薬理学/抗悪性腫瘍薬
細胞毒性薬
[編集]「細胞毒性薬」は、具体的に細胞増殖を阻害する。そのため、「細胞増殖阻害薬」[1]ともいう。
主に、抗腫瘍薬として細胞毒性薬は使われる[2]。
アルキル化薬
[編集]シクロホスファミド
[編集]シクロホスファミドはナイトロジェンマスタード類に属するアルキル化薬であり、プロドラッグであり[3]、肝臓でアルキル化薬に代謝され、増殖するリンパ球に細胞毒性を示す[4][5]。
とくに、DNA中のグアニンと反応しやすく、DNAの合成・複製を阻害・抑制する[6][7][8]。
- ※ 備考
- ここでいう「ナイトロジェンマスタード」のマスタードとは、過去の第一次世界大戦[9]などの戦争で毒ガスとして使われたマスタードガスに由来している。マスタードガスは分子内に硫黄 S をもつのでサルファマスタードともいうが、この硫黄を窒素 N に変えたものがナイトロジェンマスタートである[10]。マスタードガスの関連物質の研究により、ナイトロジェンマスタードが白血病に有効である事が分かり、抗がん剤としてナイトロジェンマスタード類が開発されるに至った経緯がある[11]。なお、マスタードガスが白血球を減少させる事が既に知られていた[12]。
- なお、アルキル化とは、分子中に -CH2-CH2- を挿入する事である[13]。
シクロホスファミドの臨床応用は主に、抗悪性腫瘍薬として使用され[14]、具体的には多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、白血病、肺癌、乳癌、 神経芽腫などの悪性腫瘍 [15][16]。
その他の臨床応用としてシクロホスファミドは、ループス腎炎、ウェゲナー肉芽腫などの血管炎症候群、膠原病に伴う間質性肺炎など一部[17]の自己免疫疾患の難治性治療に用いられる[18][19]。
シクロホスファミドは副作用に出血性膀胱炎があるので、必ず予防薬のメスナ(2-メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム[20])と併用する事[21]。
関連薬のイホスファミドでも同様に出血性膀胱炎の副作用が生じる[22][23]。
ニトロソウレア類
[編集]ニトロソウレア類は、尿素の水素原子の1つがニトロソ基(-NO)に置き換わった分子である[24]。
ニトロソウレア類は、DNAに加えてタンパクにも作用を及ぼす[25][26]。
ニトロソウレア類の抗腫瘍薬にはニムスチン、ラニムスチンなどがある。
その他のアルキル化薬
[編集]トリアゼン類のダカルバジンがある。
その他、構造はそれぞれ異なるが、テモゾロミド、プロカルバジンなどがある。
代謝拮抗薬
[編集]これらの分子は、構造やDNA合成に必要な酵素またはDNA塩基に似ているため、生体内では誤って取り込まれやすく、そのため細胞複製の阻害剤として機能する[27]。
メトトレキサート
[編集]メトトレキサートは葉酸に拮抗する薬であり(葉酸拮抗薬[28]、葉酸代謝拮抗薬[29][30])、
酵素を阻害。阻害される酵素はジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)。
DHFRは、葉酸を活性型葉酸(テトラヒドロ葉酸[31])にするのに必要。
メトロレキサートは、DHFRおよび、チミジル葉合成系・プリン合成系を阻害することにより、細胞増殖を抑制する。
塩基アナログ
[編集]これらの物質は構造がDNA塩基と似ているため、細胞やDNAに取り込まれやすく、DNA合成を阻害しやすい。
なお、構造がDNA塩基と似ている物質のことを塩基アナログという。
ピリミジン拮抗薬
[編集]5-フルオロウラシル(5-FU)は、ウラシルのピリミジン環5位の水素がフッ素に置換された構造を持つ。腫瘍細胞のDNA合成では、ウラシルがよく取り込まれる事から開発された[32]。
