民事訴訟法/弁論の準備

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

準備書面[編集]

口頭弁論よりも前に、当事者は準備書面を裁判所に提出して、事実の主張や証拠の提出[1]を行わなければならない。準備書面に書いてない事は、口頭弁論の際にもし相手方が法廷に在席していない場合には、書かれていないその主張をする事ができない(161条1項)[2][3]。なお、被告が最初に提出する「答弁書」も[4][5]準備書面の一種である。

準備書面を提出しただけでは訴訟資料にはならず、準備書面の内容を口頭弁論でその内容を陳述する事によって訴訟資料として認められるようになる。

準備書面には一般に、当事者の氏名や裁判所の記載に加え、

自己の主張および証拠の申出[6]
相手方の請求および攻撃または防御に対する陳述、

が記載される[7][8]

なお、ここでいう「攻撃」とは相手方当事者に不利になるような主張のような意味、「防御」とは相手方当事者の攻撃に対する反論のような意味であり、民訴法などにもよく用いられる表現である。

最初の口頭弁論期日だけだが、当事者が口頭弁論に出席しない場合、準備書面に記載された内容は、口頭弁論で陳述したものと同じ効果がある事になり、これを陳述擬制[9]または擬制陳述[10]という(158条)。

争点整理手続[編集]

争点整理手続は、口頭弁論に先立って行われる、争点および証拠を整理するための手続である。正式名称は「争点及び証拠の整理」であり、その名の通り、争点の他、のちの集中証拠調べで必要とされる証拠も整理する[11]

争点整理手続きには下記の3種類ある。

裁判所は、当事者の意向も確認しつつ、事件の内容などにもとづき、

弁論準備手続」、
準備的口頭弁論」、
書面による準備手続

の3種のうちから、いずれかを選んで実施する。

現在では、弁論準備手続きの利用率が圧倒的に高い[12]

弁論準備手続[編集]

平成15年の旧民事訴訟法の時代、条文には無い制度だが裁判所では慣習的に「弁論兼和解」という制度が運用されており、 これは公開法廷ではなく原告・被告当事者以外には非公開の「和解室」[13]などの部屋においてインフォーマルな雰囲気の中では話し合いを行うという制度であり、実質的には裁判前に弁論を行っていた[14][15]。昭和50年代頃から長らく運用されていた。

しかし憲法などの定める裁判公開の原則に反するなどの懸念もあり、学説には反対意見もあった。

一方で、弁論兼和解の有用性を認める学説もあり、弁論前の準備手続きとみなせるという意見もあった。

そこで、平成15年の改正の際、憲法問題にならないように「弁論」ではなく「手続き」という事にした。また、「和解」の目的を除去した。

なお平成15年の改正後は、(「和解室」ではなく)「準備手続室」などの名前の部屋で、これらの「手続き」が行われる事になり[16]、法服を着用してないような裁判官のもとでの[17]インフォーマルな雰囲気の中で裁判官と当事者たちが話し合いをする場になった[18]

口頭弁論ではないので、当事者がもし出席が困難なら電話会議システムなどを用いても手続きを実施しても良い(170条3項)[19][20]

口頭弁論ではないと言っても、公平性の観点から、双方の当事者が立ち会える期日に実施しなければならない事が法的に定められている(169条1項)[21](対席保証[22])。

公開義務は無いが、かといって非公開の義務も無いので、裁判所の裁量にもとづき一定の関係者に公開する事もできる(関係者公開、)(169条2項)[23]

準備的口頭弁論[編集]

「準備的口頭弁論」を選んで実施した場合、その名の通り口頭弁論であるので、これは公開の法廷で口頭弁論を実施する事である。

公開の法廷で実施する要件はあるが、必ずしも通常の法廷で実施する必要は無いので、ラウンドテーブル法廷で実施しても良い[24]

弁論兼和解(弁論準備手続)ではないので、電話会議などの方法は認められない[25]

特に定めの無い事に関しては、通常の口頭弁論や準備書面についての規定が適用される[26]。。


書面による準備手続[編集]

「書面による準備手続き」は主に当事者が遠隔地に住んでいるなどの場合を想定した手続きである。

当事者が遠隔地に住んでいる場合や、その他裁判長が必要と認めた場合に実施される。

このため、当事者は裁判所に出頭する必要は無い。また必要とあらば電話会議システムが認められる(175条3項)。

専門委員[編集]

医療や建築など、裁判官が通常有しない知識が必要な場合、それらの知見をもった医師や建築士などの専門家からなる専門委員を関与させる事ができる(92条2)。 専門委員は、非常勤の国家公務員となる。

このほか、知的財産関係の事件では、裁判所調査官に専門委員と同様の仕事をさせる事もできる(92条8)。

※ 範囲外[編集]

カンファレンス鑑定[編集]

※ 下記の内容は、まだ現行の民訴法の条分に反映されてないので範囲外とする。
※ 現状では市販の「民事訴訟法」や「刑事訴訟法」などの入門的な法学教科書には書いていない内容である。

民訴法や刑訴法には「鑑定」という制度があり、医者などの学識を持った有識者に鑑定を依頼する制度がある。

鑑定には高度な学識が必要なため、口頭弁論(刑訴なら「公判」)での鑑定の結果の説明も難解になってしまい、その分野の学識を持たない原告や被告には、意味が理解できなくなってしまうという問題点が、昔から指摘されていた。

