コンテンツにスキップ

中学受験ガイド/最低限の制度面の知識

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

学校の種類について

[編集]

中学受験が行われる中学校には基本的に次の3つがあります。

  • 私立中学校
  • 国立大学付属中学校
  • 公立中等教育学校

これから説明しますが、それぞれ、受験内容や進路についての違いがとても大きいので、よく考えてどこを受けるのかを決めてください。

私立中学校

[編集]

都道府県・市区町村・国以外の人や団体が作った学校です。

私立中学校は、進路のありかたで2種類に分けることができます。

  • 私立大学付属中学校
  • 中高一貫校(大学はない)

なお、高校もない私立中学校もありますが、そうした学校はとても少ないこと、そもそも中学受験がない(小中一貫校)ことがあるため、ここでは省略します。

私立大学付属中学校

[編集]

私立大学付属中学校の多くは、中高・大学まで一貫していることが多いです。つまり、その中学校に入れば、それから先の高校受験・大学受験はなく、そのまま高校から大学まで行けるところが多い(内部進学といいます)のが特徴です。これ以降の受験がないため、のびのびと過ごすことができます。ただし、大学に進学するときにはそれまでの成績がしっかりチェックされたり、学部にふりわけるための試験が高校3年の冬に行われることもあります。そのため、成績やテストの結果次第では希望する学部にいけない場合もありえます。特に医学部には、普段の成績が上位でなければ進学できず、その中からさらに試験に合格した人だけを進学させる[1](不合格者は別の学部に進学する)こともあるため、普通の中学・高校と同様(あるいはそれ以上)に6年間みっちりと勉強する必要があります。

また、大学付属高校に限ったことではありませんが、あまりにも成績が悪いと転校をすすめられたり、退学させられたり、内部進学が認められなかったりすることもありますから、気を抜きすぎるのは禁物です。

なお、一部の大学付属中高では、内部進学者よりも外部進学者の方が多いところもあります[2]。他の大学に行く生徒が多いところはあとで紹介する中高一貫校の雰囲気に近いです。ですから、大学までストレートに行くつもりなのか、それとも大学は別のところにするつもりなのかをよく考えておきましょう。


大学のない私立の中高一貫校

[編集]

大学のない私立の中高一貫校の多くは早くから大学受験を目指した教育が行われます。そのため、授業のスピードがとても速いです。中学3年の頃には高校内容に入り、高校2年生時で中高6年間の内容を終わらせてしまうこともよくあります(高校3年生時に大学受験のサポートをするため)。

教科書も、公立の中学校の教科書とは違う別の教科書を使うことがあります。特に数学・英語・理科は中高一貫校専用の教科書を使うことが多く(学校独自の教科書や教材を使うこともあります。また、ベースは教科書だが(または教科書も使用せず)独自のカリキュラムで進めることもあります)、[3]、一般の中学校教科書には載っていない内容や発展内容を普通に学習することもしばしばです。なお、検定教科書(公立中学校の教科書)は無償で支給されますが、このような教科書は基本有償になっており、入学時、購入することになります。

国立大学付属中学校

[編集]

国立大学付属中学校は、国立大学の教育学部に付属する中学校です。私立大学付属中学校との大きな違いは、大学に内部進学することはできないということです(ごく一部、例外があります)。例えば、東京大学付属中等教育学校という学校がありますが、そこに入学しても東大に自動的に行くことはできません。また、国立大学付属中学には高校がないことも多く、高校受験も普通にしなければならないことが多いです。

東大だけでなく、筑波大付属中学高校も同様、大学への内部進学の枠は無いです。他の国立大付属中学も同様、内部進学は無いです。

このため、高校受験・大学受験をする場合は、自費で塾や予備校などが別途、必要になるかもしれません[4]


高校の進学については、もし系列の高校が存在している中高一貫校の国立中学でも、内部進学が全入ではない学校も国立にはあり、内部進学の推薦をもらえなかった中学3年生は他高校を高校受験をしなければいけない場合もあります[5]


また、国立大付属の中高には学生寮は無いはずです[6]。よって、実家から通える範囲であることが前提になります。中学によっては、その受験する小中学生が親と同居の状態で通学できることを定めている場合があります。

特に、筑波大付属中では、通学時間をおよそ60分以内など、きびしく指定しています中学受験・高校受験の受験情報雑誌 サクセス

国立大学付属中学校の役割は三つあります[7]

  1. 大学が新しい教育方法を研究開発する場と地域のモデル的な学校となること。
  2. 大学の教育実習生の受け入れ先となること。
  3. いじめや不登校など、現代的な教育課題に対応する教員養成の在り方に関しての研究に協力すること。

