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薬理学/血液凝固に関する薬

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

止血薬

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概要

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小さなケガなどをして傷口ができても、通常は時間が経てば自然に傷口が凝固する。

しかし、一部の病気では、この血液凝固などによる止血が行われない。

止血薬とは、血液凝固をさせる事で、止血を行わせる薬である。


※ なので、大怪我などで傷口が大きく開いてる箇所が、けっして塞がれるわけではない。、

つまり、止血薬とは、出血性疾患の治療薬のことである。また、対象にしている血管も、毛細血管のような外科医の手では縫合不可能な微小な血管である。

ただし、疾患でなくても、手術中・手術後の止血のため[1]や、大量出血などで止血を急ぐ場合[2]などにも、(傷口を縫合した上で、だろうが)止血薬を投与する[3][4]

各論

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血管強化薬

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各種の出血や紫斑病などの有効な止血薬で、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムという止血薬がある[5][6]

しかし機序は不明[7]

血液凝固

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ビタミンK製剤

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生理的な血液凝固因子にはビタミンKが必要である。

血液凝固因子の第2、第7第9、第10因子では、ビタミンKが必要である。(※ 「肉納豆」という語呂合わせで覚えよう。)

したがって、なんらかの理由でビタミンKが不足する疾患の場合、ビタミンK製剤で治療できる。

具体的には、ビタミンK1製剤のフィトナジオン、ビタミンK2製剤のメナテトレノンがある。


このほか、プロトロンビンの生成にもビタミンKが必要である。

なので、低プロトロンビン血症の患者にも、上記ビタミンK製剤のフィトナジオンやメナテトレノンを投与する。

ビタミンKによる止血効果の発現は遅く[8][9]、、少なくとも数時間以上は経過しないと止血しないので[10][11]、緊急時には別の止血薬を使用する[12]


トロンビン製剤

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ビタミンKではなくトロンビンを直接に投与する事でも、止血できる。 粉末製剤になっていて傷口に直接に撒布できる製剤もある[13]

手術中・手術後の止血に使うのはトロンビン製剤である[14]

※ 血友病との関連が、『標準薬理学』、『NEW薬理学』、『パートナー薬理学』を見ても、全然書いてないので、詳細は更なる専門書を確認のこと。


その他の止血薬

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局所止血薬

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※ 『パートナー薬理学』でしか紹介していない。

局所に止血なら、アルギン酸ナトリウムをガーゼなどとともに使用して止血する方法もある。

抗血栓薬

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抗凝固薬

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概要

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抗凝固薬は、止血薬と反対の働きをする薬である。

凝固した血液が血管を閉塞・狭窄させて障害の表れる症状のことを血栓症という。

血栓症や塞栓症の患者に、抗凝固薬は投与される。


心筋梗塞や脳梗塞も、それらの関連部位での血管の閉塞・狭窄のことである。

各論

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ワルファリン
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クマリン系化合物[15][16]であり、ワルファリンカリウムである。ビタミンK類似の構造を有するので、肝臓においてビタミンKと拮抗することにより、血液凝固を抑制する。ウシが腐敗したスイートクローバーを食べると出血傾向になるのも、クマリン系化合物による出血傾向である[17]

ワルファリンは経口投与が可能。

しかし、効果が発現するまで、3~4日[18]ほどの日数が掛かる。

半減期や作用時間が長いため注意が必要なので、プロトロンビン時間をモニター[19][20]する。


納豆は腸内でビタミKを産生する可能性があるので、ワルファリン摂取中は納豆を摂取させない。(納豆の他、クロレラ、ブロッコリー[21]もビタミンK豊富なので注意する。)

なお、自然の健常者の体内ではビタミンKエポキシド還元酵素が働いているが、ワルファリンはこのビタミンKエポキシド還元酵素を妨害する。

当然、副作用として出血傾向がある。 ワルファリンの副作用の出血には、ビタミンKを投与する。

また、胎児に悪影響があるので、妊婦には禁忌。妊婦に抗凝固薬が必要な場合は、『カッツング薬理学』が言うには、ワルファリンではなく、ヘパリンを投与するのが良いとされている[22]。 (『はじめの一歩の薬理学』も、妊婦の凝固薬としてはヘパリンを勧めている[23]。)

