多項式の微分については、前項で学びました。例えば

となります。
ここでは y=(x+5)2 のような関数を考えます。これは次のように展開してから、微分することができます。


この場合は、 2 乗なので展開もそれほど苦ではありませんが、これが、10 乗などになってくると、とても大変になってきます。
そこで、展開しなくても微分を計算することができる合成関数の微分と呼ばれる方法を学びます。上の関数は u=(x+5) と置き換えてみると次のような表現で書く事ができます。


つまり、下の式を上の式に代入すると

となるようになっています。
合成関数の微分は、このように、y が u だけで表される関数として書かれ、 u が x だけで表される関数として書かれるような場合に使うことができ、

このようになります。
以上のような、複数の関数が合成された合成関数を微分するときに、その導関数が、それぞれの導関数の積で与えられるという関係式のことを、連鎖律(れんさりつ、英: chain rule)といいます。
この公式を使って、先程の関数の微分を計算してみましょう。


したがって

となり、展開してから微分した場合と一致していることがわかります。
合成関数の微分を、もう少し複雑な式で使ってみます。例えば

の式において


としてみると、


となりますから、合成関数の微分によればこの関数の微分は

となります。
さらに複雑な関数の微分について学びます。

この関数の微分を計算するために展開して、多項式の微分を行うこともできますが、計算が大変になります。そこでこの関数をf(x) = (x2+5)5とg(x) = (x3 + 2)3の積と見て次の公式を使うことにより、遙かに簡単に計算することができます。
積の微分の公式
![{\displaystyle {\frac {d}{dx}}\left[f(x)\cdot g(x)\right]=f'(x)\cdot g(x)+f(x)\cdot g'(x)\,\!}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/08bf646a047651d8fec8ee1afbde97ce313003c2)
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以下、この公式を導関数の定義に戻って証明します。
![{\displaystyle {\frac {d}{dx}}\left[f(x)\cdot g(x)\right]=\lim _{h\to 0}{\frac {f(x+h)\cdot g(x+h)-f(x)\cdot g(x)}{h}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/ff69cab2f85703d3a8c2f18b47ab985ac81a10cf)
ここで、相殺する項を付け加えるという使い古された手法を用います。
![{\displaystyle {\frac {d}{dx}}\left[f(x)\cdot g(x)\right]=\lim _{h\to 0}{\frac {f(x+h)\cdot g(x+h)\mathbf {-f(x)\cdot g(x+h)+f(x)\cdot g(x+h)} -f(x)\cdot g(x)}{h}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/2979141d2198018b2cbab50bd8396dadb68b0930)
加えた項は、差し引きして 0 になることに注意してください。
右辺を二つの分数に分けます。
![{\displaystyle {\frac {d}{dx}}\left[f(x)\cdot g(x)\right]=\lim _{h\to 0}\left[{\frac {f(x+h)\cdot g(x+h)-f(x)\cdot g(x+h)}{h}}+{\frac {f(x)\cdot g(x+h)-f(x)\cdot g(x)}{h}}\right]}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/256a875368c91a03f27e5c26377e37f2efa8a4a8)
それぞれの分子は、共通の因子でくくれます。
![{\displaystyle {\frac {d}{dx}}\left[f(x)\cdot g(x)\right]=\lim _{h\to 0}\left[g(x+h){\frac {f(x+h)-f(x)}{h}}+f(x){\frac {g(x+h)-g(x)}{h}}\right]}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/adb97e27218f5a36ddb0c4804bc5006a86800c04)
ここで極限を取ってみると
![{\displaystyle {\frac {d}{dx}}\left[f(x)\cdot g(x)\right]=f'(x)\cdot g(x)+f(x)\cdot g'(x)}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/417098b499908001c875ffefe39bf0ebb303b2bc)
となり公式が示せました。
3つの関数の積であれば
![{\displaystyle {\frac {d}{dx}}[fgh]=f(x)g(x)h'(x)+f(x)g'(x)h(x)+f'(x)g(x)h(x)}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/c6d2953faab87f1263cfe823e1cd7e92ccb6619e)
となります。いくつの関数の積であっても、2つの時の積の微分を繰り返し使う事により、同じような公式を導くことができます。
次は、商の微分を考えます。関数の商は