つまり、国立大学付属中学校はより良い教育を行うための実験校という側面が強く[8]、必ずしも難関高校・大学への進学を目指すための教育をしているわけではありません。しかし、難関高校や大学進学を目指す雰囲気は強く、大抵は上位の進学校なみの進学実績となっています。

受験が少し独特であるのもとくちょうです。あとで紹介しますが、試験は「適性検査」となっていることがふつうです。また、受験生が多い場合には抽選が行われることもあります。

公立中等教育学校

[編集]

都道府県や市が建てた中高一貫教育校です。もともとは公立高校だったところが、中学校も併設(へいせつ)してできた学校で、2000年以降にできました。

試験は「適性検査」となっているだけでなく、試験科目も国語・算数・理科・社会の総合的な内容の「適性検査1」、作文の「適性検査2」というパターンが多いです。受験生が多くても抽選は行いませんが、人気が非常に高く、倍率がとても高いです。

ここも授業内容は、大学のない私立の中高一貫校とほぼ同じです。ただし、高校受験生も募集する学校の場合は、一般中学校出身者にあわせるため、進度を普通の中学校なみにしている場合もあります。

親同居・通学時間などの制限

[編集]

少なくない私立中学・国公立中学で、たとえば「保護者(ふつうは親)と同居した状態で通学できること」とか、あるいは通学時間をたとえば「90分」以内などと制限している場合があります。

特に国立中学の場合、距離ではなく通学時間で制限していますので、たとえば都心のある国立(こくりつ)中学の受験可能な地域について、東村山市が受験可能な地域であるのに武蔵村山市が受験不可能な地域になったりします[9]

高校のない私立中学・国立中学

[編集]

私立中学も国立中学も、かならずしも高校との一貫校とは限りません。

そもそも併設の高校を持たない私立中学もあります。具体的には、都内では、下記の中学が、併設・系列の高校を持ちません[10]

  • 清明学園中学(共学)
  • サレジオ中学(男子)
  • 武蔵野東中学(共学)

高校に進学したい場合、中学3年の時点で、世間一般の中3の子供と同様に高校受験することになります。

このほか、国立(こくりつ)の中学ですが、国立大学の教育学部の付属中学には、高校をもたない中学もあり、これらの中学生も高校進学したい場合高校受験をすることになります。

横浜国立大学教育学部附属の中学校2校、千葉大学教育学部、埼玉大学教育学部、茨城大学教育学部の付属中学がそうであり、併設の高校を持たず[11]、よって中3で高校受験が必要になります。

出願の注意

[編集]

出願方法が指定されている中学もあります。願書の郵送が認められていない場合もあり(代わりにネット出願)、そもそも紙の願書が存在しない可能性もあります。

また、紙の願書が存在している中学でも、持参日がきびしく定められている場合もあります。


ネット出願の場合

私立中学の場合、学校にもよりますが、ネット出願(「web出願」ともいう)しか認められてない場合もあります。

国立中学の場合も、都心の国立中学では「web出願」しか認められていない場合もあります。

受験票を印刷する必要があるので、プリンタなどを確保しておいてください。また、顔の写真データが必要ですので、写真屋などで用意してください。


持参の場合

いっぽう、地方の国立中学の場合(たとえば地方の国立大学教育学部附属の中学)の例ですが、願書の持参しか認められていない場合もあり、しかも持参日および時刻(たとえば、事務室の窓口の空いている時間のみ)が指定されている場合もあります。

学校説明会

[編集]

学校説明会ですが、近年ではインターネットからの予約が必須の学校が多いです(特に私立)。

学校説明会に参加しなくても、その中学を受験して得点が良ければ合格します(受験のある中学の場合)。しかし、時間的に余裕があるなら志望順位の高い中学については説明会に参加するほうが無難でしょう。

また、受験生向けの情報を、たいていの私立中学のwebサイトは広報しているので、保護者などは定期的にwebサイトを確認すると良いでしょう。

パソコンやインターネット環境の無い家の場合や、ネット環境があっても低速な回線の場合、まずはインターネット環境を整えるのが先です。(コロナ対策で2023年現在では多くの家庭でパソコンが確保されているでしょうが、5年後や10年後の世代はそうとは限らないので説明しておきます)

その他の特徴

[編集]

宗教

[編集]

私立中学高校には宗教系のものもあります。主に、キリスト教(カトリック/プロテスタント)、仏教です。これらの学校では宗教の授業(宗教の考え方をもとに自分をみがく)があるところもあります(道徳の授業がなく、代わりに宗教の授業があることがよくあります)。また、学校行事にも宗教行事が含まれていることがあります(普通の行事にも宗教がからむことがあります)。しかし、たとえば、キリスト教の学校に「キリスト教徒にならなければ(洗礼を受けなければ)ならない」「神社で参拝してはならない」などという決まりがあることは、まずありません。そのため、ほとんどの宗教系私立学校は普通の学校と同じ感覚で入れます。ただし、その学校に入る以上、宗教教育を拒否できませんから、宗教上の事情がある方はよく考えてください。