ワルファリンの薬効には人種差が大きく、VKORC1遺伝子およびCYP2C9の遺伝子の影響で、大きな人種差・個人差がある[24]

※ 余談だが、2019年型新型コロナのアジア圏で被害が比較的に小さいという『ファクターX』の一説が、このワルファリン関連のVKORC1遺伝子の人種差によるという仮説。
ヘパリン
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硫酸化ムコ多糖類。DIC(播種性血管内凝固症候群)の治療薬[25][26]

その他、各種の血栓および塞栓の治療および予防、血液透析の体外循環装置の使用時の血液凝固の防止、などの目的で使われる[27][28]

ワルファリンは胎児への催奇形性のため妊婦には避けられる。しかしヘパリンは妊婦にも使用可能だとされている[29][30]


「低分子ヘパリン」と言った場合、分子量は数千ていど。

単に「ヘパリン」と言った場合、分子量は数万ていど。


グルコサミンとグルコロン酸が交互に結合した構造であり、グルコサミンのほうに硫酸基がそれぞれ結合している。


低分子ヘパリンには、ダルテパリン、パルナパリン、ダナパロイド、などがある。


通常のヘパリンも低分子ヘパリンも、ヘパリン類は経口吸収されないので[31][32]、点滴静注[33]になる。


抗トロンビン薬
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アルガトロバンが、特異的な抗トロンビン薬である。AT III 非依存。慢性動脈閉塞症の治療薬で、静注で用いられる。

血栓溶解薬

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ウロキナーゼ

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ウロキナーゼは、ヒト尿中から得られる。

ウロキナーゼはフィブリンに対する親和性が低いので、血栓ではなく血漿中で作用する。

ウロキナーゼにより、プラスミノーゲンがプラスミンに変換される。そして、プラスミンが血漿中で血栓を溶解する[34]

プラスミンは(体内の)α2プラスミンインヒビター(α2-PI)により不活性化されるので、大量のウロキナーゼ投与[35]が必要である。

副作用として、全身的な出血傾向。


組織型プラスミノーゲン活性化因子

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遺伝子組み換え t-PA 製剤のアルテプラーゼモンテプラーゼなどがある。

フィブリンとの親和性が高いので、フィブリン上で複合体を形成する。そのため、血栓上で[36]プラスミン[37]を生成するので、血栓(主成分がフィブリン)を効率よく溶解する。

また、副作用の出血は、ウロキナーゼと比べれば(組織型プラスミノーゲン活性化因子は)比較的に少ない。 このことの理解としては、

  • α2-PIの影響を受けないことが出血傾向の少なさの理由である[38]
  • 体内で流れている正常な血流中ではフィブリンが少ないため、フィブリンに作用する本薬品は副作用が少ないのだろう[39][40]

と考えられている。


抗血小板薬

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COX阻害薬

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エイコサノイドのひとつであるトロンポキサンA2(TXA2)も血液に影響を与える。

アスピリンなどのCOX阻害薬がトロンピキサンA2合成を阻害することで 血液凝集を抑制するので、血栓・塞栓の予防の目的でアスピリンが使われる場合もある。

しかし、COX阻害によりプロスタグランジン生成も阻害され、そのプロスタグランジン阻害により血栓が出来やすくなるというジレンマもあるので(「アスピリンジレンマ[41][42]という)、注意が必要。

アスピリンの用量が高いほど、アスピリンジレンマにより逆効果になるので、用量に注意が必要[43][44]


直接的なTXA2阻害薬

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オザグレル

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オザグレル(オザグレル酸ナトリウム[45])は、トロポキンサンA2合成酵素を選択的に阻害することによりTXA2を阻害し、最終的に血小板を活性化を抑制[46]する。つまり、オザグレルは最終的に抗血小板作用を示す[47]

