中学受験算数/計算

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

計算の工夫[編集]

中学受験では、一見すると非常に難しい計算があります。もちろん、そのまま力づくで解くこともできます。しかし、それでは時間もかかりますし、計算ミスも増えてしまいます。そこで、ここでは工夫をすることで、簡単な式に直せる計算などを紹介(しょうかい)します。

覚えておくべきこと[編集]

  • かけ算では、かけられる数を倍して、かけられる数をで割っても、その積は変わらない。

分配法則を使う[編集]

まず、計算の工夫で、もっとも基本となる分配の決まり(分配法則)をおさらいしましょう。

分配法則

これを使った計算をします。

  1. (25+24)×4
  2. (16+12.5)×8

この二つをふつうに計算してもかまいません。しかし、分配法則を使うと、暗算でも解くことができます。1は、分配法則を使うと、25×4+24×4=100+96=196と計算できます。2は、16×8+12.5×8=128+100=228となります。

次を解いてみましょう。

  1. 48×32+52×32
  2. 108×58-8×58
  3. 28.3×12-12×18.3

いずれも分配法則を使いますが、今度は右辺と左辺を逆にしたを使います。1.について。これは、48×32+52×32=(48+52)×32=100×32=3200となります。2.も、108×58-8×58=(108-8)×58=5800です。3は「×12」の場所が変わっていますが、問題なく分配法則をつかえます。28.3×12-12×18.3=(28.3-18.3)×12=10×12=120となります。

次に分配法則の応用を紹介します。

分配法則の応用

では、この式を使って、次の計算問題を解いてみましょう。

  • 113×113-13×13

ふつうに計算すると、大きな数になり手間がかかります。しかし、先ほど紹介した式の変形を使えばわりとあっさりとけます。113×113-13×13=(113+13)×(113-13)=126×100=12600です。

分数[編集]

まず、分数の計算の工夫について、次の式を紹介します。

分数の計算の工夫

これだけみても、ちょっとわかりにくいかもしれません。この式を使ってとく問題を見てみましょう。

  • 次の計算をしなさい。

これもふつうに計算すると、となり、通分が大変です。では、ここで先ほど紹介した式を使って、この計算を変形してみましょう。

となります。

長い式ですが、よく見てください。の部分は0になり、消えてしまいます。10-2+2=10となるのと同様に、ある数からひき算をした数と同じ数を足すとき、もとの数に戻るのと同じ理由です(厳密にはたし算の交換の決まり(交換法則)と中学1年で習う正負の数を知る必要があります)。そのため、この式はとなります。この式を計算すると、となります。

約束記号[編集]

中学入試の計算にはちょっと変わった計算問題がよく出てきます。その一つが約束記号の問題といわれるものです。

演算[編集]

2つの数の計算をある記号やカッコで表現したものを演算といいます。

  1. 〈A◎B〉=A×2+Bとあらわすことにします。たとえば〈2◎5〉=2×2+5=9、〈5◎4〉=5×2+4=14です。次の計算をしなさい。
    1. 〈8◎2〉
    2. 〈1◎5〉+〈6◎2〉
    3. 〈〈2◎3〉◎〈3◎10〉〉
  2. 1にAをB回かけるとCになるとき、A☆C=Bとあらわすことにします。たとえば、4☆4=1、4☆16=2、4☆64=3です。次の計算をしなさい。
    1. 2☆64
    2. 5☆625
    3. (6÷3)☆128
  3. 【5◇2】=50、【7◇2】=98、【2◇3】=24、【2◇5】=160になりました。【8◇3】は何になりますか。
  4. 《2※3》=6、《2※4》=4、《3※6》=6、《6※8》=24になりました。《8※10》は何になりますか。
  5. [2△3]=0、[3△2]=1、[5△3]=1、[10△3]=3になりました。[10△2]は何になりますか。

1.から見ていきましょう。1(1)は約束記号の通りに計算しましょう。つまり、〈8◎2〉=8×2+6=22です。1(2)のような計算は、約束記号の計算から行います。〈1◎5〉=1×2+5=7、〈6◎2〉=6×2+2=14です。最後に二つを足すと、21となります。1(3)のように、約束記号の中に約束記号がある場合、中の約束記号から先に計算します。つまり、〈2◎3〉と〈3◎10〉を先に計算します。〈2◎3〉=2×2+3=7、〈3◎10〉=3×2+10=16です。そうすると、〈7◎16〉の形にできます。7×2+16=30です。

2.を見ていきましょう。この場合、「1に2をN回かけると64になる」といえます。ですから、64を2で素因数分解するとよさそうです。すると、2×2×2×2×2×2となります。この問題では何回かけたかが約束記号の答えとなります。これに「1×」をいれると、1×2×2×2×2×2×2となりますね。ですから、2を6回かけるので、2☆64=6です。

2-2も同じです。1×5×5×5×5となりますから、5☆625=4です。

2-3について。約束記号の形になっていない式は、約束記号の形になるように計算してから答えをもとめます。そのため、約束記号以外の部分から計算します。この時は6÷3から計算すると、2☆128とできます。あとは、これまでと同じように計算します。2☆128=7です。

3.は1・2とちがって、どういう計算かが書かれていません。このときは、自分で約束記号の計算方法をさぐる必要があります。計算方法を探るときは、記号の中の数を使って、答えの部分をかけ算かわり算してみましょう。もし、かけ算やわり算をしても規則が見つからない場合はひき算やたし算をします。

【5◇2】=50について。50を2でわってみましょう。すると、25となります。これは、5×5です。したがって、【5◇2】=5×5×2です。

【7◇2】=98も同じように計算すると、【7◇2】=7×7×2です。

【2◇3】=24は、【2◇3】=8×3になりますね。この場合は、まだ2をつかっていませんし、8は2でわれます。8を2でわっていくと、【2◇3】=2×2×2×3となりました。

