量子化学/スピン

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核スピンと核磁気共鳴法[編集]

原理[編集]

下記に示すように、原子核には「核スピン」という、離散的な値をとる自由度がある。

核磁気共鳴(かくじききょうめいほう、nuclear magnetic resonance)という現象があり、これはどういう現象かというと、試料を外部磁場のなかに置いて、試料(= 分子の集合 )に高周波(数十メガヘルツ〜数百メガヘルツ)を当てると、その分子構造に応じた振動特性が得られる。この現象のことを核磁気共鳴(かくじ ききょうめい)という。

また、この核磁気共鳴を利用して、分子構造を分析しようとする現象のことを核磁気共鳴法(かくじき きょうめいほう)という。英語で、核磁気共鳴および核磁気共鳴法のことは、よくNMRと略される。

炭素12Cがほとんど高周波に反応しないのに、同位体炭素13Cが高周波によく反応して よく振動するので、原子核のスピンの不釣り合いが原因だと説明される。(陽子や中性子にも、それぞれの粒子にスピンがある事が、ほかの実験や理論により、分かっている。)

分子中に水素原子1Hがあれば、水素原子も高周波によく反応し、よく振動することが分かっている。

さらに、その水素原子が同位体の重水素2Hになると、あまり反応せず振動しなくなる事も、分かっている。

※ NMRで測定している「スピン」とは、原子核(陽子と中性子)のスピンである(核スピン)。けっして、電子スピンではない。

つまり、CやHの原子の質量数(陽子と中性子の個数の合計)が奇数だと、NMRによく反応する。


核磁気共鳴をしようとする実験では、磁場がないと周波数を当てても大して特徴がないのに、外部磁場を加えると特徴を出しやすくなる。このことから、この現象の物理学的な解釈としては、まず分子に磁場を加えることにより原子で(スピンの2極を自転軸とする)歳差運動が起こると考えられ、そして、その原子の歳差運動の周波数に外部周波数が共鳴したときに核磁気共鳴現象が現れるのだろう、と考えられている。

※ その他、NMRに磁場が必要な理由のもうひとつの解釈として、「水素Hの原子核への磁場の印加によって、水素Hの原子核がわずかに2つのエネルギー準位をもつようになる」という解釈もあり、「そのエネルギー差に相当する電磁波を吸収するのだろう」という説も有力である。(高校の東京書籍の高校化学の教科書に、そういう説が紹介あれている。)(※ 要するに、NMRの起きる理由の説には、いくつかの解釈があり、あまり整理されてない。)
コマの運動とスピンの類推
※ 歳差運動(さいさ うんどう)については、大学物理の力学の教科書を参照せよ。大学レベルの市販の力学の教科書を見れば、たいてい、角運動量の話題の後半に、コマの歳差運動の話題が書かれているハズである。
※ 力学のコマの歳差運動では、重力の影響下で、歳差運動をしている。これと同様に、原子では、磁気の影響下で、スピンが歳差運動をしている、と考えられている。
※ なお、図のように核スピンの原因を歳差運動とした理論などのことを、関連する理論の提唱者ラーモアの名前にちなんで、ラーモア歳差運動という。
※ また、このような核スピンの理論にもとづいて微分方程式を立てたものとして、ブロッホ方程式がある(※ 具体的な式は、大学1年のレベルを大幅に超えてるので、新入生は覚え得なくていい。また、ブロッホは核スピンのほかにも多くの方程式を物性の研究業績で残しているので、「核スピンのブロッホ方程式」とか「ラーモア歳差運動のブロッホ方程式」のように、分野名を併記しよう)。

核磁気共鳴法の発見は、1930年代に物理学者ラビや物理学者ゴルテルなどが発見した。

発見後、その頃流行してた量子力学などを研究していた理論物理学者の興味を引いたようであり、物理学者ブロッホや数学者ノイマンなどが、核磁気共鳴法について、量子力学などの理論物理の手法を用いて核磁気共鳴についても理論研究している。

※ そもそも核スピンと電子スピンとは、文献によっては、ろくに区別もされずに、単に「スピン」として同一視される場合も多い。しかし、本書では、議論の混乱をふせぐため、なるべく「電子スピン」と「核スピン」を明確に区別することにする。


