薬理学/薬物治療に影響を与える因子

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薬物の連用[編集]

耐性など[編集]

※ 「耐性」(tolerance)の意味は、中学高校の保健体育で習った意味とほぼ同じ。

薬を長期間、(断続的でも)反復的に投与していると、次第に効きづらくなることがあり、これを耐性(tolerance[1][2][3])という。つまり、耐性前の今までと同じ効果を得るのに必要な投薬量が増えてしまう[4][5][6]

ある薬物に耐性ができると、ほかの薬物にも耐性が出来る場合があり、これを交叉耐性(cross tolerance[7][8])または交差耐性という。

たとえば、アルコールに耐性をもつ人は、エーテル麻酔薬[9]などにも耐性をもつことになり[10]、これが交叉耐性の一例である。

耐性を起こしやすい薬物としては、向精神薬や麻酔薬など、精神・神経系の薬が多いが、 しかしニトログリセリン[11]などの非精神系の薬物でも耐性が起きることも確認されており、 必ずしも薬物依存との関係があるとは限らない[12]


ある化学物質に耐性をもつと、類似の構造をもつ化学物質や[13]、作用機序の同じ薬物[14]なども、耐性を持つ場合が多い[15]


耐性の起きる原因は、薬物の種類などにより様々であるが、ひとつの機構として、薬物によっては長期間の投与で受容体が減少する場合があり、受容体の減少の結果、薬物感受性も低下する現象のことをダウンレギュレーション(downregulation[16])という[17][18]

※ "downregulation" と down と regulation をつなげてもいい。『標準薬理学』がその表記。

なお、短時間の反復投与によって、耐性のような、受容体の感受性の低下が起きる場合、タキフィラキシー(tachyphylaxis)という[19][20][21]

薬物の併用[編集]

薬物相互作用[編集]

1人の患者に複数の異なる薬物が投与されている場合、薬物が強めあったり、あるいは弱めあったり、あるいは別の副作用や有害作用が出てくる場合があり、このような現象のことを薬物相互作用(drug interaction)という。

※ 『NEW薬理学』改訂第6版(2016年2月10日 第6版第6刷発行、P588)が言うのは、約40年前から「薬物相互作用」という用語が用いられるようになったという。

基本的に、投与薬・服用薬の種類が多ければ多いほど、有害作用が表れやすい傾向があるので[22]、気をつける必要がある。


複数の薬物が組み合わさったとき、吸収・分布・代謝・排泄の過程のどれかに影響を与えると、その薬物の濃度が変わる事により、結果的に薬物の強さが変わるが、このような現象を動態学的相互作用(pharmacokinetic drug interaction[23], PKDI)という。

たとえば、キノロン系薬物(よく抗菌薬で使われる[24][25])は、金属とキレート化合物をつくり安定するので(水に溶けない)[26][27]、金属を含有する薬(制酸薬によくある[28][29])も患者に投与・服用されていると、キレート複合体が形成されるので、結果的に薬物の吸収が阻害される。 このため、上述のような抗菌薬と制酸剤は、充分な間隔をあけて投与する必要がある[30]。(ただし、その間隔がどの程度の時間か、具体的な数値は『標準薬理学』には書いていない。)

これとは別に、複数投与された薬物のうちの少なくともどちらか一方の効果が変わる場合を薬力学的相互作用(pharmacodynamic drug interaction[31], PDDI)といい、たとえばワルファリンとビタミンK製剤の投与によってワルファリンの抗凝固作用が現弱する現象がある[32][33]。(※ 生理学の関連事項: 生理学#血液

ほか、カフェインは、エルゴタミンの消化管吸収を促進する[34][35]

相加作用と相乗作用[編集]

※ 『標準薬理学』では「相加作用」と「相乗作用」を重視しておらず、紹介していない。

2つ以上の異なる薬を投与すると、薬効が増強したり、または減弱したりする場合がある[36]

