軍事学概論/戦争
戦争とは歴史において暴力を以って遂行される社会的な闘争である。軍事学において戦争とは常に中心となる主題である。戦争がどのような状態であり、何の法則に支配されているのかは、政策、戦略、戦術、兵站などに直接的に影響を及ぼす。本項目では軍事問題の文脈を形作っている戦争についての社会科学的な理解を促すことを狙っている。例えば「戦争とは何と定義することができるのか」、「戦争という社会現象にはどのような法則性があるのか」「戦争はどのように発生すると考えられているのか」、「戦争にはどのような分類がなされているのか」、「戦争理論を個々の戦史に適用すればどのように分析されるのか」などの問いを取り上げて、その問題に対してどのような学説が提示されているかを概観する。少なくとも戦争を理解するためには戦争の本質を構成している力学と法則、そして戦争の多様性を示す分類と戦史について着目する必要がある。
戦争の概念
[編集]記述の出発点として戦争の因果性や影響について論じる前に戦争の明確な概念化がなされなければならない。これまで戦争をどのように定義するのかについては少なくとも三つの方法が採られてきた。一つは戦争を哲学的な概念と関連させて把握する方法があり、この視角から戦争は記述的な概念とは限らず規範的な概念として捉えられている。次に軍事的な概念と関連させて定義するやり方があり、この立場では戦略理論との関係から戦争を位置づけている。そして政治的な概念との結びつきを念頭に置いて概念化する学説もあり、個人と国家の関係、または国際関係から戦争を理解することを試みている。以下では戦争の多面的な性質について着目し、その概念的構成について概説していく。
戦争の哲学的概念
[編集]戦争の軍事的概念
[編集]戦争の政治的概念
[編集]戦争の原因
[編集]現実の戦争の原因を単純な範疇に収斂させることはできない。地理的環境、競合的ナショナリズム、宗教的対立、資源の獲得競争、軍事的な勢力不均衡、不測事態などが複合して実際の戦争は発生する。この複雑な関係を理論化するために、いくつかの学説が提示されてきた。まず人間の性質を起点として戦争の発生を説明する諸学説がある。このような説明を試みる研究は古代ギリシアでの哲学的業績から現代における心理学的研究まで広範囲にわたっている。文化と関連させた説明は人類学的、宗教学的な側面から戦争の解明を試みるものであり、特に近代以前の戦争の形態を支配したさまざまな慣習は示唆的である。さらに人口、資源、資本などの概念を用いて経済学的な側面から説明を試みる学説もあり、近代社会の戦争について理解する上で重要な考察を含んでいる。戦争の政治学的な説明には国内政治と国際政治の視座があり、この領域の学説は戦略理論とも関係が深い。以下では順に主たる学説の要点を踏まえながら、戦争の原理についての基本事項を概観する。