高周波の発生方法[編集]

では、そもそも高周波は、どうやって発生するのだろうか。

とりあえず、現代の日本の工業機器において、高周波を発生するために用いる道具は、マグネトロンまたは水晶振動子などがある。


非実用的な方法も含めれば、上記の方法のほか、原理的にはガソリンエンジンなどで車輪に取り付けた磁石を高速回転させる方法とかでも、そこそこの高周波を出せるのかもしれないが、しかし化学実験室が排気ガスくさくなるので、この案は却下しよう。

このほか、電気モーターを商用電源50Hz(地域のよっては60Hz)で回転させたあと、べつの歯車をかみあわせて、中学校の技術科で習うように、歯車の速度比の公式のように、速度および回転速度を数倍にする方法もあるが、しかし、歯車は高速動作させると、歯の部分や軸などに摩擦熱がけっこう生じるので、耐久性などの不安がある。


このほか、真空管や半導体電子回路などで、定期的に回路の切り替わる発振回路を組むという方法は、高周波には適さない・・・と思う。なお、半導体電子回路が発明されたのは第二次大戦のあとの時代。


マグネトロンだろうか?
マグネトロンの原理図

歴史的には、真空管をもちいたマグネトロン発生器などによって、高周波が安定的に発生できるようになった。マグネトロンとは、図のように同心円状に電極の配置された真空管であり、永久磁石により磁場が加えられているので、電子がローレンツ力により運動の軌跡を曲げられて、電子が図のように円的な軌道を運動する。

この曲線的な軌道を電子が運動することにより、高周波が発生される。(一般に、電子が加速度運動をすると、電磁波を発生することが、物理学の電磁気学などにより分かっている。)

※ 現代の核磁気共鳴法のための高周波装置が、はたしてマグネトロンを原理にしているかどうかは未調査。


ちなみに「マイクロ波」という用語は、定義そのものは波長がマイクロメートルあたりの電波のことだが、しかし(日本にかぎらず英米でも)世間ではマグネトロンで発生した電波のことを「マイクロ波」という場合も多い。英語でも、電子レンジのことをマイクロ波 microwave という(一般的な電子レンジにはマグネトロンが入っている)。

なお、(マグネトロンなどで発生した)無線電波の増幅には、「進行波管」(Traveling Wave Tube)という装置を用いる。


マグネトロンの主要な発明者は日本人であり、日本では岡部金治郎が1927年に発見した。

その後、物理学者などによりマグネトロンの理論研究がすすみ、朝永振一郎(ともなが しんいちろう)なども原子における電子殻などの構造との類推から 論文で「立体回路」などの名でマグネトロンの理論研究をした。

※ なお、コンデンサなどを使って造られる高周波フィルタ電気回路は、けっして高周波の発生装置ではない。このような高周波フィルタは、すでに別の方法で得られた高周波電流のなかから、低周波の電流成分を除くためのフィルタであり、けっして高周波の電源にはならない。コンデンサは周波数の高い交流電流を通すが、だからといって、コンデンサに電池をつないだところで、けっして高周波の電流信号は、けっして増大しない。
けっして、そのような実験(「電池にコンデンサをつなぐと高周波が発生!」(×)なんてトンデモ実験)、中学高校の理科では、してないハズだ。


水晶振動子だろうか?

まず、半導体CPUのクロック周波数の発生源には、水晶振動子が使われている。

すでに1920年代には、米国の物理学者ウォルター・ケイディなどによって水晶振動子は発明されていた。(ケイディの人物史について知りたければ、詳しくはen:w:Walter Guyton Cadyを参照せよ。)1930年代には、水晶振動子をもちいた時計も開発され、1960年代に原子時計が発明されるまでは、この水晶振動子式の時計がアメリカでの時間の国家標準器になっていたほどだった。


そのほか
半導体技術の活用

また、遅くとも20世紀後半以降、トンネルダイオードも、高周波の発振用の半導体素子として、よく利用されている。

なお、半導体が実用化された時代は、第二次世界大戦の後である。

なお現代では、半導体に大きな電流・電圧を加えて利用する技術は、可能である。「パワー半導体」という、大きめの電流や大きめの電圧に対応した半導体も存在しており、さまざまな産業に実用化されている。


