民事訴訟法/訴訟の審理
民事訴訟において、口頭弁論をしなければ判決を出してはいけないという建前[1]があり、これを必要的口頭弁論の原則という(87条1項本文)[2][3]。
また、証拠や事実は、口頭弁論に出された証拠・事実だけが判決の基礎になるのが建前である[4][5]。
文書提出義務
[編集]裁判において、次の書類は文書提出義務があり、裁判所に文書を提出する必要がある。この義務を実行するため、裁判所は適宜、文書提出義務を発令する。
- 引用文書 (220条1号)
当事者が訴訟のためにみずから引用した文書(引用文書という)を、その当事者本人が所持する場合には、提出義務がある。
提出義務のある理由は、相手方当事者との公平のためである。
- 引渡し請求権などの文書(2号)
挙証者が、文書の所持者に対しその引渡しの権利のある場合、または閲覧の権利のある場合、その所持者は文書提出義務を負う。
- 利益文書(3号)、法律関係文書(3号)
たとえば挙証者を受遺者とする遺言状などのように、文書が挙証者の利益のために書かれた文書のことを利益文書という。利益文書は提出義務がある。各種の契約上、挙証者の代理権を証明する委任状、挙証者を支払人とする領収書などが、利益文書に該当し、提出義務がある。
挙証者と文書所持者との間の法律関係について作成された文書を法律関係文書といい、その所持者は提出義務がある。
事実の解明
[編集]弁論主義
[編集]「弁論主義」と言われる原則は、民事訴訟法にもとづく訴訟において裁判官の取るべき原則のひとつであり、その内容は下記のような3原則が一般的である。
- (1)裁判所は、当事者のいずれも主張していない事実に基づいて判決してはならない(主張責任[6][7]、主張原則[8])。
- (2)両当事者間で一致して争いのない事実(すなわち、当事者どちらかの自白)については、そのまま判決として採用しなければならない(自白原則[9])。
- (3)当事者間に争いのある事実を認定する際には、当事者の申し出た証拠にもとづかなければならない(「職権証拠調べの禁止」と言われる)。
これに対し、人事訴訟法など一部の法律では裁判所が必要に応じて自発的に証拠をさがす事ができ、この原則を「職権探知主義」という。つまり、若干の例外はあるものの、「弁論主義」と「職権探知主義」はお互いに反対概念である[10]。
弁論主義について、それぞれ説明する。
これはつまり、証拠調べで得た証拠資料であっても、当事者が言及していない限り、証拠資料自体の真偽について裁判官は認定できない事を意味する(証拠資料と主張資料の峻別)[14]。
また、裁判官の心証として確信を得ている事であっても、それは判決にはできない[15]。
- (2)両当事者間で一致して争いのない事実(すなわち、当事者どちらかの自白)については、そのまま判決として採用しなければならない(自白原則[16])。
裁判所において、口頭弁論または弁論準備手続きなどでされた自白のことを裁判上の自白という[17]。
民訴法179条で、裁判上で自白をされた事実は証拠調べを要しない事が定められている(自白の証明不要効)[18]。
また、この理由により、自白された事実については、裁判所は証拠調べをする事ができなくなる[19][20][21]。
必然的に、裁判官は自白の内容を判決の基礎にすえなければならない(自白の拘束力。「審判排除効」、「審理排除効」[22]ともいう)[23]。
自白はこのように重大なものであるので裁判上の規律として、自白は一度したら、自由には撤回できない(自白の制限撤回効[24])。
しかし相手方が自白の撤回に同意すれば、この限りではない。なお判例では、相手方の同意が明示されていなくても、撤回に異議を唱えなければ同意したものと、みなされる(最判昭和34・9・17民集13巻11号1372号)[25]。
また刑事上罰するべき他人の行為によって自白に導かれた場合は、再審事由に該当するので、判決が確定する前であれば撤回を許される。
判例では、ドイツ法に倣って錯誤にもとづく自白を撤回できるとしたものもある(最判昭和25・7・11民集4巻7号316頁)[26][27]。
- (3)当事者間に争いのある事実を認定する際には、当事者の申し出た証拠にもとづかなければならない。
これは大まかに言えば、証拠調べは当事者が申請したものだけを調べられるという原則であり、つまり裁判所みずからが情報収集をする事は原則的には禁止という意味であり[28]、「職権証拠調べの禁止」と言われる。
しかし実際には、当事者尋問(207条1項)や調査嘱託(186条)では職権調べが許されている[29][30]。
