民事訴訟法/訴訟の終了
当事者による訴訟の終了
[編集]訴えの取り下げ
[編集]判決の確定前なら、いつでも訴えの取り下げができる(261条1項)。第一審または控訴審の終局判決後も、判決が確定する前までなら、取り下げできる。
しかし、被告が本案などで準備書面の提出をするなど、いったん被告が争う姿勢を見せたら、訴えの取り下げには被告の同意がいる(261条2項)。
原告は訴えの取下げ書を裁判所に提出し(261条4項)、それが被告に送達される仕組みの制度になっている(261条5項)。
被告が一定期間(2週間)以内に異議を述べなければ、取下げに同意したとみなされる。
訴えの取下げがなされると、訴訟は、はじめから係属していなかったものとみなされる(262条1項)(係属訴訟の遡及的消滅)。
本案について終局判決があった後に取り下げた者は、同じ訴えの再訴が禁止される(262条2項)。
請求の放棄・認諾
[編集]請求の放棄とは、原告が、自分の請求には理由がなかったとして無効だと主張する行為である。
請求の許諾とは、被告が、自分への請求は正しいとして、原告の請求を受け入れる行為である。
訴えの取り下げでは訴訟がはじめから存在しなかった扱いになる。しかし、請求の放棄・許諾では訴訟は存在した亊になる。請求の放棄の場合は、原告敗訴の効果が残る。請求の許諾の場合は被告の敗訴の効果が残る(267条)。
また、請求の放棄・許諾では相手方の当事者の同意は不要である[1]。
請求の放棄または許諾をするには、期日に口頭ですればよい(266条1項)。なお、事前に裁判所にその旨の書類を提出しておけば、期日に欠席してもその旨を陳述したとして扱われる(266条2項)。
- 効力
請求の放棄・許諾には、訴訟を終了させる効力があり、(267条)また、裁判所書記官により作成されたその旨を記載した調書には確定判決と同一の効果がある(267条)。
調書の内容が給付である場合には強制執行ができる効力がある(民執22条7号)。
調書の内容が形成訴訟である場合(たとえば離婚訴訟などで内容が形成である場合)には、法律関係を形成する能力がある。
紛争の蒸し返しを禁じる既判力を認めるべきかどうかには、学説でも議論がある。
とりあえず、もし既判力が無いと仮定した場合に考えられる悪用・抜け穴としては、もし敗訴の判決を受けた当事者が上訴をしたあとに自分に不利な請求の許諾をすれば、既判力から逃れる抜け穴に悪用されてしまうという欠点が指摘されている[2]。
訴訟上の和解
[編集]和解とは、一定の法律関係について当事者が互いに譲歩し(これを「互譲」[3][4]という)、合意によって両者間に存する紛争をやめることである。
和解は当事者間だけで行うこともでき、民法がこれを定めており(民695・696)、「和解契約」といい、民法上の和解として効力をもつ。
一方、別の和解方法として、裁判所が裁判所内で当事者間の和解に関与する行うこともでき、和解の勧試といい、民訴89条に定めがある。
裁判官が裁判所内で関与した和解のことを「裁判上の和解」といい、特に訴え提起後に訴訟上で行われたものを「訴訟上の和解」といい、ほか、簡易裁判所の行う「訴え提起前の和解」(起訴前の和解、即決和解)[5][6]がある(275条)。
「訴訟上の和解」とは、民法上の和解と、「裁判上の和解」の両方をあわせた概念である。
和解は訴訟手続きに関与されないので、一般に和解によって紛争を比較的に早期に終わらせることができる。
また、和解は、公序良俗(民90上)などに違反しないかぎり当事者によって自由に内容を決められるので[7][8]、必要なら、請求以外の法律関係を盛り込んだりできるし、また、第三者を関与させることもできる[9]。
また、和解には判決が必要なく、和解は控訴などがされない[10]。
- 即決和解
即決和解(275条)は、実情としては、当事者が裁判所外で合意をしたあとに、その合意内容をもとにして簡易裁判所に和解を申し込む事例が多い。
実質的には裁判所外で和解をしており、その和解内容を簡易裁判所で調書として記載してもらっている。
