複素正弦波[編集]
実際の電流波形や電圧波形は当然ながら実数関数であり、たとえば

といった形に書くことができる。しかし、この波形を実関数ではなく、複素関数として見ることによって、より簡単に解析を行うことができる。なお、電気工学においては電流iとの混同を避けるため、虚数単位としてjを用いる。すなわち、

である。
オイラーの公式

より、電流波形や電圧波形を

と表すことにし、計算は複素数のまま行って、最終的に実部あるいは虚部だけを取り出すことにすれば、実関数と同等の計算がより簡単に行えることになる。
ここでこの複素正弦波は、

と書くことができる。
は定数であり、
は各周波数
の複素正弦波である。このなかで時間変化しない定数である

を複素電流ベクトルと呼ぶ。同様に電圧であれば、

を複素電圧ベクトルと呼ぶ。時間変化する
についてはしばらく無視してしまって構わない。なぜならば線形回路においては基本的にどこでも周波数は同じであり、振幅と位相が変化するからである。実際には周波数によって回路の応答は異なる(たとえば共振など)が、しばらくは振幅と位相に着目していくことにする。なお、複素ベクトルであることが明らかである場合には、上の点を省略してIやVと書くこともあるので注意が必要である。複素ベクトルと時間波形の関係について再度まとめると、


である。振幅と位相という2つの量を一度に扱うために複素数を用いているのだと理解してもよい。
なお、このような記号法を用いた計算後、答えの電流や電圧を実関数に答えを戻すのを忘れないように。学校の定期試験では、記号法による複素数表記のままだと、不正解として扱われる場合も多いだろう。
実務でも、部下が大卒とは限らず、部下の学歴では複素数を習ってない場合も有り得るので、電流・電圧を実関数で表記するのが望ましいだろう。
インピーダンス[編集]
直流回路では抵抗あるいはコンダクタンスのみを考えればよかったが、交流では常に電流電圧が時間変化をするため、電流と電圧の比は直流回路のように一定とはならない。しかし、複素正弦波の考え方によって、電流と電圧の比Zは

のように、複素数の定数となる。この複素数の絶対値は電流と電圧の振幅の比となり、またこの複素数の偏角は電流と電圧の位相差となっている。これを複素インピーダンスあるいはインピーダンス(impedance)という。これは直流回路での抵抗に対応する値であり、交流回路の解析において非常に重要な量である。インピーダンスの単位は抵抗と同じ[Ω]である。
アドミタンス[編集]
直流回路では抵抗の逆数としてアドミタンスを定義した。そこで交流回路においても、インピーダンスの逆数

をアドミタンス(admittance)という。アドミタンスは直流回路でのコンダクタンスに対応する値であり、単位はコンダクタンスと同じく[S]である。
発展:記号法の数学的な証明[編集]
微分方程式
- V(t)=
=Z(D)・I(t)
要は、この微分方程式を解ければよい。
なお、上式で
および
とした。
微分作用素D(大学2年の数学の本に書いてある)の固有値・固有関数の理論から、
固有値については、「線形代数」の本や、高校数学・旧課程の「行列」での「一次変換」の幾何学などの本を参考にせよ。
微分作用素Dの固有関数は指数関数 et なので、これでオイラーの公式を用いた記号法と、ほぼ同内容の計算法が得られる。