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クラウドコンピューティング

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

はじめに[編集]

クラウドコンピューティングとは何か?[編集]

定義と歴史[編集]

クラウドコンピューティングとは、インターネットを介して、ハードウェア、ソフトウェア、サービスなどのコンピューティングリソースを必要な時に必要な量だけ利用できるサービスの総称です。従来、企業は自社でサーバーやストレージなどのハードウェアを調達し、運用していましたが、クラウドコンピューティングの登場により、これらのリソースをインターネット上でレンタルできるようになりました。

クラウドコンピューティングの起源は1960年代に遡り、当時からメインフレームコンピュータの共有化の研究が行われていました。しかし、インターネット技術の発展と、仮想化技術の登場により、2000年代に入ってからクラウドコンピューティングが本格的に普及し始めました。

利点と課題[編集]

クラウドコンピューティングには、以下のような利点があります。

コスト削減
自社でハードウェアを調達・運用する必要がないため、初期投資を抑えることができます。また、利用量に応じて料金を支払う従量課金制を採用しているため、無駄なコストを削減することができます。
スケーラビリティ
事業の拡大や縮小に合わせて、必要な時に必要な量のコンピューティングリソースを簡単に追加・削除することができます。
可用性
クラウドサービスプロバイダは、データセンターを冗長化しており、システム障害が発生してもサービスが停止する可能性が低くなります。
柔軟性
場所や時間に縛られることなく、インターネット環境があればどこからでもコンピューティングリソースを利用することができます。

一方、クラウドコンピューティングには、以下のような課題もあります。

セキュリティ
データをインターネット上で管理するため、セキュリティ対策が重要となります。
ベンダーロックイン
特定のクラウドサービスプロバイダに依存してしまうと、サービスを乗り換えるのが難しくなる場合があります。
パフォーマンス
インターネットの速度や帯域幅に左右されるため、オンプレミス環境よりもパフォーマンスが劣化する可能性があります。

クラウドコンピューティングの導入事例[編集]

クラウドコンピューティングは、様々な業種・業態で導入されています。以下は、代表的な導入事例です。

Webアプリケーション
クラウドサービス上でWebアプリケーションを開発・運用することで、開発期間の短縮やコスト削減を実現することができます。
モバイルアプリケーション
クラウドサービス上でモバイルアプリケーションのバックエンド処理を行うことで、スケーラビリティや可用性を向上させることができます。
データ分析
大量のデータをクラウド上で分析することで、新たなビジネスチャンスを発見することができます。
機械学習
クラウドサービス上で機械学習モデルを開発・運用することで、業務の効率化や自動化を実現することができます。
ビッグデータ
クラウドサービス上でビッグデータを格納・分析することで、顧客の行動分析や市場調査などに活用することができます。

クラウドコンピューティングの仕組み[編集]

サービスモデル[編集]

クラウドコンピューティングのサービスモデルは、大きく3つに分類されます。

IaaS (Infrastructure as a Service)
サーバー、ストレージ、ネットワークなどのハードウェアインフラをサービスとして提供します。
PaaS (Platform as a Service)
アプリケーション開発・運用に必要なプラットフォームをサービスとして提供します。
SaaS (Software as a Service)
アプリケーションソフトウエアをサービスとして提供します。

デプロイメントモデル[編集]

クラウドコンピューティングのデプロイメントモデルは、大きく3つに分類されます。

パブリッククラウド
インターネット上で提供されるクラウドサービスです。誰でも利用することができ、コストが比較的安価です。
プライベートクラウド
企業が自社内に構築するクラウドサービスです。セキュリティやコンプライアンスの要件を満たすことができます。
ハイブリッドクラウド
パブリッククラウドとプライベートクラウドを組み合わせたクラウドサービスです。それぞれのメリットを活かすことができます。

クラウドアーキテクチャ[編集]

クラウドアーキテクチャは、クラウドコンピューティングシステムを構成する要素と、それらの要素間の関係を定義したものです。クラウドアーキテクチャを設計する際には、以下の要素を考慮する必要があります。

ワークロード
クラウド上で実行するアプリケーションやサービス
スケーラビリティ
将来的にワークロードが増加した場合に、システムを拡張できるかどうか
可用性
システムが常に利用可能であるかどうか
セキュリティ
データやシステムが不正アクセスから保護されているかどうか
コスト
システムの運用にかかるコスト

クラウドコンピューティングの主要な概念[編集]

仮想化[編集]

仮想化技術は、1台の物理的なハードウェア上で複数の仮想マシンを実行する技術です。仮想化技術を利用することで、以下のメリットを得ることができます。

リソースの有効活用
1台の物理的なハードウェアを複数の仮想マシンで共有することで、リソースを有効活用することができます。
スケーラビリティ
仮想マシンの追加・削除を簡単に
可用性
仮想マシンが故障しても、別の仮想マシンに切り替えることで、システムを停止せずに運用することができます。
コスト削減
仮想化技術を利用することで、ハードウェアの購入コストを抑えることができます。

スケーラビリティ[編集]

スケーラビリティとは、システムの負荷に合わせて、リソースを自動的に増減できる能力のことです。クラウドコンピューティングは、スケーラビリティに優れたシステムであるため、事業の拡大や縮小に柔軟に対応することができます。

セキュリティ[編集]

クラウドコンピューティングでは、以下の対策を講じることで、セキュリティを強化することができます。

アイデンティティとアクセス管理 (IAM)
ユーザーの認証と認可を行うための仕組み
データ暗号化
データを暗号化することで、不正アクセスから保護する
ログ監査
システムのログを監査することで、不正行為を検知する
脆弱性管理
システムの脆弱性を定期的に診断し、対策を講じる

コンプライアンス[編集]

