民事訴訟法/証拠調べ

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裁判上の秘密[編集]

裁判は公開が原則だが、しかし国家秘密や企業秘密などが公開されると不都合である。

そこで民事訴訟法では、裁判における証拠提出の際に、下記の一定の条件を満す文書であって、職務上の秘密を扱った文書は、証拠としての提出義務を免れる。

また、文書提出を免れるだけでなく、似たような事情があって条件を満たすなら、尋問でも、該当の部分の尋問を免れる。

その他、一定の条件のさらにその一部の条件に該当するかどうかを判断するとき、裁判官室で裁判官だけが閲覧できるインカメラ手続をする事もできる[1]。なお、特許権訴法(特許105条3項)や、その他の知的財産権法において、インカメラ訴訟またはそれに類する規定が設けられている(新案30条、商標39条、意匠41条、著作114条3の3項、不正競争7条3項、)。「in camera」とは、「裁判官室で」という意味のラテン語である[2]

なお、民訴法の定めるインカメラ手続は裁判官だけに閲覧を認めるが、特別法の中には当事者や代理人にも閲覧を認めるものもあり、たとえば特許法などがそうである[3]。※ 特許法以外の他の知的財産権法も同じようなインカメラ手続の傾向だと思われるが、詳しくは随時、その法律の条分で確認してもらいたい(法は改正によって変わり得るので)。

ほか、民事訴訟法上には規定が無いが、特別法ではさらに「秘密保持命令」というのがあり、裁判所から当事者や代理人に秘密保持を命令できる[4]。特許法など知的財産関係の特別法では、インカメラ審理(特別法では「手続」ではなく「審理」という場合もある)において当事者に証拠資料の一部を必要に応じて閲覧させる事などもできるので、代わりに彼ら当事者などに対して秘密保持命令がなされるというわけである。


公務秘密文書

公務員の職務上の秘密で、もし公開すると公共の利益を害するものは、監督官庁の意見を聞いた上で、提出義務をまぬがれる。

ただし、監督官庁から、非公開に値するという判断をもらわなければならない(223条)。監督官庁の意見を聞いた上で、最終的は判断は裁判所が行う。


なお、ここでいう監督官庁とは、文書の保持者の公務員ではなく、所轄庁の長の事であり、たとえば法務省の文書なら法務大臣などである[5]

監督官庁が、秘密文書に該当するとの意見を述べる場合には、その理由を述べなければならない(223条3項後段)。


典型例として法で想定されているのは、どういう場合かというと、

  • 国の安全が害されるおそれ、
  • 他国もしくは国際機関との信頼関係が害されるおそれ(223条4項1号)、
  • 犯罪の予防、鎮圧、または捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ(2号)、

である。

裁判所は、相応の理由があるかを審査しなればならず、相応の理由を認めるに足りない場合に限って提出命令を出すことができる(4項柱書)。 (つまり、相応の理由に足りていれば、裁判所といえども、提出命令を出せない。)


また、証人尋問についても同様に、公務員は上述のような相応の理由があれば、尋問を免れる。


技術・職業の秘密文書

いわゆる企業秘密のようなものは、証拠提出を免れるか、もしくは何らかの保護をされる場合もある。

法令では、「技術または職務上の秘密」(197条1項3号)が提出の義務を免れるとしている(220条4号ハ)[6]

「技術または職務上の秘密」に関して、判例では「その事項が公開されると、当該技術の有する社会的価値が下落し、これによる活動が困難になるもの、または、当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるもの」と定義した(最決平成12・3・10民集54巻3号1073頁)。

つまり、単なる秘密では足りず、公開すると実質的な損害のあるものでなければならない[7]


完全には同じではないものの、不正競争防止法2条6項における「営業秘密」と、民事訴訟法の「職業の秘密」とは、実質的に共通点が多い[8]


文書だけでなく、尋問においても、職業の秘密に関することは発言を拒否できる(197条1項3号)[9]


専門職秘密文書

医師や公認会計士などは、法令で職務上の情報についての守秘義務がある。それらが裁判で公開されると不都合なので、民事訴訟では一定の配慮が必要である。 しかし、専門職だからといって、決してなんでもかんでも秘密というわけではなく、客観的にみて秘密に値する情報でなければならない。

なので判例では、秘密に値しないとして、提出義務を免れなかった場合もある[10]


自己利用文書

法令では、もっぱら文書の所持者の利用に供するものは提出をまぬがれるとされているが、しかしそれだけでは漠然としていて抜け穴として使われるおそれもあるとして批判的な学説も多い。

