線型代数学 > 固有値と固有ベクトル
ある線型変換
に対して、
のような元
が見つかれば、この線型変換は扱いやすくなる。このページでは、このような
(固有値・固有ベクトル)について議論をする。
せん断写像と言う種類の線形写像でモナリザの絵を変換した。このとき赤のベクトルは方向を変えたが、青のベクトルは変換後も方向を変えていない。この青のベクトルが固有ベクトルである。
注意
ここから先の議論は全て複素数体
上の議論である。
本題に入る前にまず次の定理を認めてもらいたい。
定理(代数学の基本定理)
複素数係数の任意のn次多項式
![{\displaystyle \ f(x)=a_{0}x^{n}+a_{1}x^{n-1}+\cdots +a_{n-1}x+a_{n}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/a3414075bade42772a6d308d644e82592ab61041)
は重複度も含めてn個の複素数の根を持つ。
証明は複素解析学#リウヴィルの定理を参照のこと。
まず、このページの初めに書いたことを正確に定義しよう。
定義
上の線型空間、
とする。
このとき、
が
![{\displaystyle \ f(\mathbf {v} )=\alpha \mathbf {v} }](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/f7514789e8a7be91745f1b524929918b010251f3)
の関係をみたすとき、
を固有値 (eigen value)、
を固有ベクトル (eigen vector)という。
では、どのようにして固有値や固有ベクトルを求めたらよいだろうか?
まずは、
の線型変換である行列について考えてみよう。
まず、固有多項式を次のように定義する。
定義
に対して
![{\displaystyle \Phi _{A}(t)=\det(A-tI_{n})=\pm (t-\alpha _{1})^{\nu _{1}}(t-\alpha _{2})^{\nu _{2}}\cdots (t-\alpha _{r})^{\nu _{r}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/2c2c98327c3978f67be5544f5a5c587ca0012f4e)
を
の固有多項式 (eigen polynomial)という。また、
を
の重複度 (multiplicity)という。
2番目の等式は代数学の基本定理より成り立つ。
すると、次の定理が成り立つ。
定理
が固有値
は固有多項式の根
(証明)
に対して、
が固有値であるとする。このとき、
![{\displaystyle \ A\mathbf {x} =\alpha \mathbf {x} }](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/22bd5cda426518c78d0012aff1f66143f023fa95)
をみたす、
が存在する。
上の式を書き直すと、
であるから、
の階数がnより小さいということと同値である。
つまり、
でなければならない。
以上をまとめると、
が固有値
が非自明な解をもつ。
□
行列
によって引き起こされる線形変換。
行列
の固有値と固有ベクトルを求める。右の図はこの行列によって引き起こされる変換を示している。この行列
の固有値と固有ベクトルを求める。
なので、方程式
を解いて、行列
の固有値は1と3である。
次に固有ベクトルを求める。固有ベクトルを求めるには、
を満たすベクトル
を求めれば良い。
に対応する固有ベクトルは、
であることから、
を満たすベクトルである。すなわち、固有ベクトルは
及び、これを任意の定数倍したものである。
に対応する固有ベクトルは、
であることから、
を満たすベクトルである。すなわち、固有ベクトルは
及び、これを任意の定数倍したものである。
右の図では、紫のベクトルは、固有値1に対応する固有ベクトル
に平行なベクトルである。青のベクトルは、固有値3に対応する固有ベクトル
に平行なベクトルである。紫のベクトルは、変換された後も、方向は変らず、長さも変わっていない。青のベクトルは、変換された後も、方向は変らず、長さは3倍になっている。固有ベクトルではない赤のベクトルは、変換された後、方向を変えている。
次に、固有空間を以下のように定義する。
定義
の
に対する固有空間 (eigen space)とは
![{\displaystyle E(\alpha )=(\mathbf {x} \in \mathbb {C} ^{n}|(A-\alpha I_{n})\mathbf {x} =\mathbf {0} )=\ker(A-\alpha I_{n})}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/13ae5b5d8e5b49792da2cee92bc9f1c33f5a6343)
で表わされる部分空間のことである。
この定義から明らかなように、
が固有値
は
でない元を持ち、それらはすべて固有ベクトル
である。
上の線型空間、
を
の基底、
に対して
は固有値であるとする。
また、
に対する
の表現行列を
とする。
このとき、行列の場合と同様に、
![{\displaystyle \ f(\mathbf {v} )=\alpha \mathbf {v} }](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/f7514789e8a7be91745f1b524929918b010251f3)
を充たす
が存在する。
の恒等変換(identity transformation)を
とすると、
![{\displaystyle \ (f-\alpha I_{V})(\mathbf {v} )=\mathbf {0} }](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/b2cf33bc049af635883fcb858d40a01b0ee35b11)
と変形できる。これは、
と同値である。
の表現行列は
であるから、
以上より、
の固有値は
の固有多項式の根であることがわかる。
また、正則行列
に対して
![{\displaystyle \ \det(A-tI_{n})=\det(A-tI_{n})\det(P)\det(P^{-1})=\det(P^{-1})\det(A-tI_{n})\det(P)=\det(P^{-1}AP-tI_{n})}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/4df35f99026f4ae1fa628d5ec03532a04829eb79)
より、固有多項式は
の基底の取り方によらない。
固有空間も行列の場合と同様に定義される。
定義
の
に対する固有空間とは
![{\displaystyle E(\alpha )=(\mathbf {v} \in V|(f-\alpha I_{V})\mathbf {v} =\mathbf {0} )=\ker(f-\alpha I_{V})}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/615c68c843c78e7f496820cf8ee020f7749ada71)
で表わされる部分空間のことである。
最後に、次の命題を証明しておく。
命題
は
の相異なる固有値とする。このとき、
![{\displaystyle \ E(\alpha _{1})+E(\alpha _{2})+\cdots +E(\alpha _{r})=\ E(\alpha _{1})\oplus E(\alpha _{2})\oplus \cdots \oplus E(\alpha _{r})}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/f488b62ac7b20c6d4cb96d87eb877d7e841525f4)
(証明)
は
をみたすとする。
この等式に、
を作用させると、
![{\displaystyle {\begin{pmatrix}1&1&\cdots &1\\\alpha _{1}&\alpha _{2}&\cdots &\alpha _{r}\\\vdots &\vdots &\ddots &\vdots \\\alpha _{1}^{r-1}&\alpha _{2}^{r-1}&\cdots &\alpha _{r}^{r-1}\\\end{pmatrix}}{\begin{pmatrix}\mathbf {x} _{1}\\\mathbf {x} _{2}\\\vdots \\\mathbf {x} _{r}\end{pmatrix}}={\begin{pmatrix}\mathbf {0} \\\mathbf {0} \\\vdots \\\mathbf {0} \\\end{pmatrix}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/8dbb95c38e6ddc842bdd38005cfef92e3e763e1d)
左辺の行列の行列式はVanDermondの行列式なので、
![{\displaystyle \det {\begin{pmatrix}1&1&\cdots &1\\\alpha _{1}&\alpha _{2}&\cdots &\alpha _{r}\\\vdots &\vdots &\ddots &\vdots \\\alpha _{1}^{r-1}&\alpha _{2}^{r-1}&\cdots &\alpha _{r}^{r-1}\\\end{pmatrix}}=\prod _{i<j}(\alpha _{i}-\alpha _{j})\neq 0}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/05cc389743e5344d79f6af38347e03059c70ea48)
したがって、この行列は正則。
よって、
□