と見る事ができ、この右辺は、関数同士の積と見る事ができますので、商の微分は、積の微分の特別な場合と見る事ができます。
積の微分と合成関数の微分とべき乗関数の微分を使って、商の微分を計算してみます。

ここで、負の次数の部分を再び分数の表現に戻します。

これで、商の微分と呼ばれる公式が得られました。
商の微分の公式
![{\displaystyle {\frac {d}{dx}}\left[{f(x) \over g(x)}\right]={\frac {f'(x)\cdot g(x)-f(x)\cdot g'(x)}{g(x)^{2}}}\,\!}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/7494b46f1dc327994873ccb944005df5991b6c05)
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覚えるのは少し大変かもしれません。分子が引き算になることに注意しましょう。
注意: 足し算や引き算、或いは定数倍の時は、微分と計算順序を入れ替えることができました。足し算を先に行い微分しても、微分してから足し算をしても同じでした。しかし、積や商の時は微分と計算順序を入れ替えることはできないことに注意してください。
指数関数 ex の微分を求めます。

指数法則 ab + c = ab acを用いることにより:

ここで、 p = eh−1 とおくと

となります。ここで、 lnは自然対数の底 eを底とした対数関数であり、自然対数(natural logarithm)といいます。 対数記号から底を省略したlogという記号を用いることもあります。
この式の逆数を考えると

自然対数の底 eの定義から

となり、h → 0 の時 p → 0 ですから

となります。
即ち、次の公式が得られました。
指数関数の微分

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つまり、指数関数 ex は 微分しても変わらない関数
です。これはとても重要な性質です。
指数関数でも、底が e ではなく、 a > 0 だったらどうなるでしょうか?つまり

を計算します。対数関数を用いて eln(c) = c となることに注意すると

という形になります。あとは、合成関数の微分によって、
![{\displaystyle {\frac {d}{dx}}e^{x\cdot \ln(a)}=\left[{\frac {d}{dx}}x\cdot \ln(a)\right]e^{x\cdot \ln(a)}=\ln(a)a^{x}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/907020d4ee3dbeeff9c7472d9eb15691d00598ce)
となります。したがって、次の公式が得られました。
指数関数の微分

|
a = e としたときに、 先程の公式と同じになることに注意してください。
対数関数の微分を計算します。指数関数と密接な関係にあるので、指数関数の微分を用いるととても容易に計算できます。
まず、次のように 変数 y を定義します。

右辺の lnが 対数関数です。ln を用いる時は、底が e の対数関数、即ち、自然対数関数です。底が e で無いときなどは、log などを用いますので、特に、底が e である事を明示したい場合などは、 ln が使われます。 log という表記に慣れている場合は log だと思って頂いて構いません。日本の学校では、 底が e でも log を用いて教えることが多いです。
y の x による微分を求めるために次のような変形を行います。

そして、 両辺を x で微分します。 特に左辺には x がありませんが、 y は x の関数として定義されていることを考えて、合成関数の微分を使います。

x = ey という関係を再び使うと

になりますから、次の公式が得られます。
自然対数関数の微分

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底が、e で無い場合の対数関数は、底の変換公式を用いる事によって

となり、1 / ln(b) は定数ですから、微分の外に出す事ができ

となります。したがって次の公式が得られます。
対数関数の微分

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サイン、コサイン、タンジェント、セカント、コセカントの微分を計算します。これらの関数は、数学だけでなく、物理や工学などの応用分野でも非常によくみかけます。極座標の表現や、複素平面上の線積分など、いろいろな場面でこれらの関数に出会います。
これらの関数の微分の計算の仕方はいろいろあります。三角関数の元の定義に戻って計算することもできますが、それよりも簡単な方法として、ここではオイラーの公式:
オイラーの公式