5-FUは体内で代謝されて フルオロデオキシウリジン一リン酸 および/または 5-フルオロウリジン三リン酸 になる。
前者の フルオロデオキシウリジン一リン酸 は、DNA合成の律速段階であるチミジル酸合成酵素を阻害することにより、DNA合成を阻害する。
後者の 5-フルオロウリジン三リン酸 はRNAに取り込まれ、結果的にRNA合成を阻害する。
テガフール、ドキシフルリジン、カペシタピン、は、それぞれ5-フルオロウラシルのプロドラッグである。
つまり、テガフール、ドキシフルリジン、カペシタピンはそれぞれ、体内で代謝されて5-フルオロウラシルになる[33][34]。
慣習的に「ピリミジン拮抗薬」のような呼び名がよく使われているが、他の呼び名としては、(分子にフッ素が含まれていることに注目して)5-FUおよびテガフール、ドキシフルリジン、カペシタミンをまとめて、分子構造にもとづき「フッ化ピリミジン類」[35]または「フッ化ピリミジン系」[36]または「フッ化ピリミジン系拮抗薬」[37]などの呼び名で分類する場合もある。
ほかには、ウラシルが5-FUの開環を阻害することを利用して、ウラシルとテガフールの配合剤である『UFT』(※ 登録商標[38])もある[39][40]。
シタラビンは、シチジンのリボースをアラビノースに置換したものであり、体内でリン酸化されて活性代謝物のシトシンアラボノシド三リン酸[41](アラビノフラノシルシトシン三リン酸[42])となり、その活性代謝物がDNAポリメラーゼを阻害する。副作用は、骨髄抑制と消化管症状[43](腸管障害[44])。
ゲムシタビンは、シチジンのリボース環の2´位がフッ素2個で置換された構造を持つ[45]。つまり、ゲムシタビンはシタラビンの類似体である。
シトシンアラビノシド系抗癌薬として、シタラビン、エノシタビン、ゲムシタビンなどは、まとめられる。
- ソリブジン薬害事件
- ※ 『標準薬理学』P.478 および 『NEW薬理学』P.592 に記載あり。
かつて抗ウイルス薬(抗ヘルペスウイルス薬)として使われていたソリブジンが、薬物相互作用による有害作用を 5-FU と起こして、患者が次々に死亡した「ソリブジン事件」といわれる薬害事件があった。
これは、ソリブジンの代謝物ブロモビニルウラシルが、5-FUの代謝酵素であるジヒドロチミン脱水素還元酵素を阻害してしまい、血中の5-FU濃度が異常に高くなることが原因であった。このような機序のため、プロドラッグ型のテガフールでも同様の薬物相互作用による副作用/有害作用が起きる[46]。
現在、すでにソリブジンは市場から「回収」[47]されている。
- ※ 「回収」とはおそらく、販売元の製薬会社が自主的に販売を停止したという意味の婉曲表現かと。つまり、行政処分などではない・・・はず。
- ※ 時期をググって調べたところ、1993年の薬害事件らしい。
プリン拮抗薬
[編集]メルカプトプリンは、天然プリンのヒポキサンチンとグアニンのプリン基の6位をSH基[48]に置換したものである[49]。体内で6-メルカプトプリンボ-スホスフェートになり、
- プリン生合成の阻害、
- イノシン酸の阻害、
抗生物質
[編集]概要
[編集]歴史的には、最初に制癌作用が発見された抗生物質はアクチノマイシンDである[54]。
現在、抗癌抗生物質の主流はアントラサイクリン系である。
- ※ 主流だと考えた理由: 『パートナー薬理学』、『NEW薬理学』、『はじめの一歩の薬理学』で単元の最初にアントラサイクリン系を紹介してるので。
アントラサイクリン系
[編集]アントラサイクリン系のドキソビルジン、ダウノビルジン、などがある。
アントラサイクリン系抗生物質は、DNAポリメラーゼの阻害およびDNAトポイソメラーゼを阻害する[55][56]。
- ※ 機序が文献ごとに食い違う。DNAを切断させた状態で安定化させるっぽい?