調書を作成してもらう狙いは、和解調書が作成されれば、強制執行をできる執行力を有する債務名義が発生するからである(267条、民事執行法22条7号[11])[12][13]。
債務名義とは、法律により執行力が認められた文書であり、一定の給付請求権の存在と範囲とを表示したものである[14][15]。
判決
[編集]判決の種類と概要
[編集]裁判官の心証が「訴訟が裁判をするのに熟した」となると、終局判決になる(243条1項)。そして終局判決の言い渡しにより、その審級が終了していく[16][17]。
ここでいう「裁判」とは、判決だけでなく決定や命令なども意味する。また、判決は裁判官によって直接になされなければならない(直接主義)[18]。判決に対する不服申立は、控訴・上告といった上級審の裁判所での審理続行を要望する申し立てとなる。
終局判決に対し、中間判決というものがある。 中間判決とは、その審級の裁判を終わらせない判決であり、当事者間で争われた事項について、終局判決に先立って判断を示す判決である(民訴245)。中間判決がなされると裁判所も当事者もその内容に拘束され[19]、(その審級中での)申立は許されない[20]。実務上、中間判決を出す事はまれである[21]。
なお、判決は、その前提となる口頭弁論に参加した裁判官によって決定されなければならない(直接主義[22]。249条)[23][24]。一般に判決内容を決めるのは、単独制の場合にはその裁判官が単独で決めるが、合議制の場合は過半数による多数決である(裁77条1項)。
判決は、言い渡しによって、その効力を発揮する(250条)[25][26]。
- 全部判決と一部判決
たとえば、ある同一人物に、売買代金支払請求と貸金返還請求をまとめて一つの手続の訴訟にしている場合がある。
このように、同一手続で複数の請求が審理されている場合に、一個の判決で同時に終了する事も可能であり、これを全部判決という。
これに対し、一部判決とは、その事件の一部のみを完結する判決であり(243条3項)、これも可能である。残部については、のちに裁判をする。
ただし、一部判決に上訴をされると残部と内容の食い違いの生じるおそれのある性質の事件である場合には、一部判決を出すことは許されない[27][28]。
また、併合された複数の請求の一部について機が熟したとき、一部判決ができる(243条3項)[29][30]。
- 訴訟判決と本案判決
訴えても、訴訟要件を欠いて不適法な原因などにより、門前払いの意味の判決をする事があるが、このような判決を訴訟判決という。
これに対し、本案に入って原告が求めた権利問題の当否についての判決を出すとき、これを本案判決という。
訴訟要件にはさまざまなものがあり、統一的な規定は無いが、よく訴訟要件とみなされるものとしては、
- 当事者が実在しており、また原告・被告の当事者適格を満たす事、
- 事件が日本の裁判権に属する事、
- 訴え提起された裁判所に管轄がある事、(これに反する場合は、訴え却下ではなく移送をする[31])
- 訴えの利益がある事、
- 重複起訴禁止(142条)、
判決の言い渡し
[編集]判決は原則として判決書という書面を作成する(252条)。判決は、言い渡すことで効力を生じる(250条)。
判決書の必要的記載事項として、主文・事実・理由などがある。(その他、裁判所の名称や、期日、当事者氏名などの必要的記載事項がある。)
主文とは、たとえば「被告は原告に金○○円を支払え」[34]とか、あるいは「本件訴えを却下する」などのように、訴えに対する応答の結論[35]である。
「事実」とは、当事者の申し立てた請求の内容および当事者の主張を示すものである。もっとも、当事者の主張すべてを記載する必要はなく、主文が正当である亊を示すのに必要な主張のみを記載すれば良い(253条2項)[36]。
言い渡しは、口頭弁論の終結日から2ヶ月以内に行われる言渡し期日で言い渡されなければならない(251条1項本文)。言渡期日が指定された場合には裁判所は当事者に言い渡し期日を送達しなければならないが(規156条)、当事者が期日に法廷にいなくても法廷で言い渡しすれば効力を生じる(251条2項)。