判例などでは、公開した場合にプライバシー侵害となるおそれの高い文書を非公開にするために、よく自己利用文書として分類される。

逆にそういった特別な事情がなければ、自己の利用に供する文書であっても、判例では提出を命令された場合もある[11]


刑事関係文書 刑事事件についての訴訟に関する書類、少年の保護事件の記録、またはこれらの事件において押収されている文書は、提出義務をまぬがれる(220条4号ホ)。

ただし、実務的には、法律関係文書(220条3号)の提出義務の問題があるので、刑事関係文書としてではなく法律関係文書として提出を命じられる場合も多い。

判例によると、捜索差押許可状(最決平成17・7・22民集59巻6号1837頁)または告訴状(最決平成19・12・12民集61巻9号3400頁)は、文書提出義務が肯定されている。

証拠調べ[編集]

集中証拠調べ

証拠調べにあたっては、証人尋問および当事者尋問は、できる限り、争点および証拠の整理が終了した後に集中して行わなければならない(182条)。これを「集中証拠調べ」という。(※ ここでいう「集中」とは、できる限り短期間、短時間で、というような意味である。)

また、この原則を実現するため、当事者は証人尋問および当事者尋問の申出をできる限り一括して申請しなければならない(規100条)。


交互尋問方式

証人尋問は、まず当事者からの質問に証人が答える「主尋問」、ついで、対立側の当事者が同じ証人に対して別の質問をして証人がそれに答える「反対尋問」、という方式で行われる。裁判長は適当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、この尋問の順序を変更できる(202条2項)。

尋問の仕組みは、このように交互に尋問する方式なので、交互尋問方式などと呼ばれる。

そして最後に、必要に応じて、裁判長が証人に尋問する「補充尋問」が行われる。


陳述書

証人尋問は本来は、裁判官の許可のない限り、書類にもとづいて行う事ができないはずである(203条)。このような規定のある理由は、学説的には、証人が書類に誘導されてしまって、記憶に無い偽りの陳述をしてしまう事を防止するため等の理由が言われている[12]

しかし実務では、陳述書を用いて証人尋問をする事も多く、つまり203条の原則に反しているような実情がある。 証人の提出する陳述書は、証人本人が記述するものとされる[13]

学説的には、仕方無く陳述書を用いるにしても、なるべく限定的に用いるのが望ましいとされる[14]

ビデオリンク[編集]

※ 民訴の三木 本(ボン)にはP304にビデオリンクの記述あり。安西本ではP137 。市販の刑事訴訟法の書籍には記載あり。

日本では刑事訴訟と民事訴訟は分かれているが、犯罪が起きて被疑者が逮捕されて刑事訴訟が起きれば、刑事訴訟で有罪の言い渡し[15]がなされれば、のちに犯罪被害にともなう(民事の)不法行為に対する損害賠償請求が付随的に起こすことができる(損害賠償命令制度)。

このような刑事事件に付随的に起きる民事の損害賠償請求の場合、刑事事件での手続が援用され、その刑事事件を担当した地方裁判所[16]に民事の損害賠償請求を起こすことができる。(※ なお、一般的にこのような付随の場合での民事の初審は地方裁判所である[17]。刑事事件では簡易裁判所は罰金などの比較的に軽い事件を扱う。)

このような刑事訴訟のあとに付随的に行われる民事訴訟の際、刑事訴訟で行われていた被害者のプライバシー保護などの制度は、平成19(2007)年の法改正「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」により、以降は民事訴訟においても被害者のプライバシー保護的な措置が行われる事になっている[18]

刑事訴訟において、被害者または証人のプライバシー保護などのため、証人を法廷以外の場所に居させて映像通信によって証言させるビデオリンク方式による証言や、衝立(ついたて)などによる容疑者からの視線の遮蔽、また必要なら付添き人による付き添いの措置などの制度がある。現在、民事訴訟においても、刑事訴訟後の民事訴訟では同様の措置が導入されている[19](203条3で遮蔽、203条2で付き添い)。民事での付添人は、たとえば家族や医師など[20]である。

なお、犯罪事件とは無関係に、証人が遠隔地に住んでいるだけの訴訟の場合にも、ビデオリンク方式は利用できる可能性はある(204条1号)[21]

鑑定[編集]

鑑定とは、特定の専門的な学識経験を有する第三者に、証拠調べの判断を報告してもらう行為である。また、このような鑑定依頼を裁判所から受けて、判断の報告の義務を負った学識経験者のことを鑑定人と呼ぶ。