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を用いた微分を紹介します。
ここで
です。
この公式を用いると、サインとコサインは次のように表されることになります。


指数関数の微分を用いれば


となりますから、次の結果が得られます。
サインとコサインの微分


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これを用いて、タンジェントの微分が計算できます。

という関係式に、商の微分を用いれば

となります。また
であることを思い出せば
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という表現も可能です。
タンジェントの微分

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どちらの表現も重要でよく出てきます。
セカントの微分は合成関数の微分から求めてみます。(もちろん商の微分を使ってもかまいません。)
定義から

ですから、


これらの式の微分は、それぞれ


したがって

となり、次の公式を得ます。
セカントの微分

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コセカントの場合も同じです。

コセカントの微分

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コタンジェントの場合は、タンジェントの微分と同じ方法を用います。
コタンジェントの微分

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逆三角関数のアークサイン、アークコサイン、アークタンジェント の微分を計算します。これらは sin−1、cos−1、tan−1のようにも表記されますが 逆数を表す時の −1 乗などと紛らわしい事もあり arcsin、arccos、arctan のような表記がされることも多くなっています。三角関数の逆関数なので、三角関数の値が分かっているときに、角度を求める関数です。使うときには定義域や値域に気を付けないといけません。
まず最初に、 arcsin の微分から計算します。
ここでは、第一象限の場合のみ考えます。すなわち

の時に限ります。他の象限にある場合なども符号に気を付けて似たような計算をしてください。

まず最初に、既に知っている関数の微分を使うために

とします。そして両辺を x で微分します。右辺は、合成関数の微分です。

dy / dx について解いてみると


を使うと次の公式が得られます。
arcsinの微分

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同じような方法で、arccos や arctan の微分も計算できます。
arccos の微分

|
arctan の微分

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これまでに学んだ、微分の法則を用いて次の微分を計算してください。
![{\displaystyle D[(x^{3}+5)^{10}]}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/029d82d29ead36bdc6f82248ae17dfdb49638416)
![{\displaystyle D[x^{3}+3x]}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/83b60eb04a5a1873811488205a2df07e69dfe00e)
![{\displaystyle D[(x+4)\cdot (x+2)\cdot (x-3)]}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/30eca5b3fd34c70edb0792576bb63b2ba1457ca0)
![{\displaystyle D[{\frac {x+1}{3x^{2}}}]}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/84759d720b8329a08ec81944b014a83aed790a13)
![{\displaystyle D[3\cdot x^{3}]}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/70ccd393cacc0c0828c703d39ff39c26ced9979e)
![{\displaystyle D[2^{x}]}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/5faf716795e94504bee5956a15dc7c437988079a)
![{\displaystyle D[e^{x^{2}}]}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/5e0def5b819380c059dc8dd72f9301dea7c04b70)
![{\displaystyle D[e^{2^{x}}]}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/7d99f918f77bbb24ff3b6976118ae67cdd6f0e47)
![{\displaystyle D[x^{x}]}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/8cbca8dde44e229d4e0afaa9da749e4b17e0d39d)








![{\displaystyle [\ln(x)+1]\cdot x^{x}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/91bc39847ade26ee870185a48798b84612951955)
多項式の微分は項を分けて単項式にして計算しました。そして、商の微分を用いて 有理関数の微分を行いました。
そして、sin x, cos x, tan x, ex, ln x などのような他の関数の微分が必要になることもあるでしょう。先程は、三角関数の微分でオイラーの公式などの便利な公式を持ってきて計算をしましたが、
導関数の定義
,
を用いて、これらの微分を求められないでしょうか?
sin x に関しては、次のような証明もできます。
|
因みに、

は、極限を参照してください。
や
の微分を 同じように求めてみてください。
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