しかし(核磁気共鳴法の開発された)1930年代の技術では、現代のパワー半導体による高周波回路は不可能であるし、そもそも、1930年代当時はまだシリコン半導体などによる電子回路すら発見されてない。)

なお、高度成長期などの昔なつかしい鉱石ラジオの回路は、あれは無線の受信機の回路であり、けっして発振器の回路ではない。鉱石ラジオの鉱石とはゲルマニウムダイオードのゲルマニウム鉱石のことで、レシーバとしてロッシェル塩を用いたクリスタルイヤホンを用いる。クリスタルイヤホンのシンボルは水晶発振子のそれに似ているが発振器ではない。

オペアンプ
そのほか、「オペアンプ」という電子回路装置は、あれは電流を増幅させる回路ではあるが、けっして周波数を増大させる回路ではない。そもそもオペアンプの普及時期はおそらく、半導体回路の発明以降の第二次大戦後の技術であろう。


おそらく、マグネトロンや水晶振動子などで発生させた高周波成分をもとに、LC電気回路(コイルとコンデンサの回路)でうまく高周波電流を取り出し、あとは、電線が(高校物理の「アンペールの法則」により)周囲につくる磁場を実験試料に照射すれば済むだろう。

原理のつづき[編集]

  • 回転子による高周波発生

現在の一般的なNMR装置では、高速回転する回転子(数kHz〜数十kHz)をもちいて、高周波の電磁波を発生させるという手法が取られている。(もしくは、試料の側を回転させる。どちらを回転させるかは、あまり本質的でないと思うので、本ページでは、これ以上は立ち入れない。)

しかし、この方法で出せる周波数は、(回転子の回転速度と同様の)数百kHzまでであろう。もし、それ以上の高周波の、数MHzの周波数を発生させたいなら、回転子による方法とは、べつの方法によって発生させる方法がある。


  • 化学シフト

NMRで分析しようとしている水素Hの共鳴周波数は、そのHがメタン基 CH3- やメチレン基 -C2H2- のなかのHなのか、それともベンゼン基のなかのHなのかによって、共鳴周波数が わずかな割合(数ppmの割合)で、変わる。

つまり、どの原子団に、水素Hが属しているかで、共鳴周波数が、わずかに変わる。この現象を化学シフト(「ケミカルシフト」ともいう)という。

(※ 詳しい解説について は、機器分析の単元など、専門の単元で扱う。)


  • 備考: 医学との関係

医学で人体内部を観察する際に用いられるMRIは、核磁気共鳴法を原理としている。(※ 参考文献: 電気学会『電気電子材料』、大木義昭ほか 著、2006年初版、2012年第2刷、218ページ)

なお、MRIの磁力を発生させるための磁力源として、超電導による電磁石がもちいられている。この超電導も、スピンなど量子力学と関係が深いかもしれないが、しかし説明が専門的になりすぎ、化学からは脱線するので、本書では説明を省略する。


  • 超電導と混同しないように!!

文献によっては、核磁気共鳴NMRや医学のMRIの説明で、よく、超電導磁石が紹介される。超電導を使う理由は、磁場が大きいほど、NMRやMRIの電磁波の吸収が良くなる、という実験事実があるので、より強い磁場を発生させるために、大電流を流しても抵抗熱の少ない超伝導体を導体とする電磁石を利用しているからである。

超電導そのものは、核磁気共鳴とは別の物理現象なので、けっして混同しないように気をつけよう。


電子のスピン[編集]

「スピン」の理論は、歴史的には、核スピンではなく電子のスピンが先に考案・構築された。


用語の意味[編集]

かなり天下り的な説明になってしまうが、我慢していただきたい。

実は、電子は磁力をもっている。ただしその磁力は普通の磁石とはちょっと違うらしい。 電子はたとえ静止していても磁力をもち、その磁力をスピンという。注意することは、真空放電管の実験で陰極線に磁石を近づけると陰極線は曲げられるがこれはローレンツ力によるもので、スピンによるものではない。

スピンとは、たとえ磁石が静止していようが電子が磁力を持つことである。では、その磁力は、なぜ通常の電子では感じられないのだろうか。

答えは、電子は化学結合のさい、価電子どうし結合してしまい、反対符号の電子が打ち消しあってるからである。

ある、わっか状の電流にも、電流に右回り、左回りがあるように、電子のスピンにも「上向き」「下向き」がある。 この「上」「下」は便宜上の呼び名であって、じっさいの方向のことではない。