このように例外もあるので、「職権証拠調べの禁止」を疑問視する学説もあり[31]、弁論主義の原則のひとつとして「職権証拠調べの禁止」を扱うのを疑問視する学説もある[32]。
一方、証人喚問や書証では職権証拠調べの禁止が貫かれている[33]。
「職権証拠調べの禁止」は、さほど厳格な原則ではない[34]。
- ※ なお、弁論主義の考えかたは主に18世紀のドイツに由来するものであり、日本では慣習的に主張責任を「第1テーゼ」、自白原則を「第2テーゼ」のように呼ぶが、しかし当のドイツではそのような番号で呼ぶ呼び方をしない[35]。
職権探知主義
[編集]職権探知主義とは文字通り、裁判所が自発的に証拠収集をできる事であり、人事訴訟法や行政訴訟法で採用されている。
なお、人事訴訟法では弁論主義は無効であり(人訴19)、よって裁判所による自発的な証拠調べが可能であり(人訴20)、他には自白の拘束力も無効である(条文で民訴179を否定しており、これが自白の拘束力の否定に該当)[36]。
なお、行政訴訟法は裁判所による職権証拠調べを認めているが、しかし行政訴訟法は主張責任(第1テーゼ)および自白の拘束力(第2テーゼ)を否定していない[37]。
このように一部の訴訟で職権証拠調べを認めている理由は、一般的な説明としては、公益性の高いものや、第三者に影響のあるものは[38][39]、当事者だけに証拠調べを任せるわけにはいかないので、裁判所が責任をもって証拠の収集をする必要がある[40]、などといった説明がされる。身分関係も、公益性が高いという教科書(※山本『民事訴訟法』)もある[41]。
しかし、主張責任が否定されても、不意打ち防止の観点から(※当事者に反論の機会のないまま判決が出るのは不公平であるという事)、裁判所は職権で調べた証拠を当事者に示唆した上で、当事者に防御の機械を与えなければならない(人訴20後段、行訴24条但書[42])[43][44]。
また、訴訟の審理に入る前の、そもそも訴訟要件があるか否かの判断の時点では、訴訟要件の判断のための情報収集としての職権探知が認められており、公益の観点からも正当化されている[45][46]。
口頭弁論
[編集]原則
[編集]民事訴訟において、口頭弁論をしなければ判決を出してはいけないという建前[47]があり、これを必要的口頭弁論の原則という(87条1項本文)[48][49]。
また、証拠や事実は、口頭弁論に出された証拠・事実だけが判決の基礎になるのが建前である[50][51]。
口頭弁論の諸原則
[編集]口頭弁論の諸原則として、公開主義、双方審尋主義、口頭主義、直接主義がある。この4つ以外にも諸原則はあるが、特にこの4つは、重要な原則であり、この原則に違反した場合には、法で例外として定めている場合を除けば、手続が違法になることもある[52]。
双方審尋主義とは、当事者双方に、それぞれの言い分を主張する機会を充分に与えることである。
口頭主義とは、当事者が口頭で陳述したもののみを、裁判で斟酌(しんしゃく)してよいとすることである。
なお、口頭主義の反対概念は書面主義である。
しかし、実際には、複雑な訴訟や、一定の場合には、書面を用いた審理も行われる。また、長期の訴訟では、記憶の確実を期すために書面が作成される[53]。
また、口頭弁論期日前に、あらかじめ書面にて事実の主張や提出をしなければならず、これを準備書面という(161条1項)。
直接主義とは、判決をする裁判官は、審理や証拠調べに直接に関わった裁判官でなければならない(249条1項)、とする原則です。249条1項が直接主義を定めています。
もっとも、裁判官が転勤や退職など、やむをえない事情で交代する場合もある。裁判官が交代した場合、法廷では当事者が新しい裁判官の面前で、再び従前の弁論の結果を陳述することにより(249条)、形式的に直接主義を満足させている。これを弁論の更新という。
ただし、証人尋問については、一定数の裁判官が交代した場合は、当事者の申出があれば再尋問をして、やりなおさなければならない(249条3項)。
その他の諸原則
[編集]適時提出主義(156条)と言い、当事者は、攻撃防御の提出は適切な時点で提出しなければいけないという原則がある。
これは、旧法では、証拠を口頭弁論終結までの何時でも提出できるという随時提出主義がとられていたが(旧民訴137条)、証拠の後出しを誘発し、訴訟の遅延を招いたとの反省があったからである。
もっとも、適時提出主義の規定に違反しても、その処分を定めた条文は無いので、民訴156条は訓示的な意味合いが強い規定である。 ただし、あまりにも時機の遅れた攻撃防御方法が出された場合は、裁判官はこれを却下できる(157条1項)。
なお、「攻撃防御方法」とは、意味はおおむね、当事者の申出・主張・立証などといった、訴訟における法律上の主張といったような意味である[54][55]。
