線型代数学 > 固有値と固有ベクトル
ある線型変換
に対して、
のような元
が見つかれば、この線型変換は扱いやすくなる。このページでは、このような
(固有値・固有ベクトル)について議論をする。
せん断写像と言う種類の線形写像でモナリザの絵を変換した。このとき赤のベクトルは方向を変えたが、青のベクトルは変換後も方向を変えていない。この青のベクトルが固有ベクトルである。
注意
ここから先の議論は全て複素数体
上の議論である。
はじめに[編集]
本題に入る前にまず次の定理を認めてもらいたい。
定理(代数学の基本定理)
複素数係数の任意のn次多項式

は重複度も含めてn個の複素数の根を持つ。
証明は別の本を参照のこと。
固有値・固有ベクトル[編集]
まず、このページの初めに書いたことを正確に定義しよう。
定義
上の線型空間、
とする。
このとき、
が

の関係をみたすとき、
を固有値 (eigen value)、
を固有ベクトル (eigen vector)という。
では、どのようにして固有値や固有ベクトルを求めたらよいだろうか?
まずは、
の線型変換である行列について考えてみよう。
行列の場合[編集]
まず、固有多項式を次のように定義する。
固有多項式[編集]
定義
に対して

を
の固有多項式 (eigen polynomial)という。また、
を
の重複度 (multiplicity)という。
2番目の等式は代数学の基本定理より成り立つ。
すると、次の定理が成り立つ。
定理
が固有値
は固有多項式の根
(証明)
に対して、
が固有値であるとする。このとき、

をみたす、
が存在する。
上の式を書き直すと、
であるから、
の階数がnより小さいということと同値である。
つまり、
でなければならない。
以上をまとめると、
が固有値
が非自明な解をもつ。
□
行列
によって引き起こされる線形変換。
行列
の固有値と固有ベクトルを求める。右の図はこの行列によって引き起こされる変換を示している。この行列
の固有値と固有ベクトルを求める。
なので、方程式
を解いて、行列
の固有値は1と3である。
次に固有ベクトルを求める。固有ベクトルを求めるには、
を満たすベクトル
を求めれば良い。
に対応する固有ベクトルは、
であることから、
を満たすベクトルである。すなわち、固有ベクトルは
及び、これを任意の定数倍したものである。
に対応する固有ベクトルは、
であることから、
を満たすベクトルである。すなわち、固有ベクトルは
及び、これを任意の定数倍したものである。
右の図では、紫のベクトルは、固有値1に対応する固有ベクトル
に平行なベクトルである。青のベクトルは、固有値3に対応する固有ベクトル
に平行なベクトルである。紫のベクトルは、変換された後も、方向は変らず、長さも変わっていない。青のベクトルは、変換された後も、方向は変らず、長さは3倍になっている。固有ベクトルではない赤のベクトルは、変換された後、方向を変えている。
次に、固有空間を以下のように定義する。
固有空間[編集]
定義
の
に対する固有空間 (eigen space)とは

で表わされる部分空間のことである。
この定義から明らかなように、
が固有値
は
でない元を持ち、それらはすべて固有ベクトル
である。
一般の線型変換の場合[編集]
上の線型空間、
を
の基底、
に対して
は固有値であるとする。
また、
に対する
の表現行列を
とする。
このとき、行列の場合と同様に、

を充たす
が存在する。
の恒等変換(identity transformation)を
とすると、

と変形できる。これは、
と同値である。
の表現行列は
であるから、
以上より、
の固有値は
の固有多項式の根であることがわかる。
また、正則行列
に対して

より、固有多項式は
の基底の取り方によらない。
固有空間[編集]
固有空間も行列の場合と同様に定義される。
定義
の
に対する固有空間とは

で表わされる部分空間のことである。
固有空間の和[編集]
最後に、次の命題を証明しておく。
命題
は
の相異なる固有値とする。このとき、

(証明)
は
をみたすとする。
この等式に、
を作用させると、

左辺の行列の行列式はVanDermondの行列式なので、

したがって、この行列は正則。
よって、
□