軍事入門/戦略的な思考法

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本章では戦略学の内容に触れ、以後の学習の導入とする。

戦略とは何か[編集]

戦略を学問的な立場から定義することは簡単なことではない。これは戦略の概念が歴史的にも新しく、またしばしば学者や論者たちによって不確かな定義のまま扱われ、さらに戦略の概念そのものの複雑であるからに他ならない。しかしながら、一般的には戦略の理解の一つとして、クラウゼヴィッツの「戦略とは戦争目的に沿って戦闘を運用する方策」だという定義が用いられることがある。

では「戦争目的」とは何か? クラウゼヴィッツの考えはともかく、現代の地政学・安全保障論などでは「戦争目的」とは一般に、その戦争の勝利を通して実現したい政治目標のことである。たとえば、第二次世界大戦におけるアメリカ合衆国の対日参戦の「戦争目的」なら、「日本軍を中国から撤退させる事」、究極的には「日本の中国支配を終わらせることにより、アメリカ企業が中国市場を席巻しやすい世界態勢を構築すること」などが当時のアメリカの「戦争目的」と呼ぶべきものである[1]。なお、この「戦争目的」の定義に従うと、結果的に中国は共産主義化し、そのためにアメリカ企業は中国市場から締め出されたので、アメリカは日本との戦争には勝ったにもかかわらず、アメリカは中国市場の獲得という戦争目的を達成できなかった事になる(この事は、A.ウェデマイヤー『第二次世界大戦に勝者なし』(妹尾作田男 訳、講談社、1997年)に記されている[2])。


さて、「戦略」の定義の話に戻る。戦術との関係の上で定義が論じる場合ではまた、「戦略」について異なる定義も示されている。旧日本軍の『陸大兵語の解』によると、戦略とは「作戦を計画してその実施を統裁し、兵団行動の方向、目的、時期、場所等の関係を定め、これらを適切に操縦し、もって会戦の態勢を優勝に導き、かつ会戦の成果を拡充する方策である」とされており、戦闘での勝利のための戦闘実行の方術である戦術と対比される。ただし以上の戦略の概念は軍事目的の戦略に限定するものである。現代の戦略は国家戦略や技術戦略などに拡大して複雑化している。

戦略的思考の着眼[編集]

戦略を考える着眼点について、戦略と戦術の違いをいくつか明らかにした上で示したい。まず戦略は戦術とは異なって非常に全体的な視野を求める。つまり戦術的に重要な特定地域の状況は戦略にとって部分に過ぎず、戦争全体の状況と展望こそが重要なのだ。そして戦略的な思考で極めて重要な点は目的を明確化し、そのためのあらゆる行動を一貫させることである。これは思考における前提の正確さと一貫的な行動を維持することによってのみ達成されることであり、不確実性や偶然性が大きく媒介する戦争では決して容易なことではない。また戦略においては状況の進行が緩やかであり、かつその結果は戦争全体にとって決定的となるため、しばしば「戦術の失敗は戦略で補うことが可能だが、戦略の失敗は戦術で補うことはできない」といわれる。それゆえに戦略は重要なのであり、どのような戦闘での勝利も戦略なくては戦争の勝利に結びつかない。

演習問題[編集]

  1. 戦略の定義について述べよ。
  2. 戦略と戦術の差異について説明せよ。
  1. ^ 倉山満『真実の日米開戦 隠蔽された近衛文麿の戦争責任』、宝島社、2017年12月18日 第1刷発行、214ページ
  2. ^ 倉山満『真実の日米開戦 隠蔽された近衛文麿の戦争責任』、宝島社、2017年12月18日 第1刷発行、214ページ