制御と振動の数学/Laplace 変換/有理関数の原像/部分分数分解

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

演算子法を用いて微分方程式を解く際に,一番わずらわしい作業は,有理関数(分数式)の原像を求めることである. 今まで何回か述べてきたように,分数式をより簡単な分数式の和に分解しておいてから原像を求めるのである. たとえば,

のようになる.この操作を部分分数分解という.この例は簡単であるが,次の分数式,

(2.29)

の場合はどうなるのであろうか.結論を先にいえば,係数を実数の範囲に制限しておくと,次のように分解できる.

それをみるのは比較的簡単である.まず,

とおいて, よりも簡単な分数式となるように を決めればよい. ここで「簡単な」とは分母の多項式が簡単になるという意味である.

において分子が を因数として持つように を定めれば,分母分子が約されて簡略化が達成できる. そのためには因数定理を用いて と定めればよい[1].このとき,

となる.次に,

とおいて、上と同様な操作を繰り返すと と定まり[2]

となる.同様にして,

より,[3].よって,

と,遂には分母から因数 が消えてしまう.次に最後の式の分子を

と変形し,

を得る.よって 式(2.29) の部分分数展開が完成する.すなわち,

この例から,一般の場合を予測することは,そう難しくないであろう.一般の有理関数

(2.30)

の場合の結果を述べる.

[部分分数定理]

を実係数の真の分数式[4] をその分母とする.

は実数の範囲で必ず既約な 1 次式と 2 次式との積に因数分解できる[5]から,それを,

ここに,

とすれば, は,

(2.31)

と展開できる.ここに 等は実定数である.これらの定数の個数はちょうど で, は分母の多項式 の次数に等しい.なお,この分解は一意に定まる.


この定理の証明は色々あるが,次のものが標準的である.詳細は 付録 にゆずるが,ここでその概要を述べておこう.証明は 2 段に分かれる.

[第一分解定理]

を多項式とする. が互いに共通因子を持たない の積であれば,

と分解される.左辺が真の分数式なら,右辺の二つの分数式もそれぞれ真の分数式とすることができる.

この定理を反復適用すれば,ひとまずは,

(2.32)

と分解できることは明らかである.

第 2 段目の分解は次の定理による.

[第二分解定理]

真の分数式

ここに, の次数 > の次数 の形に分解できる.

(2.32) の各項にこの定理を適用すれば,求める結果 (2.31) を得る.

部分分数分解の原理は上述のとおりであるが,実用上は次の手法により求める.


例51

を部分分数に分解せよ.

分母を因数分解すると となるから,

の形に分解できる.分母を払うと,

となるから,

とおいて ;
とおくと ;
の 2 次の係数を等置して ;
の 3 次の係数を等置して ;
最後に

よって,

と分解される.


例52

次の分数式を部分分数に分解して原像を求めよ.

解答例


よって,

とおくと,

よって 式(2.21) より


例53

次の分数式を部分分数に分解して原像を求めよ.

解答例

を代入して,
を代入して,
以上から

で微分すると,

整理して

…①

を代入して
①に を代入した後で の係数を比較して,

すなわち,

…②

第 4 項については,式(2.8) より

よって

以上より②の原像は

  1. ^ で割り切ればよいから,
  2. ^
  3. ^
  4. ^ 真の分数式とは,分子の次数が分母の次数より低い分数式(有理関数)のことをいう.
  5. ^ 1 変数の多項式による方程式 が虚根 を持つ,すなわち のとき,
    の共役複素数.…①
    ①を示す.まず複素数 について,
    …②
    なぜならば, とおくとき, で, 同じく とおくと
    次に,
    …③
    なぜならば、同じく上記 について,
    よって,より,
    実数 の共役複素数は そのものに等しい.…④
    ②より共役複素数をとる操作と足し算は順序を入れ替えることができて,
    ③より共役複素数をとる操作と掛け算は順序を入れ替えることができて,
    最後の変形は④による. さらに③を適用して,
    すなわち,
    ここに①を示せた.
    すなわち が虚根を持つのなら,虚根 を同時に持つから,
    と表せて,
    すなわち は実係数の二次式であり, の根は複素数空間内に存在することを前提として, は実係数の範囲で高々二次式までに因数分解される.