1人の被験者に薬物を2つ投与したとき、合計の薬物の効力が、単独で別々に薬物を与えた場合の代数和[37]とほぼ同じ場合、相加作用(additive effect[38])という[39]

相加作用を大きく超える効果が表れる場合、つまり、別々に与えた場合の代数和を超える場合、相乗作用(synergism[40])という[41]

※ なお、高校数学で「相加平均」「相乗平均」などの用語を習ったと思うが、上述の薬理学用語とは まったく違う意味だし、英訳の単語も違うので、混同しないように。数学用語を紹介すると、まぎらわしいので、数学用語は紹介しないでおく。


薬物依存[編集]

いわゆる麻薬やアルコール、麻酔や鎮痛薬などには、その薬物を投与された人が、その薬物が欲しくなるという依存性がある。

依存性には、精神依存性と身体依存がある。

精神依存[42][43](psychological dependence[44])とは、不安からの逃避や、爽快感・多幸感などを求めて、その薬物が欲しくなる、という現象のこと。

※ 「精神的依存」 [45][46]という場合もある。後述の身体依存も同様、「身体的依存」という場合もある。

身体依存(physical dependence[47])とは、その薬物が投与されていないとの異常な状態になっている事で、 いわゆる「禁断症状」[48][49]、医学的には「退薬症状[50][51](withdrawal sympton[52])が出てきてしまう状態のこと。

たとえばモルヒネでは、悪寒や吐き気[53][54]、筋肉痛[55]などの退薬症状がある。

幻覚は?

モルヒネの退薬症状に、幻覚は無い[56][57]。幻覚の退薬症状がある薬物には、催眠薬に使われるバルビツール酸系薬やベンゾジアゼピンなど[58]

(覚せい剤にも指定されている)アンフェタミンも退薬症状に幻覚は無い[59]

※ よく、中学高校生むけの保健体育とかの視聴覚教材とかで、麻薬ダメ・ゼッタイの啓蒙ビデオとかで、
麻薬で幻覚を見る患者の事例の啓蒙ビデオとか見せられるが、
実際には、神経に作用する違法薬物だからって、必ずしも何でもかんでも幻覚を見るわけではない。幻覚を見るのは、催眠薬である。
※ 『禁断症状』が「筋肉痛」とかだと、中学生には深刻さが分かりづらいので、中学高校教育では仕方が無いが・・・。

コカイン、大麻、アンフェタミンなどの麻薬でも依存性がある。

違法麻薬でなくても、鎮痛薬のモルヒネにも依存性があり、モルヒネには精神的依存性および身体的依存性がある。

※ なお、モルヒネも法律上は「麻薬」に分類されており、管理方法がきびしく規定されている[60]

モルヒネは、依存性[61]および退薬症状が強い[62]


アルコールやモルヒネが、精神的依存性および身体的依存性がある。

なお、アルコール依存症は、かつては「アルコール中毒」とも呼んでいたが、近年は「アルコール依存症」と呼ぶようになっている[63]

※ 薬物依存について詳しくは、鎮痛薬などの単元で説明する。(予定。現在、未完成。)


なお、かつて身体的依存性と精神的依存性の両方のある状態を「嗜癖」(しへき)と言った。

※ 現代では「身体的依存」と「精神的依存」の概念で代用できるので、現代では「嗜癖」は ほぼ不要な概念かと。


依存性のある薬物だからといって、必ずしも身体依存があるとは限らず、たとえばアンフェタミン・コカイン・大麻は、精神依存はあるが、身体依存は無い[64]とされる。


※ 別単元の間借り[編集]

分子生物学的な話題[編集]

促進拡散とトランスポーター[編集]

※ 高校の「生物」科目で、能動輸送と受動輸送を習ったと思う。能動輸送とは、ナトリウムポンプなどのイオンポンプのこと。(薬理学では、プロトン(H+)ポンプなども習うので、総称して「イオンポンプ」と まとめる。

