公認会計士試験/平成30年論文式/経営学/第2問問題1
問題
[編集]次の文章を読み,以下の問1及び問2に答えなさい。なお,計算問題については,数値が小数点第2位で割り切れない場合には,計算途中での四捨五入はせず,最終数値の小数点第3位を四捨五入して小数点第2位まで答えること。
X社は,現在2年間の新規投資プロジェクトを実施すべきか否かを検討している。この投資プロジェクトは,現時点において120 億円の投資を行い,1年目と2年目にともに850 億円の売上高となる。この投資プロジェクトの各年の原材料費は原材料価格と一致するものとし,売上高と原材料価格の差をこの投資プロジェクトが期末に生み出すキャッシュ・フローとする。現時点において,1年目の原材料価格は750 億円と期待され,2年目の原材料価格は70%の確率で375 億円(ケース1),30%の確率で1,500 億円(ケース2)となる。
この投資プロジェクトは1年目終了後から実施することも可能であり,その場合には1年目終了後に120 億円の投資を行って850 億円の売上高となり,1年間で投資プロジェクトは終了する。また,原材料価格がケース1 となるのか,ケース2 となるのかは,投資時には明らかとなっている。
なお,この投資プロジェクトに用いる割引率は20%とし,無リスク利子率は10%とする。また,現時点で投資を実施する場合でも1年目終了後に投資を実施する場合でも,投資終了時における当該事業の資産の残存価値はゼロとする。
現時点 | 1年目 | 2年目 | 投資終了 | |
├──── | ──────────── | ┼─── | ──────────────── | ───→│ |
↑
投資額 120億円 |
(原材料価格は750億円) | (原材料価格がケース1なのか,
ケース2なのかは,わからない) |
現時点 | 1年目 | 2年目 | 投資終了 | |
├──── | ──────────── | ┼─── | ──────────────── | ───→│ |
↑
投資額 120億円 |
(原材料価格がケース1なのか,
ケース2なのかは,わかっている) |
1年目 | 2年目 | ||
ケース1 (70%) | ケース2 (30%) | ||
(A) 売上高 | 850億円 | 850億円 | 850億円 |
(B) 原材料価格 | 750億円 | 375億円 | 1,500億円 |
期待キャッシュ・フロー((A)-(B)) | 100億円 | 475億円 | -650億円 |
問1 次の文中の空欄①に当てはまる数値を答えなさい。また,空欄②及び③に当てはまる最も適切な記号をそれぞれ一つ選びなさい。
現時点において,この投資プロジェクトを実施した場合,正味現在価値(NPV)は ① 億円となり,NPV法に基づけば投資を ② 。また,この場合の内部収益率(IRR)は25%よりも ③ 。
- ア.実施すべきである
- イ.実施すべきでない
- ウ.実施してもしなくてもよい
- エ.高い
- オ.低い
問2 この投資プロジェクトをリアル・オプション・アプローチに基づき評価する。
問2-1 原材料価格を原資産価格とした場合,ケース1となるリスク中立確率を求めなさい。
問2-2 次の文中の空欄④に当てはまる数値を答えなさい。また,空欄⑤に当てはまる最も適切な記号を一つ選びなさい。
1年目終了後に投資プロジェクトを実施する場合,リスク中立確率と無リスク利子率を用いて評価した投資プロジェクトの現時点におけるNPVは ④ 億円となり,投資を ⑤ 。
- ア.実施した方がよい
- イ.実施しない方がよい
- ウ.実施してもしなくてもよい
問2-3 このようなリアル・オプションは何と呼ばれるか。最も適切な記号を一つ選びなさい。
- ア.撤退オプション
- イ.延期オプション
- ウ.交換オプション
- エ.拡張オプション
正解と解説
[編集]問1
[編集]- 期待キャッシュ・フロー
- 1年目:100億円
- 2年目:475億円×0.7+(-650億円×0.3)=137.5億円
- NPV
- 100億円÷(1+0.2)1+137.5億円÷(1+0.2)2-120億円≒58.82億円>0
- ∴投資を実施すべき。
- 100億円÷(1+0.25)1+137.5億円÷(1+0.25)2-120億円=48億円>0
- ∴IRR>25%
問2
[編集]2-1,2-2
[編集]1年目 | 2年目 | |
---|---|---|
┌→ | 375億円 | |
750億円 | ┤ | |
└→ | 1,500億円 |
よって,リスク中立確率をqとすると,無リスク利子率が10%であるから,
- 375億円×q+1,500億円×(1-q)=750億円×(1+0.1)
- q=60%
また,投資プロジェクトのキャッシュ・フローは,
- 原材料価格が下落したとき(ケース1):475億円
- 原材料価格が上昇したとき(ケース2):ゼロ(投資しない)
したがって,リスク中立確率で算定した2年後の期待キャッシュ・フローは,
- 2年後期待キャッシュ・フロー=475億円×0.6+0×0.4=427.5億円
これを割り引いて,
- 1年後期待キャッシュ・フロー=427.5億円÷1.1=259.0909…億円
- 1年後NPV=259.0909…億円-120億円=139.0909…億円
- 2年後NPV=139.0909…億円÷1.1≒126.45億円