ある電子はスピンが上向き、別のまたある電子はスピンが下向き、というように。

「1箇所に、電子は最大2個まで、存在できる」のである。これが、化学結合のさいに、価電子2個が対(つい)になる理由である。 そのさい、1箇所にある2個のスピンの向きは、逆向きどうしでなければならない。

つまり、スピンが同じ向きの電子は、1箇所には、存在できない。

もっと直感的に言うと、「スピンが同じ向きの電子は、反発しあう」というふうに、読者は当面のあいだは考えても良いだろう。(※ 大学1年の段階では、この結果を暗記してよい。)

で、分子の結合のさい、安定する最外殻電子数が、8個とか2個とか、かならず偶数なのは、このようなスピンの理由があるからだ。


普通の化学結合では、価電子のスピンが打ち消しあってしまい、スピンによる磁力は、観測しづらい。

だが、鉄やニッケルやコバルトなどの強磁性体が、例外的に、強磁性体である理由は、直感的にいうと、「鉄やニッケルやコバルトでは、電子のスピンの磁力が打ち消しきれてないから」である。(※ 大学1年の段階では、この結果を暗記してよい。) 鉄やニッケルやコバルトでは、電子殻の、最外殻よりも内側の電子核のそれぞれの電子のスピンが、打ち消しあってないのである。


磁気回転効果[編集]

日本の大学の教養課程の物理や化学の教科書では、まったく解説されてない場合が多いが、磁気回転効果という現象がある。

1914年に物理学者パーネットが、強磁性体(鉄やニッケルなど)を回転させると、回転軸の方向に磁化をする、という現象を発見した(パーネット効果)。

また1915年に、学者ド・ハースなどが、磁性体を磁化させると、わずかながら回転力が働くことが、実験的に確かめられている(アインシュタイン=ドハース効果)。


このように、磁気と回転とが、結びつけられている物理法則のあることから、磁化の原因とは、電子の なにがしかの回転的な仕組みが関わっている、と考えられるようになった。そして、その後の電子「スピン」の理論などで、角運動量という力学量と関連づけられて、スピンの理論が構築される背景になっていった。

※ この実験だけでは(パーネット効果およアインシュタイン=ドハース効果だけでは)、電子や原子核が磁気の影響によってどうなってるかは不明だが、とりあえず、この実験だけでも、磁気と回転運動が関係あることは実験的に分かる。
※ ウェブサイトによっては、このパーネット効果などの現象を、電子スピンによって導くサイトもあるかもしれないが、本ページでは厳密性を重視し、そのような導出は行わないことにしよう。この実験だけでは、電子の性質は導けないし、そもそも、この実験だけでは「磁気回転は原子核でなく電子の性質によるもの」という証拠すらない。

シュテルン=ゲルラッハの実験[編集]

  • 双極子の受ける力
シュテルン=ゲルラッハの実験

4は古典物理的な予想値(じっさいの実験結果ではない)。
じっさいの実験結果は、5のように、原子線は、上下の2つの位置に分かれる。けっして、4のように、そのあいだの中間の位置には、ほぼ原子線は当たらない。
この5のように、原子線は上下2つに分裂する。

通常の棒磁石を、電子に近づけても、電子の磁気モーメントが小さいので、ローレンツ力以外の力は電子はほとんど受けないのだが、磁石が通常でない場合は別である。

図のように、磁石によって、不連続で急峻な磁場が発生するとき、電子の上側と下側とで、磁場の強さが異なる。そのため、電子全体としては、力を受けることになる。(なお、前提として、電子には「スピン」という磁極のような性質がある、という事を前提にしている。)

N極の先端のとがったかたちをした棒磁石と、S極の先端のくぼんだ棒磁石を用意して、とがった、N極と、くぼんだS極の軸を一致させ、この2つの磁極の間隔をせまくした不対磁極をつくる。この不対磁極のすきまに、銀を熱して蒸発させて細孔などから飛び出させた銀の原子線を打ち込むと、図のように、上または下のどちらかの力を受け、上下の2箇所に分裂する。けっして、ななめ方向には移動しない。これは、原子線そのものが磁化をもっていることの実験的証明である。

