高校化学 アルミニウム
アルミニウム Al は13族の金属元素で、価電子を3個もち、3価の陽イオンになりやすい。
銀白色の軽い金属である。展性や延性が大きく、薄く伸ばしたものはアルミニウム箔(いわゆるアルミホイル)として一般家庭でも用いられている。また、電気伝導性も良く、熱伝導性も良い。熱伝導性が良いことから、鍋などにも用いられる。
アルミニウムの単体を空気中に放置すると、表面に緻密な酸化膜(酸化アルミニウム Al2O3 )の被膜ができ、内部を保護する。
アルミニウムやマグネシウムを主成分とする合金であるジュラルミンは軽量かつ強度が高く、航空機に用いられている。アルミニウム自体も、アルミ缶や1円硬貨に用いられている。
製法
[編集]アルミニウムの製法は、工業的には、鉱石のボーキサイト(bauxite、主成分: 酸化アルミニウム Al2O3)を処理して酸化アルミニウム(Al2O3)にかえたあと、氷晶石(Na3AlF6、ヘキサフルオロアルミン酸ナトリウム)とともに熔融塩電解して製造される。(エルー・ホール法)
- Al3+ + 3e- → Al↓
アルミニウムの電解には、大量の電力が必要となる。
製造の過程で得られる酸化アルミニウム(Al2O3)は水に溶けにくい白色の固体である。酸化アルミニウムはアルミナとも呼ばれ、融点が非常に高い(アルミナの融点は2054℃)ことから耐熱材の原材料としても用いられるほどである。氷晶石は、このアルミナの融点を降下させるために加えられる。
アルミニウムの粉末は、空気中または酸素中で熱すると、激しく燃える。
- ボーキサイトから酸化アルミニウムを得る方法 (※ 教科書の範囲外。資料集(実教出版など)の範囲内。文献により、方法が若干、違う。)
濃い水酸化ナトリウム水溶液でボーキサイト中の酸化アルミニウムが溶け、ほかの不純物はあまり溶けない。まず、この水酸化ナトリウム水溶液で酸化アルミニウムを溶かして アルミン酸ナトリウム Na[Al(OH)4]を得る。
- Al2O3 + 2NaOH + 3H2O → 2 Na[Al(OH)4]
(ここまでは、どの文献でも、ほぼ同じ。)
まず、ろ過をして、溶液から、不溶性の Fe2O3 などの余計な不純物を取り除く。
あとは、このアルミン酸ナトリウム水溶液をうまく処理し、アルミナに変えていく方法が必要なのである。
まず、アルミン酸ナトリウム Na[Al(OH)4]水溶液から、なんらかの方法で、加水分解を起こし、水酸化アルミニウム Al(OH)3 を沈殿させる。
- Na[Al(OH)4] → Al(OH)3 + NaOH
あとは、この水酸化アルミニウムを高温で焼成すると、純度の高い酸化アルミニウムが得られる。
- テルミット法
また、アルミニウム単体の粉末と、酸化鉄 Fe2O3 など他の金属酸化物の粉末を混合して、加熱すると、アルミニウムが激しく酸化され、ほかの金属酸化物が還元され、金属単体が得られる。たとえば酸化鉄(Ⅲ)とアルミニウムを混合して加熱すると、鉄が得られる。
- 2Al + Fe2O3 → Al2O3 + 2Fe↓
これをテルミット法といい、レールの熔接などに用いられる。
- 両性元素
アルミニウムは両性元素であり、酸とも塩基とも反応して水素を生じる。たとえば、塩酸と反応して水素を発生しながら塩化アルミニウムを生じる。
- 2Al + 6HCl → 2AlCl3 + 3H2↑
また、水酸化ナトリウム水溶液と反応して、水素を発生しながらテトラヒドロキソアルミン酸イオンを生じる。
- 2Al + 2NaOH + 6H2O → 2Na+ + 2[Al(OH)4]- + 3H2↑
しかし、アルミニウムは濃硝酸に溶けない。これは、反応開始直後に金属表面に緻密な酸化被膜を形成し、反応が金属内部まで進行しなくなるためである。このように、緻密な酸化皮膜により保護されて、それ以上は反応が進行しない状態を不動態(ふどうたい)という。
アルマイトという材料は、アルミニウムの表面を人工的に酸化させることで厚い不動態の膜で保護させ、そのアルミニウムの耐久性を上げた材料であり、日本で開発された。
- イオン
アルミニウムイオン(Al3+)の水溶液は無色透明である。これに水酸化ナトリウム水溶液を少量加えると、水酸化アルミニウムの白色ゼリー状沈殿を生じる。
- Al3+ + 3NaOH → 3Na+ + Al(OH)3↓