その他の抗生物質
[編集]マイトマイシンは、歴史的には日本で秦らによって発見された[57]。
マイトマイシンには数種類あり、マイトマイシンCというものが抗腫瘍性薬物として使われている。
マイトマイシンのDNAのアルキル化(グアニンの7位ではなく6位に対してアルキル化[58])[59]、フリーラジカル化、二本鎖DNA架橋形成により、DNA合成を抑制する[60][61]。
副作用として骨髄抑制(慢性白血病[62])、腎障害[63]など消化器症状[64][65]<。
ブレオマイシンは歴史的には日本の梅沢ほか[66]によって放線菌[67]の一種 Streptomyces verticillus から分離された抗生物質である[68][69]。
ブレオマイシンは糖ペプチド(グリコペプチド[70])でもあり[71]、細胞への作用としては最終的にDNAを切断する[72][73]。フリーラジカル(活性酸素[74])を生成することでDNAを切断している[75][76]。
DNAトポイソメラーゼ阻害薬
[編集]DNAは、複製・転写・修正などの際に、一時的に二重らせん構造による ねじれ を解消する必要がある[77]。
トポイソメラーゼ阻害薬とは、具体的には、DNAの二重らせんによる ねじれ を解消しつつ、DNAを切断する薬である。
DNA鎖の片側1本だけを切断するのがトポイソメラーゼIである。
DNA鎖の両側2本を切断するのがトポイソメラーゼIIである。
トポロジー(高次構造)を変換するという意味で、トポイソメラーゼと言われている。
- トポイソメラーゼI阻害剤
トポイソメラーゼI阻害剤の具体例としては、、中国産の植物アルカロイドであるカンプトテシン類がある。
カンプトテシンの誘導体として、イリノテカンとノギテカンがある。
イリノテカンはプロドラッグ[78]であり、体内で活性体である SN-38 に変化して、抗腫瘍作用を示す[79][80]。
トポイソメラーゼI阻害剤の副作用に骨髄抑制と下痢がある[81][82][83]。
- トポイソメラーゼII阻害剤
トポイソメラーゼII阻害剤の例としては、メギ科植物の根茎の成分ポドフィロトキシンに由来する半合成物質[84][85] エトポシドがある。
そのほか、アントラサイクリン系の抗生物質にトポイソメラーゼII阻害作用がある[86][87]。
そのほかソブゾキサンがトポイソメラーゼII阻害剤である[88]>[89]。
アザチオプリン
[編集]- ※ 調査中.
ミゾリピン
[編集]- ※ 情報不足のため未記述. さらなる専門書が必要。
ミコフェノール酸モフェチル
[編集]ミコフェノール酸モフェチルは生体内で加水分解[90]により速やかにミコフェノール酸となり、
生合成系で律速段階をしているイノシン一リン酸脱水素酵素[91]を(非競合的に[92])阻害することで、最終的にDNA合成を抑制する。
そして、リンパ球であるT細胞、B細胞の増殖も抑制する。これらの作用のため、臓器移植後の拒絶反応を抑制できる[93][94]。
臨床応用は、上述のとおり臓器移植の拒絶反応の抑制がある。その他、ループス腎炎にも用いられる[95][96]。
微小管阻害薬
[編集]なお、下記のビンカアルカロイド類とタキセル類はともに、植物に含まれる成分でもある。
ビンカアルカロイド類
[編集]ビンカアルカロイド類とは、植物ニチニチソウに含まれるアルカロイドであり、薬物としてはビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ビノレルビンなどがある。
これらはチューブリンに結合して、細胞分裂期[97]での微小管[98]の重合を抑制し、
タキセル類
[編集]パクリタセルは、タイヘイヨウイチイ(太平洋イチイ[99])やセイヨウイチイの葉や樹皮中の成分に含まれる。 歴史的には、タイヘイヨウイチイから発見された[100]。
これらは微小管に作用して、細胞分裂を停止させる。
パクリタセルとドセタキセルは、乳癌や卵巣癌に有効である[101][102]。
- ※ 副作用について、医学書ごとに微妙に食い違うので、本wikでは省略。骨髄抑制うんぬんの重篤な副作用があるらしい。
白金製剤
[編集]白金製剤は白金の錯体であり、抗菌作用および抗癌作用がある[103]。シスプラチンが代表的であり[104]、シスプラチンは水溶性である[105]。