(銀の原子は中性のハズである。また、仮に電離していて電荷をもっていたとしてローレンツ力を受けたとすると、ローレンツ力の方向は、図中の横向き(つまり紙面の奥方向または手前に向う方向)になるハズであるが、しかし、そのような実験結果は起きていない。よって、銀の原子線は中性である。)

このような実験をシュテルン・ゲルラッハの実験という。銀以外にも、水素の原子線やナトリウム原子線でも同様の実験が行われ、原子線が上方向または下方向のどちらかの力を受けることが確認された。

このように原子線が上下に分裂する理由は、原子線が磁化をもっている事のあらわれである。(← これは実験事実。)

では、なぜ銀の原子線が磁化をもっているかと言うと、定説では、そもそも電子が物性として磁気をもっているからである、・・・とされている。そして、電子そのものの磁気のことを電子スピンという。

※ この実験だけでは、原子線が2極に分かれる仕組みが、はたして電子の性質によるものかは、不明であろう(なぜなら、原子核の陽子や中性子の性質を無視してるし、電子・陽子の双極子の性質も無視している。)。しかし、現代の欧米および日本の教育制度では、「スピン」の定説として、歴史的によくシュテルンゲルラッハ実験は例に出されるので、読者は知っておく必要がある。


原子線の標的になっている場所を見ると(図の「5」の場所)、原子線が上または下の2通りの位置に分裂して当たっていることから、電子の「スピン」も2通りの値であることが予想され、他の物理理論から、電子の「スピン」が実際に2通りである事が分かっている。

量子力学の入門書では、この事から、電子の「スピン」の状態が、外部磁場に対して「上向き」か「下向き」かの2通りしか取りようのない離散的な事が、説明されるのだが、では、なぜ、あの実験事実で、このような離散性が証明されるのかを、下記にきちんと説明しよう。


不均一な磁場での電子スピンの受ける磁力 についての模式図。

まず、かりに、磁場に対して、電子の磁石としての角度が図のように角度θをなすとしたら、電子下部に掛かる力は、

となる。

なお式中のmは磁極の大きさの値とする。問題の簡単化のため、m>0としよう(m<0な場合は(負の大きさの磁極の場合)、θ=180度として対応することにしよう)。

いっぽう、電子上部に掛かる力は、

としよう。

電子の上部と下部とで差し引き、電子には、

の力が掛かる。

もし、通常の棒磁石だと、磁場はほぼ均一であるために となるので、通常の棒磁石では、シュテルンゲルラッハのような実験結果が起きないわけである。

しかし、今回の実験で考えてるのは、図のように急激に磁場の変化する構造の磁石であり、そのためがけっして0ではない。

よって、m か H か θ の変化率をおおきくすれば、電子は磁石によって、おおきな力を受ける。mは電子固有の値なので、変えようがないので、つまり定数だと思う。

とすると、残りの、変えうるパラメーターは、 H か θ のどちらかになる。


そして、θが離散化により2通りの状態を取ると考えるべきだろう。Hは外部磁場の大きさであり、2通りには、なりようにない。

mは、われわれの考察では m>0 と仮定してしまったので(m<0の場合はθ=180度として解釈するという仮定であった)、なので、θ=0または θ=π を取ると考えるのが、妥当である。


このようにして、電気磁気学の公式と、シュテルン=ゲルラッハの実験結果にもとづき、スピンが2通りの離散化によって原子線が上下2方向に分裂することを解析的に説明できる。

(※ なお、この導出方法は、たしか裳華房の物理学叢書の電磁気学や、『初等量子力学』などに書いてある。べつにwikibooksオリジナルの解法ではない。)

(※ ただし、これらの書籍の解法では、解法の順序が先に不均一磁場中の磁気モーメントに働く力を求めていたりして、あとからスピンを導入しており、そのため、スピンが不均一磁場でどういう力を受ける解析結果になるかの説明が省略されており、あまり細かく書かれていない。)


コバルト60のベータ崩壊[編集]

