このページでは、2、3次元の数ベクトルの長さや内積を拡張し、一般の線型空間のベクトルについても、長さ(ノルム)や内積を定義する。
2、3次元の数ベクトルの場合は、高等学校数学B ベクトルを参照のこと。
ベクトルには大きさも定義される。ふつうそれは
で表され、

と定義される。これをaのノルム (norm)と言う。
例


演習
- 次のベクトルのノルムを求めよ


ここでは実ベクトルの場合に関して述べる。

をaとbの内積 (inner product)という。
特に2,3次元空間ベクトルaとbとの内積は、aとbのなす角をθとすると、

と表される。逆に、一般のn次元実ベクトルのなす角という概念を、この関係式によって定義することができる。
内積については、次の性質が成り立つ。いずれも証明は易しい。
- (a,a)=||a||2
- aとbが直交する⇔(a,b)=0[1]
- c(a,b)=(ca,b)=(a,cb)
- (a,b+c)=(a,b)+(a,c)
- (a+b,c)=(a,c)+(b,c)
- (a,b)=(b,a)
- ||a||+||b||≧||a+b||(三角不等式)
- |(a,b)|≦||a||||b||(シュワルツの不等式)
- ^ なす角について上で述べたのと同様に、これは二次元・三次元の実ベクトルについては「性質」である。逆に、それ以外のベクトルではこれは直交の「定義」である。
演習
空間ベクトル

とのなす角が
であり、かつ

とのなす角が
であるようなノルムが1のベクトルを求めよ。
注)そのようなベクトルはただひとつではない。
上の線型空間でのノルム・内積
[編集]
次に、上で書いたような数ベクトルのノルム・内積の概念をさらに拡張しよう。
を
または
上の線型空間とする。(以下、
は一般の体ではなく、実数体
または複素数体
を指すことにする )
に対して、
の元をかえすような演算
が次の(Ⅰ)~(Ⅳ)の性質をみたすとき、
を内積という。
- (Ⅰ)


- (Ⅱ)

- (
は
の複素共役)
- (Ⅲ)

- (Ⅳ)

が成り立つのは、
のときに限る。
また、

で定義される量をxのノルムという。
このように、内積が定義された線型空間を計量ベクトル空間(計量線型空間)という。
1.
のとき、

とすれば、これは内積になっている。
2.
のとき、

とすれば、これは内積になっている。(Trについては行列概論を参照)
3.
{
上連続な関数} ,
は
上連続な関数のとき、

とすれば、これは内積になっている。
ここで定義した内積・ノルムに関しても数ベクトルの場合と同様に三角不等式・シュワルツの不等式が成り立つ。
定理
に対して、次の(1),(2)の不等式が成り立つ。
(1)
(シュワルツの不等式)
等号が成り立つのは、
と書ける場合のみ。
(2)
等号が成り立つのは、実数
を用いて、
と書ける場合のみ。
(証明)(1)
とすると

ここで、
とおけば、

両辺を
で割り、正の平方根をとれば、
となる。
等号が成り立つのは、
すなわち、
となるときだから、
と書ける。
逆にこれが成り立つとき、不等号は等号になる□
(2)
したがって、正の平方根をとれば
となる。
1つ目の等号は
が非負の実数となるときに成り立ち、2つ目の等号は
と書けるとき成り立つ。この2つの条件から、実数
を用いて、
と書けるときのみ等号が成立する□
計量ベクトル空間
のベクトル
が互いに直交し、ノルムが1であるとき、つまり、
であるとき、ベクトル
は正規直交系(orthonormal system)であるという。ONSとも表される。
計量ベクトル空間
の正規直交系
が、
であるとき、
は、正規直交基底(orthonormal basis)または、完全正規直交系(complete orthonormal system)であるという。CONSとも表される。
グラム・シュミットの直交化法のイメージ
計量ベクトル空間
の線形独立なベクトル
を使って正規直交系を作ることができる。
とすると、
は互いに直行するベクトルとなる。
とすると、
は正規直交系となる。
これをグラム・シュミットの直交化法(Gram–Schmidt orthonormalization)という。