シスプラチンの構造は、白金に2つのアンモニアと2つの塩素がシス配位結合している。
- ※ ここでいう「シス配位」の「シス」とは、高校化学で習う異性体の配置のシス/トランス の「シス」のこと。
機序は、シスプラチンは細胞に入ると塩素が脱離するので[106]、なので塩素が水素に置き換わる[107]。そして、DNA架橋を形成することで、最終的にDNA合成を阻害する。
副作用として白金製剤は、悪心・嘔吐が強いものが多く、腎毒性が強いものも多いとされる[108]。シスプラチンは悪心・嘔吐と腎毒性が強い[109][110][111]。
カルボプラチンやネダプラチンは、毒性を軽減する改良をしたものであり[112]、カルボプラチンやネダプラチンは腎毒性がやや低いとされる[113]、
歴史的には白金製剤は、白金電極の周囲では大腸菌の増殖が阻害される事から[114]、白金製剤の抗癌剤にむけての開発が始まった[115]。
オキサリプリチンは、白金製剤の中では例外的[116]に直腸癌・結腸癌に有効である[117][118]。オキサリプリチンに特徴的な副作用として、しびれ などの神経毒性がある[119][120]。
ホルモン類
[編集]概要
[編集]ホルモン拮抗薬自体に抗癌作用は無いが、乳癌・子宮癌や前立腺癌などホルモンホルモン依存性の癌があるので、 それらのホルモンを遮断することで間接的に癌の増加を抑えることができる。
必ずしも遮断薬とは限らず、作動薬や調節薬の場合もあるが、傾向としては、癌へのホルモンを遮断する傾向によって癌の増殖を抑えるものである。
- ※ 傾向は遮断ということの出典: 『パートナー薬理学』、P513の「標的となるがん組織に対して阻害作用を持つホルモン類は」~。
- ※ 『はじめの一歩の薬理学』、P300 の下から5行目くらいに「ホルモン受容体の遮断薬、作動薬および調節薬」とある。遮断を先に紹介している。
- ※ 『NEW薬理学』、『標準薬理学』はホルモン類の各論の単元で、拮抗薬・阻害薬を先に紹介。
また「作動薬」と言っても、たとえば前立腺癌に卵胞ホルモン(作動薬である)を投与するなどの事であったりする。
- ※ けっして、癌の部位そのものの受容体の作動薬を投与するわけではない。
抗エストロゲン薬
[編集]乳癌はエストロゲン受容体(ER)を発現している場合が比較的に多い。
- ※ エストロゲンは女性ホルモンの一種である。大学入試には出ないが、エストロゲンが女性ホルモンだろ高校の資料集に昔から普通に書いてある。なお、他にも女性ホルモン(プロラクチン)があるので混同しないように。
したがって、そのような乳癌の場合なら、エストロゲンを阻害することで、乳癌も阻害できる。
タモキシフェンは、乳癌がエストロゲン受容体を発現している場合なら、タモキシフェンが乳癌に有効である。
発現していない種類の乳癌の場合、効果が保証されていないので、発現しているかどうかの確認が事前に必要である[121]。また、関連して、女性患者なら閉経しているかどうかの確認も必要である。
タモキシフェンとトレミファンは、抗エストロゲン薬であり、エストロゲン受容体を競合的に阻害する。
タモキシフェンは、乳腺では遮断作用を示すが、骨や子宮では刺激作用を示す[122]。 タモキシフェンのこの骨・子宮の刺激作用は副作用にもなり子宮内膜の過形成[123]という副作用もあるが、一方で骨の刺激があるので骨粗鬆症になりづらい長所[124]もある。
一方、新しく承認されたフルベストラントという薬は、エストロゲン作用を持たない、純粋なエストロゲン遮断薬であるとされる[125][126]。
- ※ 2016年版の『NEW薬理学』では「承認が待たれる」とある。 2019年版の「はじめの一歩の薬理学」では、特に承認については言及していないので、wiki側で「たぶん承認されたんだろう」と判断した。
アロマターゼ阻害薬
[編集]閉経後でも脂肪細胞よりアロマターゼによって、副腎由来のアンドロゲンが変換されてエストロゲンになる。 アロマターゼ阻害薬はアロマターゼによる変換を阻害することで、生体内のエストロゲン濃度を下げ、閉経後乳癌の増殖を抑制する。
抗アンドロゲン薬
[編集]フルタミドとビカルタミドが、アンドロゲン受容体遮断薬であり、非ステロイド性[127]であり(つまり、ステロイド骨格をもたない[128])、前立腺癌の治療に用いられている。