クラウドコンピューティングでは、以下の点に注意する必要があります。

個人情報保護法
個人情報をクラウド上で取り扱う場合は、個人情報保護法などの法令を遵守する必要があります。
金融商品取引法
金融商品取引法に規制されるサービスをクラウド上で提供する場合は、金融商品取引法などの法令を遵守する必要があります。
医療情報
医療情報をクラウド上で取り扱う場合は、医療情報に関する法令を遵守する必要があります。

主要なクラウドサービスプロバイダ[編集]

Amazon Web Services (AWS)[編集]

AWSは、世界最大のシェアを持つクラウドサービスプロバイダです。IaaS、PaaS、SaaSの幅広いサービスを提供しており、多くの企業で利用されています。EC2(仮想サーバー)、S3(ストレージ)、RDS(データベース)など、多岐にわたるサービスが利用可能です。

Microsoft Azure[編集]

Azureは、Microsoftが提供するクラウドプラットフォームで、Windows Server、SQL Server、.NETアプリケーションとの高い互換性が特徴です。また、AIや機械学習、IoTサービスも充実しています。

Google Cloud Platform (GCP)[編集]

Google Cloud Platform(GCP)は、GoogleのインフラストラクチャとAI技術を活用したクラウドサービスを提供します。BigQuery(データ分析)、TensorFlow(機械学習)、Kubernetes Engine(コンテナ管理)などが人気です。

その他の主要なクラウドプロバイダ[編集]

IBM Cloudは、エンタープライズ向けのクラウドサービスに強みを持ち、Oracle Cloudはデータベースサービスに特化しています。それぞれのプロバイダーが特定の分野で独自の強みを発揮しています。

クラウドコンピューティングの活用[編集]

クラウドコンピューティングの利用事例[編集]

Webアプリケーション[編集]

クラウドサービス上でWebアプリケーションを開発・運用することで、開発期間の短縮やコスト削減を実現することができます。

モバイルアプリケーション[編集]

クラウドサービス上でモバイルアプリケーションのバックエンド処理を行うことで、スケーラビリティや可用性を向上させることができます。

データ分析[編集]

大量データをクラウド上で分析することで、新たなビジネスチャンスを発見することができます。

機械学習[編集]

クラウドサービス上で機械学習モデルを開発・運用することで、業務の効率化や自動化を実現することができます。

ビッグデータ[編集]

クラウドサービス上でビッグデータを格納・分析することで、顧客の行動分析や市場調査などに活用することができます。

クラウドコンピューティングの導入方法[編集]

クラウドコンピューティングを導入するには、以下の手順が必要です。

  1. 要件定義: クラウドコンピューティングで実現したいことを明確にする
  2. ベンダー選定: 複数のクラウドサービスプロバイダを比較検討し、最適なベンダーを選ぶ
  3. システム設計: クラウド環境でのシステム構成を設計する
  4. 移行: オンプレミス環境からクラウド環境への移行を行う
  5. 運用: クラウド環境の運用・保守を行う

クラウドコンピューティングのセキュリティ[編集]

クラウドセキュリティの脅威[編集]

クラウドセキュリティの脅威には、以下のようなものがあります。

データ侵害
クラウド上のデータが不正にアクセスされる
不正アクセス
クラウド上のシステムが不正にアクセスされる
サービス拒否攻撃
クラウドサービスが利用できなくなるような攻撃を受ける

クラウドセキュリティ対策[編集]

クラウドセキュリティ対策には、以下の対策を講じることで、セキュリティを強化することができます。

アイデンティティとアクセス管理 (IAM)
ユーザーの認証と認可を行うための仕組み
データ暗号化
データを暗号化することで、不正アクセスから保護する
ログ監査
システムのログを監査することで、不正行為を検知する
脆弱性管理
システムの脆弱性を定期的に診断し適切な修正プログラムを適用する。
ネットワークセキュリティ
クラウド環境への不正アクセスを防ぐための対策
アプリケーションセキュリティ
クラウド上のアプリケーションの脆弱性を修正する
インシデント対応
セキュリティインシデントが発生した場合の対応方法を定める

クラウドコンピューティングの未来[編集]

クラウドコンピューティングの最新動向[編集]

クラウドコンピューティングの最新動向には、以下のようなものがあります。

マルチクラウド
複数のクラウドサービスプロバイダを利用する
コンテナ化
コンテナ技術を利用して、アプリケーションを簡単にデプロイ・運用する
サーバレスコンピューティング
サーバーを意識せずに、コードを実行する
エッジコンピューティング
データ処理をネットワークの端で行う

クラウドコンピューティングの将来展望[編集]

クラウドコンピューティングは、今後も発展していくことが予想されます。以下は、クラウドコンピューティングの将来展望です。

AI機械学習の活用が進む
クラウドサービス上でAIや機械学習モデルを開発・運用することが一般的になる
エッジコンピューティングが普及する
データ処理をネットワークの端で行うことで、遅延を低減し、セキュリティを向上させる
量子コンピューティングが登場する
量子コンピューティングを利用することで、従来のコンピュータでは解くことができなかった問題を解くことができるようになる

参考資料[編集]

索引[編集]

用語集[編集]

クラウドコンピューティング
インターネットを介して、ハードウェア、ソフトウェア、サービスなどのコンピューティングリソースを必要な時に必要な量だけ利用できるサービス
IaaS
インフラストラクチャサービス
PaaS
プラットフォームサービス
SaaS
ソフトウェアサービス
デプロイメントモデル
クラウドサービスの提供方法
仮想化
1台の物理的なハードウェア上で複数の仮想マシンを実行する技術
スケーラビリティ
システムの負荷に合わせて、リソースを自動的に増減できる能力
セキュリティ
システムを不正アクセスや不正利用から保護する
コンプライアンス
法令や規制を遵守する