準惑星
準惑星(じゅんわくせい、 dwarf planet)は、太陽系において以下の3条件を満たす天体として定義される:
- 太陽の周りを公転している
- 十分な質量があり、自己の重力で静水圧平衡(ほぼ球形)になっている
- その軌道領域において力学的に支配的でない(軌道付近の他の天体を排除していない)
2006年の国際天文学連合(IAU)総会で定められたこの定義により、それまで惑星とされていた冥王星は準惑星に分類変更された。
既知の準惑星
[編集]2024年現在、国際天文学連合により正式に認定されている準惑星は以下の5つである。
準惑星の基本データ比較 名称 発見年 平均半径(km) 質量(kg) 公転周期(年) 平均表面温度(K) ケレス 1801 469.7 9.39×1020 4.6 168 冥王星 1930 1,188.3 1.303×1022 248 44 ハウメア 2004 816 4.006×1021 283 32 マケマケ 2005 715 3×1021 306 32 エリス 2005 1,163 1.67×1022 557 42
ケレス
[編集]ケレスは小惑星帯に位置する最大の天体であり、1801年に発見された準惑星である。
特徴
[編集]- 表面は岩石と氷の混合物で構成
- 内部に液体の水が存在する可能性
- 表面には多数のクレーターが存在し、最大のものは280kmに及ぶ
- 地表には明るい斑点が多数存在し、これらは塩の堆積物と考えられている
探査
[編集]- 2015年から2018年まで、NASAの探査機ドーンがケレスを詳細に観測
- 探査の結果、表面下に塩水の存在が示唆された
冥王星
[編集]冥王星は1930年に発見され、2006年まで太陽系第9惑星として分類されていた天体である。
特徴
[編集]- 表面は主に窒素氷、メタン氷、一酸化炭素氷で覆われている
- 大気を持ち、主成分は窒素
- 5つの衛星を持つ(カロン、ニクス、ヒドラ、ケルベロス、ステュクス)
- カロンは冥王星の半径の約半分(606km)あり、二重準惑星系とも呼ばれる
探査
[編集]- 2015年7月、NASAの探査機ニュー・ホライズンズが初のフライバイを実施
- 高解像度の表面写真により、活発な地質活動の証拠が発見された
ハウメア
[編集]ハウメアは2004年に発見された、急速な自転により楕円体形状となっている特異な準惑星である。
特徴
[編集]- 1日あたり3.9時間という極めて速い自転周期
- 2つの衛星(ヒイアカ、ナマカ)と1つの環を持つ
- 表面は主に水氷で覆われている
マケマケ
[編集]マケマケは2005年に発見された、冥王星に次いで明るい外縁天体である。
特徴
[編集]- 表面はメタン氷で覆われている
- 既知の衛星は1つ(MK2)
- 極めて低温(約30K)の環境
エリス
[編集]エリスは2005年に発見された、既知の準惑星の中で最も質量が大きい天体である。
特徴
[編集]- 高いアルベド(反射率)を持つ
- 1つの衛星(ディスノミア)を持つ
- 公転軌道が大きく傾いている(44度)
準惑星はなぜ設定されたのか?
[編集]新たな定義の必要性
[編集]20世紀末から21世紀初頭にかけて、太陽系外縁天体の発見が相次いだ。特に2005年のエリスの発見は、従来の「惑星」の定義に再考を迫る契機となった。エリスは冥王星より大きいと当初考えられ、「第10惑星」として報じられた。しかし、この発見により以下の問題が浮上した:
- 惑星の数が際限なく増える可能性
- 既存の惑星との軌道や形成過程の違い
- 教育現場での混乱
議論の過程
[編集]2006年の国際天文学連合(IAU)総会では、以下の選択肢が検討された:
- 全ての球形天体を惑星とする(12個以上の惑星)
- 従来の9惑星を維持する(歴史的慣習の重視)
- 新たなカテゴリーを設定する
激論の末、第3の選択肢が採用され、「準惑星」というカテゴリーが設定された。
科学的意義
[編集]準惑星の設定には、以下の科学的意義がある:
- 天体の進化段階の反映:
準惑星は、惑星形成過程の中間段階を示す天体と考えられる。その軌道領域を「クリア」できなかった天体として、太陽系の形成史を理解する上で重要な情報を提供する。
- 分類の明確化:
天体の物理的特性(形状)と力学的特性(軌道環境)の両方を考慮した分類により、太陽系天体の体系的な理解が可能となった。
惑星と準惑星の比較 特徴 惑星 準惑星 形状 球形 球形 軌道のクリア 完了 未完了 公転軌道の特徴 ほぼ黄道面に沿う 傾きが大きいものも 数 8個(確定) 5個(確定)+多数の候補
現在の課題
[編集]準惑星の定義には、いくつかの課題も残されている:
- 「軌道領域のクリア」の定量的基準が不明確
- 遠方天体の物理的特性の精密測定が困難
- 新たな準惑星候補の発見と分類
教育への影響
[編集]準惑星の設定は、天文教育に以下の影響を与えた:
- 太陽系の多様性の理解促進
- 科学の進歩に伴う定義の変更を学ぶ機会
- 天体分類の基準について考える契機
練習問題
[編集]- 準惑星の定義を3つ挙げなさい。
- なぜ冥王星は2006年に惑星から準惑星に再分類されたのか説明しなさい。
- 5つの準惑星の中で最も特異な形状を持つのはどれか、またその理由を説明しなさい。