医療鑑定、不動産鑑定、筆跡鑑定、などがある[22]。医療鑑定では、たとえば医療過誤訴訟なら、治療方法の適否について鑑定人である医師に意見を陳述してもらうような事例が典型例であろう[23]

証人と鑑定人の違いは、一般的に当事者が指定するのに対し、鑑定では裁判所が鑑定人を指定する。

専門委員との違いは、専門委員は証拠調べに入る前に争点を整理するために意見を聞くので、目的も時期も異なる[24]


鑑定人と証人の違いについて

「証人」による「証言」とは、偶発的な事件や事故を体験した者、あるいは偶発的な取引を体験した者に、その供述(=証言)をしてもらう事により、その供述を証拠資料とするものである[25]。このように証人とは、個別具体的な事実を報告する者であり、この事から証人は特定の者でなければならない[26]

一方、「鑑定人」については、同程度の学識を有する他の者でも代替が可能である[27]

なお、学識を有する者が、その職業上の経験などをもとに証言となりうる過去の具体的事実を報告する場合、この者を「鑑定証人」と言うが、しかしその本質は証人であり、従ってその手続は証人尋問の手続による(217条)[28][29]


法律上では、鑑定人になりうる学識経験のある者は、公法上の義務として鑑定義務を負う(212条)とされる。実際には、裁判所から鑑定人に選定された者がこのような義務を負う。

鑑定人に選定された者は、裁判所への出頭義務、鑑定意見報告義務、宣誓義務、などを負い、この義務に違反すると過料または罰金などの制裁があるが(216条)、しかし鑑定人には代替性があるので勾引は認められない。


鑑定の開始の手続

鑑定は当事者からの申出によって行われる(180条1項)[30][31]。鑑定の目的は裁判所の判断力を向上させる目的であるが、しかし現状では、鑑定は当事者からの申出にもとづく[32]

また、職権証拠調べが禁止されているので、当事者なしでの裁判所からの命令による鑑定(「職権鑑定」という)はできないのが原則である[33]


鑑定の報告

鑑定の結果は、口頭弁論期日で鑑定人によって陳述される。

証人尋問の交互尋問の順序とは異なり、鑑定では、まず裁判長が始めに鑑定人に意見を陳術させる。 そして鑑定人の意見の陳述が終わったあとに、裁判官が鑑定人に質問をする。

そして最後に申出当事者が先に、反対側の当事者が後の順番で、それぞれ鑑定人に質問をする。

このような順序になっているのは、当事者が鑑定人に敵対心からの非礼な質問をする事のないようにとの配慮である(旧法では証人尋問の規定が準用されていた)[34]

鑑定の合理化のためにテレビ会議システムを用いる事もできる(215条)。


私鑑定

裁判所を介した正規の鑑定とは別に、当事者が独自に専門家に依頼して鑑定意見を作成してもらうのを慣習上では「私鑑定」といい、その報告書を書証として取り調べるように当事者が申し出る事例がある。

「私鑑定」については、書証として扱うべきか否かの議論や慎重論などがある。

証人[編集]

日本の裁判権に属する者は、商人義務を負う(190条)。

未成年者が重度の精神障害者であっても、証人になることができる。ただし、それらの要因が証明力に影響することはある[35]

ただし、訴訟の当事者、および当事者の法定代理人[36]は、自らの訴訟の証人になる資格はない[37][38]


証人は以下に述べるように、出頭義務、証言義務、宣誓義務を負う。

出頭義務

証人は、証人としての呼出しを裁判所から受けたら、出頭しないといけない。証人はもし出頭しないと、10万円の罰金、または拘留の刑事罰を受けるか(193条)、また裁判所は勾引により強引に証人をつれてこさせることもできる(194条)。証人には代替性が無いので、勾引のような強制手段が許されているのである。


宣誓義務

※ 調査中

宣誓した証人が虚偽の陳述をすれば刑法上の偽証罪(刑169条)になる[39][40]


証言義務

証人は、例外的な場合を除き、裁判官または当事者による尋問に応じて、証言をしなければならない。これを証言義務という。

例外として、証言拒絶権といわれるものの場合には、証言拒否をできる。証言内容が、公務員の職務上の秘密に関する場合、医師や弁護士などの職務上の秘密などの場合には、証言を拒絶できる(197条1項3号)。これは文書提出義務をまぬがれる場合と基本的には、ほぼ同じである。

この他、証人の自己負罪拒否権というものがあり、証人自身またはその親族などが刑事罰を受けるおそれのある事項については証言を拒否できる(196条)。

上述のような正当な理由がなく、証言を拒めば、罰金または拘留などの処罰を受ける。処罰の内容は、不出頭に対する処罰とほぼ同じである。※ だが、拘留は無い(すでに出頭してるので)。