言渡しの方法については、裁判官が法廷で、判決書の原本にもとづいて(252条)、主文を朗読すれば(規155条1項)、それが言渡しとなる。
ただし例外として、民訴法では、一定の場合には、判決書を作らずに調書を判決書の代わりにする事が認められている(調書判決、254条)。
- 判決の送達
判決書またはこれに代わる調書は、当事者に送達しなければならない(255条1項)。送達は、当事者に判決内容を確実に知らせて、上訴するかどうかを判断する機会を保障するためだという目的だと考えらている[37][38][39]。
送達されるのは、通常の場合には判決書の正本である(255条2項、)[40]。調書を送達する場合は、調書の謄本(255条2項)または正本(規159条2)を送達するが、強制執行するには債務名義の正本が必要なので(民執25状本文)、実務上は調書の正本を送達する場合が多い[41]。
判決の瑕疵
[編集]判決の確定
[編集]判決の「確定」した時とは、終局判決に対して上訴をできなくなった時および以降の亊をいう。上訴の許されない審理で判決が出たので以降の上訴が許されなくなった時や、あるいは、敗訴した当事者が上訴を許される期間中に上訴をしなかったので以降はその判決について上訴をできなくった場合などが、判決の確定した瞬間である。なお、判決が「確定」しても再審については可能な場合がある[42]。
またそのような、判決の確定すること、および確定した判決のことを確定判決という。
判決の効力
[編集]既判力
[編集]民訴法114条に「既判力」という言葉があるが、しかしその定義は無い。
- ※現状では114条1項に「確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。」という文言がある。
復習も兼ねて説明すると、判決の「確定」とは、その判決に対する上訴が許されなくなった亊である。再審の可能性の有無については言及されていない。
さて、もし判決が確定したのに、当事者の不利な方がその判決に蒸し返しをされては、裁判所としては困る。なので、こういった蒸し返しが起きないようにする必要がある。そのため、まず、確定して終局した判決はもはや上訴や再審を禁じられて蒸し返しをさせないという形式的確定力[43]が必要である。
民事訴訟の仕組みでは、この形式的確定力による拘束に加え、さらなる拘束として、今後の判決は既存の判決に拘束されるという原則があり、後訴判決では前訴の確定判決に関する同一事項や関連事項については前訴判決と異なる判決を出せないのが原則である。このような原則が既判力であると一般的に考えられている。また、当事者も、既判力により、前訴の確定判決と反する主張をする亊はできなくなる。当事者の立場から見た用語だが、当事者が既判力の生じた前訴に反する主張をすることが許されなくなる亊を遮断効という[44][45]。しかし通常、既判力と独立して遮断効という概念が使われる亊はない[46]。
既判力の原則により、例えば、後訴裁判の目から見て、仮に前訴裁判の判断が誤っている場合でも、後訴裁判では前訴裁判に拘束されざるを得ない[47]。
形式的確定力に対して、既判力のことを実質的確定力とも言う[48][49]。
既判力はこのように強力なものであるから、その効果が及ぶ範囲を限定する必要がある。既判力は、対立する当事者のみに作用すると法的に決められている(115条1項1号)(既判力の主観的範囲)。もし仮に、訴訟に参加できない第三者にまで既判力が及ぶとしたら不合理であるので、当事者のみに限定されるのは当然である。その訴訟の審理で攻撃も防御もできない第三者に既判力が及ぶのは不合理であるという亊である[50]。
既判力には基準時というものが定められており、文字どおり、基準となる日時のことである。基準時は事実審の最終口頭弁論の終結時である。(判決の確定時ではない。)