コバルトの同位体であるコバルト60のベータ崩壊について、この特性を電子スピンと関連づける学説があり、理論物理の「パリティ対称性の破れ」などの学説との関連があり、1950年代のアメリカ合衆国の科学者(中国系アメリカ人のウーなど)のこの分野(パリティ対称性の破れと、コバルト60のベータ崩壊による実験)の研究はノーベル賞も受賞した。

wikibooks『高等学校物理/物理II/素粒子』に書いておいたので、もし読者が興味あれば読め。

なお実験では極低温に冷却したコバルト60に、(電子スピンの向きをそろえるために)磁場を掛けている。彼女ら(ウーは女)の実験のころ、既に電子スピンの概念は知られていた。

この実験の結果、スピンの方向のベータ崩壊の確率と、逆方向とのベータ崩壊の確率に、違いがあったとされる。


さて、現代の我々は、発想の逆転をしてみよう。電子スピンの理論にもとづき、パリティ対称性の破れを考える(ウーの時代のころの一般的な考え方)のではなく、逆に、【パリティ対称性の破れ』(要するに、磁化の方向と、ベータ崩壊との関係の実験)という実験事実をもとに、電子スピンに理論をゼロベースから考えなおしてみよう。

とりあえず、上述のような実験の実験結果から、ベータ崩壊のレベルでは、電子スピンは実在していそうである。


磁石とスピン[編集]

磁石では逆向きの同じ長さの2つの棒磁石が逆向きに、くっつきあうと、外部からは磁力がほとんど感じられないが、電子のスピンも、1個の電子に、逆向きのスピンを持つ電子が1個くっつくと、外部からは磁力を感じられなくなる。通常の希ガスや分子、磁石を除く大半の金属などが磁力を持っていないのはこのためである。電子が電子殻を埋まるときに18族の閉殻構造のときは電子が打ち消しあっている。また、第2周期や第3周期の2足の元素の電子殻もスピンが打ち消しあっている。14族や16族の元素は原子1個では安定ではないので、おそらくスピンは打ち消しあってはいない可能性がある。


  • 強磁性体

強磁性を持つ原子FeやNi、Coなどの強磁性体が磁化されるのは、なぜか。結論をいうと、最外殻の電子殻よりも内側の電子殻の電子のスピンが、まだ打ち消し終わってないのだ。金属の、最外殻よりも内側の電子核のそれぞれの電子は、自由電子ではない。金属の、最外殻の電子だけが、自由電子なのだ。

最外殻の電子は、スピンが打ち消しあってる。

つまりFeやNi、Coでは、内側の電子核が埋まり終わる前に、外側の電子殻の電子が埋まっている。そのため、原子1つ1つが、磁石になってる。

もっとも、その原子1個の磁石としての現実の向きは、バラバラである。しかし、外部から磁場を掛ければ、その外部磁化によって、原子の磁石が整列する。

いったん整列してしまえば、そのほうがエネルギー的にも安定なので、外部磁場を無くしても、鉄などの磁性体が磁化をつづけている、というわけである。

つまり磁性体の磁化とは、まるで小学校の理科でならうような、短い磁石がいくつもつながって長い磁石になる実験のようなものと、そっくりなのだ(と思う)。


物理学的な解析[編集]

双極子のもつエネルギーと力[編集]

電子スピンの自由度[編集]

(暫定的な説明です。)

化学の教科書で、「1S」軌道や「2px」軌道に、上向きの矢印 ↑ 、下向きの矢印 ↓ と書いたりするように、1つの軌道につき、自由度は2つある。

この分子軌道1つあたりの2個の自由度が、スピンの自由度である。

化学の周期表では最外電子殻に入りうる電子数は、第一周期の電子殻K殻の最外電子数は2個まで、第2周期のL殻は8個まで、第3周期も8個まで、第4周期は18個、第5周期は18個まで。このように、どれも 2の倍数 つまり 偶数になっている。また第2周期のLiとBe、第3周期のNaとMgは、2族の次が13族に飛んでいる。13族から18族までは 13,14,15,16,17,18 の6個である。この6も 2の倍数 である。また 水素H は、H2のように2個の原子が電子をお互いに共有する共有結合によって結合するが、このように共有結合でも 2個の電子 によってペアが作られる。

このように、最外電子殻の価電子数が 2の倍数 になっている理由は、電子のスピンが 化学的安定に関わるから である。

「スピン」の物理学的根拠[編集]