黄体ホルモン薬[129]のクロルマジノン(クロルマジノン酢酸エステル[130])は、精巣でのテストステロンの合成を阻害したり[131]、前立腺へのテストステロンの取り込みを阻害する[132]。
モノクローナル抗体
[編集]受容体型チロシンキナーゼ
[編集]下記の HER2 と EGFR は受容体型チロシンキナーゼでもある[133]。
なおHER2はヒト上皮増殖因子受容体(human epidermal factor receptor 2)の略称。
EGFRは上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor )の略称。
抗HER2抗体
[編集]乳癌患者の25%で、HER2の過剰発現が見られる。 トラスツズマブやベルツズマブは抗HER2抗体であり、それぞれに抗癌性の治療薬として使われる。
トラスツズマブは、HER2陽性の乳癌や転移性乳癌の治療に用いられている。
なお、HER2はチロシンキナーゼ内蔵型受容体でもある。 「チロシンキナーゼ内蔵型受容体」とは細胞質の中にチロシンキナーゼを内蔵している種類の受容体のことである[134]。
トラスツズマブ エムタンシンは、微小管阻害薬のエムタンシンとトラスツズマブを結合させた薬である。
抗EGFR抗体
[編集]パニツムマブとセツキシマブがある。パニツムマブはヒト型抗体である。セツキシマブはキメラ型抗体である。
大腸癌に使われる場合が多い[135]。 転移・再発大腸癌にはパニツムマブとセツキシマブが使われる[136]。 パニツムマブとセツキシマブは直腸結腸癌の標準治療薬である[137]。
抗VEGF抗体
[編集]VEGFとは、血管上皮細胞増殖因子のことであり、血管新生を誘導する[138]。
癌細胞は、血管新生が盛んである。なので抗VEGF抗体は癌の生存に必要な血管を阻害するので[139]、抗癌作用がある。
ベバシズマブなどの抗VEGF抗体の抗癌性治療薬がある。
各種の癌に有効であると考えられている。
- マルチキナーゼ阻害薬
スニチニブは、VFGF受容体の阻害作用に加えて、KIT[140][141]やPDGFR[142](PDGF受容体[143])など他のキナーゼ受容体も阻害するのでマルチキナーゼ阻害薬[144]に分類される。
スニチニブ、サラフェニブがマルチキナーゼ阻害薬である[145][146][147]。
CD表面抗原
[編集]抗CD20抗体
[編集]リツキシマブは、ヒトB細胞の表面抗原であるCD20のキメラ抗体である。リツキシマブはリンパ腫に用いられ[148]、CD20陽性の非ホジキンリンパ腫に用いられる[149][150]。
オファツムマブは、完全ヒトモノクローナル抗体であり、リツキシマブとは異なる結合部位に結合する[151][152]。
- ※ 「結合部位」に「結合」する、という言い回しは、「二重言葉だ~、国語力が低い~~」とか知ったかぶり自称・文系人にツッコマれそうだが、『標準薬理学』にそういう表現が書いてある。文系ポエマーにしか通用しない二重言葉禁止ルールは無視しよう。市販の「文章法」「説明テクニック」等の本を読むと「二重言葉を避ける」などのテクニックが書いてある場合もあるが、上記の「結合部位」のように、一部の文系ポエマーにしか普及してないローカルルールなので、理工系では相手しなくていいし、その自称「文章法」説明本も文系ポエマーむけの文章テクニックなので、理系はあまりその本は読まなくていい。
イブリツモマブ・チウキセタンは、抗CD20抗体に放射性同位元素イットリウム90(元素記号 90Y )を結合させたもので、
90Yから出る放射線で癌細胞を攻撃する。癌細胞に結合できるので[153]、効果的に癌細胞を至近距離で放射線攻撃できる。「放射線免疫療法」の一例である[154][155]。B細胞性リンパ腫の治療薬として用いられている[156]。
その他の抗CD抗体
[編集]- 抗CD33抗体
CD33は骨髄単球性前駆体細胞の表面抗原である[157]。急性骨髄白血病ではCD33が発現する[158]。したがって、白血病(CD33抗原陽性の場合の急性骨髄性白血病)の治療薬として、下記のゲムツズマブ オソガマイシンが使われる[159][160][161]。