なぜ事実審の最終口頭弁論の終結時が基準寺なのかというと、学説的には、判決はこの時点までに出された資料をもとに出されるからであるとされる[51][52]。また、当事者からすれば、事実審の最終口頭弁論の終結時までは、攻撃防御方法(※主張・証拠のこと[53][54])を提出できるからである(民事執行法35条2項)[55]。
対世効
[編集]たとえば離婚訴訟では、離婚の訴えが認められて離婚した夫婦が、夫婦間では離婚が成立しているのに、当事者以外の第三者にとっては当事者の二人が夫婦のままであっては、社会は混乱する。
このような混乱をなくすため、親子関係や夫婦関係などの身分関係に関する訴訟については、その判決は当事者以外にも効果を及ぼす必要があり、このような判決の第三者一般への効果のことを対世効といい、文字通り世の中全体への効力である。人事訴訟の身分関連の訴訟の他、株式会社などの会社役員の身分に関する訴訟などでも、対世効が認められている(人事19条、会社838条)。
当然だが、たとえば離婚の訴えが認められた当事者二人への判決について、どの第三者にとっても判決の効果は同じ「当事者二人は離婚している」という亊でなければならず、このように対世効は画一的でなければならない[56]。けっして、対世効が関係者ごとに異なるような亊はあってはならず、もしそうでなければ(つまり、関係者ごとに効果が異なれば)社会が混乱する。
人事訴訟とは異なり、会社訴訟では請求認容判決の場合にだけ対世効が認められる。
人事訴訟では職権探知主義が認められるので(人訴19条・20条)、結果的に裁判官が第三者にも配慮する亊になる。
このほか、詐害的な判決がなされた場合に第三者に再審を認める亊が考えられている(行訴34条に立法例がある[57][58])。
反射効
[編集]民法では、主債務が消滅すると保証債務も消滅する(民448条1項)。
この場合、主債務を不存在とする判決が、保証債務の第三者にも影響するかが議論になる。
説明の簡略化のため、主債務が不存在の判決がある場合に、保証債務が消滅する仮定として説明する。このように、当事者の受けた判決が、実体法上特殊な関係にある第三者に対して判決の効力が作用する場合、そのような効果の波及することを反射効という。
- ^ 三木、P496
- ^ 三木、P498
- ^ 三木、P481
- ^ 山本、P9
- ^ 山本、P10
- ^ 三木、P481
- ^ 山本、P10
- ^ 安西、P170
- ^ 安西、P169
- ^ 安西、P169
- ^ 山本、P9
- ^ 安西、P169
- ^ 三木、P482
- ^ 上原敏夫ほか『民事執行保全法』、有斐閣、2020年10月15日 第6版 第2刷発行、P50、
- ^ 野村秀俊ほか『民事執行・保全法』、法律文化社、2021年3月30日 初版 第1刷発行 、P25
- ^ 三木、P398
- ^ 山本、P292
- ^ 安西、P174
- ^ 安西、P175
- ^ 三木、P403
- ^ 三木、P403
- ^ 安西、P174
- ^ 安西、P174
- ^ 山本、P306
- ^ 安西、P182
- ^ 山本、P307
- ^ 山本、P294
- ^ 安西、P176
- ^ 三木、P399
- ^ 中野、P294
- ^ 山本、P296
- ^ 山本、P296
- ^ 安西、P177
- ^ 安西、P181
- ^ 安西、P181
- ^ 三木、P407
- ^ 中野、P283
- ^ 安西、P182
- ^ 山本、P308
- ^ 三木、P409
- ^ 三木、P409
- ^ 山本、P335
- ^ 三木、P420
- ^ 安西、187
- ^ 三木、P423
- ^ 三木、P423
- ^ 三木、P421
- ^ 山本、P336
- ^ 三木、P420
- ^ 安西、中野など
- ^ 中野、P294
- ^ 山本、P342
- ^ 中野、P294
- ^ 安西、P189
- ^ 安西、P189
- ^ 三木、P459
- ^ 山本、P358
- ^ 安西、P199