まず,複素係数の線形定常常微分方程式
(4.11)

を考える.ここに
とする.これを初期条件,

の下に Laplace 変換すると,実係数の場合と同様にして,
![{\displaystyle {\mathcal {L}}[z]={\frac {q(s)}{p(s)}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/63a035107059ee123ae61e6a32d1613cc32dac90)
を得る.ここに
は式 (4.11) に付随する特性多項式,
は
で決まる高々
次の多項式である.
一般に,複素係数の多項式は,代数学の基本定理により,複素係数の範囲で 1 次の積に因数分解できるから,それを,

とすると,これに対応して,
![{\displaystyle {\mathcal {L}}[z]=\sum _{i=0}^{\mu }\left\{{\frac {A_{i1}}{s-\alpha _{i}}}+{\frac {A_{i2}}{(s-\alpha _{i})^{2}}}+\cdots +{\frac {A_{il_{i}}}{(s-\alpha _{i})^{l_{i}}}}\right\}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/526d2a0637ccab7c6930066ffae235ff23bf2dc4)
と部分分数に展開できる.それゆえ,この原像は,

または
(4.12)

と求まる.ここに
は
の多項式で次数は高々
,係数は複素数である.
複素数値関数の微分に述べたように,

であるから

となり,式 (4.12) が式 (4.11) の解であることが分かる.解の一意性の証明も全く同じであるから,繰り返さない.また非同次方程式,

の解法も,全く同様である.なお,式 (4.11) の解の基本系は,

となる.実際,これらが 1 次独立となることは,前章の証明よりも,はるかに容易に示し得る.
事実,補題 4.1 の系によれば,

は一次独立であるから,あとは,

の 1 次独立性だけを示せばよい.これは,

の 1 次独立性と同じであるから,明らかである.
微分方程式式 (4.11) の係数が実数の場合を,この章の立場から述べておく.
特性方程式
が 1 次の因数に分解できることは同様であるが,その内容は,

のような形をしている.ここに
で
は
の共役複素数である.
このとき解の基本系は,次の 3 種類の型のものから成り立っている.
Ⅰ

Ⅱ

Ⅲ

Ⅰ型は実関数である.しかし,Ⅱ,Ⅲ型は複素数値関数である.これらを,


ここに
を用いて実関数の基本形に直すと,Ⅱ,Ⅲの変わりに,
Ⅱ'

Ⅲ'

となる.Ⅰ,Ⅱ',Ⅲ'が実形式で表した解の基本形である.前章で求めたものと形は異なるが,この方が導出が簡単である.
例94
{Ⅰ,Ⅱ',Ⅲ'}が解の基本系となること,すなわち 1 次独立であることを示せ.
解答例
非同次方程式の一般解は,同次方程式の一般解に特解を付加すればよいことは,前章と同様である.
ここに述べたように,一般に,理論的な話をするときには,複素数値関数で取り扱う方が見通しがよい.
しかし実際に初期値問題を解くときには,前章の手法の方が優れている.
ただ,一般解を求めるのは,本章の方法によるのが賢明である.