE! =SUBSTITUTE(C2,A1,B1)
Á А́ =SUBSTITUTE(C3,A2,B2)
Ā А̄ =SUBSTITUTE(C4,A3,B3)
Ä Ӓ =SUBSTITUTE(C5,A4,B4) ↑ここに入力 ↑変換後
a а =SUBSTITUTE(C6,A5,B5)
á а́ =SUBSTITUTE(C7,A6,B6)
ā а̄ =SUBSTITUTE(C8,A7,B7)
ä ӓ =SUBSTITUTE(C9,A8,B8)
I И =SUBSTITUTE(C10,A9,B9)
Í И́ =SUBSTITUTE(C11,A10,B10)
Ī Ӣ =SUBSTITUTE(C12,A11,B11)
Ï Ӥ =SUBSTITUTE(C13,A12,B12)
i и =SUBSTITUTE(C14,A13,B13)
í и́ =SUBSTITUTE(C15,A14,B14)
ī ӣ =SUBSTITUTE(C16,A15,B15)
ï ӥ =SUBSTITUTE(C17,A16,B16)
U У =SUBSTITUTE(C18,A17,B17)
Ú У́ =SUBSTITUTE(C19,A18,B18)
Ū Ӯ =SUBSTITUTE(C20,A19,B19)
Ü Ӱ =SUBSTITUTE(C21,A20,B20)
u у =SUBSTITUTE(C22,A21,B21)
ú у́ =SUBSTITUTE(C23,A22,B22)
ū ӯ =SUBSTITUTE(C24,A23,B23)
ü ӱ =SUBSTITUTE(C25,A24,B24)
E Э =SUBSTITUTE(C26,A25,B25)
É Э́ =SUBSTITUTE(C27,A26,B26)
Ē Э̄ =SUBSTITUTE(C28,A27,B27)
Ë Ӭ =SUBSTITUTE(C29,A28,B28)
e э =SUBSTITUTE(C30,A29,B29)
é э́ =SUBSTITUTE(C31,A30,B30)
ē э̄ =SUBSTITUTE(C32,A31,B31)
ë ӭ =SUBSTITUTE(C33,A32,B32)
O О =SUBSTITUTE(C34,A33,B33)
Ó О́ =SUBSTITUTE(C35,A34,B34)
Ō О̄ =SUBSTITUTE(C36,A35,B35)
Ö Ӧ =SUBSTITUTE(C37,A36,B36)
o о =SUBSTITUTE(C38,A37,B37)
ó о́ =SUBSTITUTE(C39,A38,B38)
ō о̄ =SUBSTITUTE(C40,A39,B39)
ö ӧ =SUBSTITUTE(C41,A40,B40)
K К =SUBSTITUTE(C42,A41,B41)
k к =SUBSTITUTE(C43,A42,B42)
S Ш =SUBSTITUTE(C44,A43,B43)
s ш =SUBSTITUTE(C45,A44,B44)
C Ч =SUBSTITUTE(C46,A45,B45)
c ч =SUBSTITUTE(C47,A46,B46)
T Т =SUBSTITUTE(C48,A47,B47)
t т =SUBSTITUTE(C49,A48,B48)
P П =SUBSTITUTE(C50,A49,B49)
p п =SUBSTITUTE(C51,A50,B50)
H Һ =SUBSTITUTE(C52,A51,B51)
h һ =SUBSTITUTE(C53,A52,B52)
X Х =SUBSTITUTE(C54,A53,B53)
x х =SUBSTITUTE(C55,A54,B54)
R Р =SUBSTITUTE(C56,A55,B55)
r р =SUBSTITUTE(C57,A56,B56)
N Н =SUBSTITUTE(C58,A57,B57)
n н =SUBSTITUTE(C59,A58,B58)
M М =SUBSTITUTE(C60,A59,B59)
m м =SUBSTITUTE(C61,A60,B60)
Y Й =SUBSTITUTE(C62,A61,B61)
y й =SUBSTITUTE(C63,A62,B62)
W Ў =SUBSTITUTE(C64,A63,B63)
w ў =SUBSTITUTE(D1,A64,B64)

脚注

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  1. ^ キリル文字の場合、分音記号が正確に表示できないことも多いため、使わず表記することも多い。
  2. ^ 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 2.7 これらはすべて同じ音素を表す。またc、ċ、č、chとも同じ音素である。
  3. ^ Ꞌ/ꞌは表記しないことが多い。。
  4. ^ yeに𛄡を使用した時に、見間違いを防ぐために使う。日本語では古く(eとyeの区別が無くなった平安時代初期)に使われなくなった。
  5. ^ 特殊な場合。ḿ'm(ンンまたはㇺㇺ)、kor-'ḿ'm(コㇿンンまたはコㇿㇺㇺ)に含まれる。
  6. ^ この音は存在せず、tとiが連続した時はチ/ci/чиになる。
  7. ^ 北海道北部方言では、アクセントのある音節でサ゚(チャ)/ca/чаに変化する。
  8. ^ 特殊な発音。この音を含むものにはhm(うん)やhńta(何、何か)hntá(さあ)などがある。
  9. ^ 軟母音字(я,ю,е,ё)を使うこともある。
  10. ^ 10.0 10.1 yやwの後にiやuが連続するとき等(青森:アウンモシㇼaw-un-mosir)に現れるが、iやuと別の音節として存在するかは意見が分かれている。
  11. ^ 複合語や一部の擬音語・擬態語にのみ存在する。 【kirikewihri キリケウィヒリ(中略)股の関節kirikew-ihri(略)[kirikew(上肢)+ihri(関節)]】ただし、wとiの間を分けてキリケゥイㇶリのように発音することも多い。 wiにならない例 【uciw-itara [u-ciw-itara 互い・にささる・(状態が続いていることを表す接尾辞)][雅](いくすじもの光が)互いに反射し合いきらめき合う。(中略)☆参考 wi ウィ という発音がないため、 w ウ と i イ の間で音節を分けて発音している。】 出典:国立アイヌ民族博物館アイヌ語アーカイブ
  12. ^ IPA(国際音声記号)で表すと、[s]から[ʃ]の間の音で発音される。[ɕ](日本語のシャ行の音)などもこの音の範囲に含まれる。
  13. ^ 母語話者が意識することはほぼないが、日本語のラ行も状況によって多様に発音される、かなり複雑な音である。
  14. ^ 「~がない」という同音の別の単語もある。
  15. ^ 同じ音で昆布、マコンブという意味の語と、合掌材(建材の一)という意味の語もある。
  16. ^ 続いて、「沙流川すじでも中流の二風谷やペナコリの話者の発音では特にこの傾向が強い。しかしrの後に母音音素があるかないかははっきりしており、たとえばretar《白い》とre tara《三俵》、etor《鼻汁》とetoro《いびきをかく》とははっきり区別して発音される。次に子音が続くときは、その音によって、音色はいろいろに変わる。」とある。
  17. ^ 前に書いたように、実際はア行音全てで表記されるべきだがこのような、誤解を防ぐための用途でしか使用されないことが多い。
  18. ^ 二個目の音にアクセントがあるので、一個目とは別の音だと明らかであるため。
  19. ^ 語の切れ目を分かりやすくするために、学習用に使われることが多い。

参考文献とリンク

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  1. ^ 国立アイヌ民族博物館アイヌ語アーカイブ アイヌ語沙流方言略説