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化学熱力学/定積過程・断熱過程・定圧過程・等温過程

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

閉鎖系の熱力学第一法則 Q + W = ΔU から、系が得た熱量Qと系になされた仕事Wの和は、終状態と始状態の内部エネルギー差ΔUとして表せることが分かる。熱量Qと仕事Wはどちらも、変化の過程に依存する非状態量であり、それぞれ単独では、一般には状態量の差で表せない。しかし、始状態、終状態、および変化の過程に適当な条件を付けると、熱量Qと仕事Wのそれぞれを、ある状態量の差として表せる。このような変化の過程を考えると、計算が楽になり、理論の見通しが良くなる。ここでは、化学熱力学で重要な4つの過程を学ぶ[注釈 1]

この章では、系になされる仕事を、体積変化に伴う仕事に限定する。

定積過程

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定義
変化の途中で系の体積が一定に保たれる過程。
仕事
熱量

始状態と終状態の体積が同じなのはもちろんであるが、変化の途中でも体積は変わらない。

断熱過程

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定義
変化の途中で熱がまったく出入りしない過程。
熱量
仕事

「熱の出入りが差し引きゼロの過程」を断熱過程とは呼ばないので注意。

定圧過程

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定義
外圧が一定で、かつ始状態の圧力と終状態の圧力が外圧に等しい過程。
仕事[証明 1]
熱量

pは系の圧力、Vは系の体積である。変化の途中の系の圧力は一定でなくてもよい。外圧が一定であればよい。

エンタルピー

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状態量U+pVは化学熱力学で頻繁に使われる状態量で、エンタルピーという名前が付いている。エンタルピーを表す記号はHで、単位は内部エネルギーと同じくジュール(J)やキロジュール(kJ)である。

エンタルピーの定義式

エンタルピーを使うと、定圧過程で系が得た熱量は、

と簡潔に書ける。定圧過程では、内部エネルギーUよりもエンタルピーHを使うほうが便利である。

等温過程

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定義
外界の温度が一定で、かつ始状態の温度と終状態の温度が外界の温度に等しい過程。

変化の途中の系の温度は一定でなくてもよい。系の周囲にあって系と熱量Qをやり取りするものの温度、すなわち外界の温度が一定であればよい。「系の温度が一定の過程」は、条件がきつ過ぎて、化学熱力学ではあまり役に立たない。

他の3つの過程とは異なり、等温過程という条件だけでは、熱量Qも仕事Wも状態量の差としては表せない。

等温定圧過程と反応熱

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例えば、塩酸とNaOH水溶液の中和反応のような発熱反応では、反応直後は系の温度が上昇する。実験を室温が一定の条件下で行い、反応直前の状態を始状態、系が熱を放出して反応直前の温度に戻った状態を終状態とすれば、この過程は等温過程となる。反応が一定の大気圧下で起こった場合、この過程は定圧過程でもある。この等温定圧過程で系から放出された熱量が、高校化学で学んだ反応熱Q高校に相当する。定圧過程で系から放出された熱量は、反応に伴うエンタルピー変化ΔrHに等しいから、高校化学で学んだ反応熱Q高校はΔrHの符号を変えたものに相当する。

準静的な等温過程

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定義
準静的な等温過程。
準静的過程で系が得る熱量
準静的過程で系になされる仕事

Tは絶対温度、Sエントロピーである。この過程は「系の温度が一定の過程」よりもずっと条件がきつい過程で、ほとんど実現不可能な、仮想的な過程と考えるのがよい。

注釈・証明

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注釈

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  1. ^ 高校で物理を学んだ読者は、(理想気体の)定積変化と定圧変化と等温変化と断熱変化とは定義が違うことに注意。また、高校物理を学んだ人は、ついつい「等温過程ではΔU=0」と間違えがちなので、それにも注意。化学熱力学では化学反応・三態変化・実在気体を扱うので、等温過程でもΔU=0とは限らない。

証明

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  1. ^ 一定の外圧をpextとすれば、外界がした仕事は W = −pextΔV である。始状態の圧力と終状態の圧力が外圧に等しいので、pextΔV = pextV − pextV = pV − pV = Δ(pV) より与式を得る。