計画的進行主義または計画審理主義という原則があり、裁判所および当事者に対して、訴訟の計画的な進行を目指さなければいけないとした規定がある(147条の2)。これは2003年の民訴法改正により追加された条文である。
また、計画的な審理のために、裁判所は当事者と協議のうえ、審理計画を策定することができるとしている(147条の3第1項)。
訴訟行為
[編集]- 不知
相手方の主張に対して、知らないという旨を陳述することを不知という。不知は否認であるとみなされる[56][57]。
- 自白
民事訴訟において、相手方の主張を争わずに認めることを自白という。裁判官は、当事者の自白をそのまま証拠として採用しなければならない。
また、特に口頭弁論または(※争点整理手続ではなく)弁論準備手続きにおける自白のことを裁判上の自白という。裁判上の自白をされた内容については他の証拠が不要になる(証拠不要効、179条)。
相手方の主張に対して対応しないことを沈黙という。相手方の主張と関係のない事だけを陳述して対応する事も、広い意味での沈黙である[58]。
沈黙は、弁論の全趣旨によりその事実を争っていると認められる場合でないかぎり、自白とみなされる(159条1項)。また、当事者が口頭弁論期日に欠席することも、自白とみなされる(159条3項)。このように沈黙が自白とみなされる事を擬制自白という。
なお、例外的に人事訴訟法では擬制自白の効果が否定されるが、その理由は、人事訴訟では職権探知主義をとるので、裁判官が職権で証拠調べをした結果、自白に反する事実が解明された場合に自白に反する事実を認定する必要がある可能性を考慮した上での規定であると考えられている[59]。
その他、ぎ政治学に制限撤回効は観念することができない。撤回の対象となる陳述が存在しないからである[60]。
(弁論準備手続ではなく)一般の争点整理手続きにおける自白については、学説では、争点整理手続きが終わるまで自白の撤回を認めさせるべきである等、柔軟にあつかうべきとする意見がある[61]。
事実の種類
[編集]たとえば、「ある人物Xが何らかの契約にもとづいて、ある日、別の人物Yに金銭200万円を渡した。数日後から人物Yの金回りがよくなった。」という情報があるとしよう。この場合、
この場合、元の契約に関する「ある人物Xが、ある日、別人物Yに金銭200万円を渡した。」という内容の事実のことを主要事実という。
一般的には、権利の発生・消滅・変更を導く事実のことを主要事実という。
これに対し、「数日後から人物Yの金回りがよくなった。」という情報は、それが事実だとすれば、常識的に考えれば、主要事実を補強する材料になる。このように、経験則によって主要事実を補強できる事実のことを間接事実という。
弁論主義における主張責任・主張原則について、間接事実を含めるか否かについて、学説が分かれている。
脚注
[編集]- ^ 安西、P93
- ^ 三木、P138
- ^ 安西、P93
- ^ 安西、P93
- ^ 三木、P140
- ^ 山本
- ^ 中野、P226
- ^ 三木
- ^ 三木、P204
- ^ 三木、P215
- ^ 山本
- ^ 中野、P226
- ^ 三木
- ^ 三木、P204
- ^ 中野、P226
- ^ 三木、P204
- ^ 安西、P100
- ^ 山本、P185
- ^ 安西、P100
- ^ 三木、P204
- ^ 中野、P228
- ^ 三木、P24
- ^ 山本、P185
- ^ 三木、P232
- ^ 三木、P244
- ^ 山本、P188
- ^ 三木、P245
- ^ 神田 『図解による民事訴訟のしくみ』、自由国民社、2018年5月20日 第2版発行、P14
- ^ 三木、P205
- ^ 安西、、P101およびP129
- ^ 山本、P243
- ^ 三木、P205
- ^ 三木、P205
- ^ 三木、P205
- ^ 三木、P205
- ^ 山本、P189
- ^ 山本、P189
- ^ 中野、P179
- ^ 三木、P25
- ^ 中野、P179
- ^ 山本、P189
- ^ 三木、P218
- ^ 山本、P189
- ^ 三木、P217
- ^ 三木、P390
- ^ 安西、P177
- ^ 安西、P93
- ^ 三木、P138
- ^ 安西、P93
- ^ 安西、P93
- ^ 三木、P140
- ^ 三木、P146
- ^ 安西、P95
- ^ 三木、P148
- ^ 安西、P106
- ^ 三木、P228
- ^ 安西、P107
- ^ 三木、P229
- ^ 三木、P241
- ^ 三木、P244
- ^ 三木、P234