入信が必要な一部の私学

ただし、ごく一部ですが、その学校に入る場合にはその宗教に入ることが求められる学校もあります。理由は、そのような学校は宗教・宗派の指導者を若いうちから育てることを目的としているからです。こうした学校はちゃんと学校説明会のときに説明されますし、パンフレットなどにも書いています。また、校名で分かるところもありますのでよく確認しましょう。


間接的な宗教教育の私学

ほか、表向きには宗教系の学校を目指していなくとも、建学時の経緯などからキリスト教または仏教と関係の深い私学もあります。たとえば戦前から英語教育に力を入れていた私学など、その歴史的にキリスト教と関わりがあったりします。

具体名を出すと、戦前の成城学園です。[12]

他の学園でも、たとえば学校が直接はキリスト教を信仰していなくても、海外提携校の西洋の私学が地元のキリスト教会と交流しているような場合もあります。

ヨーロッパ諸国では、中学高校では音楽教育や美術教育などをあまりしない国々も多く、そういうのは現地の教会を通して教育や啓蒙を行う場合もあります。このため、海外姉妹校などとの交流の際には教会に訪問をする場合もあったりします。

イギリス国王はイギリス国教会(こっきょうかい)の長を兼ねています。なので、これらの国の私学と姉妹校をもつ日本国内の私学は、その影響を間接的に受けます。

あるいは、日本のある私学の戦前の卒業生にキリスト教徒がやや多い場合もあります。このため、間接的な範囲まで考えると、じつは全くの中立とは言えません。

パンフレットにある創設の経緯の歴史などから、そういうのを察する必要があります。

考えてみれば、もし英語研修のための海外交換留学だけが目的なら、留学先はインドやシンガポールなどでも構わないわけです。そうでなくイギリスの私学との交換留学の存在を歌っていたりする日本の私学は、つまりそういう歴史的な経緯があるわけです。

なお音楽教育も、西洋音楽とはキリスト教音楽とが切り離せません。もっとも公立中高でも部活動などで合唱部などが讃美歌を歌うことはあるので(ただし強制の学校行事とは切り離されているので他の部活の人が耳にする機会が少ないますが)、こちらはあまり心配する必要はないかもしれません。


日本だけでなくアメリカでも宗教と教育について同様の歴史があります。アメリカでは、18世紀や19世紀にキリスト教プロテスタントの団体が社会改善運動(エヴァンジェリカル運動)のために設立した中学校・高等学校などが母体になって[13]、それらの学校が時代を経て脱・宗教化して世俗化(せぞくか)されて現代では名目上は宗教的には中立な学校もあります。キリスト教プロテシタントにおける教育をもちいた人格形成論が、根源にあります。


余談ですが、日本のキリスト教には「無教会キリスト教」という考え方があり、ヨーロッパや北米などキリスト教圏における古来からの徳目を重視しつつ、キリスト教美術・週音楽なども尊重しつつも、形骸化(けいがいか)・形式化をさけるために、あえて教会や経典などをもたないキリスト教徒もいます。w:無教会主義

学生寮のある私学は少ない

[編集]

私学でも、学生寮のある私学は少ないです。いちぶ、地方などで学生寮のある私学は存在しますが、だいたいの場合は学校本体の生徒数の定員のわりに寮の定員が少なく、基本的には自宅から通える範囲の私立中学に進学することが前提です。

なお、学生寮のある中高については、下記の外部リンクを参照してください。

リンク先を見ても、早慶マーチの付属校については、例外として高校ですが早大付属の早稲田摂陵高校(大阪府)と早稲田佐賀高校(佐賀県)を除いて、寮の情報が見当たりません[14]

なお、国立大付属の中高には学生寮は無いはずです[15]。よって、実家から通える範囲であることが前提になります。

ネット検索で「〇〇大学付属 高校 学生寮」でマーチ大学群などを〇〇部分に入れて検索すると出てくる結果は、学生寮ではなく大学生向けの一般の近隣マンションばかりですし、また中高生むけ情報ではありません。その学園はそのマンション経営には一般に関わっていません。勝手にマンション会社が「学生向け」のターゲット層で商売しているだけです。学園とは無関係のマンション会社です。

私立の高校受験のさいの推薦なし

[編集]

私立中学はふつう、いちいち「中高一貫校」と宣言していなくても、実際には中高一貫校である場合が普通です。そして高校受験で他校を受験するのは、法律的には可能ですが、しかし、どんなに偏差値の高い私立中学でも、高校受験での指定校推薦などの類は、無いと思われます。まったく「中高一貫校からの指定校推薦」(←たぶん無い)という話を、聞いたことありません。