ゲムツズマブ オソガマイシンはCD33に対するモノクローナル抗体(ゲムツズマブ)に、抗癌性の抗生物質 カリケアマイシンを結合させたものである。
これは抗原CD33と結合したあと、細胞内に取り込まれるため、選択的に効率的に抗癌薬を導入できる[162]。
- 抗CD38抗体
ダラツムマブ
- 抗CD80/88抗体
後述の「免疫チェックポイント阻害薬」で説明。イピリムマブが、「免疫チェックポイント分子」 CTLA-4とそのリガンド CD80およびCD88の結合を阻害する[163]。
なお、けっしてすべての「免疫チェックポイント阻害薬」がCD80/CD88抗体なのではなく、あくまでイビリムマブがそうなだけである。
BCR-ABL 融合タンパク質
[編集]- ※ 『標準薬理学』と『はじめの一歩の薬理学』が紹介。見出しタイトル『BCR-ABL 融合タンパク質』は『はじめの一歩の薬理学』準拠。理由は判官びいき。なお『標準薬理学』では『BCR-ABR 阻害作用をもつチロシンキナーゼ阻害薬』である。
多くの慢性骨髄性白血病(CML)の患者では、患者の血液細胞において、9番染色体と22番染色体のあいだで相互に転座が起きており、この異常な染色体をフィラデルフィア染色体という。
フィラデルフィア染色体は、9番染色体のABR遺伝子と、27番染色体のBCR遺伝子が融合したきメラ遺伝子(BCR-ABR遺伝子)を生じているものである。
イマチニブは、このBCR-ABR遺伝子のチロシンキナーゼ活性を阻害することで抗癌作用を示す薬物であり、CML(慢性骨髄性白血病)の治療薬として用いられている。
その他の抗癌薬
[編集]- ※ 抗癌作用のある薬物は上記のもの以外にも様々なものがあり、本wikiページでは、すべては解説しきれないだろう。
- 比較的に、学習しやすそうな初等的なものを挙げる。
- サリドマイド
- ※ 『パートナー薬理学』と『はじめの一歩の薬理学』にある。
サリドマイドはかつて睡眠薬として使われたが、催奇形性の副作用が問題になり、薬害として臨床での使用が禁止されていった。しかし21世紀にはいる頃から、抗癌作用のある事が明らかになり、医薬品としてサリドマイドは復帰した[164][165]。再発性または難治性の多発性骨髄腫に適応がある[166][167]。当然、副作用として催奇形性があるので、妊婦や妊娠の予定のある女性などには禁忌[168]。
- ※ はじめの一歩では「禁忌」という表現はしていない(「投与しない」という表現)。本wikiでは医学的な「禁忌」の厳密な定義ではどうか未確認だが、常識的に「禁忌」で通じると思うので、「禁忌」と表現した。
なお、サイドマイドの催奇形性が発見された当時、他の全ての薬も催奇形性が疑われたが、しかし実際にそれぞれの薬を試験をしたところ、当時では割合少ない種類の30種類の薬しか催奇形性は特定されず、他の数百もの種類の薬には催奇形性は発見されなかった[169]。
- ボルテゾミブ
- ※ 『NEW薬理学』と 『パートナー薬理学』[170]にある。
ボルテゾミブはプロテアーム阻害薬である。多発性骨髄腫に用いられる。
なおポルテゾミブは分子構造として、分子内のホウ素(元素記号: B)をもつ[171]。
- アスパラギナーゼ
- ※ 『パートナー薬理学』と『標準薬理学』にある。
腫瘍細胞には、アスパラギンの生成能力の低いものがあり場合が比較的に多く、そのような腫瘍細胞は他の正常細胞のつくったアスパラギンに依存している。
したがって、アスパラギンの供給を断絶することで、腫瘍を栄養欠乏の状態にできる。
L-アスパラギナーゼは、血中のアスパラギンを加水分解してアスパラギン酸とアンモニアとに分解する。なお、大腸菌タンパク質にL-アスパラギナーゼは由来する[172]。
生物学的な用語で説明するなら、アスパラギン要求性[173]の腫瘍細胞をL-アスパラギナーゼで栄養欠乏にできる>。
- 免疫チェックポイント阻害薬
ヒトの一般の細胞には、免疫の過剰な発現を逃れるために、細胞表面にはT細胞を抑制する分子が一般細胞の表面に幾つかある。そのような免疫抑制でよく知られたものは(高校生物でもならう) MHC であるが、MHCの他にも PD-L1 という分子が一般細胞に存在する。そして、T細胞上にて、そのPD-L1に対応する分子がPD-1である。
通常のT細胞のほか、抗原提示細胞などで、PD-1が発現している[174]。