(シュレーディンガー方程式に特殊相対性理論を組み合わせた)「ディラック方程式」という方程式を解くと、スピンに相当する物理量が導出される。(大学1〜2年生には、ディラック方程式を解くのは、とても難しいので、まだ導出しなくてよい。そもそも、その程度の学力では、理解不可能なほど難しい。)

なお、ディラック方程式そのものは、量子力学のシュレーディンガー方程式に、さらに相対性理論を考慮したものである。

なお、歴史的には、このディラック方程式の発見(1928年)直後から陽電子のようなものが予測され、実際に実験的観測によって陽電子が1932年に発見されたこともあり、よってディラック式の信憑性は高いだろう。また、このディラック方程式は、電子について記述している方程式である、と考えるのも、自然だろう。

このように、電子と陽電子について記述しているディラック方程式について、陽電子が実験的に確認され、さらにこのディラック方程式がスピンのような自由度2のものも予測していることから、「推測として電子にスピンも実在するのでは?」と考えるのは自然だろう。(よく、シュテルン=ゲルラッハの実験が、スピンの実験的根拠として挙げられるが、厳密に考えてみると、シュテルン=ゲルラッハ実験で確認されたのは原子(アトム)のスピンであり、じつは電子のスピンについてはシュテルン=ゲルラッハ実験は確認していない。しかし、大学初年度では、素朴に、原子スピンも電子スピンも同一視してしまっても、かまわないだろう。


スピンと電磁気学との関係[編集]

双極子[編集]

N極の磁荷 +q[wb] に距離 d[m] をはなして、同じ大きさのS極の磁荷 -q[wb] を置いて、固定したものを磁気双極子という。つまり普通の棒磁石は磁気双極子のようなものと考えられる。棒磁石の磁化を考えるときなどに用いる。 磁化というのは、電子のスピンが合わさって、磁区というものを作り、さらにその磁区の向きが合わさって、磁性体の磁化が起こる。 つまり、磁化とは、強磁性体(Fe,Ni、Coなど)の内部にもともとあった、ミクロな磁石(電子のスピンのこと)のむきがそろって、大きな磁石として、ふるまう現象だが、ミクロな磁石の長さをdに選ぶのか、それとも大きな磁石の長さをdに選ぶのか、という問題になるのである。

  • 双極子の長さの選び方

さて距離dには、電子半径を選べばよいのか、それとも、磁区の長さを選ぶのか、それとも磁石全体の長さを選ぶのかは、分析する現象によって異なる。 棒磁石全体の吸引力を考えたい場合は、棒磁石の長さL[m]をとることがある。また、磁性体内部のミクロな磁化を解析するときは、dには、電子半径などを取る。具体的にどのようなパラメータをdに選ぶかは、それぞれの目的によって異なる。

  • 電気双極子

また、電荷 +q[c] から距離 d[m] はなれたところに、電荷 -q[c] を置いたものを電気双極子という。これは分極を考えるときのモデルとして用いられる。 電気双極子の d[m] をどう選ぶか? ということも、分析対象により、ことなる。

外部から見ると、誘電体内部の分子の、ミクロな分極が打ち消しあって、誘電体の表面の電荷だけが打ち消しあわずに残るのが静電誘導である。分子スケールの長さをdにとるか、または、誘電体全体の長さ、たとえばコンデンサの間隔などをdにとるかは、目的による。また、qにdをかけた

p=q・d

を 双極子モーメント などという。

磁気モーメント[編集]

棒磁石の吸引力は、磁極の強さq[Wb]と磁極の間の距離 d[m] の大きさの積 qd[ Wb・m ]である、磁気モーメント m によって決まる。あるいは磁気双極子モーメント、双極子モーメントなどと呼ぶ。

磁気モーメントによって吸引力が異なる理由は、かりに磁極が近すぎると、外部の磁場は、NとSという反対向きの磁極がつくる磁場のほとんどは、打ち消しあってしまい、ほとんど磁場を感じられないからである。たとえば棒磁石をたてにいくつもつなげると、つなげる前と 磁極の強さq は同じでも、距離dが大きくなるので、 磁気モーメントm は前よりも強まる。