なお、他の病気の治療薬として、オザグレルなどのTXA2阻害薬は抗アレルギー薬でもあり、喘息の治療に使われる場合もある[48][49]

イコサペント酸エチル

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※ 未記述。『パ-トナー薬理学』と『はじめの一歩の薬理学』にあるけど、情報不足なので。


ベラプロスト

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ベラプロストは、PGI2誘導体である。

※ 以降、情報不足のため本wikiでは未記述。詳細は『パ-トナー薬理学』にあるので必要なら確認せよ。

クロピドグレル

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クロピドグレルが血小板[50]のP2Y12受容体を不可逆的に遮断することで、・・・(※ 以下、未記述.)

※ 以降、情報不足のため本wikiでは未記述。詳細は『パ-トナー薬理学』にあるので必要なら確認せよ。


セロトニン受容体遮断薬

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サルボグレラートは、セロトニン5-HT2受容体を遮断し、セロトニンによる血小板活性化を抑制および血管収縮を抑制する[51][52][53]


ホスオジエステラーゼ阻害薬

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予備知識として、PDE3(ホスホジエステラーゼ3)という酵素は、cAMPを分解する酵素である。

cAMPが増えると、血小板凝集が抑制される[54]


シロスタゾールが、PDE3を阻害する[55]


脚注

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  1. ^ 『パートナー薬理学』、P261
  2. ^ 『標準薬理学』、P514
  3. ^ 『パートナー薬理学』、P261
  4. ^ 『標準薬理学』、P514
  5. ^ 『NEW薬理学』、P415
  6. ^ 『パートナー薬理学』、P261
  7. ^ 『NEW薬理学』、P415
  8. ^ 『パートナー薬理学』、P261
  9. ^ 『NEW薬理学』、P416
  10. ^ 『パートナー薬理学』、P261
  11. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P212
  12. ^ 『NEW薬理学』、P416
  13. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P212
  14. ^ 『パートナー薬理学』、P262
  15. ^ 『パートナー薬理学』、P264
  16. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P216
  17. ^ 『NEW薬理学』、P418
  18. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P216
  19. ^ 『標準薬理学』、P513
  20. ^ 『NEW薬理学』、P419
  21. ^ 『パートナー薬理学』、P265
  22. ^ Bertram G.Katzung 著、柳沢輝行ほか訳『カッツング薬理学 原書第10版』、丸善株式会社、平成21年3月25日 発行、P1069
  23. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P.216
  24. ^ 『NEW薬理学』、P419
  25. ^ 『NEW薬理学』、P417
  26. ^ 『パートナー薬理学』、P267
  27. ^ 『NEW薬理学』、P417
  28. ^ 『パートナー薬理学』、P267
  29. ^ Bertram G.Katzung 著、柳沢輝行ほか訳『カッツング薬理学 原書第10版』、丸善株式会社、平成21年3月25日 発行、P1069
  30. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P.216
  31. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P216
  32. ^ 『NEW薬理学』、P417
  33. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P216
  34. ^ 『標準薬理学』、P273
  35. ^ 『標準薬理学』、P273
  36. ^ 『パートナー薬理学』、P276
  37. ^ 『NEW薬理学』、P420
  38. ^ 『標準薬理学』、P274
  39. ^ 『パートナー薬理学』、P277
  40. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P217
  41. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P213
  42. ^ 『パートナー薬理学』、P272
  43. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P213
  44. ^ 『パートナー薬理学』、P272
  45. ^ 『パートナー薬理学』、P273
  46. ^ 『標準薬理学』、P510
  47. ^ 『パートナー薬理学』、P274
  48. ^ 『NEW薬理学』、P451
  49. ^ 『標準薬理学』、P594
  50. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P215
  51. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P215
  52. ^ 『NEW薬理学』、P130
  53. ^ 『パートナー薬理学』、P275
  54. ^ 『パートナー薬理学』、P274
  55. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P215