やむにやまれぬ理由が無い限り、高校受験はおすすめしません。

たとえば「今いる学園の高校の授業についていけそうにないので、中学卒業とともに他校に移りたい」とか「保護者が失業して、家のお金が無くなった。公立高校に行くしかないのか?」とかの理由が無いかぎり、私立中学から高校受験するのは、リスクが高いです。

なお、もし保護者の失業で中学在学中に家のお金が無くなった場合でも、奨学金などを借りることも検討したほうが良いかもしれません。3年間の300万円くらいの学費なら、コツコツと働けば、10数年~20年もあれば返せます。

なお、私立高校で「特待生」というのがありますが、学費無料とは限らず、学費の減免だけの場合もあります。たとえば一般生徒は年間100万円の学費が、特待生だと50万円だったり、みたいなのです。なので、有料であることには変わりない場合もあります。

そもそも、たとえ中学受験のときは成績がよくても、高校受験で成績が良いとはかぎらず、なので偏差値の低い私立高校の特待生になれるとは限りません。なので、わざわざ他私立に移るのはリスクが高いです。入学時に特待生になれても、高校2年や3年で特待生になれるとは限りません。

私立大学への指定校推薦について

[編集]

私立大学の指定校推薦において要求される成績は、高校時代の成績です[16]。なので、中高一貫校では、赤点スレスレで遊ぶのは中学時代までにしましょう。

このため、中高一貫校でも、中学3年になったら、高校受験の5教科の勉強のようなものを始めるほうが良いでしょう。たとえば、塾なども活用して模試を受けるなどして、中3時点で高校受験偏差値で60くらいは目指しましょう。

塾にも、中2あたりから夏期講習に行ってみたりとかしましょう。

もし、「高校時代も遊びたい」、もしくは5教科(国数英理社)の学業よりも優先して熱中したものがある(たとえば「ミュージシャンになりたい!」的なの)、という人は、そもそも中高一貫校やその先の難関大学への進学にあまり向いていません。そういう「ミュージシャンになりたい」的な進路の人は、wikiに「向いてない」と言われた事を相談して、高校卒業後の進路を考え直しましょう。

[編集]
  1. ^ 例として日本大学医学部があります。
  2. ^ 有名どころでは国学院大学久我山中学高等学校や久留米大学附設中学校・高等学校。
  3. ^ 代表的なものが、数学では、数研出版の『体系数学』シリーズ。一般の教科書と、構成がかなり異なります。中堅以上の私立中学の数学教科書はほぼこれが使われています。また、英語では『NEW TREASURE』『PROGRESS IN ENGLISH 21』のどちらかを使うことが多いです。
  4. ^ 栄光ゼミナール 著『国立中学のメリットとは?【中学受験の学校選び】』 :2024/01/10
  5. ^ 『お受験で人気の国立大附属、内部進学には厳しい現実《本当に強い中高一貫校》』週刊東洋経済、2009/07/09 17:20
  6. ^ 教えてgoo 『国公立の、寮のある高校』質問日時:2005/02/23 19:46
  7. ^ 受験マニアックス2018年4月号・国立中学校より。
  8. ^ 水上勝義・升野伸子 『「筑波大附属中」、日本の中等教育を先導する授業とは』、2022.9.21 3:55、
  9. ^ 『2024(令和6)年度より、通学区域を変更します | 筑波大学附属駒場中・高等学校【公式】』2023年7月20日 更新
  10. ^ 『中学受験、もうひとつの選択。「高校のない」私立中学校......武蔵野東中学校』2017/09/11
  11. ^ 『中学受験、もうひとつの選択。「高校のない」私立中学校......武蔵野東中学校』2017/09/11
  12. ^ 小針誠 著『大正新教育運動のパラドックス』 、【特集】子ども中心主義のパラドックス、2015:19-32、P.28 に「小原や赤井に限っていえば、彼らは共通して敬虚なクリスチャン(プロテスタント)(5'であった。」という記述がある
  13. ^ [file:///C:/Users/yoshi/Downloads/4214.pdf 木下慎 著『近代教育批判の根拠 ‐ 田中智志の教育思想をめぐって ‐』、東京大学大学院教育学研究科 基礎教育学研究室 研究室紀要 第쏇2号 別刷、2016年7月、P.118 ]
  14. ^ 矢野耕平 著『あの"聖心"の女子寮が貫く"秘密のルール"』2017/10/31 9:00 ※ リンク先のこのページで、いくつかの、寮ある私学を紹介
  15. ^ 教えてgoo 『国公立の、寮のある高校』質問日時:2005/02/23 19:46
  16. ^ 『中高一貫校の指定校推薦で、中学時代に気を付けるポイントとは?』、 2023年12月11日に閲覧.