  • 電子スピンの磁気モーメント

電子スピンも核スピンも、それらの強さを数値的に表す際には、磁気モーメントの単位または磁気モーメントに類する単位を使うのが一般的である。


電子は磁極の間の距離が電子半径の程度なので、磁気モーメントが小さく、磁気の吸引力が弱いのである。磁石に極がNとSの2つがあるように、スピンも「上向き」という値と「下向き」という値を持つ。

この向きは、実際の方角をあらわしているのではない。そうではなく、電子の外部の磁場 H に対して、Hと同一方向か、180° 反対の方向のことである。

この記事は概論のため不正確であるので、せいぜい参考程度にしてもらって、詳しくは、ほかの文献で確認をしてもらいたい。

光などは電場と磁場を伴うので、電子そのものも磁力を持っている、と考えるのは不思議でないかもしれない。


「電子スピン共鳴法」[編集]

「電子スピン共鳴法」というのが知られているのだが、これは一般に、分子中にある(酸素原子など)常磁性をもつ原子に反応する共鳴法のことである。

「常磁性の原因は、孤立電子の電子スピンであろう」と科学者たちに考えられているため、このような名前がついている。


磁気をかけている試料にマイクロ波を照射した際、金属以外の分子では、O2やNOやNO2だと、吸収が良い。

金属でも同様に、孤立電子をもつ金属元素のイオン(Fe3+やCu2+やCr3+やMn2+のイオン)で、マイクロ波の吸収が良い。

この現象の物理的原理として考えられてる説としては、これらの分子やイオンは、分子中に孤立電子を持つからである、というのが定説である。

このような実験結果から、このようなマイクロ波による化学試料の調査法が「電子スピン共鳴法」(Electron Spin Resonance、略称:ESR)と言われている。

「孤立電子の電子スピンによる磁気モーメントが、マイクロ波と共鳴しているため、共鳴する」などというふうに考えられている。

スピンの結論[編集]

  • 結論

やや飛躍があるが、上述のような現象の起きる根本原理として、原子や電子などといった量子スケール的な現象では、エネルギーが量子化されると考えれば、ツジツマが合う。


中学理科でも習うように、力Fを距離yをかけ算すれば、仕事である。 なので、さきほどの式の力Fも、積分すれば、仕事 W になる。

この力Fが、実験事実により、上向きと下向きのどちらかに離散化されるのだから、ならば仕事も必然的に離散化されるはずであり、ならばエネルギーも必然的に離散化されるはずである。

計算により、確認してみよう。 力学の理論により、一般にポテンシャルU をつくる力F は、y方向の力をFyとすれば

である。

シュテルンゲルラッハの実験結果により、ほぼy方向にしか力が作用してないので、よって、 F=Fy なので、よって、

上式をyで積分すれば、

われわれが興味あるのは、Uが離散化するかどうかなので、上式をUについて、まとめれば、 よって、

である。

cos θが±1に離散化するので、必然的に、ΔUも離散化する。


なお、磁気双極子モーメントmが磁場Hの中で、双極子のもつエネルギーは、

U = -m・H = -mHcosθ
-1≦ cosθ ≦+1 なので、
Umax = mH 、Umin = -mH
よって、Umax - Umin = mH-(-mH)= 2mH = 2qmd・H

であるので、双極子が貯めることのできるエネルギーは2mHである。

さて、エネルギー U が離散化されるためには、mかHかθのどれかが、離散化されていなければならない。スピンでは、θが±1に離散化されることにより(「上向き」、「下向き」などのように)、エネルギーUが離散化されたものと思える。


※ この計算とシュテルンゲルラッハ実験だけから言えることは単に、磁気双極子モーメントの離散化(2通りの値になる)だけであり、けっして「電子そのものが磁気双極子モーメントをもつ」と言えるかどうかは、上述の計算だけでは、まったく証明にはなってない。しかし、一般的には、「電子1個そのものが磁気双極子モーメントを持つ」という定説になっているので、学校のテストでは、答案には、そう書こう。


このシュテルン=ゲルラッハの実験の実験結果からも、スピンが2通りの状態量(「上向き」と「下向き」をもつ事が分かる。)しかも、「スピン」の存在さえ認めてしまえば、それらの古典物理の「モーメント」や「ポテンシャル」といった理論からも、上述のように力学的な計算が可能である。