受動輸送では、単純に濃度勾配にしたがって、細胞の内外の濃度の濃いほうから薄いほうへと拡散していく従来理論の単純な拡散(単純拡散)のほかにも、 近年、細胞膜にあるトランスポーターと言われる生体分子によって、細胞内外での濃度勾配の高いほうから低いほうへの拡散だが、積極的に輸送を助ける機構が存在することで、従来の単純な拡散よりも高速に拡散していく機構が発見され、その様な現象を促進拡散という。

つまり、促進拡散は、受動輸送であるが、単純拡散よりも輸送が速い。

※ イオンポンプやイオンチャネルが細胞膜にあるのと同様、トランスポーターも細胞膜にある。細胞への薬物の取り込みの話題。

脚注[編集]

  1. ^ 『NEW薬理学』、改訂第6版、P15
  2. ^ 『標準薬理学』、第7版、P30
  3. ^ 『パートナー薬理学』
  4. ^ 『シンプル薬理学』
  5. ^ 『はじめの一歩の薬理学』
  6. ^ 『パートナー薬理学』
  7. ^ 『NEW薬理学』、P15
  8. ^ 『パートナー薬理学』、改訂第3版、P30
  9. ^ 『シンプル薬理学』、P13
  10. ^ 『パートナー薬理学』、改訂第3版、P30
  11. ^ 『パートナー薬理学』、改訂第3版、P30
  12. ^ 『パートナー薬理学』、改訂第3版、P30
  13. ^ 『パートナー薬理学』
  14. ^ 『NEW薬理学』
  15. ^ 『パートナー薬理学』
  16. ^ 『標準薬理学』、P30
  17. ^ 『標準薬理学』、P30
  18. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P24
  19. ^ 『NEW薬理学』、P14
  20. ^ 『標準薬理学』、P30
  21. ^ 『パートナー薬理学』、改訂第3版、P30
  22. ^ 『標準薬理学』、P42
  23. ^ 『NEW薬理学』、P588
  24. ^ 『標準薬理学』、P43
  25. ^ 『シンプル薬理学』、P26
  26. ^ 『標準薬理学』、P43
  27. ^ 『シンプル薬理学』、P26
  28. ^ 『標準薬理学』、P43
  29. ^ 『標準薬理学』、P26
  30. ^ 『標準薬理学』、P43
  31. ^ 『NEW薬理学』、P588
  32. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P29、脚注の「※20」
  33. ^ 『標準薬理学』、P45、
  34. ^ 『NEW薬理学』、P589
  35. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P29、脚注の「※23」
  36. ^ 『NEW薬理学』、P14
  37. ^ 『パートナー薬理学』、P28
  38. ^ 『NEW薬理学』、P14
  39. ^ 『シンプル薬理学』、P16
  40. ^ 『NEW薬理学』、P14
  41. ^ 『シンプル薬理学』、P16
  42. ^ 『標準薬理学』
  43. ^ 『NEW薬理学』
  44. ^ 『NEW薬理学』
  45. ^ 『パートナー薬理学』
  46. ^ 『シンプル薬理学』
  47. ^ 『NEW薬理学』
  48. ^ 『パートナー薬理学』
  49. ^ 『シンプル薬理学』
  50. ^ 『パートナー薬理学』
  51. ^ 『NEW薬理学』
  52. ^ 『NEW薬理学』
  53. ^ 『はじめの一歩の薬理学』
  54. ^ 『標準薬理学』、P375
  55. ^ 『NEW薬理学』、P375
  56. ^ 『標準薬理学』、P353、表16-14
  57. ^ 『パートナー薬理学』、改訂第3版、P116
  58. ^ 『パートナー薬理学』、改訂第3版、P116
  59. ^ 『パートナー薬理学』、改訂第3版、P116
  60. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P107
  61. ^ 『標準薬理学』、P353
  62. ^ 『標準薬理学』、P353
  63. ^ 『シンプル薬理学』
  64. ^ 『パートナー薬理学』、P30