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ラテン語 > 名詞 > 第三変化子音幹名詞
四つ目の型は、子音型の格変化である。先程、属格複数形が -ium となるものをI型の格変化と呼ぶことを見た。これに似た格変化のパターンが幾つかあり、それらは属格複数形が -子音+ -um となるので、子音型の格変化と呼ばれる。属格単数形では、-is という形になるが、これはI型と同じである。中性の語は独特のパターンを取り、その他の語は、語幹によって、流音幹(独:Liquidastämme)・鼻音幹(独:Nasalstämme)・黙音幹(独:Mutastämme)に区別する。
一つ目のパターンは、中性名詞の格変化である。単数主格及び単数対格と、それ以外では、語幹の形が変化する。「体」を意味する「corpus, corporis」を例に挙げて、格変化を示そう。
数 (numerus) 単数 (singulāris) 複数 (plūrālis)
主格 (nōminātīvus) - (corpus)-a (corpora)
属格 (genitīvus) -is (corporis)-um (corporum)
与格 (datīvus) -ī (corporī)-ibus (corporibus)
対格 (accūsātīvus) - (corpus)-a (corpora)
奪格 (ablātīvus) -e (corpore)-ibus (corporibus)
呼格は、主格と同形である。
agmen, agminis 動き、行軍縦隊
caput, capitis 頭
carmen, carminis 歌
corpus, corporis 体
frīgus, frīgoris 寒さ
genus, generis 出自、家門、種属
iter, itineris 旅
iūs, iūris 法
lītus, lītoris 岸
lūmen, lūminis 光
nōmen, nōminis 名
opus, operis 仕事、努力、事業、著作物
rūs, rūris 田野、田舎
sīdus, sīderis 星座
tempus, temporis 時間、時代、時勢、時機
vulnus, vulneris 傷
二つ目のパターンは、流音幹である。これには、単数主格とそれ以外で語幹の形が変わるものと、変らないものがある。まずは、語幹変化のないものを見よう。この場合、全く語幹が変化しないものもあるが、語幹の末尾の s が母音に挟まれて r となるため、語幹が変化しているように見えるものもある。また、語根が複音節かつその最終母音が長母音であるものは、その母音が主格で短母音に変化する。「愛」を意味する「amor, amōris」と「花」を意味する「flōs, flōris」を例に挙げて、格変化を示そう。
数 (numerus) 単数 (singulāris) 複数 (plūrālis)
主格 (nōminātīvus) - (amor, flōs)-ēs (amōrēs, flōrēs)
属格 (genitīvus) -is (amōris, flōris)-um (amōrum, flōrum)
与格 (datīvus) -ī (amōrī, flōrī)-ibus (amōribus, flōribus)
対格 (accūsātīvus) -em (amōrem, flōrem)-ēs (amōres, flōrēs)
奪格 (ablātīvus) -e (amōre, flōre)-ibus (amōribus, flōribus)
呼格は、主格と同形である。
amor, amōris 愛
Caesar, Caesaris カエサル(人名)
clāmor, clāmōris 叫び、歓声
color, colōris 色
cōnsul, cōnsulis 古代ローマの執政官
dolor, dolōris 痛み、苦しみ
flōs, flōris 花
fūr, fūris 泥棒
honos (honor), honōris 名誉
imperātor, imperātōris 命令者、大元帥(最高指揮官)
labor, labōris 労働
mercātor, mercātōris 商人
mōs, mōris 習慣
odor, odōris 匂い
senātor, senātōris 元老院議員
sōl, sōlis 太陽
ōrātor, ōrātōris 雄弁家
victor, victōris 勝利者
arbor, arbōris 木
mulier, mulieris 夫人
soror, sorōris 姉妹
uxor, uxōris 妻
augur, auguris 鳥占官
exsul, exsulis 追放された人
三つ目のパターンは、流音幹のうち、語幹が主格で -er 、それ以外で -r の形をとるものである。「父」を意味する「pater, patris」「母」を意味する「māter, mātris」を例に挙げて、格変化を示そう。
数 (numerus) 単数 (singulāris) 複数 (plūrālis)
主格 (nōminātīvus) - (pater, māter)-ēs (patrēs, mātrēs)
属格 (genitīvus) -is (patris, mātris)-um (patrum, mātrum)
与格 (datīvus) -ī (patrī, mātrī)-ibus (patribus, mātribus)
対格 (accūsātīvus) -em (patrem, mātrem)-ēs (patrēs, mātrēs)
奪格 (ablātīvus) -e (patre, matre)-ibus (patribus, mātribus)
呼格は、主格と同形である。
pater, patris 父
frāter, frātris 兄弟
鼻音幹:-, -is(語幹変化あり、n語幹)[ 編集 ]
