量子化学/スピン

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電子のスピン[編集]

実験事実[編集]

磁気回転効果[編集]

1914年に物理学者パーネットが、強磁性体(鉄やニッケルなど)を回転させると、回転軸の方向に磁化をする、という現象を発見した(パーネット効果)。

また1915年に、学者ド・ハースなどが、磁性体を磁化させると、わずかながら回転力が働くことが、実験的に確かめられている(アインシュタイン=ドハース効果)。


このように、磁気と回転とが、結びつけられている物理法則のあることから、磁化の原因とは、電子の なにがしかの回転的な仕組みが関わっている、と考えられるようになった。そして、その後の電子「スピン」の理論などで、角運動量という力学量と関連づけられて、スピンの理論が構築される背景になっていった。

シュテルン=ゲルラッハの実験[編集]

シュテルン=ゲルラッハの実験

4は古典物理的な予想値(じっさいの実験結果ではない)。
じっさいの実験結果は、5のように、原子線は、上下の2つの位置に分かれる。けっして、4のように、そのあいだの中間の位置には、ほぼ原子線は当たらない。
この5のように、原子線は上下2つに分裂する。

図のように、磁石によって、不連続で急峻な磁場が発生するとき、電子の上側と下側とで、磁場の強さが異なる。そのため、電子全体としては、力を受けることになる。

N極の先端のとがったかたちをした棒磁石と、S極の先端のくぼんだ棒磁石を用意して、とがった、N極と、くぼんだS極の軸を一致させ、この2つの磁極の間隔をせまくした不対磁極をつくる。この不対磁極のすきまに、銀を熱して蒸発させて細孔などから飛び出させた銀の原子線を打ち込むと、図のように、上または下のどちらかの力を受け、上下の2箇所に分裂する。けっして、ななめ方向には移動しない。これは、原子線そのものが磁化をもっていることの実験的証明である。


このような実験をシュテルン・ゲルラッハの実験という。銀以外にも、水素の原子線やナトリウム原子線でも同様の実験が行われ、原子線が上方向または下方向のどちらかの力を受けることが確認された。