あるいは、もし口頭弁論(民事)や公判(刑事)で、専門外の人に分かるように説明をしていたら、審理が長くなってしまい、非効率である。

そこで平成15年(2003年)に導入された制度として「カンファレンス鑑定」などと呼ばれる制度が、医師会や弁護士会などの協力もあって創設された。

このカンファレンス鑑定の制度は、現行では東京地裁など一部の裁判所にしかない。(※ もしかしたら東京地裁だけ? 要確認)

カンファレンス鑑定では、鑑定人・裁判官・原告・被告の4者が裁判所に集まって、専門外の人にも分かり易い言葉で鑑定人が残り三者に説明をする制度である。

争点整理手続ではないので、カンファレンス鑑定では争点は整理しない。(なお、刑訴法では、そもそも争点整理手続が無い。)あくまで、鑑定内容について、訴訟や審理に必要な程度の科学的な理解を得るために、鑑定人からの説明が得られる場でしかない。

現状では、カンファレンス鑑定の制度は、医療訴訟にだけ適用されており、医者が鑑定の結果の説明をする。

※ 専門委員と似ている点があるかもしれないが、刑訴法には専門委員の制度が存在していないにもかかわらず、刑事訴訟でもカンファレンス鑑定が東京地裁では行われている。なので本wikiでは専門委員とは区別してカンファレンス鑑定を考えることにする。また、鑑定の制度と専門委員の制度は、民訴法でも別々の制度である。

証人尋問ではないので、カンファレンスでの発言内容などに証拠能力は無い。また、証人の交互尋問でもないので、もし鑑定内容についての質問があれば、その場で鑑定人にすぐ質問できるという利点などもある。

情報収集制度[編集]

証拠保全と民事保全[編集]

民事訴訟法には、証拠の保全命令を出せる規定がある(234条など)。典型例としては、医療過誤訴訟におけるカルテの差し押さえが、法学教育での証拠保全の典型例であった[27][28][29]

しかし、(証拠でない)財産などを保全する命令の規定は現行の民事訴訟法には無い。

財産隠しや差押え逃れなどを防ぐために財産の保全も必要であるが、そのような財産保全の手続のことを民事保全手続ともいい、その規定は(民事訴訟法ではなく)民事保全法に規定がある。(元々、民事保全法は民事訴訟法から分離独立したものである。)

※ 民事保全は、証拠調べの手段ではないが、時期的に近い時期に実施すると思われるので、一緒に説明しておく。

民事保全法による手続により、判決が出る前でも、被告などの財産を保全する事ができ、このような命令を「仮差押え」または「仮処分」という。 金銭債務なら「仮差押え」という。そうでない場合が「仮処分」である。


また、証拠保全にしろ民事保全にしろ、迅速性が要求されるので、原告主張の信憑性の程度は、裁判官が「一応は確からしい」と思える程度の疎明で良い(証拠保全については規153条)。

上記とは別の証拠収集制度として、平成15年の民訴法改正によって導入された提訴予告通知に基づく提訴前証拠収集(132条の2)という方法で、当事者からの申立により[30]裁判所に証拠収集をできる可能性のある制度がある[31]


弁護士会照会[編集]

弁護士は、弁護士会を仲介して、公務所または公私の団体から必要な情報の報告を受けることができ、この制度を弁護士会照会という(弁護23条の2)。

弁護士から申し出を受けた弁護士会が、照会が適切かの審査をし、照会が不適切と判断すれば、弁護士会は照会を拒絶する。[32] [33] [34]

当事者照会[編集]

※調査中

  1. ^ 安西、P95
  2. ^ 安西、P116
  3. ^ 三木、P180
  4. ^ 安西、P116
  5. ^ 三木、P181
  6. ^ 安西、P116
  7. ^ 安西、P116
  8. ^ 三木、P181
  9. ^ 安西、P108
  10. ^ 三木、P182
  11. ^ 三木、P184
  12. ^ 安西、P119
  13. ^ 安西明子ほか『民事訴訟法』、有斐閣、2020年11月10日 第2版 第6刷発行、P118
  14. ^ 安西明子ほか『民事訴訟法』、有斐閣、2020年11月10日 第2版 第6刷発行、P118
  15. ^ 三木裕一ほか『民事訴訟法 第3版』、有斐閣、2021年1月15日 第3版 第8刷発行、P186
  16. ^ 安西明子ほか『民事訴訟法』、有斐閣、2020年11月10日 第2版 第6刷発行、P120
  17. ^ 三木裕一ほか『民事訴訟法 第3版』、有斐閣、2021年1月15日 第3版 第8刷発行、P186
  18. ^ 三木裕一ほか『民事訴訟法 第3版』、有斐閣、2021年1月15日 第3版 第8刷発行、P186
  19. ^ 三木裕一ほか『民事訴訟法 第3版』、有斐閣、2021年1月15日 第3版 第8刷発行、P186
  20. ^ 安西明子ほか『民事訴訟法』、有斐閣、2020年11月10日 第2版 第6刷発行、P120
  21. ^ 三木裕一ほか『民事訴訟法 第3版』、有斐閣、2021年1月15日 第3版 第8刷発行、P186
  22. ^ 安西明子ほか『民事訴訟法』、有斐閣、2020年11月10日 第2版 第6刷発行、P118
  23. ^ 三木裕一ほか『民事訴訟法 第3版』、有斐閣、2021年1月15日 第3版 第8刷発行、P187
  24. ^ 三木、P185
  25. ^ 三木、P185
  26. ^ 安西、P121
  27. ^ 安西、P10
  28. ^ 山本、P61
  29. ^ 中野、P187
  30. ^ 安西、P127
  31. ^ 三木、P197
  32. ^ 安西、P128
  33. ^ 三木、P199
  34. ^ 山本、P62