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故意論

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

法学刑事法刑法刑法総論故意論

犯罪体系上の故意の位置づけ[編集]

そもそも、故意を犯罪体系のどこに位置づけるかについて、学説上根本的な対立がある。

違法性の本質を法益の侵害ないしその危険に求める結果無価値一元論の立場からすると、故意犯と過失犯は、同じ法益侵害結果を発生させている以上、違法性の程度において異ならないことになる。たとえば、殺人罪と過失致死罪は生命侵害という結果(結果無価値)においては同じであるから、同程度の違法性を有することになる。したがって、故意犯と過失犯の区別は、違法性ではなく責任の段階において評価されなければならない。したがって、結果無価値一元論の見地からは、故意は(もっぱら)責任要素であることになる。

これに対して、違法性の本質を、法益侵害のみならず社会的行為規範に対する違反に求める行為無価値論(行為無価値・結果無価値二元論)の立場からすると、故意犯と過失犯は、社会的規範に対する違反の程度(行為無価値)において差があり、したがって、違法性の程度においても異なる(故意犯のほうが違法性が重い)。したがって、二元論の見地からは、故意も過失も(もっぱら)違法要素であることになる。そしてたとえば、殺人罪(故意犯)と過失致死罪(過失犯)は構成要件段階で区別されることになる。

構成要件的故意(事実的故意)[編集]

構成要件的故意の内容についても争いがある。

  • 表象説(認識説) :事実の認識
  • 蓋然性説 :事実の認識+結果発生の蓋然性の認識
  • 認容説 :事実の認識+結果の予見+結果の認容
  • 意思説 :事実の認識+結果の予見+結果に対する積極的意欲

構成要件的故意の内容は、大まかにいって認識的要素と意思的要素に分けられる。

認識的要素[編集]

認識的要素を必要としない学説はないが、認識的要素の内容については争いがある。

記述的要素
記述的要素、すなわち行為の客体や行為の内容については認識的要素に含めることで争いはない。行為の客体に錯誤があった場合は後に述べる構成要件事実の錯誤の問題になる。
因果関係
因果関係を認識的要素に含めるべきかどうかについては争いがある。有力な見解は、基本的な因果の流れを認識することは故意の内容として必要であるが、具体的な因果の流れについて錯誤があったとしても、故意を阻却するものではないとする(因果関係の錯誤の問題)。
規範的要素
客体の規範的な意味内容を認識していることが必要とされるかどうかについても争いがある。問題となるのはわいせつ物頒布罪(175条)における「わいせつ」性の認識である。判例は「わいせつ」性を認識しているかどうかは違法性の錯誤の問題であり、故意を阻却しないとしている。

意思的要素[編集]

故意の意思的要素とは、犯罪を実現しようとする意思、すなわち実現意思である。結果発生を明確に意欲する実現意思を確定的故意というが、その段階に至っていない、いわば不確定要素を残している場合を不確定的故意という。不確定的故意には、次のようなものがある。

択一的故意
AかBか、どちらかの客体に結果が発生することを意欲しているが、どちらに発生させるかまでが明確でない状態。
概括的故意
ある範囲の客体に結果を発生させることを意欲しているが、どの客体に発生させるかまでは明確でない状態。
未必の故意
結果発生を積極的に意欲していないが、結果が発生してもやむを得ないと認容している状態。

不確定的故意が認められる場合は、いずれも、故意犯が成立する。

構成要件的事実の錯誤[編集]

錯誤とは、行為者が認識していた事実と実際に発生した事実に食い違いがあることをいう。

具体的事実の錯誤[編集]

方法の錯誤[編集]

方法の錯誤(打撃の錯誤)とは、行為者がある客体に対して行為を実行したにも関わらず、誤って別の客体に結果が発生した場合をいう。たとえば、甲がAを殺す目的で拳銃を発射したが、弾丸はBに命中してBが死亡したという場合である。

具体的付合説
具体的付合説によれば、結果が行為者の意図した客体に発生した場合でない限り故意を認めることはできない。つまり上記事例では「A」に対して結果が発生しなければ故意を認めることができない。したがって上記事例では、Aに対する殺人未遂罪とBに対する過失致死罪が成立する。
法定的付合説
法定的付合説によれば、結果は行為者の意図した構成要件の範囲内で実現すれば足りるとする。つまり殺人罪でいえば「およそ人」に対して結果が発生すれば故意を認めることができる。法定的付合説の内部では数故意犯説と一故意犯説との対立がある。
数故意犯説に従えば、上記事例ではAに対する殺人未遂罪とBに対する殺人既遂罪が成立する。
一故意犯説は、数故意犯説の結論は行為者が意図した以上の犯罪が成立する(1個の殺人罪を意図して2個の殺人罪が実現する)ことを不当であるとする。したがって重い結果が発生した客体についての結果発生で故意は充足し、それ以外の結果については過失犯の評価を受けるべきだとする。上記事例では、Aに対しては過失傷害の未遂罪となり不可罰、Bに対しては殺人既遂罪が成立する。

客体の錯誤[編集]

客体の錯誤とは、ある客体を狙って行為し、当該客体に結果が発生したが、結果的に「人違い」等の錯誤があった場合をいう。たとえば、Aを殺そうと狙っていた甲が、暗がりでAと思しき人物を見つけて拳銃を発砲し、命中させたが、倒れた人物を見てみると実はAでなくBであったという場合がこれにあたる。

客体の錯誤の場合は、故意犯を認めることに学説上の争いはない。

因果関係の錯誤[編集]

抽象的事実の錯誤[編集]