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電流波形や電圧波形が単純な正弦波

の形に書くことができるとき、次のような複素数による表示を考えることができる。なお、電気工学においては電流iとの混同を避けるため、虚数単位としてjを用いる。すなわち、

である。
オイラーの公式

より、電流波形や電圧波形を
![{\displaystyle i(t)=\Im {[I_{0}e^{j(\omega t+\theta _{i})}]}=\Im {[I_{0}\cos(\omega t+\theta _{i})+jI_{0}\sin(\omega t+\theta _{i})]}=I_{0}\sin(\omega t+\theta _{i})}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/56306c8ede32c7c7df81077843e8ea90c6a141a2)
と表すことができる。計算は複素数のまま行って、最終的に実部あるいは虚部だけを取り出すことにすれば、実関数と同等の計算がより簡単に行えることになる。
この表示について、

となる。ここで、
は定数であるので、これを
と置き、複素電流ベクトルと呼ぶ。
すなわち、電流は、
![{\displaystyle i(t)=\Im {[{\dot {I}}e^{j\omega t}]}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/02054734ad08648a23620f7562a67553f85a5bf7)
と書けることになる。
電圧に関しても同様に

を複素電圧ベクトルと呼ぶ。
時間変化する
については無視して、複素ベクトル
について考えることで計算を楽にすることができる。なぜならば線形回路においては基本的にどこでも周波数は同じであり、振幅と位相が変化するからである。実際には周波数によって回路の応答は異なる(たとえば共振など)が、しばらくは振幅と位相に着目していくことにする。なお、複素ベクトルであることが明らかである場合には、上の点を省略してIやVと書くこともあるので注意が必要である。複素ベクトルと時間波形の関係について再度まとめると、
![{\displaystyle i(t)=\Im {[{\dot {I}}e^{j\omega t}]}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/02054734ad08648a23620f7562a67553f85a5bf7)
![{\displaystyle v(t)=\Im {[{\dot {V}}e^{j\omega t}]}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/2b61be01d8044cc0560cac7c3f73aade875a732d)
である。振幅と位相という2つの量を一度に扱うために複素数を用いているのだと理解してもよい
なお、上記のような記号法(複素数表示)を用いた計算後、答えの電流や電圧を実関数に答えを戻すのを忘れないように。大学の電気電子工学科の定期試験では、記号法による複素数表記のままだと、不正解として扱われる場合も多いだろう。
直流回路では抵抗あるいはコンダクタンスのみを考えればよかったが、交流では常に電流電圧が時間変化をするため、電流と電圧の比は直流回路のように一定とはならない。しかし、複素正弦波の考え方によって、電流と電圧の複素ベクトルの比Zは

のように、複素数の定数となる。この複素数の絶対値は電流と電圧の振幅の比となり、またこの複素数の偏角は電流と電圧の位相差となっている。これを複素インピーダンスあるいはインピーダンス(impedance)という。これは直流回路での抵抗に対応する値であり、交流回路の解析において非常に重要な量である。インピーダンスの単位は抵抗と同じ[Ω]である。
直流回路では抵抗の逆数としてアドミタンスを定義した。そこで交流回路においても、インピーダンスの逆数

をアドミタンス(admittance)という。アドミタンスは直流回路でのコンダクタンスに対応する値であり、単位はコンダクタンスと同じく[S]である。