そろそろ気づいたかもしれませんが、【2◇5】=160も考えてみましょう。同じように計算すると、【2◇5】=2×2×2×2×2×5となります。ですから、【A◇B】=(AをB個つかったかけ算)×Bがこの約束記号の計算です。そのため、【8◇3】=8×8×8×3=1536が答えです。

4について。約束記号の中の数をわり算・かけ算・ひき算・たし算しても、規則性は見つかりません。こういう場合には、二つの数の公約数や最小公倍数に注目します。そうしてみると、《2※3》=6は2と3の最小公倍数6、《2※4》=4は2と4の最小公倍数4、《3※6》=6は3と6の最小公倍数6、《6※8》=24は6と8の最小公倍数24と一致します。ですから、この約束記号の意味は「二つの最小公倍数をもとめよ」という問題と同じだと分かります。《8※10》は「8と10の最小公倍数は?」というのと同じですから、《8※10》=40です。

5について。ここで、約束記号の中で0がでてきました。計算式が書かれていない問題で0が出てきた場合、次のことに注意するといいでしょう。

  1. 二つの数の商やあまりに注目する。たとえば5÷7=0あまり5となり、0がでてくる。また、2÷2=1のときはあまりが0と考える。
  2. 二つの数の約数を考える。特に公約数が1しかないときは0とすることがある。
  3. ひき算してみる。

[2△3]=0、[3△2]=1、[5△3]=1、[10△3]=3をみると、どれも右辺は左辺の商(あまりや小数点以下は切りすて)になっていますね。ですから、[10△2]=10÷2と等しいので、[10△2]=5となります。

演算の問題では以下のことがポイントになります。

  1. 計算式が書かれているなら、その通りに計算する。
  2. 計算式が書かれていないなら、次のようにして二つの数の関係を探る。
    1. 二つの数をつかって、わり算・かけ算・ひき算・たし算してみる。(とくにわり算が有効なことが多い)
    2. 二つの数の公約数や最小公倍数に注目する。
    3. ある数の中に倍数はいくつあるかを考える。(例:1から10までの間に3の倍数は3,6,9の3個ある)
    4. 約束記号で0が出てきたら、商、わり算のあまり、約数・公約数、ひき算を考える。

約束記号[編集]

演算は二つの数の関係に注目したものですが、ある一つの数の性質や意味だけを使った約束記号の問題があります。

  1. 〈5〉=1+2+3+4+5、〈8〉=1+2+3+4+5+6+7+8とします。次の計算をしなさい。
    1. 〈10〉
    2. 〈20〉
    3. 〈〈3〉×〈4〉〉
  2. 〔6〕=1+2+3+6、〔10〕=1+2+5+10、〔15〕=1+3+5+15とします。次の計算をしなさい。
    1. 〔5〕
    2. 〔45〕
    3. 〔〔9〕+8〕
  3. 【2】=2、【3】=2、【4】=3、【6】=4 【7】=2 【8】=4のとき、次の数をもとめなさい。
    1. 【5】
    2. 【10】
    3. 【32】

1.について。これは、1からカッコの中の数までたし算していく問題です。1-1と1-2は、初項1、公差1の等差数列と同じです。そのため、等差数列の公式を使えば簡単にとけます。〈10〉=1+2+3+4+5+6+7+8+9+10=10×(1+10)÷2=55です。〈20〉=20×(1+20)÷2=210となります。1-3は、約束記号の中に約束記号があります。これも、演算と同じように、約束記号の形になるように計算するところから始めます。〈3〉=1+2+3=6、〈4〉=1+2+3+4=10です。次に6×10を計算します。6×10=60ですから、〈60〉=60×(1+60)÷2=1830です。

2.について。この場合は、約束記号の意味を考えなければなりません。たし算するのはわかりますが、どんな数を足しているのでしょう。例の数をよく見ると、カッコの中の数の約数を足していますね。ですから、この約束記号は〔A〕=Aの約数をすべてたすとなっています。では、問題を解きましょう。〔5〕は、5の約数1と5のみですから、〔5〕=1+5=6です。〔45〕は45の約数を挙げていきましょう。1,3,5,9,15,45が45の約数ですから、〔45〕=1+3+5+9+15+45=78です。2-3も約束記号の形に直すところから始めます。〔9〕=1+3+9=13ですね。それに8を足すと、〔21〕となり、〔21〕=1+3+7+21=32となります。

3は途中の計算が書かれていないので、やはり、自分で規則性を考えなければなりません。関数の形の約束記号の問題では、カッコの中の数の性質に注目します。特に、約数が重要です。2の約数は1,2、3の約数は1,3、4の約数は1,2,4、6の約数は1,2,3,6、7の約数は1,7、8の約数は1,2,4,8です。約数同士を計算してもあまり意味はなさそうです。しかし、約数の数に注目してください。2の約数は2個、3の約数も2個、4の約数は3個、6の約数は4個、7の約数も2個、8の約数も4個です。もうお気づきでしょうか。この問題では【A】=約数の個数だったのです。となると、後は簡単にとけます。【5】=2、【10】=4、【32】=6です。

約束記号の問題では、カッコの中の数の性質に注目して規則性を探すことが重要です。そのとき、ポイントになるのは次の点です。

  1. 約数に注目する。さらに約数を使うのか、約数の個数を使うのかのちがいに注意する。
  2. 素因数分解してみる。このとき、素数の種類と個数にも注意する。
  3. 1からカッコの中の数までたし算またはかけ算してみる。