四つ目のパターンは、鼻音幹のうち、主格単数で語幹のみ、属格単数で -is となるものである。そもそも、鼻音幹には、n語幹とm語幹があるが、ここで扱うのはn語幹である(m語幹については、次で扱う)。これは語幹が -in または -ōn の形をとり、単数主格では -ō に変化する。「ヒト」を意味する「homō, hominis」を例に挙げて、格変化を示そう。
数 (numerus) 単数 (singulāris) 複数 (plūrālis)
主格 (nōminātīvus) - (homō)-ēs (hominēs)
属格 (genitīvus) -is (hominis)-um (hominum)
与格 (datīvus) -ī (hominī)-ibus (hominibus)
対格 (accūsātīvus) -em (hominem)-ēs (hominēs)
奪格 (ablātīvus) -e (homine)-ibus (hominibus)
呼格は、主格と同形である。
Apollō, Apollinis (Apollōnis) 太陽神アポッロー(ギリシャの太陽神アポッローンに対応)
Cicerō, Cicerōnis キケロー(人名)
latrō, latrōnis 強盗
leō, leōnis ライオン
sermō, sermōnis 言葉、説法、会話
formīdō, formīdinis 恐怖
grandō, grandinis 雹
imāgō, imāginis 像、映像、似姿、肖像、幻影、表象
legiō, legiōnis 軍団
libīdō, libīdinis 欲望、情欲、気まぐれ(参照:フロイトのリビドー)
multitūdō, multitūdinis 多数
natiō, natiōnis 出生、種属、人種、部族、国民
opiniō, opiniōnis 意見(opīnor, opīnari, opīnatus sum (想定する、推測する、意見を持つ)から)
oratiō, oratiōnis 演説
ordō, ordinis 順序、列、秩序
pulchritūdō, pulchritūdinis 美
regiō, regiōnis 地方
virgō, virginis 処女
鼻音幹:-s, -is(語幹変化なし、m語幹)[ 編集 ]
五つ目のパターンは、鼻音幹のうち、主格単数で -s 、属格単数で -is となるものである。これは、語幹が -m という形であり、単数主格とそれ以外で語幹の形が一切変わらない。このような語は、「冬」を意味する「hiems, hiemis」しかない。
数 (numerus) 単数 (singulāris) 複数 (plūrālis)
主格 (nōminātīvus) -s (hiems)-ēs (hiemēs)
属格 (genitīvus) -is (hiemis)-um (hiemum)
与格 (datīvus) -ī (hiemī)-ibus (hiemibus)
対格 (accūsātīvus) -em (hiemem)-ēs (hiemēs)
奪格 (ablātīvus) -e (hieme)-ibus (hiemibus)
呼格は、主格と同形である。
hiems, hiemis 冬、嵐(動詞形はhiemō, hiemāre, hiemāvī, hiemātum 「冬を過ごす;(態度などが)冬のように寒々しく冷淡になる、嵐のように怒り激昂する;凍結する、凍える」)※この語のみ
5つ目のパターンは、黙音幹(破裂音の語幹)である。単数主格で -s 、単数属格で -is の曲用語尾がつく。語幹変化はないのであるが、-p および -b という形以外の語幹の場合、末尾の子音と単数主格の語尾 s が口調の関係で融合し表記も変わるため、語幹変化があるように見える。具体的には、
となる。また、一部の名詞はその融合に伴い、語幹の最終音節の母音の長さが主格とそれ以外で変化する(pēs, pedis (足)、rādix, rādīcis(根)など)。それでは、実定法としての「法」を意味する「lēx, lēgis」を例に挙げて、格変化を示そう。
数 (numerus) 単数 (singulāris) 複数 (plūrālis)
主格 (nōminātīvus) -s (lēx)-ēs (lēgēs)
属格 (genitīvus) -is (lēgis)-um (lēgum)
与格 (datīvus) -ī (lēgī)-ibus (lēgibus)
対格 (accūsātīvus) -em (lēgem)-ēs (lēgēs)
奪格 (ablātīvus) -e (lēge)-ibus (lēgibus)
呼格は、主格と同形である。
eques, equitis 騎兵、騎士
lapis, lapidis 石
mīles, mīlitis 兵士
pedes, peditis 歩行者、歩兵
pēs, pedis 足
prīnceps, prīncipis 発起人、首謀者、長、君主(プリンケプス)(prīmum (初めに)+ capiō, capere, cēpī, captum (取る)から)
rēx, rēgis 王(regō, regere, rexī, rectum(統治する・規定する)から)
aetās, aetātis 年齢
cīvitās, cīvitātis 市民 (cīvis, cīvis) の共同体、国家
facultās, facultātis 可能性、許可、能力、才能、特に弁舌の才能(facilis, facile(容易な・実行可能な)と同根)
laus, laudis 賞賛
lēx, lēgis 法律
lūx, lūcis 光、輝き
pāx, pācis 平和
plēbs, plēbis 平民
quiēs, quiētis 休息
rādix, rādīcis 根
salūs, salūtis 安全
virtūs, virtūtis 徳
vōx, vōcis 声
cūstōs, cūstōdis 番人
dux, ducis リーダー、ガイド(dūcō, dūcere, dūxī, ductum(導く)から)
hospes, hospitis お客
iūdex, iūdicis 裁判官
obses, obsidis 人質
sacerdōs, sacerdōtis 神官