つまり、PD-1 のリガンドが PD-L1 である。(なお、MHCは「TCR」分子のリガンドである。TCRはT細胞レセプターのことだが、しかしT細胞上で、MHC分子のリガンドとなる特定分子のことだけを「TCR」と言う。)
本来、PD-L1は免疫系の過剰な暴走を防ぐためのものである。だが、しかし癌細胞や悪性黒色腫[175]などでもPD-L1が発現してしまっている場合もあり[176]、癌が免疫を逃れるのに悪用されてしまっている。
そういった経緯から、近年、PD-1やPD-L1に対するモノクローナル抗体が、ガン治療薬として注目されている。
PD-1とPD-L1のほか、CTLA-4の抗体が癌治療薬に用いられている。なお、CTLA-4は樹状細胞などの表面にある CD80/86 に結合する[177]。
このように、癌治療に用いられている、免疫抑制分子を阻害するための抗体のことを、一部の薬学者などは「免疫チェックポイント阻害剤」と呼んでいる。
- ※ 制御性T細胞 Treg とは異なる。なお、制御性T細胞にも PD-1 は発現している[178]と考えられている。
また、PD-1やPD-L1やCTLA-4などは「免疫チェックポイント分子」[179]または「免疫チェックポイントタンパク質」[180]などと呼ばれている。
免疫チェックポイント分子は一般的に、T細胞に対してブレーキ的に抑制に働く[181]。なので、免疫チェックポイント阻害薬によってブレーキが無くなるので、T細胞は活性化する[182]。
日本で開発されたニボルマブは抗PD-1モノクローナル抗体である[183][184]。
なお、商品名「オプシーボ」の薬品がニボルマブである[185]。
アベルマブ[186][187]、アテゾリマブ[188]、デュルバブマブ[189]は、抗PD-L1抗体である。
脚注
[編集]- ^ 『パートナー薬理学』、P398
- ^ 『標準薬理学』、P586
- ^ 『標準薬理学』、P586
- ^ 『標準薬理学』、P470 および P586
- ^ 『NEW薬理学』、P447
- ^ 『パートナー薬理学』、P399
- ^ 『標準薬理学』、P586
- ^ 『NEW薬理学』、P447
- ^ 『パートナー薬理学』、P501
- ^ 『標準薬理学』、P468
- ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P293
- ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P293
- ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P295
- ^ 『パートナー薬理学』、P399
- ^ 『標準薬理学』、P586
- ^ 『NEW薬理学』、P447
- ^ 『パートナー薬理学』、P399
- ^ 『標準薬理学』、P586
- ^ 『NEW薬理学』、P447
- ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P295
- ^ 『標準薬理学』、P587
- ^ 『パートナー薬理学』、P501
- ^ 『標準薬理学』、P470
- ^ 『標準薬理学』、P470
- ^ 『標準薬理学』、P470
- ^ 『NEW薬理学』、P548
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- ^ 『パートナー薬理学』、P407 ※ 抗PD-L1抗体の説明文に「ブレーキ」あり
- ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P307
- ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P307
- ^ 『パートナー薬理学』、P406
- ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P307 脚注.
- ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P307
- ^ 『パートナー薬理学』、P406
- ^ 『パートナー薬理学』、P406
- ^ 『パートナー薬理学』、P406