しかし、水酸化ナトリウム水溶液を過剰に加えると、沈殿は溶解して無色の水溶液となり、テトラヒドロキソアルミン酸イオンを生じる。
- Al(OH)3 + NaOH → Na+ + [Al(OH)4]-
テトラヒドロキソアルミン酸イオン水溶液に塩酸を加えると、逆に水酸化アルミニウムの白色沈殿を生じ、過剰に加えれば塩化アルミニウムを生じる。塩化アルミニウムは潮解性のある白色の固体であるが、水に溶けやすく、電離してアルミニウムイオンを生じる。
水酸化アルミニウム
[編集]アルミニウムイオンを含んだ水溶液に、塩基を加えると、水酸化アルミニウム Al(OH)3 の白色ゲル状の沈殿が生じる。 水酸化アルミニウムを熱すると、酸化アルミニウム Al2O3が生じる。
水酸化アルミニウム Al(OH)3 は酸とも塩基とも反応して溶けることのできる、両性水酸化物である。
- Al(OH)3 + 3HCl → AlCl3 + 3H2O
- Al(OH)3 + NaOH → Na[Al(OH)4]
酸化アルミニウム
[編集]酸化アルミニウム Al2O3 は、アルミナ(alumina)とも呼ばれ、白色の粉末で、水に溶けない。また、融点が高い(融点:2054℃)。
酸化アルミニウム Al2O3 は、酸にも強塩基にも溶ける両性酸化物であるが、アンモニア水には溶けない。
- Al2O3 + 6HCl → 2AlCl3 + 3H2O
- Al2O3 + 2NaOH + 3H2O → 2Na[Al(OH)4]
また、たとえば宝石のルビーやサファイアは、酸化アルミニウムが主成分の結晶である。酸化アルミニウムの結晶のうち、ごく微量のクロムやチタンなどの金属が混入したものが、赤いルビーや青いサファイアであり、ともに、かなり硬い。また、酸にも塩基にも、ルビーやサファイアは溶けない。 なお、ルビーにはクロム Cr が、サファイアには鉄 Fe やチタン Ti が含まれている。
- ※ 『科学と人間生活』(啓林館など)に記述がある。
ルビーやサファイアなどは組成がわかっているので、人工的に作ることもできる。
材料であるアルミナやクロムまたは鉄などに高温や高圧などを加えて熱することで、人工的にルビーやサファイアなどを作ることができる。
このように、人工的につくった宝石のことを人工宝石といい、さまざまな分野に応用されている。
また、アルミナ化合物ではないが、ダイヤモンドや水晶などアルミナ以外の宝石でも、人工的につくることができる。
人工ダイヤや人工水晶も、人工宝石に含める。
なお、人工ダイヤモンドは、その硬さを活用して、工場などの大型の回転カッターなどの切れ味を増すための材料などとして、刃先に人工ダイヤのある刃物が応用されている(いわゆるダイヤモンドカッター)。
ミョウバン
[編集]硫酸カリウム水溶液と硫酸アルミニウム水溶液とを混合して濃縮して得られる結晶は、硫酸カリウムアルミニウム十二水和物 AlK(SO4)2・12H2O の結晶であり、この硫酸カリウムアルミニウム十二水和物をミョウバン(明礬)という。
ミョウバンの結晶は無色透明で正八面体形をしている。 ミョウバンを水に溶かすと、Al3+ 、K+ 、SO42- の各イオンに電離する。
- AlK(SO4)2・12H2O → Al3+ + K+ + 2SO42- + 12H2O
ミョウバンのように、2種類以上の塩が結合して物質を複塩(ふくえん、double salt)という。
ミョウバンを焼くと、無水物である焼きミョウバンが得られる。ミョウバンは温度による溶解度の変化が激しく、低温の水には少量しか溶けないが、温度を上げるとよく溶けるようになる。
補:両性金属の反応モデル
[編集]高校化学 アルカリ金属#金属と水の反応モデルにおいて、水酸化物皮膜を用いて金属と水の反応を説明した。
ここでは、同様にして両性金属元素の反応モデルを考える。
水中にある金属Mは水と反応して表面に水酸化物M(OH)xの皮膜を作る。
ここで、酸HXを加えると水酸化物皮膜と反応して塩が生成される。塩は完全に電離するので金属の表面が露出し、水酸化物皮膜が生成される。また水酸化物が酸と反応して金属の表面が露出し・・・と反応が進行し、最終的に全て塩となって水に溶ける。
また、塩基YOHを加えると、水酸化物イオンと水酸化物が反応して錯イオンを形成する。錯イオンは水に可溶なので金属の表面が露出し(以下略)と反応が進行し、最終的に全て錯イオンとなって水に溶ける。