当事者尋問[編集]

当事者尋問の手続や義務は、証人のそれと類似している部分も多いが、異なる部分もある。

当事者にも出頭の義務はあるが、しかし当事者は不出頭でも処罰は無い。

当事者尋問は、当事者からの申出の他、裁判所の職権によっても行うことができる。これは弁論主義の証拠原則(職権証拠調べの禁止)に対する例外にひとつである。

当事者尋問では、宣誓は義務化されておらず、裁判所が裁量で宣誓させるかを決めることができる(207条1項後段)。 もし宣誓が命じられた場合は、当事者は宣誓にしたがわなければならないとされる。

また、当事者が虚偽の陳術をしても、10万円以下の科料があるが(209条)、しかし偽証罪にはならない。

書証[編集]

文書」とは、主に文字によって、作成者の思想(意思、判断、感情、のほか認識、記録、報告、も「思想」の対象になる[41])を表現した有形物を言う。

文書が、それに表示されている内容が事実認定のための証拠資料になるなら、その文書は「書証」である[42]

また、そのような証拠資料となりうる文書を用いて証明をする行為のことも「書証」という[43]

一方、偽造文書かどうかを明らかにするために筆跡やインクの成分を調べる場合などは、「書証」ではなく「検証」である[44]


写真、音声、地図、図画などは、文字によらないので「文書」ではないが、「準文書」として書証と同様に扱われる。また、録音テープやビデオテープのようなデータも準文書として扱われる(231条)。磁気ディスクや光ディスクやコンピュータ上のデータについては、231条では規定されていない。


実務の用語として文書を処分証書と報告証書に区別することがある。

文書のうち、法律行為が記載された文書を処分証書といい、具体的には判決書[45]、手形、遺言書、契約書が処分証書である。

報告証書は、処分証書以外の証書であり、作成者の認識、意見などを記載した証書であり、具体的には登記簿、戸籍簿、受取書<ref>安西、P142</ref、診断書、などが報告証書である。


検証[編集]

検証とは、係争事実について争いのある事について、裁判官または裁判所が自ら体験をする事で、証拠資料とする事である。

視覚や聴覚など五感を用いて体験しうるものが、検証の対象になりうる。

たとえば一例だが、検証のため、係争になっている各種の事故発生の現場に出向いて検証を行うような場合もある。このように、検証の対象物が場所なら、裁判官が現地に出向いて検証を行う(185条)(現場検証)。


検証物の所有者は、検証に協力するための義務を負い、具体的には「検証物提示義務」(動かせないものなら「検証物受忍義務」という)を負う。

また、検証の義務として、書証など文書提出命令に準じた義務を負う(232条1項)。

検証の際に裁判官には欠けている異分野の専門知識が必要な場合、その専門知識を持つ外部の学識者に鑑定を命ずる事ができる(233条)。

  1. ^ 安西、P151
  2. ^ 三木、P336
  3. ^ 三木、P337
  4. ^ 三木、P337
  5. ^ 三木、P326
  6. ^ 三木、P328
  7. ^ 三木、P328
  8. ^ 三木、P298
  9. ^ 三木、P297
  10. ^ 安西、P148
  11. ^ 安西、P148
  12. ^ 三木、P302
  13. ^ 安西、P139
  14. ^ 安西、P139
  15. ^ 三木、P25
  16. ^ 三木、P25
  17. ^ 三木、P25
  18. ^ 田中開、『刑事訴訟法』、有斐閣、2020年5月25日 第6版 第1刷発行、P232
  19. ^ 田中開、『刑事訴訟法』、有斐閣、2020年5月25日 第6版 第1刷発行、P232
  20. ^ 三木、P304
  21. ^ 安西、P107
  22. ^ 三木、P307
  23. ^ 安西、P140
  24. ^ 安西、P140
  25. ^ 安西、P133
  26. ^ 三木、P308
  27. ^ 三木、P308
  28. ^ 安西、P141
  29. ^ 三木、P308
  30. ^ 安西、P140
  31. ^ 三木、P309
  32. ^ 三木、P309
  33. ^ 三木、P309
  34. ^ 安西、P141
  35. ^ 三木、P291
  36. ^ 三木、P290
  37. ^ 三木、P290
  38. ^ 安西、P234
  39. ^ 安西、P128
  40. ^ 三木、P292
  41. ^ 三木、P312
  42. ^ 安西、P142
  43. ^ 三木、P312
  44. ^ 三木、P312
  45. ^ 安西、P142